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世界は私の我儘で出来ている。  作者: ツクヨミ
学生になるって大変です。
28/35

13歳。説教されたけど、突き進みます。

城に戻り、ステイに抱えられたまま連れて来られた応接室には、両親や国王夫妻が待ち構えていた。


「殿下や護衛たちの言うことを聞きなさいと言っているでしょう?」

「思い付きで走り出しちゃいかんとも言っているだろう?」


小さい頃から言われ続けている注意事項を大人4人に叱責される中、ステイは黙ったまま腕を組んで窓の外を見つめている。


「…スイマセンデシタ。」

私はただただ、平謝りする他なかった。


大人たちも、言うことを言い切り落ち着いたのか、反論しない私に溜め息を吐いて、この話題は終了となった。


「…で、魔獣だが。従属契約は暫く先になる。取り調べが済んで、魔獣たちの状態を城の魔術師たちが調べてからだから…3ヶ月くらい先になるかのぅ。」

国王が静かに告げた。


3ヶ月…


「…分かりました。お願いします。」


魔術師たちがしっかり管理してくれるなら、彼らは無事だ。


「今回神殿で襲ってきた犯人は3名だった。まだ騎士団による取り調べの最中ではあるが、彼らが誰に雇われたのか口を割るかは、期待出来ない。」


どうやら魔力のある平民が、起こした事件らしい。

どこかの貴族に奴隷として使われたのだ。


「自供薬を使った一人は自ら命を断ったよ。どうやら自供することが出来ないように呪いを掛けられているようだな。」


奴隷…

そして、呪い…


人間を人間と思わない行為に、吐き気を覚える。


「…で、アルティス。主犯の目星はついているのか?」


父親の問いに、一斉に視線を向けられた国王が苦しげに言葉を繋ぐ。


「候補は何人かいるが…証拠がない。奴隷を使役していても問題ない領地の者だろうがのぅ。」


その場の空気が重くなる。


証拠がない以上、怪しいという理由だけでは捕らえられない。

国のトップが冤罪を生めば、国民からの信頼も失うだろう。

それこそ、国家転覆だ。

奴隷を使役することを罪としている領地は少ないのだから、何が正義か相反することは必至だろう。


「今夜の祝賀パーティーでも、アテーナイエー嬢には護衛をつける。だが、自身も気を付けてくれ。くれぐれも…頼む。」

「…勝手な行動はしません。」


国王が言いたい言葉を、私から宣言したことで、大人たちが一斉に肩を撫で下ろすのが分かった。


流石にここまで怒られた後で、凹みすぎていて勝手な動きをする元気は残っていない。


「アテーナは僕の隣で笑っていればいいから。」

ステイの言葉に頷く。

「…はい。そうします。」


祝賀パーティーの準備に国王夫妻とステイが席を立つ。

退室時、ステイに頭を撫でられた。

それは、無言の威圧とも慰めとも感じた。



王族たちを見送った後に残るのは、なんとも居心地の悪い沈黙だった。


「ところで、アテーナの専属の話があったな。」

父親が空気を変えるかのような、明るい口調で言葉を発する。

正直今は、父親の機転に助けられた。

母親から発せられるピリピリした視線が、痛かったのだ。

母親からしたら、王妃殿下の息子を巻き込んだ私の行動に、頭痛がする思いなのだろう。


マーシャがリーンから逃げたくなる気持ちを体験した気分だわ。


父親の執事に連れられて、部屋に入ってきたのは、昨日事件にあった恩師、グレステンと孤児院の子供2人だ。

昨日の事件を聞いた後だったが、恩師の様子に変化はないように見える。

怪我などはしていないようで、内心ほっとした。


一緒に連れられてきた子供のうち、一人はマイクで、昨日も会っている為、今日は簡単な挨拶だけで済ます。

もう一人は桃色の髪を2つに結った、私と同じ歳の割に小柄な少女、シェリーだ。

貴族たちに囲まれ萎縮した様子は見られるも、私を見た瞬間、彼女は頬を綻ばせた。


「シェリーは私の専属メイドを希望していると聞いてますが。」

私は雇い主としての責務を全うすべく、簡単にシェリーの面接を試みた。


「はい!私は…孤児院でも小さい子たちの世話や掃除などを担当…してきたこともあり、…お嬢様の身の回りのお世話なら…少しは…お役に立てると思います。私たちを助けてくれた…アテーナイエー様にお仕えしご恩返しがしたいのです。どうぞ…私をお側に置いてください。」

貴族の大人たちの視線の中、必死に自分の言葉を発する少女に、私は温かい気持ちになった。

ここ一番で言葉を発する勇気を持てる時点で、私の中では合格ラインなのだが、雇い主ならデメリットをしっかり伝える義務がある。

私が抱える問題点も、詳らかにする。


「マイクにも聞いていると思うけど、私は命を狙われていて、決して安全とは言えない主ですよ?」

「だからこそです!いつも命を狙われているってことは、誰よりも命の大切さを知っているってことではないですか?」


…それは、どうだろう?

