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世界は私の我儘で出来ている。  作者: ツクヨミ
学生になるって大変です。
32/35

13歳。皇太子妃教育

婚約発表からの、婚約者殺人未遂事件、第一王子が魔法騎士団への左遷発表と、カリミット国中を騒がせ続けているのは私たち…王太子のスティアーノ・ロイヤル・カリミットと婚約者のアテーナイエー・クランべナーです。


入学してから遠巻きにされていた私たちではあるけれど…一段とクラスメイトたちとの距離が開いたように思える。

というのも、クラスに配属される護衛の数が倍以上に増えてしまったから。


私たちが座る両端に二人ずつ(ステイの席は後ろのはずなのに、気づけば私の隣が定位置になっている)。

教室の入り口に二人ずつ。


私に友達が出来るのは…夢のまた夢なのかもしれない。


「アテーナ、これから王太子妃教育だよね?」

ステイに手を引かれながら頷くと

「一緒に帰ろう。我が家(王城)へ。」

「ステイ。私のお家はクランべナー領です。うちの父に怒られますよ?」

「それはいつものことだから慣れたよ。」


この王太子は…。


「ユーグリーナ領主令嬢とは上手くやってる?」

ふと、思い出したかのようにステイが尋ねてくる。

「?ええ。アミューラ様はとても穏やかで優しい方ですもの。それに本当に優秀で、私も色々と教えてもらえて助かっているわ。」

それがどうした?と小首を傾げて見せれば、ステイは苦笑いで答えた。

「実は、僕は彼女に嫌われているようだから。まあ…兄弟だからね。兄上に似ているところもあるだろうし…。」

ああ、そういうこと。


実は先日の王太子妃教育の際、アミューラ様からカミングアウトを受けていた。

「私、男性が苦手なんです。」

と。

男性恐怖症が原因で、第一王子の周囲からも疎まれてしまい、退学まで追い込まれてしまった為、男性恐怖症が悪化しているのだとか。


「ステイが悪いわけじゃないから…」

「うん。それは分かっている。」


彼女のプライバシーに関わるため、男性恐怖症についてはステイにも話してはいない。

が、きっと盗聴魔法で本当は知っているのだろうとも思う。


「先に行く」と言った魔法陣の上のステイを見送った直ぐ後に、名前を呼ばれ振り返る。

私の周りの護衛たちが一瞬にしてピりついた空気を醸し出したため、名前を呼んだ令嬢が怯むのが分かった。


「あら。ファシリータ様。」

ブルーベラーナ領主令嬢のファシリータ・ブルーベラーナは、学校初日に私に話しかけてくれた貴重な存在だ。

今日も桃色の髪がふわっと、可憐だ。

「あの…なかなかアテーナイエー様とお話出来ないので、これ読んでくださいませ。私はアテーナイエー様のお友達だと思っておりますので…その、よろしければお手紙だけでもお話が出来たらと思いまして。」

