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世界は私の我儘で出来ている。  作者: ツクヨミ
我儘に生きるって大変です。
14/35

12歳。秋刀魚を食べよう

気を失って倒れてから、今日で一週間になる。

その間、私は部屋に引き籠って生活していた。


身体に不調があるとかではない。

ただ、一日のうちで一気に前世の関係者が出てきたことによる、精神的容量突破(キャパオーバー)を感じた私は、自主的に人に会わない生活を心がけたのだ。


邸の者たちには「風邪をひいてしまった」ということにして、両親と専属の二人以外は部屋に通さないように、自主規制を設けていた。


情報って言うのは一気に詰め込むものではない。

元々、要領の良い方ではない性格故の苦肉の策だと思っていただきたい。


そんな自主規制という名の引き籠り生活中、朝食後に母親が、夕食後に父親が部屋を訪れてくれた。

二人は何も知らされていないようで、私が本当に体調不良を起こしているのだと思っている。

「おてんばで困ったことはあったけれど、まさか身体を壊して困る日が来るなんて…」

母親は毎朝同じ台詞を溜息交じりに吐いて、部屋を出ていく。

「アテーナの元気がないと私の執務が滞るではないか!」

父親は毎夕同じ台詞を嘆き、部屋を出ていく。

そんな二人を一緒に見ているマーシャが、笑う。


「お嬢様。そろそろお部屋から出てはいかがですか?」


ハーブティを口に含み、「うーん」と考え込んでいると

「庭の菜園で、秋野菜の収穫がもうすぐ大詰めですよ。」

「秋野菜…」

「領地の農園では果物の収穫も今がピークです。今年はリンゴが大収穫なんだとか。」

「リンゴ…」

次々と私の興味をそそる単語を発するマーシャが、最後の一手を打った。

「あ、そうそう。海では秋刀魚が大漁なんだそうです。」


「秋刀魚!?」

「はい。秋刀魚はこのこの時期に北から海流に乗って下りてきますからね。比較的安価で平民の私もよく食べていました。」


この言葉で私の引き籠り生活はジ・エンドを迎えたのだった。





馬車を走らせるこ2時間弱。

クランべナー領唯一の港町に向かう私の気分は浮上中だ。


さかな・さかな・さかな~♪


前世のスーパーの鮮魚コーナーで流れていた、子供番組で人気を博した歌を口ずさみ、窓の外を見つめる。

黄金色に輝く小麦畑は、収穫の真っ最中らしく、農民たちが領主の馬車だと気付く度に手を振ってくれる。


ああ…愛されている領主だなんて、お父様の人たらしは健在ね。


「お嬢様。気になって仕方がないので、伺いますが。なぜ、魚を食べると頭が良くなるのですか?」

「え?ああ、魚に含まれる栄養素がね、人間の脳の活動に必要な素材で…って、マーシャ?」

「おかしいんです。私、子供の頃から魚は食べていたはずなんですが…ちっとも馬鹿な状態を抜け出せないのです。」

「自覚あったんだ?」

悩まし気に語るメイドに辛辣な言葉を浴びせる護衛。


今日もみんな元気です。


「しかし、お嬢様が魚に飛びつくことは想定外でした。」

驚いた表情で言うのはルシードだ。


「え?なんで?美味しいじゃない。秋刀魚。」

「魚って生臭いから嫌~って女性、多いから。」


ああ…

どこの世界にも一定数いるよね。


「臭いから嫌」「ヌメヌメしてて嫌」「目がこっち見てて嫌」

そんなに嫌なら魚を食うなし!

こちとら、嫌とか言っている暇じゃないんじゃ、ボケ!


って思うこともあった。


でも今の私は心に余裕を取り戻した『メンタル仙人』。

そんな、女子力狙いの少女たちにも『いいね』してあげられる自信がある。

なんなら「君の分までさばいてあげるよ。」って、イケメン口調で言ってあげようじゃないか。


ふふふ…

と笑いが零れる私にも慣れた専属たちは、主お構いなしで食事処の情報を集めている。


「よく、そんなにチラシを集めたわね」

「料理長がコレクションしているんですよ。それを(勝手に)お借りしてきました。」


ん?

