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000 コミックス第一巻発売記念SS 昨日人族、今日魔族!? (前半)

『トマト畑』の久々の更新となります。

2月27日(木)に大盛無量先生によるコミックス第一巻が発売ということで、その応援SSとなります。25日、26日に続けて投稿しますのでよろしくお願いいたします。


「ふむん。これは……どうにもいかんな」


 早朝、ルーシーは魔王城の自室でぬいぐるみを抱えながら眉をひそめていた。


 愛用しているフォロボスくんの調子が悪いのだ。このフォロボスくんはルーシーの所有しているファンシーグッズの中で最もお気に入りのぬいぐるみで子供の頃から愛用してきた。


 外見はテディベアならぬテディバフォメットとでも言うべき代物で、頭部に角を三本生やしている。そんなぬいぐるみに調子も何もないだろうと思われるかもしれないが、実はフォロボスくんはただのぬいぐるみではない――


 悪魔の眼光(デビル・アイ)によって棺内を仄暗くしてくれるし、お腹のあたりを押せば「ホロボスホロボスホロボス」と三秒ほど呪詛みたいな声まで出る。


 そもそも、ルーシーは小さな時分から羊の数の代わりに、この「ホロボス」をかぞえることで寝落ちしてきた。喧嘩すれば言葉よりも先にグーパンが出る、いかにも魔族らしい性格はこのフォロボスくんによって培われたといっても過言ではない。


 ともあれ、ルーシーが「うーん」と顔をしかめていたら、コン、コン、と自室の扉を叩く音がした。


「ルーシー、いるかな?」


 セロだ。ルーシーが珍しく朝食に顔を出してこないので心配して訪ねてきたのだ。


「うむ。いるぞ。入ってくるがいい」

「じゃあ、お邪魔します……って、あれ? どうしたの、そんなところに突っ立ってさ?」

「実は、このフォロボスくんの調子が悪いのだ」


 ルーシーはそう言って、フォロボスくんを差し出した。


 セロはふいに懐かしさを覚えた。魔王城がまだ半壊していたとき、ルーシーの自室でそのぬいぐるみを自慢された記憶がよぎったのだ。


 凛として何事にも厳しそうな女性なのに、部屋に入るなりぬいぐるみに「さびしかったか~?」と可愛らしい口ぶりで話しかけるのを見て、当時のセロは虚を突かれたものだ。魔族といえば殺戮を好む戦闘種族という偏見があったから、それが良い意味で崩された。


 セロはそんなことを思い出しつつ、ルーシーに尋ねる。


「で、そのぬいぐるみの調子が悪いってどうしたのさ? どこかほつれちゃったの?」

「いや、フォロボスくんの体には『修繕』という自動修復効果が付与されているから解れたわけではないのだ」

「じゃあ、いったい何が悪いのさ?」

「このフォロボスくんはお腹を押すと、ホロボスと繰り返し言うのだが……まあ、聞いてみよ」


 ルーシーはそう言って、ぷにっとお腹を押した。


「コロスコロスコロス」

「…………」


 セロは押し黙った。


 なるほど。これではコロスくんだ。


 とはいえ、滅ぼすと殺す――果たしてどちらが物騒だろうか?


 何となく前者のような気もしたが、いずれにしてもフォロボスくんのアイデンティティにかかわることに違いはない。


 セロが「やれやれ」と早速調べてみると、お腹のあたりに生活魔術の簡易術式が刻印されていた。声を記録してリピート再生するものだ。どうやらそれがあまりに長く使用されたことで不調をきたしたようだ。さすがの『修繕』も術式には効果が薄かったらしい。


 しかも、残念ながらセロとルーシーには上手く直せなさそうだ。


 そもそも、生活魔術の『とろ火(スロウフレイム)』が最上級火魔術の『炎獄ヘルファイア』級の威力になるセロだ。下手に直そうものなら、フォロボスくんを世界殲滅破壊兵器にしかねない……


 それはルーシーも同じで、幾ら天才とはいっても、これまで生活魔術は全て使用人たちに任せてきた。だから、こうした簡単な魔術はルーシーには馴染みがない。もしルーシーが直したら、「ホロボス」の台詞と共に精神異常をきたす代物になるだろう。ルーシーは高い耐性を持つとはいえ、さすがに寝覚めが悪いはずだ……


「これは……まいったね」

「ふむ。仕方があるまい。わらわにこれをプレゼントしてくれた者を頼るしかないか」

「お母さんの真祖カミラじゃなかったの?」

「母上はこういったファンシーなものに興味を持たなかった。実は、部屋にあるものは全て、吸血鬼モルモからの誕生日プレゼントなのだ」


 セロは「へえ」と相槌を打った。


 そういえば、北の魔族領の北海付近に一人で住む公爵級の吸血鬼の話がいると耳にしていた。


 何にしても、そのモルモを頼るにしても使用人を先触れとして出さねばならず、魔王城の修理に人手が必要な現状ではどうしても優先度は低くなってしまう。


 これにはルーシーも「ううむ」と唸るしかなかった。


「はてさて、どうすべきかな?」


 そんなふうに二人して腕組みをして渋い顔つきをしていたら、ルーシーの寝室のドアが、コン、コン、と叩かれた。付き人となったダークエルフの双子のディンだ。


「ルーシー様。城に訪問客が来ております」

「ほう。誰だ?」


 ルーシーが尋ねると、ディンは恭しく頭を下げてから伝えた。


「ハーフリングの冒険者です。『迷いの森』に滞在していた者がお目通りを願いたいと申し出てきました」


フォロボスくんの詳細についてはコミックス第一巻のpp62、第二話と第三話の幕間に描かれていますのでご確認くださいませ。今回の応援SSはそんな大盛先生によるオリジナル要素を逆にネタにして書き上げています。

後半は明日投稿となります。よろしくお願いいたします。

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