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&100 外伝 王国生誕祭 08

 高潔の元勇者ノーブルや夢魔サキュバスのリリンの急行も虚しく……


 あるいは、セロや近衛長エークたち、はたまた現王シュペル・ヴァンディスや王国の近衛たちの懸命な捜索も間に合わず……


「貴様ら……殴っていいのは、殴られる覚悟のある者だけだと分かっているのだろうな? 足で小突くなぞ、誉れも何もない。そのことを自覚しているのだろうな?」


 ルーシーはそう問いかけると、魔導具の拘束を物理的にぶちんと切って、まずは店内にいる盗人どもにじろりと視線をやった。


 盗人たちはちょうど、女性店員や騎士たちを一室に押し込め、次いで幾らするのか分からないファンシーグッズをアイテム袋に放り込んでいたところだったが、ほぼ全員が「ひいいっ!」と叫んでその場で卒倒した。


 何てことはない。ルーシーの放った禍々しい魔力マナに当てられて、状態異常の『恐怖』や『絶望』で動けなくなったのだ。


「そ、そ、そんな馬鹿な……」


 唯一、ルーシーの睨みに耐えたのは――クリストファー子爵令嬢のネーメスの首根っこを掴み、ヴィヴィアン・ゴスロリスキーに蹴りを入れたおかしらだけだった。


 本来ならば人族のちんけな盗賊にかかわらず、ルーシーのひと睨みに耐えたことを褒めてやるべきところだが……


 こちらもこちらで何てことはない。このお頭は以前に吸血鬼や魔女と戦ったときの経験を活かして、状態・精神異常耐性のアクセサリーをじゃらじゃらと着けまくっていたに過ぎなかった。


 そう。このお頭――幸か不幸か、もしくは吸血鬼姉妹(ルーシーとリリン)によほど縁があるのか、かつて王都でリリンの『魅了』に耐えながらも、最終的にモタのおけつ破壊でやられた盗賊の頭領である。


 当然、そのときのことを反省して……というかもう芋虫にはなりたくない一心でもって……今では高価なアクセサリーをこれでもかと装備して、何なら人族で最も異常に強い者にまで成り上がった。


 また、部下たちにも型落ちのアクセサリーをふんだんに分け与えてやっていたのだが……


「たかだか怒らせただけで……全員がやられちまったってのか?」


 お頭はそう言って、呆然自失するしかなかった。


 直後、ルーシーと視線がかち合った。お頭は「ひええっ」と身震いした。


 ルーシーからすれば、これだけの魔力を当てて、いまだに立っていた人族にちょっとだけ興味を持ったに過ぎなかったが……


 そんなルーシーが「ほう?」と一歩踏み出すたびに、お頭が身に着けていたアクセサリーも一つずつ、いかにも「もう無理」とばかりに粉々になった。


「な、な、なんじゃこりゃあああ!」


 その中には聖剣に匹敵するほどの貴重な物まであった。


 さすがは王都で長らくうごめいてきた盗賊らしく、王侯貴族の御用商人相手にずいぶん稼いだらしい。


 何にしても、ルーシーが歩み寄るにつれ、せっかくの財産とうひんが潰れていくわけだ。そういう意味では、お頭もそろそろ『絶望』になりかけていた。


 おかげで人質のネーメスは床に放たれ、同時にお頭も尻餅ちをついて、じりじりと後退しながらルーシーを仰ぎ見る格好となった。


「た、た、助けてくれえええ!」


 そう懇願されても、ルーシーは助ける義理など微塵も持ち合わせていなかった。


 とはいえ、眼前の小悪党がヴィヴィにやったように蹴り上げようものなら、この者が風船のように破裂するのは間違いない。


 そもそも、この者がどれだけ物理的に堪えられるのか未知数だし、ルーシーとしても力加減が分からない上に、何なら店が小汚い血にまみれるのもルーシーの本意ではなかった。


 気分としては人造人間フランケンシュタインエメスにでも引き渡して、生きているのも後悔するような拷問を与えてやりたいところではあったものの……


「おや?」


 ここでルーシーはやっと冷静になった。


 そして、店に近づいてくる幾つかの強力な魔力反応を感じ取った。


 そのうちの直近のものは――間違いない。セロとルーシーに扮したあの二人だ。ルーシーは咄嗟に、これはマズいなと気づいた。


 本物のセロからは口を酸っぱくして、「王都で騒ぎは絶対に起こさないように」と注意されていた。ルーシーだって「セロも心配性だな。わらわが騒ぎなぞ起こすはずがなかろうに」と、つーんと塩対応で返したものだ。


 ところが、蓋を開けてみたらこのざまだ。大神殿では気づいたらルンルンとスキップしていたし、市場ではトマトを探すよりも先にゴシック店を見つけて皆を振り切ってしまった。


 今となっては盗賊たちに絡まれて、危うく怒りに任せて王都ごと灰塵に帰すところだった。


「ふむん。これは……いかん。セロに合わせる顔がない。はてさて、どうしたものやら」


 ルーシーは顎に片手をやって、ぽく、ぽく、ぽく、と考え込んでから、ついに、ちーんと、たった一つの冴えたやり方が浮かんだ。


「おい。そこの小者よ」

「は、は、は、はい? 俺?」

「うむ。口裏を合わせよ。そうすれば――命だけは助けてやる」


 ルーシーはそれだけ言うと、にやりと笑みを浮かべた。


 そのとたん、ルーシーの『魅了』によって盗賊のお頭が身に着けていた精神異常のアクセサリーは全て潰えたのだった……

というわけで、いやはや懐かしいですね。実は、第47話「旅は道連れ、世は情け」以来の登場となった盗賊たちなのでした。300話ぶりぐらいになりますね。

なお、王国生誕祭のエピソードはあと二話ほどで終わります(小話と社交界の話が残っていますが……)。その後に前話のまえがきに記した通りにごっそりと移動させます。よろしくお願いいたします。

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