副音声入らなかったか?


…まあ、いっか。


お。潮風の匂いがしてきた。


窓の外に目を向けると、遠くの方にキラキラと水平線が見えてきた。


「海だ~!!」

「はい。海ですね。」

「海に向かっているんだもんな?」


あんたら…私の興奮に対する対応、冷たくない?


「お嬢様、牡蠣とさざえ、どっちが好きですか?」

「…ハマグリ」


なに?その可哀想な子を見る目!


最近、主従関係おかしいよね?

あれ?

前からか?


最初からだった。


「もう、どこでもいいわよ。私の今日の目的は秋刀魚なんだからさ。」

「それもそうですね。」


じゃあ、ここにしましょう。と勝手に決めていくあたり、多分、そこじゃないと拗ねたんだろうな。


海かあ…

そういや4回目?くらいの人生の時、『大蛇』という名のサメに食われたな~。私。


あれは漁村で毎日魚を食べてスクスク育った私が、「ああ、次の生贄は絶対私になるんだろうな」と察したのは12歳になる頃だったっけ。

その村では3年に一度、年頃の女の子を海の神に捧げる儀式があって。

今年の儀式がいつの間にか執り行われたって村長たちが話しているのを聞いた時、

「3年後はミヤがいる。親がいないから楽だろう。」って聞いたんだ。


次って分かっているなら、まだやりようがあるじゃないか!?

私は素潜りを覚え、村一番の稼ぎ頭(海女)になり、こっそり投げられる崖を調査した。


それが。びっくりするほど高くて、断崖絶壁。

これ、助かる確率ってどのくらい?ってひるんだわよね。

流石に。


それでも素潜りで20分耐えられる私に策はあった。

だから、その日を堂々と迎えた。


まさか、弟のように育ってきたサダが私の上から落ちて来るなんて、想定外よ。

村長に命令された男が私に「恨まないでくれ」と懇願し、手足を紐で縛り、目隠しをした状態の乙女を崖から突き落とした瞬間、私は手に隠し持っていたガラス片で紐を切り、目隠しを外して、綺麗に飛び込んだ。

