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世界は私の我儘で出来ている。  作者: ツクヨミ
学生になるって大変です。
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13歳。皇太子妃教育Ⅱ

「本日はこの国の伝説についてでしたね。」

低くも不快ではない落ち着いた声で話し始めるジュリエッタ婦人は、私の母の元先輩に当たる偉大な人だ。難しい説明も、上手いこと分かりやすく嚙み砕いてくれる優秀さに、私も感謝している。

「アテーナイエー様は聖女の公務で神殿で既に学んでいるかもしれませんが、この国は聖女の慈悲によって作られたと言われております。」


8歳で聖女認定されて以来、月2回のペースで神殿に赴いていた私は、伝説や聖典についての知識は十分に入っている。

優しいお爺ちゃん的神殿長から直々に教えられてきたのだ。


カリミット王国の発祥は荒れた国を哀れんだ聖女の慈悲で作られた。

当時は人々の負の感情が国中に広がり、それが魔素化した毒素のようなガスで充満された土地では戦争が絶えず。ある日どこからともなく現れた聖女が涙で潤し、聖女の祈りで浄化され、戦争は終結。

聖女に協力した勇者を国王に添え、勇者と聖女との間に出来た子孫が今もなおこの国を護っているという…良くある話。

私は耳にタコが出来るほど聞いた伝説だが、ジュリエッタ婦人は神殿長とは違う目線から説明してくれた。


「聖女は外国から来たのではないかという説もあるのよ。当時は戦争が絶えず国民の多くは外国に逃げてしまっていたの。でも、沢山の人間を受け入れられる国なんて、そう多くはないでしょう?今、この国に隣の国から数十万という人間が流れて来たとして、彼らの生活を守れるほど国政は甘くない。当時なら特にね。だから、そんな戦争難民や亡命者を減らすことを頼みに外国からやって来たのが聖女だったのではないかという説なの。」

「なるほど…じゃあ、聖女の涙や祈りとは何ですか?」

興味津々に尋ねる私に、ジュリエッタ婦人は笑って答えた。

「現聖女の貴方なら、なんだと思いますか?」


私は少し逡巡する。

答えは一つだけ思い当たるが、それで合っているのかを再確認する時間だった。


「普及活動…でしょうか。人々の不安や不満を和らげる為の宗教と考えると、聖女の祈りはそのままに、涙は…もしかしたら本当に泣いたのかもしれないし、そうではないかもしれない。ただ、人々の心に寄り添う聖女がいたことは本当だったのかなと思います。」


私の回答に、アミューラ様が驚いたように目を見開いた。

「まさか、聖女であるアテーナイエ―様からそのような思考が出るとは驚きました。」

「聖女と言われましても、ただの人間ですから。ちょっとだけ、魔法種と魔力量が多かっただけですし。」


実際、魔力量はステイの方が多いと思う。

王族なだけはあると、感心させられる場面も多々あるわけで…この部屋に貼り続けている盗聴魔法とか。


「素晴らしいですね、流石はメーティスの娘ですわ。学者たちの見解も同じです。聖女が持ち込んだのは現神殿で崇められている『パーフィスト教』の教えだったのではないかと思われます。人間は皆弱く、儚く、短い生涯を生きる生き物だけれど、協力し合えば強くなれるし、逞しくなれるし、戦時中のような短い生涯をなくすことが出来ると教えて歩かれたのではないか?と。」

