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&101 外伝 王国生誕祭 09

ここにきて再度、視点がセロたちに扮したノーブルたちでも、店内にいるルーシーでもなく、本物のセロに戻ります。


「この魔力マナ反応は間違いなくルーシーだね?」

「はい、セロ様。なぜこれほどの魔力を放っているのかは分かりかねますが、このままですと……王都が灰燼に帰すやもしれません」


 近衛長のエークがそう言ったものだから、王国の現王シュペル・ヴァンディスは「ひいっ」とうめいた。


 今、セロたちはルーシーが魔力を放った場所に急行していた。


 とはいっても、付き人のドゥとディンは王国の近衛たちに任せて市場いちばに残ってもらっている。


 まだ子供なのでセロとエークの走力には付いていけない上に、下手をして迷子の二次被害にでもなったら目も当てられないからだ。


 二人は「むうう」、「むすー」と頬を膨らませたが、こればかりは仕方ない。


 ちなみに、シュペルだってさすがにセロたちには付いていけないが……エークにお姫様抱っこしてもらっている。


 当初はセロとエークだけで解決すべきと考えたものの、それでは王国側に不信感を与えかねないとセロが配慮して、こうしてシュペルも連れて行くことになった。


 セロとエークはシュペルを護衛する冒険者に扮しているので、傍目からすれば、主人シュペルを守る為に抱えて走っているように見えなくもない……


 ともあれ、そんなセロたち一行だったわけだが――ファンシーグッズ専門店には到着できずに立ち往生させられた。


「これはものすごい人だかりだね……」


 セロが思わず絶句すると、エークはさも涼しげに応じる。


「はい。いっそ目障りですね。全員、焼き払いますか?」

「いやいや、僕たちが面倒ごとを起こしちゃダメでしょ。ルーシーが何かやらかした以上、シュペルさんだって許してくれないよ」

「ええと、セロ殿にエーク殿。面倒ごとならば一向に構わないのですが……さすがに王都を灰燼に帰すとか、民衆を焼き払うとか、そういうのだけは勘弁いただけると助かります」


 現王なのに下手に出るしかないシュペルではあったが、何にしてもこれだけ人々が密集していてはトラブルのもとに駆けつけられない。


 店の前にはやけに豪華な馬車が停まっていたから、どうやらセロたちに先んじてノーブルたちが店内に入ったようだ。


 本来ならば今頃中央通りでパレードのはずが、ルーシーの放った魔力に感づいて急行してくれたに違いない。


 ただ、そのおかげで群衆も、また警備の騎士たちもこちらに移動して、裏通りは雑踏でごった返している。蟻一匹すら通さないといった有り様だ。


 そんな状況を前にしてセロたちは足止めされたので、ここでシュペルはいったん下ろしてもらった。


「それでは、仕方ありませんな」


 シュペルは自らに掛かっていた認識阻害を解いた。


 さらに「ごほんっ」と大きく咳払いすると、この騒ぎの中に現王が現れたとあって、最初はどよめきが上がったものの、民衆は次々とその場に膝を突いて頭を垂れた。


 現王の登場によって先ほどまでの喧騒が嘘のように、モーゼの海割りの如く道ができていく。


 警備の騎士たちもそこに颯爽と並んで、その責任者がシュペルの前に進み出てひざまずいた。


「げ、現王……何故なにゆえにこのような場所に……?」

「第六魔王こと愚者セロ様に会う為だ。馬車を下りて、その店舗に入られたのだな?」

「はい。それがなぜか……急にこちらに立ち寄られまして――」


 警備の責任者としては言葉を濁すしかなかったが、シュペルもさすがに責めるような真似はしなかった。


「構わん。急な変更があったのだ」

「へ、変更ですか?」

「うむ。それよりちんも店舗に入りたい。案内せよ。あと、店舗には朕ら以外には誰も寄せつけるな」

「はっ!」


 こうしてセロとエークもシュペルに付き従う護衛として一緒に店に入ることができたわけだが――


 店内に入ってすぐにセロは「え?」と、ぽかんとした表情になった。


 というのも、ルーシーに扮した夢魔サキュバスのリリンが人族の冒険者らしき人物を捕まえて、縄で亀甲縛りにしていたからだ。


「ええ……リリンも実はあれ(・・)な人だったの?」


 セロは思わず、そう呟いてしまったものの……


「い、いえ、違うのです。セロ様……これには深い事情がありまして――」


 といったところで、リリンは今、自身がルーシーに扮していたことを思い出して、それらしい口調に戻した。


「違うのだ、セロよ。わらわはあれでは決してないし、これには……そう。何かと面倒な……じゃなかった、色々と厄介な事情があったのだ」


 ルーシーを演じているわりには、リリンの目がなぜか泳いでいた気もしたが、セロは「ふうん」と相槌を打った。


 店内を見渡すと、セロに扮した高潔の元勇者ノーブルが腕を組んでリリンの捕り物をいかにも泰然と見ていて、一方で肝心のルーシーはソワサンシス嬢のまま、甲斐々々(かいがい)しく二人の貴族子女を介抱している。


