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世界は私の我儘で出来ている。  作者: ツクヨミ
学生になるって大変です。
22/35

13歳。第一王子に会いました。

「アテーナ。目が赤いけど…寝てないの?」

心配そうに、黒い瞳は光を放つ。

この光を私はずっと昔から知っているのは…前世のせいか。

「夢見が悪くて、早くに目が覚めたの。でも、お陰で夜明けの空を見られたわ。」

小さく微笑んで見せると、目の前に座っていた彼は隣に移動してきた。

馬車の中、孤児院へ向かう私たちは、昨日婚約を受け入れた仲である。

「来月、王太子即位の式典があると聞いたわ。それで、身辺警護を今までよりも厚くしたのかしら?」

「まあね。彼らが狙うとしたらアテーナだろうからね。婚約者がいなくなれば、当然、婚約の儀もなくなる。上手くすると、僕を精神的に追い詰めることが出来るだろう。」

馬車の周りを取り囲む護衛騎士たちを見て、「参勤交代みたい」と呟く私に「ね。」と彼は苦笑した。


この量の護衛を引き連れて歩くことを想像した私は、昨夜の母親の話に素直に感謝していた。


ぞろぞろと護衛を引き連れて歩く私が、心に傷を負っている子供たちにとって、良いものではない。

特に女の子たちには、大人の男性というだけでも恐怖することは理解できる。


次からはお母様たちがスムーズに運営できるように、今日、ある程度の道筋を決めてしまわねば。


私の中にある目標とは、男の子たちは貴族邸の使用人や農家の力仕事などを、女の子たちはメイドや商店の売り子を、『派遣』という形で雇用してもらうことにより、彼らが成人したら『本採用』してもらえるように、人材育成していくという計画だ。

勿論、他に特技や興味がある職種があるのなら、どんどん経験させて成人した時に独り立ち出来るようにしたい。


そのために、孤児院では基礎学力を付け、読み書き、計算、マナー(一般常識)を早急に身に付けさせなければならない。


この世界にある仕事の雇用形態を一新することになるので、様々な反発も予想できるだろう。


貴族にしか学校がないとか、あまりに遅れているのよ。実際に労働力を発揮する平民こそ、しっかり学力を付けていくべきだわ。

貴族の学園だって、もっと将来的に有効な知識を学ぶ場にしないと…国全体の成長にはならないと思うのよね。


会社員だった前世の記憶の中にいる、私が特別視していた上司が言っていた。

「与えられた事を、言われたままに作業する仕事では、成長はない。与えられた以上の仕事を自分なりに考えて行う行為にこそ、成長は存在するのだ。」

あの頃の私は、感銘を受けた。

言われた通りにやるだけなら、ロボットの方が確実だしミスもない。しかし、試行錯誤したり他の方法を考えて行う仕事は、後に新しいやり方や効率、下手すると新しい商品が生まれるきっかけになるのだと、説明をされたからだ。


『人間に生まれたのだから、ロボットには出来ない仕事をしたいとは思わないか?』

答えは

『サー!イエッサー!』

である。


ふと、隣でニコニコしているステイを見る。


そういえば、彼は前世で新しいソフト開発を手掛けていたような人物だった。

新しい着眼点という意味で、彼はプロ中のプロではないだろうか?


「なに?」

ぼうっと見つめる私に、ステイの視線が訝しげに光る。

「ううん、ステイなら、子供たちの新しい才能を見つけ出せそうだなって思って。」

私の言葉に、ステイは少し考える。

「才能はどうか知らないけれど、根性があるないくらいは、すぐ分かるかもね。結局、根性がないと仕事って続かないし。」

あまりに普通な答えに、私は驚いた。

「ステイが常識的なことに驚いた。」

「僕は基本的には常識人だよ。アテーナに対してだけ、ちょっと突っ走る癖があるけどね。」


ちょっと…か?


そういえば、ステイも全属性持ちだったっけ。

光や闇の属性があり、風もあれば…確かに周りの感情が分かるわけだし…空気を読んでるうちに常識的な答えも見つけ出せるわけで…。

周囲から見たら『常識人』にもなり得るのかもしれない。


私も周囲の感情が手に取るように理解出来てしまうため、自分の自由を守るために、わざと分からないフリをしたりしてきた。

時に鈍感になることも処世術としては有用なのだ。


ステイは王族だし…それ以上の努力をしているのだろう。

「ほら、もうすぐ着くよ。そんな顔で僕に見惚れてるとキスするよ?」

「どんな顔よ?」

思わず両手で自分の口元を隠して聞き返すも、彼はその答えとは別に、馬車の近くにいた護衛からの言葉に、目を見開き、慌てた様子で窓の外に上半身を出す形で確認し「マジか。」と小さく呟いた。


「なに?」

「兄上が来てる。」

「へー。え?コーネリウス王子殿下?」


意外な人物名に、私の思考はピンとこない。

確か、ステイがいるから私は今まで彼には会わずに済んでいたのではなかったっけ?

内内とはいえ、婚約が決まったことで焦り出したってこと?


ステイは小さく息を吐くと、私に注意事項を述べ始めた。


「アテーナ、僕の側から離れないで。あと、何か言われても心此処にあらずな対応を心掛けて。心を無にするんだ。それが一番安全だから。」

私にそんな高度な対応が出来るのだろうか?