「戦時中の…当時の国王はどうなったのでしょう?勇者が国王になり今のカリミット王国が出来たわけですから、その前の国王がいたわけですよね?」

なんとなしに質問したつもりだったけれど、ジュリエッタ婦人は少し言い淀むように答えた。

「悪政を敷いた者がどうなるかは、今も昔も変わらないでしょうね。」


ああ…つまりは処刑されたということだろうか。

平和をこよなく信仰する国だからこそ、処刑という言葉は言いたくない気持ちも分かる気がする。


「そうなんですね…」


少し空気が重くなった所で、アミューラ様が声を発する。

「あら?ジュリエッタ婦人、聖女が二人いる時代がありますね?」

私はちょっとだけドキリとしつつ、アミューラ様が見ている文献を覗き込んだ。


「今から約5千年前ですか…一度だけ聖女が二人現れたという文献が残っています。しかし、詳しいことが書かれたものがなく…」

「『2人の聖女が現れし時、時間の理をも取り除いて、全ての歪みが修復される』でしたよね?先日神殿長から聞きました。」

私が答えたのを、ジュリエッタ婦人は頷き肯定した。

「そうです、その一文のみが残っているのです。」

「全く…意味が解かりませんね?」

アミューラ様の言葉に、私も頷く。

「神殿長も数年間調べ尽くしたらしいのですが、やはり意味は分からなかったとのことですよ。」

現在、また聖女が二人いることを国民たちは知らない。

ステイは表向き、私より魔法種が一つ少ないことになっているのだ。


「もう一度。聖女が二人になったら分かるのでしょうか?」

「…どうなんでしょうね?」


いや、それ…なんか面倒事に巻き込まれる予感だから、いいよ分からないままで。

私はそんな心の声を隠しつつ、何も知らない令嬢を演じていた。


「アテーナイエー様は神殿では他にどのような話を聞いていたのですか?」

ジュリエッタ婦人が興味津々という表情を向けてきた為、少し引いてしまった。


「え?最近ですと…婚約の儀の際に5百年前の皇太子と皇太子妃の婚約破棄の話を聞きました。確か…皇太子の心が別の女性にあったことに嫉妬した皇太子妃がその女性を刺してしまい、婚約を破棄することになったと…」

ジュリエッタ婦人は「ああ、あの話ね」と理解すると、

「アテーナイエー様の左手薬指の指輪は、この国の王族のみが婚約の儀で聖女から受け取る物と言われています。」

ジュリエッタ婦人の説明に、隣のアミューラ様が私の左手を凝視する。

私はアミューラ様に見えるように左手を差し出すと。

「はい、婚約の儀で頂いた物なのですが、光が降り注ぎ指輪になりました。そして、ほら、取れないんですよ。」

私の説明にアミューラ様の目が輝いたのが分かる。

「聖女の力で婚約をされたため、それを取るには婚約を解消するしかありません。しかし、解除するには魔力と魔法を全て聖女に捧げることになりますので、その後貴族としては生きていかれないことになりますね。」

ジュリエッタ婦人の説明だと、少し偏りがあるように思える。

「確か…その時の皇太子は上級貴族に下り、領主になっていますよね?」

「魔力がないままに領主になって、しかもその後100年を乗り越えられたと思いますか?」

…ああ、飢饉や天災がある度に魔力なしの領主が祀り上げられたことは容易に想像できる。

「では…」

「彼が領主でいたのは3年間だけだったと記録されています。」

「そんな…短かったんですね…。」


なんだか悲しいお話になってしまったようだ。

きっと、その元皇太子もまた…領主になって3年でこの世を去ったのだろう。


人の世とはやるせないことが多い。


「アテーナイエー様、悲しいことばかりではないのですよ?その皇太子と愛を育んでいた女性は現在は星となり私たちの頭上を照らしている存在になったのですからね。」

ジュリエッタ婦人の言葉にアミューラ様がピンときた様子で口を開く。

「アンテック星とマリエッタ星ですね?」


前世で言う所の織姫ベガ彦星アルタイルということか。

世界が違っても、死んだら星になるという説はあるものなのね…。


私が感心していると、ジュリエッタ婦人が思い出したようにアミューラ様に口止めをした。

「婚約の儀で王族が聖女から指輪を受け取る話は内密ですよ?心無い人間が魔力をなくすために二人の婚約を解消させようとする可能性もあるのですから。」

「分かっております。皇太子妃教育に同席することが決まった時点で、公に出来ない情報もあることは承知の上ですから。その点の契約も国王と交わしました。」


なんと物分かりのよいお嬢様だ。

私は素直に感動を覚えてしまっていた。


「アテーナイエー様も!ご自身の身を守りたかったら口外法度です。」

「…はい。気を付けます。」


アミューラ様よりも私の方がホイホイと話してしまいそうだ。

ジュリエッタ婦人の勘は正しい。

…あれ?婦人も私の指輪には興味を示していたような?


まあ、いっか。

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