オリンピックだったら優勝掻っ攫えたはずよ。


着水して上を見上げれば、唖然とした男と目が合った。

私は笑ってやったのよ。

「恨まないよ」という意味を込めて。


その次の瞬間、上で揉みあう気配がしたかと思うと、サダが落ちてきた。


彼は小さい体をわたわたとさせながら、無様な程に涙と鼻水を垂れ流していたわ。

「マジか!?」

そんな気分だったのは覚えてる。


「このまま着水したら、水面で彼の身体は骨折しちゃう」

そう思った私は、咄嗟に受け止めに泳いだ。


その時、捨てたはずのガラス片が着物の帯に挟まっているなんて、気付かなかった。


小さな傷だった。

受け止めたサダの足にそれは刺さってしまったの。


「やっべ!」

下見していたから知っていた、ちょっと頑張って泳いだところに洞窟があって、歩いていくと村の側の森に出る。

その洞窟まで、気を失ったサダを抱えて泳いだ。

その間、流れるサダの血。


間一髪、サダを洞窟に持ち上げた所で、私はサメの口に咀嚼された。




「ふふ…」


「お嬢様、何を考えているんですか?」


「昔ね、崖から落ちてきた子供を助けたら、サメに食べられたな~って。あの子がミッシェイルだったなんてね。ふふふ。」


「お…お嬢様?」

マーシャが青白い顔になる。


何とも言えない表情を向けるだけのルシードに、「平気よ。前世の話だもの。」と言うと、「そうですね」と溜息交じりに答えるのだった。




そんな昔話をしている間に活気のある港町に到着していた。

「領主様~今日はうちの店に寄ってくれ~」

「いいや、美味い秋刀魚がすぐに食えるのはうちの店だ」

と客引きだろう男たちの声がする。


「秋刀魚が食べれるなら、どこでもいいわ。」

「じゃあ、『満腹亭』にしましょう!」

すかさずマーシャが答えて、店が決まった。


「このチラシによりますと、満腹亭は景色の良い食事処らしいんです。」


ほう…花より団子なマーシャが景色で決めるなんて珍しい。


同じことを思ったらしいルシードが、「変なもんでも食ったんじゃないか?」と聞いている。

「失礼です。行けば分かりますよ!」

膨れるマーシャに笑いを溢し、早速目的の場所を目指す。


その店は海沿いと平原沿いの境目にあった。


お店に入るとおかみさんらしき人が「肉と魚どっちを見たい?」と聞いて来て、マーシャが「肉」と答えた。


案内された席は、平原が一望できる席だった。


あれ?秋刀魚は?


平原のあちらこちらに、豚や牛が放し飼いになっているのを見つめていると、今度はおかみさんが「何食べる?」と聞いてきて、マーシャが「秋刀魚セット3人前」と答えた。


「え?景色がいいってこういうこと?」

「はい。この店の売りなんですって、肉を食べながら魚(海)が見られ、魚を食べながら肉(豚・牛)が見れる。画期的でしょう?」


ああ…確かに、画期的ね。

ただ、それに喜ぶのって…マーシャか子供くらい?

でも、お客が私たち以外いないわよ?


「秋刀魚セットお待たせしました。」


「おお!念願の秋刀魚よ。いただきまーす♪」


…。

………あれ?

なんか、思ってたのと違う。


なぜ、折角脂が乗ってる旬の秋刀魚をコテコテ煮込んだ挙句、意味不明な味付けにした?

