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世界は私の我儘で出来ている。  作者: ツクヨミ
我儘に生きるって大変です。
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10回目の転生先はまさかの異世界でした。

光が消えたのを感じた私は、そっと目を開く。

そこはツルツルに磨かれた白い石が、複雑に積まれて出来た壁に囲まれ、赤いフワフワした絨毯が敷き詰められていて、大きな暖炉に大理石のような家具が並べられている部屋だった。

天井に揺れる豪華な照明から、西洋のお城のような空間だと思い、世界的アミューズメントパークを連想する。

次の瞬間、前世の記憶が…しかも9回分残っている自分に驚く。


アニメや小説で見たことある転生ものの作品でも、前世の記憶は1回分だった。

それでも七転八起するのがセオリーだと思っていたのだが…まさか9回分の記憶が残っているとなると、自分が何百年も生きているような気分にすらなってくる。


軽く眩暈と頭痛を覚えるが、一旦そこは横に置いておこう。

なぜなら、今までの人生(9回分)の中で、初めての外国だからだ。

ずっと日本人としての人生ばかりだった私は、興奮していた。


憧れていたのよ。

金髪とか。

白い肌とか。

青い瞳とか。

ナイスなボディとか。


昔、記憶の中の友人に「生まれ変わるなら、イケメンが多い国のセミになりたい」と話して呆れられたのを思い出す。

なぜ蝉か。それは6年も寝て地上では1週間しか活動できないからさ。

なぜ外国の蝉か。それは上からでも横からでもイケメン見放題だからさ。

恋愛なんてしなくていい。

私は『目の保養をするべく、私の好みを見続けて息絶えたい』という野望を胸に秘めていた。


そんな私の野望の一つがクリアされそうな気配に、今までよりは創造主の本気を感じる。

転生時に心に思っていた願いは今のところ完全クリアされているから良いのだけれどね。

毎日ご飯をたらふく食べれています!

『ここまでしてやってるのだから、ルールを守れ。』という意思を感じないわけにもいかず、一つ溜息が漏れる。


まぁ、頑張りますよ。


ふと自分の手を見つめる。

プニョプニョと丸みをおびた小さな自分の手を閉じたり開いたりしながら、自分が赤ちゃんであることを理解する。


何か言葉を発してみようとするも、言葉にはならず、赤ちゃんらしい「あう、あう」という可愛らしい声になってしまう。


おおっ。

そういう仕組み?


ちょっと面白くなった私は色々発声して試した。

「あーうーあ。おああ。(アン ドゥ トロワ)」

「おおーうお! (ボーノ)」


創造主の作った設定に感動すら覚えた時、聞き覚えのない女性の声がして、そちらに視線を移す。


私を優しい笑顔で見下ろしてくる女性は、女神かと思うほどに綺麗な白人女性だった。

陶器のように白く滑らかな肌、煌めく糸のように銀に近い金髪の長い髪。その髪を緩く一つに結んだ彼女に抱き挙げられ、何やら声を掛けられる。

「#$+*&#’*‘!$#」

言葉の意味は分からないが、あやしてもらっていることは分かり、へらっと笑ってみた。

私の顔を見て、嬉しそうに何やら甲高い声した彼女が母親なのだろう。

なんだか良い匂いがする。


美人の母親がいるのは嬉しいな。

こんなに愛情を向けてくれるのも、素直に嬉しい。


けど、心のどこかで思う。

嬉しいは長くは続かない。


だから、今のうちにこの愛情という生温かくてくすぐったい気持ちを堪能せねばならないのだ。


私は全力で笑った。

この世界に来て最初の愛想笑いだ。

ええ、あの店に行けば貰える、❘無料タダだけど高級(プライスレス)なあれだ。


そんな私を見て、美人母が誰かを呼んだようだ。

突然、目の前に今度は白人男性の顔がアップで現れ、ビックリしてしまった。


私は泣きそうな顔をしてしまったのか、白人男性が慌てた様子で変な顔を作った。

数種類の変な顔を見ているうちに、吹き出した私に、彼はほっとしたように優しく微笑んだ。


この男性もなかなかなイケメンだ。

体格は筋肉質の痩せ型でスラッと長い手足がファッションモデルのようだ。

先ほどの女性のような肌の透明感は少し劣るが、日焼けして健康的な感じの印象を受ける。サラサラした黒っぽい髪が、部分的に整髪料か何かで硬められていて、出来るビジネスマン外国人バージョンという印象を受ける。

