表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

313/396

&87 外伝 失敗は勉強である(後半)

「セロ様、実は今回お見せしたいのは自動販売機だけではありません。終了オーバー


 人造人間フランケンシュタインエメスはそう言って、手持ちのモノリスの試作機に向けて何事か呟いた。


 すると、しばらくしてから、どこからともなく「あーれー」という呆けた声が聞こえてきた。


「あの声はもしかして……」


 と、セロが宙に視線をやると、そこには予想通りに魔女のモタがいた。


 黒いマントの首根っこをかかしファンネル《ドローン》に掴まれて、セロたちのいるふもとまでゆっくりと近づいてきている。


 最近、モタは原生林調査でかなり稼いだとあって、おやつ研究所にまた引きこもったとセロは耳にしていたから、これはいったいどうしたことかと眉をひそめていたら、


「なーにーさー、エメス?」


 ふもとに着地したとたん、モタはぷんすかと下唇を突き出した。


「先日、発注した魔導具に不具合がありました。こちらを見てください」

「ん? パーンチがどったの?」

「モタが込めた『凍結』が強すぎて、凍傷を負ってしまったのです」

「そうだぞ、モタ。さっき色々とひどい目にあったばかりだぜ」


 モタは「ええー?」と、モンクのパーンチにちらりと視線をやった。


 そのパーンチはというと、モタの魔導具というよりもエメスが設けた鞭による裂傷の方がよほどひどかったものの……モタは自動販売機での実演を見ていなかったこともあって、わりと素直に、


「ありゃりゃ、大丈夫? パーンチ?」

「まあ、何とかな」

「ごめごめだよー。何なら、わたしの弟子のチャルが作ったポーションでも飲む?」

「おう、助かるぜ……って、にがあ!」

「でも、効き目は抜群だよ」


 モタの言葉通りに、パーンチの全身の傷はみるみるうちに治っていった。


 どうやら原生林でのパナケアの花びらの採取からこっち、おやつ研ではさらなる収入を求めて万能薬造りに精を出しているらしい。


 もっとも、そのせいか依頼された魔導具作成の手を抜いたとなると本末転倒ではあるが……何にせよ、そんな二人の様子にセロは首を傾げるしかなかった。


 果たして、エメスがモタを連れてきたことに何の意味があるのか、と――


 理解が覚束おぼつかなかったからだ。そもそも、クレームを入れるだけだったらモノリスの試作機越しに言えば十分だろう。


 それに岩山を超えておやつ研からこちらに叱られに来いということなら、直通の地下通路を使うか、もしくはモタなら『飛行』の風魔術でやって来ることが出来る。


 わざわざかかしファンネルに首根っこ掴まえられて飛んでくる必要がない……


 ……

 …………

 ……………………


 というところで、セロは「あれ?」と、また首を傾げた。


 そして、モタがかかしファンネルを指差して、「でも、これ、すげーね」と言った上で、


「いつの間にこんなに性能が向上したの? わたしを持ち上げて飛ぶなんて、まるでコウモリさんみたいだよー」


 と、付け加えたことで、セロはやっと腑に落ちたとばかりに、「そういうことか!」と手を叩いた。


「かかしファンネルで人を運べるようになったんだ……いや、人だけじゃない。人の重さぐらいの物も持ち運べるってことか」

「その通りです、セロ様。現状、コウモリたちほどの力や速さは有していませんが、モタほどの重さならば運搬出来るように、かかしファンネルに改良を施しました」


 セロは「なるほどね」と相槌を打った。


 とはいえ、すぐに「ん?」と、またもや眉をひそめた。


 というのも、宙での運搬ならばコウモリたちがいれば十分だからだ。むしろ、コウモリたちより力も速さも出ないならば、あまり意味をなさないのではなかろうか……


 そんな訝しげなセロの表情に気づいたのか、今度は近衛長のエークや人狼の執事アジーンが補足した。


「現在、城下町での建設が活発になったこともあって、コウモリたちの手が足りていないのです」

「たしかに温泉宿の門前をヤモリたちが建築資材を背に乗せて歩く姿も散見されますね。最近は宿裏の雑木林の先にある河川を使って、イモリたちも運搬を手伝っているようです」


 そんな二人の言葉にセロは「うんうん」と幾度も肯いた。


 たしかにそんな光景をセロも現地で目撃したことがあった。今はちょうど田畑での収穫もある程度終わった上に、真祖トマトや野菜などの余剰在庫を鑑みて田畑の拡張も止めてもらっていたから、それぞれの魔物たちにも時間が出来たのかなと、セロも考えていたわけだが……


「なるほどね。城下町の建設ラッシュに物流が追いついていなかったのか」


 セロは反省しきりだった。


 木を見て森を見ずではないが、これでは為政者失格だ。


 もっとも、エメスは「残念ながら――」と話を切り出すと、かかしファンネルに別の指示を与えた。


 直後、かかしファンネルはパーンチの首根っこを掴まえる。


「お、おい。これは……いったい、どういうことだよ?」


 パーンチはそう言いながらも、抵抗せずに宙に運ばれた。


 とはいえ、岩山に聳え立つ魔王城四階ほどの高さほどまで上がると、かかしファンネルの挙動がぷるぷると震え出した。そして、ついにパーンチは振り落とされてしまう。


「うおおおおおおおお!」


 そのまま自由落下して、パーンチはセロたちの前で脳天真っ逆さまに、地面へと頭をうずめてしまった……


「このようにまだモタ以上の重さを運ぶことが出来ないのです。法術による身体能力向上の付与バフをかければ問題ないのですが……小生の一存でこのまま進めてもいいものかどうか、先にセロ様に相談したかったのです。終了オーバー


 もちろん、セロは「問題ないよ」とすぐに伝えた。


 いつものエメスだったら、その程度の問題ならば勝手に進めそうなものだが……


 たしかに高度な範囲法術をかけるとなると、ドルイドのヌフか、巴術士のジージあたりに頼ることになるので、その二人から釘でも刺されたのかもしれない。


 何にせよ、これで魔物たちの負担が軽減するならセロとしては願ったりかなったりなので、このかかしファンネル強化計画にゴーサインを出した。


 この後、第六魔王国はコウモリやかかしファンネルが飛び交って、低空域飛行産業がさらに活発になっていくのだが、当然、セロはそんな物流改革が――今、この瞬間に起こったことなど知らなかった。

中国の深圳にあるドローン特区こと『第六空間』のニュースを見て、思いついたエピソードです。第六のあたりでついつい縁を感じた次第です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