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192 人造人間エメスと堕天使ルシファー(序盤)

「はくしょん。はくしょん。終了オーバー


 と、それが本当にくしゃみなのかと疑いたくなるほど、人造人間フランケンシュタインエメスは等間隔に吸気と呼気を淡々と繰り返した。傍から見ていた堕天使ルシファーでさえ眉をひそめるぐらいには不自然なくしゃみだった。


 とまれ、ここはヒュスタトン高原の上空四千メートルほど――地上に比べたら寒暖の差は二十度ほどもあって、とうに氷点下に突入しているし、何より強い風が吹きつけて、水魔術の『雪嵐ブリザード』を常に浴び続けているようなものだ。


 もちろん、エメスも、ルシファーも、水魔術や風魔術に対する耐性があるので気にしてはいないが、それでも肉体の不随意運動は生じるもので、先ほどからルシファーとて微かに震えている。


「さて、くしゃみは終わりましたでしょうか?」

「問題ありません。おそらくどこかで誰かが噂でもしていたのでしょう」

「ほう。貴女は存外に人気者なのですね。古の大戦時は同朋をあれほど殺しまくって、ずいぶんと恐れられていたと記憶していますが?」

「それは昔の話です。人は変わる生き物です。今の小生はやさしさの塊なのですよ」

「はは。人造人間如きにやさしさの概念が理解出来るとは思っておりませんでした。現代の科学技術も捨てたものではありませんね」

「はあ。ルシファーともあろう者が情けない。まさに勉強不足です。今では小生とて、恋や愛すら理解しているのですよ。終了オーバー


 エメスがそう言って胸を張ったものだから、ルシファーもさすがに興味が湧いたのか、あるいは皮肉の一つでも言ってやろうと考えたのか、


「では、浅学のわたくしめに是非とも教えて頂きたいのですが、恋と愛との違いとはいったい何なのでしょうか?」

「簡単なことです。恋とは殴ること。愛とは殺すこと。以上です」

「…………」

「そんなことも分からないから、貴方は堕天したのでしょう。嘆かわしいことです。終了オーバー


 逆に皮肉で返されて、ルシファーは片頬がぴくりと引きつった。


 何にしても、言葉のやり取りにおいても、小競り合いにおいても、互いを牽制する時期はとうに過ぎていた。


 二人の戦いは中盤に入っていて、エメスは雷を纏わせた長柄武器ハルバートを構えた。


 一方で、ルシファーは背の十二枚の漆黒の翼を大きく広げて滞空すると、右手には槍かと見紛うほどのいびつな長剣、左手には炎を象ったような盾を手にして、エメスの攻撃に備える。


「それでは再度、いきます! 終了オーバー

「さあ、かかってきなさい。今度こそ、終わらせて差し上げましょう」


 二人は宙で激しくぶつかり合った。


 その実力は拮抗していた――いや、より正確に言えば、ルシファーの方が総合的には上だった。


 そもそも、ルシファーはもと天族ということで天使の羽を有しているわけだが、エメスは魔力制御によるリュック型のバーニアを背負っている。


 ただでさえ羽の方が小回りも利いて有利な上に、ルシファーは宙で幾度も戦った経験があって、さらには身体能力ステータスでも人族の最高傑作だっただけあって相当に強かった。本来、宙でまともにぶつかり合って、エメスに勝てる相手ではなかった。


「これは……下手をしたら今のセロ様よりも――」


 と、エメスが戦いながらも言葉を濁したように、セロだけでなく、個で最強と謳われる第二魔王こと蠅王ベルゼブブにも匹敵する力をルシファーは存分に見せつけてくれた。


 そんなルシファーと曲がりなりにもここまで対等にやり合えたのは――


「ちい! いちいち面倒臭いですね」


 そう言って、ルシファーはエメスの攻撃をいなした後に背後から飛んできた『水弾』をかわした。


 実のところ、ヒュスタトン高原の上空でルシファーと戦っていたのはエメスだけではなかった。


 強襲機動特装艦かかしエターナルも認識阻害をかけて雲に隠れ、そこからエメスを助けるように『雷撃ライトニング』やイモリたちによる『水弾』を浴びせ続けたわけだ。


 ちなみに、『水弾』はイモリたちが「キュ」と鳴きながら、強襲機動特装艦にへばりついて放っているのに対して、『雷撃』の方は魔術砲台に座ったモタが攻撃している。これまたさっきからエメスと同様に、


「はくちゅい、はくちゅい、んん、もー」


 と、くしゃみが止まらずに鼻下をくすぐっているわけだが、素のときよりもくしゃみをしているときの方がよほど『雷撃』が正確なのだから不思議なものだ……


 それはさておき、さすがにルシファーもそんな見えない波状攻撃に業を煮やしたのか、十二枚の黒翼をはためかせて、一気に上空に昇った。


 一万メートルを超えた頃には乱層雲も消えて、成層圏の独特な気流である偏東風も吹きつけてくる。


 ほんの少しでも体が傾くと、一気に回転して落下しかねないこともあって、十二枚の翼を持つルシファーでも体勢の制御が難しかったわけだが、当然のことながらリュック型のバーニア頼りのエメスには不利な状況だ。


 さらに強襲機動特装艦も上がってきたわけだが、機体を遮る雲などのない上空では、幾ら認識阻害をかけていても、わずかな魔力マナの揺れでルシファーにはバレてしまって、


「ふん。なるほど。さっきから私めに攻撃を仕掛けてきたのはあれだったのですね。まさか古の時代の飛空戦艦を再現していたとは……」


 そこまで呟いてから、ルシファーは急転直下。


 強襲機動特装艦を先に落とそうと、その剣先を向けて突貫した。


 が。


「やらせはしません!」


 エメスが長柄武器を突き出して向かってくると、


「かかりましたね、エメス。以前の貴女なら仲間など冷徹に見捨てたはずです。それが人になりたいと願った、貴女の最大の弱点なのですよ」


 ルシファーは十二枚の黒翼で見事に空中停止して、眼前にやって来たエメスを袈裟斬りにしたのだった。


「やれやれ。何ともあっけない勝負でした。さようなら、欠陥人間フランケンシュタイン



旧い価値観を持った魔族だから一対一で戦うんじゃないの? という問いに対する答えは次の中盤で出てきます。


それと本業の方が少し早い年末進行に入ってしまって、21日(金)は休載予定となります。もしかしたら年内いっぱいは週二回掲載になるやもしれません。それでも年内に第四部完結する予定ですので、もう少しだけお付き合いくださいませ。

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[一言] 「やらせはせん、やらせはせんぞぉオオオ」「戦いは数だよ兄貴ィ」
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