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世界は私の我儘で出来ている。  作者: ツクヨミ
プロローグ
1/35

10回目の転生を言い渡されました。

人の魂は9回転生する。

9回の人生を終えると、その魂は神の元に還るように光に戻る。

私も今、9回目の人生を終え、やっと還ることが出来るはずだったのだが。


ここは何処だろうか?


何もない、何処までも平らで何処までも白い。

『無』な場所で佇み、『無』になったはずの自分を見下ろす。


うっすら人間だった頃の身体があり、ガリガリに痩せ果てた胸には、見たことのない小さな宝石がついたネックレスが揺れている。

「これなに?」

生前の自分の生活水準を思い出せば、こんな高価なキラキラしい物など買えるはずがない。

かと言って、私にくれるような恋人なども存在していなかった。


…あれか?

9回目の人生を終えた目印みたいな…おめでとう!みたいな…そういったやつ。

…ん?どういったやつ?

自分で自分の思い付きを否定し、溜息を吐く。


まあ、いいや。

きっと、何かの意味はあるんだろうけれど…今の私には関係がないのだろう。


自分なりに着地点を見つけて、納得する。


点滴の跡が複数の痣となった手を、閉じたり開いたりと繰り返す。

「こんなにスムーズに動かせるのは、何年ぶりかしら。」

入院する前には動かせていたわよね。

手術して…しばらくは動いていた記憶がある。

その後、病状が悪化してからか…っていうか、その辺からは記憶も曖昧だしね。

うっすらと見た景色はいつも、白い天井と壁と機械音と点滴の落ちる管。

静かで眠たくて重くて温かい…そんな場所だった。


ふと周りを見回し、ここも白くて何にもなくて、寒くも温かくもない場所ね。


…あ、死んでるから寒さとか関係ないのか。私。


「良く頑張った、私。」


自分に労いの言葉を呟いた瞬間、眩い光が降り注ぎ、頭に響くように高いような低いような不思議な声がした。


その声の主が、この世界の創造主のものだと直感的に理解する。


『どうしてお前は犠牲的な生を選ぶ?最初の3回目までは、偶然だと思った。5回目を過ぎ、自分勝手になれとあらゆる手段を使って伝えたのに、他人の子供を助ける為に馬車に轢かれた。7回目には他人に全てを与え、自分はまさかの餓死。8回目は他人の借金を背負い、9回目には臓器提供した末の闘病生活。…お前は馬鹿か?』


溜息混じりに吐き出されたような台詞に、私は思わず吹き出してしまった。

創造主でも「馬鹿」とか言うんだ?

もっと、こう高慢ちきなお貴族様っぽい口調で、「頭、沸いてるんじゃござーませんこと?」みたいな…あ、それは悪役令嬢口調ね…えっと男の人だから「頭の作りが残念すぎて不愉快だ!」みたいな?

いや、違うな…


あれ?なんでこんなことで悩んでるんだっけ?

また、妄想世界を展開してしまっていたようだ。

これじゃあ、あの人に呆れられるわ。

あ、呆れるも何も、私死んでるんだってば。


『何を笑ってる?』


私の様子があまりに呆けていることが、創造主には面白くないのだろう。

怒らせたか?っと、ちょっと焦る。


「申し訳ございません。創造主様が余りに優しい方だと思ったもので。それに…私は誰かを助けることが出来た全ての人生を、誇らしくは思っても、後悔などはしていないのですよ。」


そもそも、私は今までの人生の中で「長生きしたいわ~」みたいな平和な台詞を思いつけるような環境にはなかった。

いつも、その日その時を必死に生きていたのだ。

何に必死だったかって?

時間をどう使うか…とか、どうやって役にたつか…とか、どうしたら守れるか…とか。


あれ?

誰の役に立ちたかったんだっけ?

誰を護ろうとしていたんだっけ?

首を傾げて考え込む私に、苛立った声の創造主の声が響く。


『これらを見ても、お前はそう言えるのか?』

    

何も無い空間に、パッパッパッと自分が体験した人生のあらゆる場面があちこちで動画のコマのように映る。


高い位置から落ちてきた子供を受け止め、その勢いに負けて全身打撲の後死亡した場面や、酔った男性に絡まれた女性を助けた後刺されて死亡した場面などを見つめ「あれは痛かったな〜」「もう少し上手いことやれると思ったのに」「これは失敗ね」等と感想を漏らす。


創造主の大きな溜息が再度聞こえ、

『それでは私の気が済まん。』

「お気になさらず。」


間髪入れず返す私に、一瞬だけ創造主が言葉を詰まらせたのを感じたものの、深い溜息と共に彼は勝手な決定を下す。


『お前には特別に10回目の生を与える。次は簡単に犠牲的な生を選べぬぞ。』

「…ええ?!」

予想外にしつこい創造主の言葉に驚き、悲鳴に似た声を発してしまった。


『我儘に生きて、私を安心させてみよ。』

「いや…だったら、最初から私の人生、もう少しまともな感じにしてくれたら良かったじゃないですか?貧乏すぎるとか、親からの愛情さえも希薄とか…私以外の魂だったら壊れてますよ?」


私の指摘は痛いところを突いたのか、想像主の唸り声がしばらく聞こえ、その後、小さく「すまなかった。ちょっとしたトラブルがあって上手く対処できたと思ったのだが、取りこぼした。」と謝られた。


取りこぼしたってなに?

ちょっとモヤっとする発言が聞こえた気がする。


声だけだけど、しょぼくれた様子を感じる創造主に対し、「私はもう還るつもりだったのに…」と言うには躊躇いを覚え、「9回も10回も変わらない」と自分に言い聞かせた。

「終わりたかった」という不満を飲み込んだのだ。


そのうちに、絶対に犠牲的になれないという創造主の言葉が気になってきて

「あの…犠牲的になれないとはどういった意味でしょうか?」


私の疑問は何事もないように無視され、創造主の高らかに自信ありげな声が響く。


『行くがいい。私が特別に用意した世界へ。…そして、今まで逃した幸せを手に入れて来い。本当のお前らしく、我儘に生きてみよ。』


別に今までの人生も全く不幸というわけではなかったのだが…まぁ、いいか。

多少、金銭的に貧しかったり、愛情とは掛け離れた感じはあったけれど…

自分の決定で、自分の行動で選んだ結果の末だったのだから…自業自得部分も多いわけで。


そんな説明をこの創造主は聞いてくれるのだろうか。。。

過去の「他人の話を聞かない人」代表格のような人物たちの顔が次々と思い浮かび、小さく首を振って諦めた。


この創造主は基本的には優しいようだし。

きっと、何か考えもあるのだろう。

今の私には考えも及ばないことであるだけで、最後はきっと何かの結果が待っているのかもしれない。


「はい。仰せのままに。」

私が返事をすると、眩い光に包み込まれ、スウッと身体が宙に浮く感覚を覚えて、そっと目を閉じた。


どうか次の人生では、ご飯が毎日食べられる程度にはお金がありますように。


そっと祈る。

私の心の声までは想像主には聞こえていないようだし。

これくらいならいいよね?

以前書いていたものを、全体的に改善したくなって一旦削除した作品です。


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