「白黒はっきりした言い方は、彼を無駄に刺激することだけ…頭の中に叩き込んでおいて。」


ああ…良くも悪くも『実直』なんだっけ。


孤児院に着き、馬車のドアが開けられ、先にステイが降りてから、彼の手を借りて私も馬車から降りる。

今日は仕事の要素が強いこともあり、決して華やかさなどはなく、シンプルな紺色に複雑な花の刺繍が入ったドレスだ。

王族との初対面では不敬になるだろうか…

しかし、突然押し掛けて来たのは第一王子である…目溢して頂く他ない。


「初めましてだね、アテーナイエー・クランベナー嬢。そなたの噂はかねがね。是非、今日はそなたの仕事ぶりを見学させて頂きたい。」

馬車から降りた私に王子様な笑顔で挨拶してくる第一王子は、真っ白な騎士服を身に纏い、茶色い瞳を細めて私のことを吟味するように見てきた。


王族からの依頼に「否」とは言えない。


令嬢らしくカーテシーを取りつつ、聖女スマイルを貼り付けて私は答える。

「…かしこまりました。」


ちらりと私の手を取って、握る力を強めたステイを見れば、彼の視線はコーネリウスの後ろに控える男に集中していた。


私はそっとその視線を辿る。


水色の髪を黒い紐で1つに纏め、執事のような佇まいを見せる痩せた男は、私の視線に気がついたのか、ニコリと笑みを見せた。

…が、目が笑っていないように感じ、背筋がゾッとした。


私の身体が小刻みに震えていたらしく、ステイが徐ろに私の肩を抱いた。

「大丈夫。君を守るために準備したのだから。」

小さく発せられたはずの彼の声は、私の耳元にはっきりと届いた。


音魔法を風魔法に乗せたのだと気付き、私はステイに頷いて見せた。




孤児院に入ると、一瞬笑顔を向けてきた子供たちがすぐに怯えた表情になるのが分かった。

私は自分の後ろを見てから、子供たちに説明をする。


「怖がらせてごめんなさい。私自身、命を狙われる立場だから、また護衛の人数が増えてしまったの。次回からは王妃殿下からの勅命を受けた、私の母や御婦人たちが、あなたたちの手伝いに来ることになったわ。だから、今日だけ…物々しい状態を許して頂戴ね。」


私ができるだけ分かりやすく説明をして、頭を下げると、子供たちは首を横に振って答えた。


「アテーナイエー様が謝ることではありません!」

「そうです。悪いのは命を狙う悪者です!」


近くに寄ってきていた小さな子供たちの頭を撫でる。


「ありがとう。そうね。命はみんな大切だもの。あなたたちの命も私たちは大切なのよ。」

「だから、お貴族様たちの寄付金に頼らす、生きる術を考えて下さっているんでしょう?」


最年長組の男の子…と言っても、私とそう変わらない歳のマイクが私の前に出てきて、膝まづいた。

それに続くように昨日見送りに出ていた他の3人も同じように膝まづく。

「俺たちは昨日の時点で、アテーナイエー様の為であれば手足となるつもりです。どうぞ、俺たちをアテーナイエー様が思うように使ってください。」

「あなたに忠誠を誓います。」


ええ?!

「忠誠なんて誓わなくてもいいから、一日も早く自立しましょう!」

「俺たちは迷惑ですか!?」

勢いよく答えた私に、彼らは拒否されたと思ったようで、見かねたステイが仲裁に入ってくれた。

「アテーナは努力する人を迷惑だなんて思う人間じゃないことは分かっているだろう?目先の話を信じて結果、騙されたりしたら今までのお前らと変わらないじゃないか。それに、私の婚約を受けるまでにアテーナが要した時間は何年だと思う?昨日今日出会ったばかりのお前たちが信頼を得るまでには時間が必要なんだよ。」

「簡単ではないんだ」と言ったステイの言葉で、彼らの瞳は輝き、大きく頷いてくれた。


「優しいことは『美徳』です。ですが、それを利用されたり、騙されるきっかけに使われてしまえば、優しさではなくなってしまうのです。どうぞ、『疑う』ことを恐れないでください。『疑い』の先にある『真実』をどう受け止めるかが、本当の意味での『成長』なのです。私の事を信じるのは、まだ早いわ。」


私の真剣な思いを、ステイが分かりやすくして繋げてくれる。


「やみくもに努力したらいいってもんじゃないこと、お前たちなら分かるだろう?結果がアテーナにとって良いものになるかどうか、アテーナが望んだ答えかどうか…よく吟味しながら行うように。これが自然に出来るようになると、そこにいる護衛のように彼女の専属になれる日も近いかもしれないぞ。」


ステイに突然指をさされたルシードがビクリと身体を撥ねさせた。

「わ…私ですか?」

「確かに、ルシードは私のことをよく理解してくれているわね…」

「お嬢様~そんなにも私の評価が高かったなんて!感無量です!」


実際、私が気になることは大抵ルシードに聞けば事足りるのだ。

彼なりに前もって情報収集してくれている結果だろうと評価している。


「とにかく、あなたたちは子供たち一人一人の特性を私に教えて貰える?特技や趣味なんかも分かると、選択の幅も広がるわ。あと…シューリッツにお願いできないかしら?子供たちの基礎学力を向上させる道筋を作って欲しいの。」

年長組4人に頼んだ後、ちらりとシューリッツの主であるステイを見る。


「つまり、教育面での有能な人材をピックアップしてほしいってことだろう?シューリッツなら適任だろうな。父上や母上の執事たちとも密にしているからね。」


子供たちを年齢毎にグループ分けし、その中で聞き取りをするように年長組に伝えて、ひとまず部屋から出られない子たちの所へ行こうかと思っていた時、耳元に声が届いた。


「さっきのは私たちを牽制したつもり?それとも私に対する忠告かな?」


声から主は第一王子、コーネリウスだと察する。

この質問をご自分の意思で導き出したのか…誰かから指摘されたのか…

私は小さく息を吐いて、風魔法と音魔法を小さく発動すると、彼に返事を届けた。


「どちらもです。」

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