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176 勇者パーティーを当然のように追放された魔王

2023年8月11日現在、この先のエピソードはまだ改稿がなされていません。また、今は第三部の外伝Ⅱに新規エピソードを付け足しているので、第四部の話数のナンバリングがおかしくなっています。その旨、ご了承ください。



―――――



お待たせいたしました。第四部の開幕です。今話はあくまでもプロローグのようなものに当たります。


あと、本編から三ヶ月近く過ぎて、作者である私自身も忘れかけていたので、第三部終盤のあらすじを箇条書きにしておきます――


・ヒュスタトン会戦が終わって王国は平定。

・その戦場でルシファーが天使モノゲネースを消滅させる。

・ルシファーは羽ばたいて天界へ。

・冥王ハデスも南の魔族領の天峰から天界へ。

・邪竜ファフニールがその天峰を守護。どうやらセロにではなく、ハデス側についた模様……

・セロたちは浮遊城で会戦の終結を見届ける。

・そこに真相カミラが登場。セロに天界に行け、さもなければここで討たれろと無茶振り。


というわけで、以下、今話はいったんプロローグらしく、過去回想に入っていきます。



 人族の本質というものは早々に変わらない――


 たとえ幾世紀が経とうとも。魔術と科学の見分けがつかなくなったとしても。あるいは、太陽系第三惑星から離れて住めるほどに科学技術が発達したとしても。もしくは、最適な進化を求めて、化身アバターによって異世界マルチバースを創造し、かつ破壊して、世界の行く末をシミュレーション出来るほどの存在になれたのだとしても。


 結局のところ、人族はいつまで経っても争うことを止めない存在だ。


 そもそも、この物語の始点はいにしえの大戦にあった。当時、不老不死を巡って、二つの考え方が生じたことはすでに述べた――


 苛烈な肉体改造を施してでも、人族を進化させるべきだという主張と、あくまで自然のままの姿でありながら世界にパラダイムシフトを起こせるほどの天才を複製クローンによって生き長らえさせるべきだというものだ。


 結果、それぞれの立場で魔族と天族とに分かれて、古の時代に争うことになった。


 各々の陣営が、冥界、天界という二つの異世界を新たに創って、そこを本拠地として、その中間にある地上世界を盤面にして戦ったわけだ。


 もっとも、全ての人々が戦争に加担したわけではなかった――


「愛するエメスよ。どうか私たちに希望じかんを与えておくれ」


 一人の工学博士が生み出した人造人間フランケンシュタインの少女は大陸北部の人族の国家をたしかに守護した。


 彼らの計算では、この大戦は百日ほどで終結するものと踏んでいた。立場の違いで争ってはいるが、手法が異なるだけで、目的自体は同じなのだ。それなのにいつまでも争うなど、愚の骨頂にしか見えなかった。


 が。


 このとき、とある者(・・・・)が表舞台に現れ出てきた――


「いやはや、愚の骨頂とはいただけませんね。愚かであることは私めの存在意義アイデンティティ。ならば、彼奴エメスには狂ってもらうしかあるまい」


 こうして人族を守護せし英雄たれと生み出された人造人間エメスは狂って、破壊衝動に従った。


 いや、より正確に言えば狂わされたのだ。その者(・・・)は呪いの本質をよく理解していた。光が闇に、正が邪に、あるいは光の司祭や勇者が魔王になるように――当時、エメスもまた呪われてしまった。