ステイに『死ぬことに慣れるな』と叱られたばかりの私には、彼女の言葉を肯定することが出来ない。


うーん…

と困っていた私を見かねてか、後ろに立っていたマーシャが「宜しいですか?」と発言を求めてきた。


「アテーナお嬢様は命の尊さを理解している反面、ご自分の命を雑に扱われることが御座います。私が見てきた限りではありますが、アテーナお嬢様が類稀なるお力を持つ聖女だからという責任感や自負から、他人を優先する癖があるように思うのです。基本的に、アテーナお嬢様は間違いなく『お人好し』です。専属である私たちに求められることは、そんなアテーナお嬢様に『死にたくない』と思わせながら、お嬢様のお手伝いをすることなのですが、あなたにその覚悟はありますか?」


思いもしなかったマーシャの言葉に唖然とする。

マーシャが論理的に私を分析してみせたのだ。


驚いたのは私だけではなかったようだ。

目の前に座る両親も、メイド長リーンも、執事も、ルシードを含む護衛たちも…目を見開いたまま固まっている。


「あります!アテーナイエー様が死んじゃったら、私が困るから!」

シェリーは勢いよく答えた。


「合格です!私もお嬢様が居なくなるのは困るります。シェリー、今日から宜しくお願いします。」

満面の笑みで頷き、シェリーに握手を求めたマーシャに、一斉にツッコミが入る。


「マーシャ、合否を決めるのは貴女じゃないでしょう?」

メイド長リーンが眉間を揉み始める。

「勝手に話を進めないで下さい。」

手に契約の書類を持っている執事が注意をする。

「大人になったと感動させといてこれか?!」

ルシードが笑いを堪えるように放つ。


全員に睨まれ挙動不審になっていくマーシャに、私は吹き出してしまった。


「マーシャが私をどう思っているのかが聞けて嬉しいわ。ありがとう。それから、シェリー。私は簡単に死ぬ気はないから安心していいわよ。だからあなたも簡単に死なないで頂戴。今日からマーシャに付いて学ぶといいわ。マーシャの言うことが怪しいと思ったら、メイド長に確認してね。リーンもそれでいいかしら?」