 何にしても、護衛に扮したセロの後に現王シュペルが店内に入ってきたとあって、セロに扮したノーブルがシュペルに会釈をしてから今の事情を説明してくれた――


 それによると、どうやらパレードで王都の裏通りの警備が薄くなるのに乗じて盗賊団が店に乱入したらしく、二人の貴族子女に狼藉を働いた上に、魔獣まで(・・・・)けしかけたようだ。その魔獣を討伐する為に、ルーシーが一時的に魔力を解放したとのこと。


 そんな説明をシュペルのそばで聞いていたセロは質問をした。


「で、その魔獣は?」

「討伐したのだから、魔核を潰されて消滅した……のだと思う」


 ノーブルがなぜかセロから視線を外しながら答えたのが気にはなったが、セロはまた「ふうん」と肩をすくめるしかなかった。


 すると、シュペルが顎に片手をやりつつ、どこかいぶかしげに言葉を漏らした。


「この盗人どもは……たしか芋虫・・盗賊団だったはず」


 どうやらシュペルは元聖騎士団長とあって王都の治安には通じているようで、さらについ最近まで社交界によく顔を出していたので、王都を中心に貴族の御用商人を相手に荒稼ぎしていた彼らについても詳しいらしい。


 そんなシュペルにセロはおもむろにまた質問をする。


「その芋虫盗賊団というのは?」

「以前に王都の貧民街スラムでなぜか芋虫の真似をしていたところを一斉検挙された、名うての盗賊団です」

「……ほ、本当に名うてなんですか?」

「たしかに捕まったときには名を落としたものですが、彼奴きゃつらは全員、すぐに脱獄をしてみせたのですよ」

「ほほう」


 セロが感心すると、シュペルが声の調子トーンを落として話を続けた。


「当時は、第五魔王国の魔族たちに好き勝手にやられていて、おそらく王都の秩序を脅かす為に手の掛かった魔族がわざわざ悪党どもを逃がしてまわったのでしょう。それにヒュスタトン会戦時に大神殿の黒服神官も罪人たちを勝手に私用したと聞いています」

「な、なるほど……色々と混乱の中にあったわけですね」


 セロも小声で応じると、シュペルはわざわざ盗賊のおかしらの前に進んで見下ろした。


 さすがに現王、いや元聖騎士団長だけあってその『威圧』だけで硬直スタンさせそうな厳かな雰囲気だ。


「一つだけ聞きたい。貴様はたしかにここで魔獣を放ったのだな?」

「お、おう……そ、そ、それがどうしたよ?」


 そのお頭までやけに目が泳いで挙動不審だったのは――きっと眼前のシュペルの威圧に当てられたのだろうか。


 セロはそんなふうに見立てながらシュペルたちの会話の続きを聞いた。


「王都に魔獣を放つなぞ、一族郎党全員を処すことになる。それが分かっていた上での狼藉か?」


 シュペルの剣幕には――実のところ、セロも冷や汗を流した。


 というのも、ドゥやディンたちのおりで、ヤモリたちを連れてきていたからだ。


 もちろん、シュペルには一応許可を取って……もとい無理難題を押しつけている。


 ともあれ、シュペルに詰め寄られても、意外にもお頭は一向に態度を変えなかった。


「ふん! 一族郎党だろうが、末代までだろうが、好きにすりゃあいいぜ。なあ、テメエらよ?」


 貴族子女の騎士たちが解放されたことによって、次々とお縄になって店内中央に連行されていく子分たちは――これまたまた見事に目を泳がせながらも、


「お、お、おうよ!」


 と、最後には威勢よく声を重ねた。


 ただ、なぜだろうか……全員が――子分たちも、お頭も、はたまたリリンも、ノーブルも、その場にいた貴族子女や護衛騎士たちさえも、皆がどこか挙動不審といったふうに一人の人物にちらりと視線をやった。


 当然、セロはその視線が集まる方向に目をやった。


 そこには怯える貴族子女二人を世話するソワサンシス嬢もといルーシーがいたのだった。

次話で王国生誕祭の前夜祭エピソードはいったん締めに入ります。

ただ、明日からコミカライズがスタートするということで、その記念SSを上げますのでよろしくお願いいたします。

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