勝手なイメージではあるが、前世で会ったなら「ウォール街から大きな取引にやってきた方ですか?」って聞きたくなるような容姿だ。


母親と父親を見比べながら、この二人の遺伝子なら、私は美人になるはずだと確信した。


しかし、言葉が分からないのが惜しい。

せっかくだから、なんて話し掛けられているのか知りたいものだが。


私はまだ赤ちゃんだしな。仕方ない。


そのうち言葉が分かる日がくるだろうと、一旦諦めることにした頃、私は揺りかごに寝かされミルクの入った哺乳瓶を口元に当てられた。

一口飲んでみると、なかなかに美味しい。

気付けば一気に飲み干していたらしく、今度は父親に抱き上げられ、背中を軽くリズミカルに叩かれる。

ゲプッとすれば、スッキリした。


お腹いっぱいになって瞼が重くなってきた。

赤ちゃんの私は体力がないようだ。


父親と母親が何やら優しい声を掛けられながら、揺りかごの揺れに身を任せ、眠りについた。







馬車が行き交う大通り沿いを、買い物のために歩いていた私は、井戸端会議に花を咲かせる女性たちの近くで、地面に木の枝で落書きをしている小さな子供に視線が行く。

夢中で描いている様子が微笑ましいが、そんなに道路にはみ出して来たら危ないよ。

おーい、お母さん。ちゃんと見て注意してあげて。

小さな手に大きく長い枝を持ち、オムツでモコモコになったお尻をフリフリとしながら後ろ向きで線を引く姿が、次の瞬間小石につまづき、頭から後ろにひっくり返る子供に、思わず私は走り出し頭を守らなきゃって一心で抱きとめたことでほっとした時、目の前に馬の脚が映り込み悲鳴と馬の鳴き声を耳にする。

