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000 コミカライズ化記念SS 大盛を無料で

本日から『コミックライド(ライコミ)』誌にて漫画の連載が始まるということで、それを記念して書いた掌編になります。


時間軸は特に設定しておらず、キャラクターの役職などは第三部終了時点のものです。また、第10回ネット小説大賞の小説賞受賞を記念して投稿した「第六魔王国大賞創設のお知らせ」にあえて似せた流れで書いています。


何にしましても、コミカライズの新話は無料で読めますので、拙作共々、何卒よろしくお願いいたします。


「よく来てくれたね、モタ」


 昼食後にモタが魔王城の玉座の間に足を運ぶと、大上段からセロが声をかけてきた。


 もちろん、セロ以外にも幹部連中は全員揃っていて、広間で左右に分かれて立っているし、各所にはダークエルフの精鋭たちも立哨している。


 そんなどこか厳かな雰囲気に、モタは「ふわっ?」と驚きつつも、そそくさと玉座に通じる小階段の前まで歩んだ。


「で、いったい何なのさー、セロ? 何だかえらい仰々しいけど?」

「すまないね。実は、モタの力をどうしても貸してほしいんだ」

「わたしの? てことは魔術絡み?」


 モタはそう言いつつも眉をひそめた。


 この広間には師匠の術士ジージもいるし、ドルイドのヌフや何ならルーシーに加えて真祖カミラだっている。


 当然、魔術についてはモタよりもよっぽど詳しい。


「いや、魔術じゃなくて……モタの芸術の才能を見込んで頼みたいことがあるんだ。もちろん、第六魔王国からの正式な依頼クエストということでそれ相応の報酬は出すよ」


 セロがそう切り出したことで、モタは「ほむ」と息をついた。


 たしかに第六魔王国大賞創設の際には、モタ自身も知らなかった創作の才が開花したし、最近では無駄に絵描きとしても名をせている。


 モタが勇者パーティーの魔女として有名だったのも今や昔の話で、最近では王国の貴族子女の間ではロマンス小説の大家として、また旧門貴族たちには前衛的な画家として知られ、かなりの副収入だって得ている状況だ。


 そんな多方面に活躍中のモタだからこそ、今回セロはわざわざ玉座の間に呼び出した。


「というのも、僕がお願いしたい依頼というのが――」


 セロはそこで言葉を切ってから、広間にいる皆を見回した。


 玉座の間には配下たちだけでなく、王国からも幾人かゲストを呼んでいた。現王シュペル・ヴァンディスの代理として王女のキャトル、あるいはヒトウスキー伯爵やルーシーとマブダチとなったゴスロリスキー嬢、それらに加えて聖騎士団長モーレツや英雄ヘーロスまで控えている。


 最近は地上世界も平和になったものだから、どうやら暇を持て余してキャトルたちの護衛としてのこのこと付いてきたようだ。


 そんな全員に向けて、セロは「ふむん」と意味ありげな目配せをしてからついに本題を話し始めた。


「実は、当国で漫画を発行したいと思っているんだ」


 直後、モタは「ほへ?」ときょとんとなった。


 また、配下たちや王国の面々も「うーん」とうなることしかできなかった。


 これはまあ仕方のないことだろう。そもそも、第六魔王国大賞創設のときだって小説について誰もろくに知識を持っていなかったのだ。当然、漫画となればそれに輪をかけて知るはずがない……


 すると、セロの隣に座っていたルーシーが以前と同じことをまた言い出した。


「セロよ。昼食に出た豆腐に頭でもぶつけたのか?」


 さらに吸血鬼の三姉妹ことリリン、ラナンシーにシエンが続く。


「漫画というのは……いったい何なのでしょうか?」

「あたしが以前に縄張りにしていたマン島にまつわることなのかなあ?」

人族マンが漫画を満を持して描く、メーン」


 そんなあまりに無知な娘たちに対して、真祖カミラが「はあ」と、これみよがしにため息をついてみせる。


「そりゃあ、この魔王城に漫画なんて一冊も置いていなかったから知らないのは仕方ないにしても……貴女たち、ちょっとばかし勉強不足じゃないかしら? 第六魔王国が政治経済的な覇権を得た今、新たに文化的にも支配を確立したいって話になるのは予想できるはずでしょ?」


