表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

虐められ令嬢は隣国の皇太子にずっと想われていたようです~家を出たら皇太子妃としてお城で暮らすことになりました~

作者: 桜なちゃ

 ナーナ=オホローは伯爵令嬢だ。

 5歳で母親が病死してしまってからナーナは、母親が遺した『正しいことをし続ければいつかは報われる』という言葉を信じ暮らしてきた。

 だが......


「お姉様って本当お馬鹿さん」

 婚約破棄をされ愕然としているナーナの元に義理の妹チーヨがやってきた。

「......」

「そんな怖い顔しないで」

 勝ち誇ったような笑みでチーヨがナーナの前に立つ。

「レオ様は私が支えるから安心して、ジュドゥおじ様に嫁いで」

 レオ=アワダはナーナの幼馴染兼婚約者だった男だ。

 父親の再婚相手により、孤立気味だったナーナをそばで支えてくれたナーナの好きだった人。

 レオだけは自分の味方。そう信じていたのに、チーヨと懇ろな関係になっていたのだ。

 裏切られた。

 ナーナは父親に暴行されたことよりも、義母の心無い言葉よりも、レオに裏切られたことがショックで仕方なかった。

『君が悪いわけじゃない。 ただ、チーヨが魅力的だっただけだ』

 婚約破棄についての話し合いの場でレオはナーナに申し訳なさそうにそう言った。

 姉を陰でいじめるような女より魅力がないのかとナーナは思考が一時停止してしまったが、父親からの土下座の共有でふと我に返った。

 私の今までは何だったんだろう。と。

「ジュドゥおじ様は若い女性なら誰でもいいらしいから、お姉様でも可愛がってくれると思うよ」

 次期公爵家当主の婚約者をゲットしてご機嫌な様子のチーヨは、満面の笑みのままナーナの部屋を去って行った。

「......家を今すぐ出なくては」

 ジュドゥおじ様というのは女癖が悪いという話が絶えない悪徳領主。そんな男の元に嫁ぐなんてまっぴらごめんだ。とナーナは顔を強張らせた。

 今まで家族や使用人からのいじめに耐えていたのは、ありもしない希望に縋り付いていたからだろう。もしかしたら、認めてもらえるかも。など夢を見てしまっていたのだ。

 ナーナは数少ない自分の荷物をアタッシュケースに詰め込んだ。

 現在16歳のナーナに仕事がそう簡単に見つかるとは思えないが、取り敢えずもうこの家から出たいのだ。

 母方の実家に行こうにもきっと連れ戻されてしまうだろう。

 連れ戻されたあときっと酷い折檻が待っている。それを避けるためには、誰もナーナを知らない土地に行く必要がある。

(いっそ国境を越えてしまいましょうか)

 いくら貴族とはいえ他国にまで干渉できるとは思えない。

 国を出るなど初めてのことだが致し方ない。

 文化等違うだろうが、食用ではない虫を何度も食わされたことがあるナーナは、昆虫食くらいなら適応できるだろう。と考えた。

 何回も毒を盛られたこともあるので、自分の体が意外と強いことも知っている。

(もしや私、サバイバル生活できるのでは......?)


 深夜、ナーナはこっそり家を脱け出した。

 母方の祖父母がくれるお小遣いを家族に回収される前にバレない程度に、部屋のありとあらゆるところに隠していたので隣国に行くぐらいのは金はある。

(サバイバル生活は最終手段として、住み込みで子供でもできる仕事があればいいのですが)

 こうしてナーナの新生活が幕を上げた。


 二日で隣国アスタリャナの首都に移動したナーナは早速困っていた。

 言語に関しては問題ないのだが、始めてくる場所なので手始めに何をすればいいのかわからない。

(疲れたので一度宿で休むことにしましょう)