形くずれすぎてて、もはや秋刀魚かどうかも分からん。

そもそも、この店「臭い」


「お嬢様?」


無言で立ち上がった私に、マーシャが不思議顔を見せる。


「ちょっと、調理場に行ってくるわ。」

「あ、俺がお供します。」


察しの良いルシードを引き連れ、調理場に入った私は絶句した。


「衛星管理がなってないじゃないですか?!」

「へ?」


ビクッとした店主らしき男性が呆気に取られてこちらを見る。

その周りには汚れたままの鍋や布巾が散乱していて、当の本人は汚い足を調理台に乗せた体制で何かを見ている。


「この布巾、綺麗ですか?汚いですか?」

「え?さっきテーブル拭いて、その後洗った鍋拭いたから…汚いか?でも、あと何回かは拭けるから綺麗か?」

オドオドと答える男に、この世の終わりのような表情を向ける。


「あなた、仕事なめてます?」

「な!」


イラっとした男の前にすかさず護衛が立ちふさがる。


「お嬢様、美味しい秋刀魚が食べたいからって喧嘩口調は良くありませんよ。」

「うー。だって~。」


「店主、この方は我がクランべナー領、領主のご息女、アテーナイエー嬢だということは、理解していますか?」

「へ?!なんで領主様のお嬢様が?」


今の現状になのか、目の前の護衛になのかは分からないが、すこぶる怯えている店主を無視し、私は調理場内から、必要な道具を一式探し出す。


網発見。

あ、レモン発見。

おお、醤油あるじゃん。


あとは…


「ねえ、店主?炭ってあるかしら?」

「はい?」

「炭よ。木炭。」

「ああ、はい、あります。」


店主に木炭を用意させつつ、ルシードに平原側に竈を作るよう指示を出す。


「このレンガを5段くらい積めば、それらしくなるわね。」

「お嬢様、もしかして、ご自分で焼くおつもりですか?」

「ええ、そうよ。私は秋刀魚の塩焼きが食べたいのだもの。」


震える店主を見つけ、呆然とするおかみさんに

「上手くすると、この店流行らせられるわよ」と言って、手伝いを買ってもらう。


「お嬢様、塩はパラパラで良いですか?」

「ええ。軽くで良いわよ。まぶしたら、燃え盛る炭の上にかざした網に乗せて。」

「はい。」


パチパチと木炭が燃える音がする。

秋刀魚から零れる脂が落ちる度、火の勢いが上がり、美味しい匂いが充満し始める。

菜箸なんてものがないから、フライ返しでひっくり返して、じっくり火が通るのを待つこと数分。


「出来たわ!お皿によそって、レモンの汁を絞って、大根おろしと醤油を盛り付けて~秋刀魚定食!」

「わあ!いい匂いがします」

「マーシャはさっき食べてたじゃない?これは私のよ。」

「ええ!じゃあ、自分で焼きます」


そっと背骨に沿ってナイフを入れると、脂ののった肉厚の秋刀魚の身がホロホロとほぐれていく。

「いただきます。」

あーん。


「これよ~♪今日はこれを食べたかったの~。」


店主に怒鳴り、おかみを手伝わせ、勝手に竈を作って、自分で料理をして、満足げに食べる私を店主夫妻は茫然自失といった顔で見つめていた。


「おかみさん、ちょっと味見して頂けますか?」

「え?私?」

「はい。この味は女性ウケのがするかと思いますので。」


私の説明に、のろのろと近づいてきたおかみさんの口に「あーん」と言って一口放り込む。


「!!!?」

目を見開くおかみの顔を覗き込む。

「どうですか?」

「さっぱりしているのに、濃厚で…美味しいです。」


うん。

この世界には焼き魚って文化が少ないのだ。

魚は何でも煮ればいいってわけじゃない。

煮るなら、せめて臭みを消すために生姜と青ネギを入れてくれ!


「店主。この店モデルチェンジしましょう。」

「モデルチェンジ?…ってなんですか?」


私は自分の考えを述べる。

焼料理はバーベキューとして、お客様たち自らでやってもらう。

店主は煮料理や、下ごしらえを担当し、メニューの種類を豊富にする。

飲み物もしっかり提供すれば、家族連れやグループ客の人気が上がるはず。


「店主は、料理が得意ではないでしょう?それなのに、他の店と同じ土俵で戦おうなんて、無謀です。悔しかったら、明日から3日間、うちの邸にいらっしゃい。煮物料理だけは仕込んで差し上げます。」

「え?」

「行かせます!」

反発しようとした店主をおかみが静止させた。


「おかみがシッカリしている店は期待できそうですね。ルシード、邸に連絡を。内装を変えるわよ。」

「連絡は済ませてあります。職人は明日から3日間ここに手配しました。他にありますか?お嬢様。」

やるときはやるルシード。

仕事が早い。


「図面を書いていくわ。紙とペンを。」

「ここに。」

あら、マーシャが先を読んだ?

成長しているのね。


大きなテーブルに紙を数枚並べ、方角を示す印をつけて、簡単にイメージ図を書き込んでいく。

「領主のお嬢様はこんなことも出来るのですか?」

「うどん屋・甘味処・カレー店を開店させる際に、勉強しました。」

「あの…話題の?」


店主の顔色がどんどん悪くなっていく。

ああ…お金の心配をしているのか。


「店主、最初の資金は私が出しておきます。毎月売り上げの1割を私にください。そしたら広告塔になりますので。」

「あ…ありがとうございます!」


余った紙に必要物品の注文書と店主との契約書を書き足す。


「仕事は戦いです。しっかり備えますよ。決戦は1週間後です。」

「はい!」








「・・・で、お店を新たに開店させることになったというのですか?」

「はい・・・。」

「思い付きで動かないようにと申し上げたことは覚えていますか?アテーナ。」

「はい・・・すいません。」


邸に戻った私を待っていたのはお母様からの説教だった。

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