 カミラが自信満々にそう言ったとたん、かえってセロは「ええ?」と眉をひそめた。


 もちろん、セロにはそんな意図はなかったし、今回セロがわざわざ漫画を発行したいと言い出したのは――


 実のところ、人造人間フランケンシュタインエメスといにしえの時代以前の文化について話をしていた際に、小説だけでなく、漫画、アニメやゲームといったエンターテイメントの存在を知ったからに過ぎない。


 とはいえ、文化的な覇権といった言葉がカミラの口から躍り出てきたことで、王国の面々はさすがに顔を強張らせた。王女のキャトルが早速、セロに質問をする。


「セロ様。リリン殿からも問い合わせがありましたが……その漫画というのは何なのでしょうか?」


 セロとしてもそう聞かれることは想定内だったので、すぐさま広間の最前列にいたエメスに説明を求めた。


「はい。それでは小生が代わって説明いたしましょう。まずはこちらをご覧ください」


 エメスはそう言って、玉座の間の天井に設置されている巨大モニタにとあるものを映し出した。


「これは古の時代の遥か以前、大陸が絢爛豪華な文明を築いていた頃に発行された漫画誌『コミックライド(ライコミ)』なるものです。ご覧いただければ分かる通り、漫画とは絵と台詞とコマ割りによってストーリーを語る形式を持ったものです。もちろん、一コマ漫画や劇画など、様々な形式があったようですが、今回に限っては大人の都合でこちらの漫画誌にて説明いたします、終了オーバー

「……大人の都合?」


 皆が首を傾げたものの、エメスは我関せずと手に持った携帯用のモノリスをスワイプして、モニタ上の漫画のページをめくっていった。


 そして、幾つかの作品をゆっくりと読み終えたところで、再度、王国の面々――キャトル、ヘーロスにモーレツが感嘆の声を上げる。


「古の時代以前と伺いましたが……当時の民衆も意外と私たちの時代と変わらない生活だったのですね」

「うむ。この『冒険者ギルドが十二歳から入れない』云々という作品はまさに俺たちの日常そのものと言ってよかったな。いつの時代も冒険者は苦労するものらしい」

「しかしながら、史上最強の大賢者がぬいぐるみというのはどういうことなのだ? 途中の話だったので状況がいまいちよく掴めなかったが……何にせよ、不思議と焼き肉が食べたくなってきたな」


 もっとも、ヒトウスキーやゴスロリスキー嬢にはあまり刺さらなかったようだ。


「麻呂はやはり秘湯が一番の娯楽でおじゃる」

「十二歳の冒険者も、ぬいぐるみもたしかに可愛かったけど、ファンシーさが足りていないわね」


 そんな人族側の反応に対してエメスは「ふむ」と肯いてから、本題に戻ってもらおうとセロに視線をやった。


 セロもそれに気づいて、モタに改めて向き合った。


「というわけで、モタにはこの漫画に挑戦してほしいんだよ。もちろん、モタ以外にも描いてみたいという人がいる場合、第六魔王国は歓迎するし、報酬も出すつもりだ」


 セロがそう宣言すると、モタはちょこんと首を傾げた。


「別に描くのはやぶさかじゃないんだけどさー。セロは何で漫画を描いてほしいの?」

「本音を言えば、漫画だけじゃないんだ。いつかはアニメだって、何なら映画だって作っていきたい」

「なるほどにー。手広く始めても上手くいくか分からないから、とりあえずはまず漫画ってことかな?」

「そういうことだよ。もちろん、成果報酬だけでなく、クリエイターには色々と特典をつけるつもりでいるよ」

「特典?」

「うん。たとえば、魔王城二階の食堂や温泉宿泊施設で食事をするときに大盛を無料にするとか」

「な、なんですと?」


 モタは思わず前傾姿勢になった。


 最近、第六魔王国の食事環境は劇的に改善されて、王都の一流レストランよりも遥かに美味しくなってきている。モタもついつい大盛、特盛、ペガサス昇天盛りと、食べ過ぎて散財してしまっている。


 そんなモタにとって大盛無料はとても魅力的なサービスに映った。


「よっしゃあ、セロ。その依頼、受けたるぜい!」


 ともあれ、後年、第六魔王国大賞を受賞した作品がコミカライズされることになるのだが……


 そのペンネームが大盛無()だったことは決して偶然ではなかったし、おかげでモタはちょっぴりと肥ってしまったらしい。


漫画家の大盛無量先生までモタだった!?


何はともあれ、本日より『コミックライド(ライコミ)』にて最新話は無料で読めますのでよろしくお願いいたします!

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