 ナーナは目に入った宿に足を運んだ。

「すみません、暫く予約いっぱいなんですよ」

 宿の店主は申し訳なさそうに頭を下げた。

「いえ、大丈夫です。 わかりました」

「明後日建国祭なのでどこの宿も予約がいっぱいなんです」

「そうなんですか......」

 建国祭と言われてみると確かに至るところに装飾が施されていたような気がした。

 ナーナはてっきり、常に飾り付けている派手なことが好きな陽気な国だと思っていた。

「お嬢さん、泊めてくれそうな知り合いいますか?」

「知り合いはいるにはいるのですが、事前に連絡していないので......」

 約一年前にアスタリャナに引っ越すために転校していったルマという友人がいる。正直、お互い相手のことを苦手だと思っていたが気が付いたら仲が良くなっていた。

 友人だからといって連絡なしにいきなり泊めてほしいと頼むのはどうかと思うし、ルマとは別れ際に告白されたことによりギクシャクしたまま別れてしまったのだ。

「困ったねえ」

「自分で何とかしてみます。 心配してくださってありがとうございます」

 一礼するとナーナは宿を後にした。

 首都から移動して田舎の方にいけば宿に空きがあるだろうとナーナは首都から離れようと、バス停でバスを待っていた。

 すると、周りがざわめきだした。

 何事かとナーナは顔を上げた。制服の集団を中心にざわめいているようで、その集団の真ん中にいたのは、

「ナーナ......?」「ルマ......」

 約一年前に微妙な別れをしてしまった友人ルマであった。

「なんでお前がここに」

「旅行してみたくなりましたの」

「旅行って、お前学校は?」

「本日は休校ですわ」

 ルマは隣にいた少年に何やら一言話した。

「今から時間あるか?せっかくだから少し話さないか?」

「ええ、構いませんわ」


 二人がやってきたのは静かな公園。

「で、なんでここにいんの?」

「ですから、旅行にきましたの」

「へえー、ご令嬢が一人で海外旅行ねー」

「何が言いたいんですの?」

 わかりきったような生意気な態度にナーナがムスッとした顔になった。

「力になれるかわかんないけど、話してみろよ」

「......」

 ルマの真っ直ぐな瞳がナーナは好きで嫌いだ。

 自分をこんなに真っ直ぐ強い瞳で見てくれるのはルマぐらいしかいない。

 ルマの真っ直ぐな瞳を見ていると、自分は偽善者で母が望んだような正しい人間ではないと再認識させられてしまう。

 だから、好きで嫌いなのだ。

「婚約破棄されました」

「はああ?!」

「本当でしてよ」

「なんで?」

「妹の方が魅力的だから。 らしいですわ」

 落ち着いて事実を述べるナーナとは対照的にルマは動揺している。

「まあ、それ以外にも色々ありますの。 家庭の事情というやつですわ」

 婚約破棄はあくまで一因にしか過ぎない。今まで溜めていたものがキャパオーバーを迎えてしまったのだ。

「......ということはお前今フリーか?」

「ええ」

「傷心しているお前にこれを言うのは自分でも酷いことだと思うが、忘れないでほしいことがある」

「なんですの?」

「俺は今でもナーナのことが好きだ」

「はい?!」

「返事はいらない。 ただ、お前のことを魅力的に思ってる人間がいるということは忘れないでほしい」

「......」

 告白されたあの日と同じような真剣な眼差し。

 気が付くとナーナの頬には涙が伝っていた。

「あら? 私、どうしたのかしら......」

「ナーナ」

「誰かに好意的にみてもらうなんて久しぶり過ぎて、変な感じなの......」

「私は......」

 ナーナは自身の家族のことについて思わずルマに話してしまった。

 実母が死んでいること、父親の再婚相手とその娘にいじめられたこと、周囲の人間が再婚相手と義理の妹のことを信じすこと、味方だと信じていた婚約者が義妹を選んだこと、誰かに相談しようと思ったがそんなことをすれば母方の親戚に迷惑がかかること、心のどこかでは家族だから家族が白い目に見られるようなことを言ってはならないと思っていたこと......

泣きつかれて寝てしまうまでナーナは話し、ルマはただ聞いた。


 いつの間にか眠っていたナーナは見知らぬ天上に驚いた。

「やっと起きたか」

 ベッドの脇にはルマが椅子に座っていた。

「ここは?」

「城だ」

「はい?」

「アスタリャナの城内だ」

「何故?」

「何故って、お前が泣きつかれて寝たから俺ん家に運んだんだよ」

 ナーナは寝起きの頭で思いついた。

「城がお家ということは......」

「身分を隠して留学してたからそういえばお前は知らなかったよな。 俺はアスタリャナの皇太子だ」

「まあ」

「割と衝撃のカミングアウトだと思うんだが、反応薄くないか?」

「驚きはしましたが、現実味がないので大した反応はできませんわ」

「そうか」

「ええ」

「それでお前に相談があるんだが」

「何でしょう?」

「俺と結婚しないか?」

「......」

 ナーナはルマが結婚を申し込んできたということは頭では理解したが、心では理解できていなかった。

「決して無理強いはしない。 お前が嫌なら断ってくれ」

「別に構いませんけど......」

 悪徳領主に嫁ぐかもしれない。という危機を経験したナーナにとって、ルマとの結婚は比べられないほど好条件だ。

「ただ、私はあなたのこと異性として見ていませんがよろしくて?」

「問題ない。 結婚生活で好きにさせる」

 ルマはナーナの手を取ると、甲にキスをした。

「い、いきなり馴れ馴れしいのでは」

 異性以前に人とあまり触れ合わないナーナはルマの突然のキスに少しばかり照れている。

「嫌か?」

「そういうわけではありません」



 

 明日皇太子妃となられるナーナさんについて


 皇太子妃となるのは他国の令嬢。なんでも、実家とは縁を切っている訳アリ令嬢のようだ。元実家では虐められていたとかなんとか......現在、その実家は虐めが外部に知られたことにより没落一歩手前にまで追い詰められている。

 そんな訳アリの血を持っているなら皇太子妃にふさわしくないとやかく言う者もいたらしいが、皇太子の説得により結婚を認めたらしい。

「なんか、おとぎ話のお姫様みたいですよね、ナーナさん」

 女記者が取材内容をまとめながら呟いた。

「虐められていた令嬢が隣国の王子様と結ばれる。 若い子たちはそんな人生に憧れてるみたいだけど、あんたも?」  

「私はパスです。 私なら虐められた時点で性格歪みまくってておとぎ話じゃなくなっちゃいます。 いくら、将来自分を愛してくれる隣国の王子様と結婚できると言われても、平凡な幸せな方がいいですよ」

「まあ、そうだな」

「散々辛い思いをしてきたと思うのでこれからはきっと、ナーナさんには幸せしか訪れませんね」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