ファシリータから手紙を受け取った護衛の一人が簡単に魔法を込めて安全を確認すると、私に手渡してきた。

「ありがとうございます!とっても…とっても嬉しいです。」

私は素直に笑えたと思う。

その証拠に、そこにいた生徒たちが一瞬私を見て立ち止まったのだから。

「アテーナイエー様、そろそろ行きましょう。殿下が待ちくたびれてしまいます。」

護衛に声をかけられ、私は頷く。

「ああ、そうね。ファシリータ様、お返事必ず書きますから。」

「はい。お待ちしております。」


ファシリータの綺麗なお辞儀を目の端に焼き付け、私は魔法陣で王城へ向かった。


胸の中のほわほわを一瞬にして霧散させたのは、イライラを隠そうともしないステイの存在だった。

「遅い!」

「ちょっとだけじゃない?」

「なに?それ。」

怒りの主は私が大事そうに胸に持つ手紙にも素早く反応して見せる。

「ふふ。ファシリータ様からのラブレター♡」

「なに?!」


「女友達にまで嫉妬するとかないわよね?」と牽制すれば、「努力する」と王太子は約束した。

よし、言質はとった。

私は心の中で小さくガッツポーズをした。


「じゃあ、アテーナまた。」

「はい。ステイもお仕事頑張ってね。」


隣同士の部屋なのに、私の部屋の前まで見送るステイと護衛たちに、私もいい加減慣れてきているのが怖い。


扉の前にいたクラインドに開けて貰い、王太子妃室に入ると、待ってましたとばかりにマーシャとマイクが私を迎え入れてきた。

ふと奥を見ると、ルシードがソファでくつろぎ、シェリーがお茶を出している。

ある意味、見慣れた景色に私は笑いが漏れる。


「ルシードの口に合うお茶は淹れられました?」

「いえ…まだ、渋みが強いと指摘を受けていました。」

シェリーが首を横に振りながら答える。

ふと、ルシードの飲みかけのカップの中を見つつ

「マーシャの時は茶葉が沢山浮いていたわ。」

「お!お嬢様!?」

私の呟きにマーシャが焦ったように詰め寄ってくる。

「あら…内緒だった?」

「内緒っていうか…その…恥ずかしいじゃないですか。」

「恥ずかしがることはないでしょう?マーシャが努力した結果、今は美味しいお茶が淹れられるようになったのだから。」

「そうですけどぉ。」

ふくれっ面になったマーシャにシェリーが吹き出す。

「何でも完璧にこなす先輩にも、初心者の時期があったと知って安心しました。」

「マーシャの初心者時期は長かったぞ。…予想だが。」

シェリーがマーシャのモチベーションを上げたのに、ルシードがさらっと落とすことを言う。

そんな賑やかな側近たちに、私はほっとする。


「孤児院の時より賑やかに感じます。」

隣に立つマイクがボソッと呟くのを聞き

「寂しくないなら、良かったわ。」

と私が笑うと

「はい。孤児院の皆には悪いけど…凄く毎日が充実しています。」

マイクも満面の笑顔を見せてくれた。


マーシャの指示の元、新しく淹れ直したらしいお茶を飲みながら、私は大事な手紙を自分のバッグに仕舞った。


後でゆっくり読もう。



しばらく団らんといった雰囲気を楽しんでいると、ユーベリーナ領主令嬢が来たことを告げる声がした。

「アミューラ様がいらっしゃったわ。ほら、片付けて頂戴。」

私の指示で、慌てた様子でルシードに出していたお茶を片付けるシェリー。

今までそこにいたかのように扉に張り付くルシード。

部屋の一角に作ったプライベートスペースに入っていくマーシャ。

そんなマーシャを見つめつつ溜息をつくマイクと、それぞれが定位置に付くのを確認し、アミューラ様を迎え入れる。


「ごきげんよう、アミューラ様。」

「ごきげんよう。アテーナイエー様。ふふふ。今日も片付けは間に合ったようですね。」

部屋の中を見たアミューラ様がいつものように言うのを

「はい。いつも通りです。」

と私が答える。


もう何度もこの部屋を訪れているアミューラ様は、私の側近たちの動きにも慣れてくれたようだ。

アミューラ様の後ろに控えるメイドも、最近はそんな部屋の様子を楽しみにしているとのこと。

「先日、王妃殿下がアテーナイエー様の側近たちの話をされていたのですよ。優秀な上に個性的だと感心しておりました。」

「優秀であることと、個性的であることは別物ですけど…そうですね。どちらも、正しい評価かと思います。」

「スティアーノ皇太子殿下も高評価をされているとか?」

「私よりステイの方が、私の側近たちを上手に使っていることもあります。」

「まあ!」

コロコロと笑うアミューラ様は、とても清楚な印象の、育ちの良いお嬢様だ。

腰まで真っ直ぐに伸びた緑色の紙は、光を反射してキラキラとしていて、品の良い上質な紺色のドレスを纏う姿は、私よりも聖女っぽい。


「アミューラ様の側近のような落ち着きが、私の側近には足りないだけですけど…私がこんな性格ですからね。これで丁度いいようにも思えています。」

「あら、謙遜かしら?」

「いえ、本音です。」


真剣な表情でお茶を淹れていたシェリーから出されたお茶を、一口飲んだアミューラ様が目を見開いた。

「これは…?」

「今日は新しいお茶を仕入れてみたんです。これは黒豆茶と言って、炒った豆から抽出したお茶になります。」

前世での記憶を元に探し出した黒豆。

様々な伝手を使いまくって世界中から豆という豆を取り寄せたのは半年前。

そこから炒って。煮出して。試行錯誤を繰り返してきた。


「さっぱりしているのに、風味が良いですね。」

「東方の地方より取り寄せた物なので、外国の味ですね。」

興味をそそられたのか、アミューラの側近がシェリーに確認をしている様子が見える。

「もし、お気に召したのでしたら、少しですが差し上げますよ?」

「本当ですか?」

アミューラ様は黒豆茶を気に入ったようだ。

きっと、王妃殿下も気に入るに違いないと確信する。


視界の端でシェリーがアミューラ様の側近にお茶の淹れ方を説明している。

マイクが黒豆を小分けにするようマーシャに申し伝えに動く。

何故か汗だくのマーシャがいそいそと出てきたと思うと、部屋の隅で黒豆を小分けにし始めたのを見た所で、家庭教師であるジュリエッタ婦人の来訪を知らせる声がした。










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