「はい。お嬢様を一番理解しているのはマーシャですから、間違いないかと。」


思わぬメイド長からの評価に、今度はマーシャが唖然としていた。

その様子がおかしくて、私はまた笑った。




暫くして、城のメイドが呼びに来たので、私は王太子妃の私室へと移動する。

付いてきた専属たちを見て、隣を歩くルシードが苦笑いする。

「お嬢様の周りは、また賑やかになりましたね。」

「ええ。マーシャもいつ結婚するか分からない歳だし…シェリーには早く仕事を覚えて貰わなきゃね。」

そっとルシードを覗き見る。


彼は少しだけ何かを考える様子を見せたが、「なるほど」と小さく頷いて微笑むだけだった。




私室にてパーティー用ドレスに着替える私は、部屋の前でルシードとマイクを待機させることにする。

その間にマイクに簡単な仕事を教えておくようにとルシードに頼むと「俺がですか?」と目を丸くした。


「執務をルシードも請け負ってくれているじゃない?でも、ルシードは執事じゃなくて、護衛が本職でしょう?」

「ああ…確かに。」

「執務はマイクに任せて、ルシードは私の専属護衛をあと2人選抜し、鍛えてもらいたいの。この先、今日みたいなこともあるだろうし。」


何だかんだと、ルシードは私の動きを先読みした行動をずっととってきてくれている。

今日、私を護る為にステイに抱え込まれた時、ルシードくらい動ける護衛があと数人いたら、また違っていたのではないかと思う。

あの時も、私の視線のすぐ先にはルシードの姿をしっかり捉えていたのだ。

数歩の差でステイが早く私に追いついた状態だった上、犯人の攻撃や魔獣の動きを牽制しながらも、持ち前の身体能力の高さを見せたルシードの評価は高い。


私が突発的に動いたことでこちらに混乱を生み、犯人にチャンスを与えたことは確かだが…今後を考えると、前説明無しの行動が必要になる場面は必ずやってくる。


「確かに、あの時俺があと2人居たら…殿下やお嬢様を守り抜くことが出来ました。お嬢様のたんこぶも作らないで済んだでしょうね…。」

「私自身、咄嗟に適切な魔法を使えるようになる必要があるわ。悔しいけど、まだ未熟なの。たんこぶはその証拠よ。」


俯く私の前に、ルシードが片膝をつくようにしゃがみ込むと、私の顔を覗き込んできた。


「お嬢様は、先を見通すことを止めず、誰にとっても善である道を模索するでしょう?それは強さです。確かに今日は『ペットが欲しい』という予想外な行動だった為に、俺も出遅れてしまった反省点はあります。でも反省は次に活かせば良い話です。機を見るのなら、事前に説明することが不可能であることは想定内です。皆分かっているんですよ。…分かっているけれど、お嬢様が心配でもあるから叱った。ただ、それだけです。いざという時は、俺はお嬢様の意思を尊重して動きます。俺が忠誠を誓った主はアテーナお嬢様なのですから。」


「…ありがとう。」


ルシードの紅い瞳が細められる。

私は小さく笑って、私室へと入った。


私の専属たちが私以上に私のことを理解してくれていることが、心強いと思えた。






マーシャとシェリーによって湯浴みを済ませ、城のメイドたちにパーティー用ドレスに着替えさせられる。


城のメイドたちに私の準備を任せるマーシャは、平民だから身を引いたのかと心配したが、どうやらそうではないようだ。


「私はお洒落には疎い自覚があります。お嬢様を美しくするには、それに秀でた方にお願いした方が、結果としてお嬢様の為になるのです。」


私の頭にティアラを乗せながら、マーシャが言った。


「確かに、マーシャはお洒落には詳しくないわね。」

昔からマーシャは『女の子らしさ』からはかけ離れたことに興味を注ぐタイプだった。

私が勉強する傍らで筋トレをしていたり、私が魔法を習う間に護身術を習っていたような変わり者だ。

「お嬢様に何処までも付いていく自信だけはありますよ?」

彼女の全くブレないその言葉に、私は何度も救われてきた。

「それが一番嬉しいわ。」


マーシャは護身術を始め、自衛手段をいくつも身に着けている。

それでも、私は彼女も守れるようにならなきゃいけない。

ずっと私を救い支えてくれてきたマーシャの笑顔を、私はずっと見ていたいのだから。

もっと強くならなきゃいけない。


ステイにも、2度とあんな不安な顔をさせないようにしないとね。




祝賀パーティーの為に着せられたドレスは私の銀色の髪が映えるような、ローズピンクのドレスだ。


数か月前から母親や邸のメイドたちと一緒に、デザインを選んで考えてきたドレスだったので、感慨深い気持ちになった。


足首まである裾部分は幾重にもレースがあしらわれ、全体的にふんわりしている。


肩が出る形ではあるものの、大人っぽすぎず、肩にかかるリボン部分には赤いバラと真珠が揺れている。


全体的に真珠や赤い刺繍が艶やかに施されており、熟練の仕立て職人たちの腕が見て取れる。




髪型もそんなドレスに合わせて遅れ髪が揺れるアップ。

複雑に結った先には真珠と赤いバラの飾りが揺れる。


どこから見てもお姫様だ。

姿見で確認して、私は自画自賛した。


「お嬢様、国一番の美しさです。」

マーシャが拝むように私を見つめている。

「いいえ、世界一ですよ!」

シェリーがマーシャの真似をして拝み出した。


「ご利益を用意出来ないから、拝まないで。」


苦笑いで2人に拝むのを止めさせていると、扉がノックされた。

メイドが扉を開けると、待ち構えていたようにステイが入ってきた。


「ステイ、どう?変な所はないかしら?」

私がドレスの裾を軽く持ち上げて聞くと、彼は少し固まったまま、小さく頷いた。


…変だったのかしら?


