&99 外伝 王国生誕祭 07
久しぶりになろうに投稿して今さらながら気づいたのですが、なろうってすでに投稿したエピソードを前に割り込むことができないんですよね……
この王国生誕祭のエピソードが一通り投稿したら、第四部前の「&92 外伝 尻に敷かれる(後半)」の後ろにごっそり移動すると思いますので、その点だけご了承くださいませ、
「ほら。団子だぞ。あーんするのだ、セロよ。妾が食べさせてやろう」
「分かったよ、ルーシー。はい、あーん」
ゴト、ゴト、と。
王都に続く街道をゆるりと進む馬車の中では、こんなイチャコラがこれみよがしに演じられていた。
あまりに久しぶりの登場となってとっくに忘れ去られたかもしれないが――セロに扮した高潔の元勇者ノーブルと、同じくルーシーに化けた夢魔のリリンだ。
こちらは本物のセロたちとは違って、転送陣など使わずに馬車で数日かけ……もちろん各領都で貴族たちから接待などを受けつつ……
いかにもお馬鹿カップルの親しみやすさをアピールしながらここまでやって来た。
元人族のノーブルと、王都に料理修行で潜伏してきたリリンでなければ出来ない芸当、もとい任務ではあったものの、今日でやっと王都に到着だ。
本物のセロたちと合流すれば任務から解放される上に、久々の王都を楽しめるとあって、二人のテンションも上がりっぱなしだった。
「ぱく。もぐもぐ……ごっくん。うん。美味しいよ、ルーシー」
「そうか。よかった」
「でも、僕としては……ルーシーのお団子も食べたいんだけどなあ」
「妾のお団子だと?」
「うん。ほら、ルーシーのもっちもちのやわらかいところ……」
「ふふ。そういうことか。こんなふうに外から見える馬車で食べたいなどと……セロめ。愛いやつよ」
本物のセロたちなら決して言わない台詞も――
テンションあげあげで別人に扮しているとあって、二人にとっては何てことはなかった。
若干、ノーブルが可笑しいのは、ここ数日、セロになって慣れない社交界などに出まくっているせいで、大好きな筋トレがろくにできず、薬物依存の禁断症状みたいなものが出ているせいだ。
普段の真面目なノーブルならこんな台詞は吐かない……はずだ、多分。
それはともかく、そんな二人のこってりとした濃厚な絡みを窓越しに見せつけられて、街道にいた観衆はというと、惑うよりも「おおおーっ」とどよめきを上げた。
勇者バーバルによる王女プリムの誘拐騒動のときもそうだったが、高貴な身分の者たちのラブロマンスほど、興味を掻き立てられるものはない。一見すると、単なる惚気のようではあったが、これでも一応は外交官のリリンによるプロパガンダでもあった。
さて、王国生誕祭では王都の門外に大小幾つもの天幕が連なって、だだっ広いだけの草原にはちょっとした街が形成されている。もちろん、セロたちの到着とあって、街道上は交通整理され、幾人もの兵士や騎士たちが立哨するものの――
今話題の第六魔王とその妃の姿を一目だけでも見たいと、観衆は波のように蠢いていた。
「ほう。あれが魔族になったセロ様か」
「勇者パーティーにいた頃と比べて、やはりずいぶんと変わったな」
「そりゃあそうだろ。魔族に……いや、魔王になったんだぜ。でも、あんなふうにいちゃいちゃして楽しそうでよかったよ」
「俺もルーシー様のもっちもちを揉みたい……」
どうやらセロとルーシーに好印象を与えるプロパガンダは成功のようだ。
そもそも、セロはもともと光の司祭として活躍していたこともあって、王都の民衆はおおむねセロたちに好意的だった。北の辺境の街道がお通夜みたいだったのとは対照的である。
そんな馬車外の様子をちらりと見て、リリンはいかにも外交官らしく、今後は地方都市にプロパガンダを急がないといけないなと感じたわけだが――それはさておき、ふいにセロに扮していたノーブルが「ん?」と、眉をひそめた。
「感じたか? ルーシー……いや、リリン殿よ」
「はい。王都内から感じる、このあまりに禍々しい魔力は……どうやらセロ様のようではありませんね」
「うむ。ただ、これほどの魔力となると、エメス殿か、もしくは――」
というところで、二人は目を合わせて同じ人物を口にした。
「ルーシー殿だな」
「ええ。姉上ですね」
同時に、ゴト、ゴト、ゴト、と。
馬車はついに王都の正門を通過した。
正門上にいた楽隊による演奏が始まって、観衆たちも「今ぞ、祭りのピークだ」とばかりに音楽に合わせて口笛や歓声を上げ続ける。
馬車内にいたノーブルとリリンはいちゃこらを止めて、つんと澄ました表情でもってそんな民衆たちの歓迎に片手を振って応えた。ただ、口もとは笑みを見せていたが、外に漏れないほどの声音で――
「ルーシー殿のことだから問題ないと信じたいが……」
「はい。たしかに姉上がやられるようなことはないと思いますが、王都で暴れられるのは困ります」
「ルーシー殿の妹君として、本当に暴れると思うかね?」
「沸点はエメス様より低いと考えます」
「そうか」
「はい」
二人は顔に笑みを張り付けたまま、ちらりと目を合わせた。
ルーシーのそばにはセロや近衛長のエークがいるはずだし、何なら付き人のドゥやディン、さらには現王のシュペル・ヴァンディスやその近衛騎士たちだって付き添っている。
それなのに着いて早々、こんなふうな問題が起きているということは――
「何かしらの理由があって、対応できないということか」
「はい。そう考えるのが妥当ですね。となると、私たちが動かざるをえないのでしょう」
「仕方ない。予定変更といくかね?」
「そうですね。王都で大虐殺を起こされたら困りますから」
こうして馬車の御者はセロに扮したノーブルの指示を受け、急遽、ゴト、ゴト、と。
王都の裏路地に入ったのだった。もちろん、いきなり大通りを外れた馬車を追って、観衆も、騎士や衛士たちもぞろぞろと付いていったわけだが、何にしても今年の王国生誕祭は一つの頂点を迎えようとしていた。