身体中に重い痛みが走る中、腕の中の子供を抱きしめる。

私の背に荷馬車の車輌が乗ったのを感じた瞬間「痛い!」と声が漏れた。


ハッとして、目を開く。

ふわっとした温もりに包まれ、優しい声がして、心配そうな母親に抱きしめられていることに気付いて、自分が泣いていたことを知る。


夢か。

前世の記憶を夢に見るなんて。


痛かったわ〜。

無意識に、右足を動かす。


実際、助けた子供が無事だと分かって、私の命は尽きたのだ。

周りの声から、その時の私は右足が引きちぎれていたようだと記憶している。

太腿には太い血管がある。

失血死だったのだろう。


あの後、助けた子供がトラウマを抱えたのではないかと心配ではある。

血溜まりの中、息絶えた見知らぬ女性に庇われた所で、嫌がらせにしか見えない。

私なら、間違いなく気を失うだろう。


可哀想なことをしたかもしれないな。


泣き止んだ私に安心したように、母親が笑う。

その顔を見て私も笑う。

大きな手が私の頭を撫でる。

どうやら、母親だけではなく、父親も起こしてしまったようだ。


安堵と共に湧き上がるのは、申し訳なさだった。


お父さん、お母さん。ごめんなさい。


私は大きな手の指を捕まえて謝ろうとしてみたが、「おう、あう」となってしまった。

それでも何かは伝わったのだろう。優しい声で何か返された。


私の周りには色とりどりの光がゆらゆらと舞っている。

壁に映し出すものは最近の前世でもあったことを思い出す。

小さな機械を購入し、しばらくの間、ボロアパートの1室ではお一人様プラネタリウム上映会が開かれ、何故か3つもあるオリオン座が面白かったっけ。


懐かしい。


私は光を映し出す機械を視線で探してみたが、どうやら私から見える範囲にはないようだ。

残念に思いつつ、あくびをする。


揺りかごを動かされ、私はまた眠りに落ちていった。



そうした大半の時間を寝て過ごすこと数日、私はとうとうこの世界の言葉を理解した。



この世界はどうやら「異世界」と言われていた所のようだ。


父親や母親が時々見せる不思議な現象がある。風を起こしたり、火を点けたり。

あれが『魔法』であることは明白だ。

それと、メイドたちが手の平サイズの何かを使うと、部屋はあっという間に掃除された後のように、隅にあった塵や埃が一掃された。

他にも、執事らしき男性が手にしている手帳は、何かを書き込むとすぐに、御者らしき人が走ってきて、言伝を頼めた。

あれらは魔法の道具。『魔道具』に違いない。

他にも鳥のようで鳥じゃない生き物や、馬のようで馬でない生き物が時々現れる。

父親たちの話から、どうやら『魔獣』らしいと推測する。


しかし、そんなことよりも一番『異世界感』が半端ないのは…

使用人やメイドたちの髪や瞳の色だった。


日々、ゆりかごに寝かされながら聞こえてくる会話を総合すると。

『魔法が使える者』=『貴族』

貴族の中でも『特別度』が高い、『魔力量』が多い順に、『王族』『上級貴族』『中級貴族』『下級貴族』とあり、『王族』はこの国、『カリミット王国』を支配し守っている。『上級貴族』は王族の補佐や大事な領地の運営を、『中級貴族』は『商売』や『貿易』を、『下級貴族』は農村における町長や村長のような役割を担っているようだ。

また、上級貴族の邸には中級貴族以下の者が、中級貴族の邸には下級貴族以下の者が使用人やメイドとして奉公に出ているらしく、我が家であるここ、クランべナー領主邸にも中級・下級貴族や平民が使用人やメイドとして、毎日私たちのお世話をしてれているようだ。

父である『ゼイウス・クランべナー』は私が生まれる数年前に、病死した父親の跡を継いで領主になったようで、若い頃から才能溢れる存在として名が知れていたらしい。なんでも、現国王である『アルティス・ロイヤル・カリミット』とは幼馴染なんだとか。


「父が病魔に侵される前までは、宰相としてアルティスに仕える選択肢しかないと思っていたが、父には悪いが、俺は領主の立場に落ち着けて良かった。」


そんな昔話を母親である『メーティス・クランべナー』に話す彼の表情は、決して嘘を言っているわけでも、強がりを言っているわけでもなさそうだった。


お父様は領主の仕事が好きなのですね。




ハイハイが出来るようになってからは、メイドたちの目を盗んで、私の寝室を抜け出すのが趣味になった。

長く広い廊下には、どこまでも柔らかい絨毯が敷き詰められているため、ハイハイで膝をこすっても痛くないのだ。これはどこまでも(体力が続く限りではあるが)突き進めと言われているようだ。


今日も気分良く、私の着替えの服を選んでいるメイドの後ろを無音で通り過ぎ、廊下に出た。

さて、今日は右に行こうか、左に行こうか。

「あーうーあーうー(どちらにしようかな?)」

右!

毎日続けることで、レベルアップするのはこの世界でも同じらしく、私のハイハイはスピードも上がり、階段などの段差も軽々と上り下り出来るまでになった。


いつもは階段を上るか下りるかする分岐点を、今日は真っ直ぐに進んだ。

あれ?突き当りか?

そう思った先には大きな観音開き式の扉があり、そこでその扉を見上げた。

彫刻が見事な扉には、見たことのない花や葉、鳥などが描かれ、ノブの部分の金属は最近取り付けたばかりなんじゃないかと思うほどに光った金色だ。


この扉の向こうってなんだろう?


ちょうどハイハイにも疲れてきていたこともあり、その場に座り込んで周りを観察する。

何かヒントが隠されていないかと思っていたが、全然分からない。


そのうちその扉が開いて、一人分の足が目の前に見えたかと思うと、聞きなれた声が頭上から響いた。

「アテーナ!こんなところまで父に会いに来てくれたのか?」

執務用の衣服を着た父親は、足元に座っている私の様子を見るや、笑みを溢して叫ぶと、私の両脇に手を入れて抱き上げてきた。

「アテーナ。いつも言っているように、部屋を抜け出す時は大人に一言断りを入れないといけないよ?」

抜け出すのに、それを言ったら意味がなくないですか?父よ。

それより何より、私は喋れませんけれどね。


私の思っていることが伝わったのか

「そんなことを言ったって、アテーナには無理だよなあ。抜け出すからこそ意味があるんだもんなあ。」

なんて言うものだから、父親の後ろに控えていた執事が咳払いをしたのち、苦言を刺した。

「旦那様とお嬢様を一緒にしないで頂きたいものです。」

執事の声にビクリと肩を震わせた父親は、執事に向き直って懇願し始めた。

「アテーナを送ってくるから。その間だけの休憩くらい許してくれ。」

どうやら溜まっている業務を投げ出して逃げようとしていたらしい。


私の行動力は父親譲りだったのね。


自分の中に、前世と関係なく親から引き継がれたものがあることに安心したら眠くなってきた。

あくびをすると、大きな温かい腕の中で、寝息をたて始めたのだった。

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