「さあ、その衝動のままに世界を破壊してみせなさい」

「承知しました。破壊と創造。今は新しい世界を創る為に何もかもを壊す時期に過ぎないというわけですね。終了オーバー


 人造人間エメスは魔族となって、大陸北部から中央にかけて生活していた人族を滅ぼしかけた。


 その一方で、大陸西部で牧歌的に暮らしていた人族はあくまでも古の大戦に対して不干渉を表明していた――


「我々には平和的理念がある。その理念に基づいて生きている限り、何者にも侵されないし、また何者も侵すつもりはない」


 もっとも、そんな高邁な理念について、その者は大いに嘲笑った。


「はは。困るのですよ。私めよりもよほど愚かな者たちがいるなどとは……まさに脳内がお花畑とはこのことでしょうね」


 その者はやれやれと肩をすくめながら、世界で最も獰猛な種族とされる毒竜たちを導いた――


「そんなご立派なことを言っているようですよ」

「ほう。わざわざ右頬を差し出してくる馬鹿どもなど、凹々(ぼこぼこ)にすればいいのだ。生存する為に考え抜くことを止めた者どもなど、ただの無知蒙昧ではないか」

「ただし、その背後には空竜ジズがついているようです」

「ほう。ハデス様からは四竜に対して牽制するように仰せつかっている。そのついでだ。弱者は全て踏み潰す」


 結局、邪竜ファフニールを代表する毒竜たちに飲み込まれて、大陸西の豊穣たる草原全てが血の湿地帯に変じていった。


 もちろん、戦いは地上世界に留まらなかった。


 天使や魔王はそれぞれ天界と冥界に攻め入って、かの地を蹂躙していった。


 冥界は大陸が幾つも割れて、まともな者が住むことの出来ない不毛の大地となった。また、天界は惑星を捨て、人工知能の深淵ビュトスを搭乗した、軌道上の宇宙船のみとなった。


 古の大戦は百日戦争どころではなく、いつまでも終わらない泥沼の様相を呈した。


 ただ、このとき、人族も、魔族も、天族も、異世界を創造したときの仕様プロトコルを忘れていた。


 醜い大戦などによって人口が一定以下に減ったときにこそ、世界の調停者が現れる――本物の人族の守護者たる勇者カミラが生まれて、盤面全てを一気にひっくり返していったのだ。


 勇者カミラの力は圧倒的だった。人造人間エメスを捕縛して、邪竜ファフニールは二度の討伐で大陸南部の天峰に追いやった。他の魔族や天族も押し返して、最終的にはそれぞれ冥界、天界に留まらせて、一つの約定を結ばせるに至った。


 もちろん、この偉業は勇者カミラが一人きりで成し遂げたものではなかった。


 当然、カミラにも仲間がいたのだ。いわゆる勇者パーティーだ。


 魔族と天族との約定の後に、カミラは出生の地である北の古城に戻って、半壊していた城の二階バルコニーで仲間の一人を労った――


「難しい戦いだったけど、ようやくこれで世界に平和が訪れるわ」


 カミラが小さく息をつくと、パーティーに賢者として加わっていた若者は顔をしかめた。


 その智謀は千手先を見抜くとまで謳われた青年だ。性格にやや慇懃無礼で皮肉屋なところはあったが、今回の約定も含めて、どんぶり勘定気味なカミラに対してしっかりとした戦略を提示して、パーティーの大黒柱となってきた。


 そんな青年がカミラの言葉ではなく、その手にしているものを見て、眉間に皺を寄せたわけだ。


「グラスに入っているのは……まさか血ですか?」

「馬鹿なこと言わないでよ。トマトジュースよ」

「相変わらずお酒は飲まないのですか? 例によってアルコールで脳細胞が死滅するから? やれやれ。今日は一応、戦勝会でしょうに」

「戦勝会と言っても、パーティーメンバーしかいないのだけどね。他の者たちはどうしたのかしら?」

「皆、もう酔っ払ってそこらへんで寝ていますよ。呑気なものです」

「戦いは終わったのよ。呑気にもなるわよ」

「…………」


 すると、知略に長けた青年は口を閉ざした。


 今度はカミラが顔を険しくする番だった。「ふう」と短く息をついてからトマトジュースを飲み干すと、


「分かっているわ。魔族と天族とが分かれている限り、おそらく戦いは終わらない。本当に終わらせるにはどちらも滅ぼすしかない。でも、私はそれを望まない」

「愚かな考えです。貴女ほどの力があれば、世界そのものを望めるでしょうに」

「愚かなぐらいがちょうどいいのよ。賢すぎるとろくなことを考えないものだわ。実際に(・・・)そうでしょう?」


 カミラはそう問いかけて、青年に笑みを向けた。


「ふむ。たしかに同感ですね……ところで、実際に(・・・)いつ頃から気づいていたのですか?」


 一方で、青年の口の端は歪んだ。


 眼前にいるどんぶり定の女性はこういうだけはやたらと鋭いのだ。もしかしたら、これこそが世界の調停者として生まれた特性なのかもしれないが……


「人造人間エメスや邪竜ファフニールから聞きかじったのよ。冥王ハデスや人工知能の深淵ビュトスよりもよほど厄介な存在がこの地上世界では跋扈しているってね」

「そうでしたか。あの激戦の最中に余計なお喋りが出来ていたとは……」


 青年がそこで口を閉ざすと、カミラは聖剣を抜いた。


 その様子を見て、青年は肩をすくめてみせると、自身にかけていた認識阻害を解いた。その額には、はっきりと魔紋が浮かび上がっている。


「さあ、ここで最後の決着をつけましょう。愚者・・ロキ――この世界に仇名す、混沌と動乱を愉しむ最悪の魔王よ!」


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