心配になってマーシャを見れば、ニマニマした顔がそこにはあった。


「ステイ様。アテーナお嬢様が心配されるので、思ったことは仰るべきですよ?」


マーシャの言葉にステイがはっとした表情を向けてきた。


「綺麗だよ。凄く綺麗だ。アテーナ。勿体ないから、パーティーは欠席しないか?」


ステイの言葉に一瞬照れるも、欠席という言葉に青ざめる。


「やっぱり、どこかおかしいの?」


部始終を見ていたらしいルシードが溜め息混じりにステイに咳払いした。


「殿下…。先程まで叱られていたアテーナお嬢様には、大袈裟なくらいに褒めないと伝わりませんよ?少なくとも、あなたに怒られたまま今に至ることをご理解ください。」


ルシードの言葉に今度はステイが青ざめた。


ツカツカと私の前に歩み出たステイに両手を握られた私は、次は何を言われるのかとドキドキしていた。


「アテーナ?」

その声はとても優しく聞こえ、私は思わず瞑ってしまっていた目を開ける。

「ステイ…もう、怒ってない?」

私の問いに、彼は首を横に振って見せた。

「最初から、アテーナを怒ってはいなかったんだ。君を護り切れなかった自分や、昔の記憶に引き摺られている自分に怒っていたから。…でも、アテーナが心配だったのは本当。…それだけは分かって?」

少し泣きそうに笑ったステイに、私は頷いた。

「うん。それは分かってる。…ごめんなさい。」

ステイの両手が私の両頬に移動する。

黒い視線に絡め取られるように、私は彼と見つめ合う。

「アテーナ。とても綺麗だよ。」

それは凄く甘い声で、私の身体中の体温が上昇するようだった。

私の背後では、メイドたちの悲鳴が聞こえてくる。


「ステイ…ちょっと恥ずかしい。」

「照れるアテーナも可愛いから、独り占めするためにパーティーは欠席しようかって言った。」


ステイの言葉の意味を理解した私は、胸が苦しいくらいに鼓動が高鳴っていた。

顔が赤いことは自覚している。これは本当に欠席した方がいいかしら?と考え始めた時、マーシャが口を開いた。


「ステイ様。私は今日お嬢様の髪をしっかり洗いました。それもこれも祝賀パーティーでお嬢様が誰よりも美しくあるようにと思ったからです。そんな私の努力を無にしないでくださいませ。ステイ様の隣はアテーナお嬢様しか務まらないと知らしめて頂きたいと思いますゆえ、独り占めはご遠慮頂きたいのです。」


マーシャの言葉に私とステイは目を見合わせ、何方ともなく吹き出す。


「マーシャが頑張ったのって、洗髪だけ?」

「最後にティアラも乗せました。」


ステイがマーシャの言葉を聞いて、私の頭の上で光るティアラを軽く触る。


「確かに、こんな綺麗なお姫様を見せびらかさないのも、後々後悔しそうだね。アテーナ以外には僕の隣は務まらない。全く、その通りだよ。」


私の右手の甲に、軽くキスをしたステイに私は呆然としてしまった。


「流石、王太子。さらっとキザですね。」

「そりゃあ、王子教育を3歳からされてるから、俺たちとは基礎が違うんだよ。」

マイクとルシードのコソコソ話が丸聞こえすると、ステイはそちらを睨むように振り返った。


「本当に、アテーナの専属たちは自由すぎる。」

「それは私には何よりの褒め言葉です。」


ステイにエスコートされ、部屋を出る。

私たちの後をルシードたち邸の護衛に加え、城の騎士が数人ついてくる。

なかなかに物々しい光景だが、昼間の出来事を思えば仕方がないのだろう。


国王も護衛をつけると言っていたし。


「念の為、説明しておくけど…」

隣を歩くステイがぼそっと話し始める。

「今日のパーティーには簡単に信用してはいけない輩も出席する。中には君に危害を加える者もいるだろう。その対応を今日すぐに出来るとは思っていないし…何年も注意されていても、簡単に籠絡されてしまった兄のこともあるから、今日の君にはただ笑って挨拶だけに徹して欲しい。苦痛だと思うけど、すまない。」


昼間の件もある。

コーネリウス王子のこともまだ解決出来ていないのだ、神経質になる気持ちは理解できる。


「分かりました。」

私は頷いた。

「これも王太子妃教育の一環だと思って、ステイに従います。」


「…ありがとう。」


自分の身は自分で守らないといけない。

護衛やステイの負担にならないように…。


気を引き締めるように、私は自分の頬を叩いた。

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