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&82 外伝 恋のメガラバ(前半)

 蜥蜴人リザードマンリザが海竜ラハブの美しさを滔々と語っている間――


 モンクのパーンチはというと、自己像幻視ドッペルゲンガーアシエルが憑依した子犬フェンリルのみけたまと一緒にはらはらしながら、「いや、そうじゃねえだろ」と、心中でリザにツッコミを入れていた。


 第六魔王国唯一の常識人たるパーンチの見たところ、竜人姿の女性は明らかにリザに気があるようだった。


 何なら、リザを求めてわざわざここまでやって来たようでもあった。


 事実、パーンチが「お前もそう感じね?」と、子犬みけたまに同意を求めるかのような眼差しをやると、


「ばうばう」


 まさに相槌を打つかのようにみけたまも鳴いてみせた。


 それなのにさっきから蜥蜴人リザはどこぞの巴術士ジージみたいにについて一方的に語っている……


 宗教こそ、まさに熱狂だろう。リザは普段、冷静沈着で寡黙な戦士であって、パーンチもそういうところが気に入っているのだが……なぜか話が信奉する女神ラハブのことになると、パーンチでもドン引きするほどに情熱的で饒舌になってしまう。


 同じような状況をジージとセロで散々見てきたので、パーンチもそろそろ宗教的なあれ(・・)に慣れてきた頃合いかなと思っていたものだが……


「こりゃあ、ちょっとやそっと……見てられないってもんだぜ」


 モンクのパーンチは他人事ながらも忸怩たる思いに駆られていた。


 言葉遣いなどは荒いものの、パーンチはやはり根っからのお人好しなのだ。そもそも、今このときもリザは恋愛について熱く語っているわけではない。宗教上の博愛について論じているのだ。


 とはいえ、そのことを相対している竜人の女性は履き違えている……


「このままじゃ――あ、やっぱりな」


 モンクのパーンチが見立てた通りに、泥竜ピュトンは心が折れて倒れかけてしまった。


 蜥蜴人リザが慌ててお姫様抱っこしてあげているが……最早、後の祭りとでも言うべきか。もっとも、そんなタイミングで、「くうーん」と、子犬のみけたまがパーンチの足にわふわふと絡みついてきた。


 どうやらパーンチに何とかしてほしくてせっついてきたようだ。パーンチからすれば、どうしてみけたまが竜人の女性に肩入れするのか分からなかったが、こんなふうに子犬に懐かれるくらいだから、きっと悪い奴ではないんだろうなと考えて、


「仕方ねえな。ちょっとだけ……オレが肌を脱いでやるか」


 そう言って、蜥蜴人リザのもとへと子犬のみけたまを伴って歩いていった。


「さて、ご両人。まずはちょいとばかし落ち着こうじゃないか」


 モンクのパーンチはそう言って、竜人の女性こと泥竜ピュトンを木陰で横にしてやった。


 すぐに子犬のみけたまが「くうーん、くうーん」と、ピュトンの爛れた片頬をぺろぺろと舐めて元気づけてあげる。おかげでピュトンも少しは気がまぎれたのか、


「……ありがとう。アシエ……いえ、みけたま」


 そう言って、指で子犬のみけたまの喉をごろごろしてやれるほどには回復した。


「さて、リザよ」

「いきなり何だ、パーンチ?」

「テメエは本当に何も分かっていねえ」

「…………」


 当然、蜥蜴人リザは無言のまま首を傾げた。


「まず、テメエの語っている女神ラハブについてだが……素直に聞こう。好きなのか?」


 直後、リザの頭から水蒸気がぼふっと上がった。


 さっきの泥竜ピュトンよりもよほど真っ赤だ。これにはピュトンも横になりながら、また項垂れるしかなかったが……


「好きなどと……滅相もない! むしろ畏れ多い!」


 そんなふうに両腕を振って否定した蜥蜴人リザに対して、ピュトンは「え?」と、わずかに頭を上げた。そこにモンクのパーンチは一気に畳みかける。


「じゃあ、今のテメエに好きな異性はいるのか?」


 すると、リザは意外なことに両指先をつんつんとしだした……


「い、いない……というか、そもそも出会いがない」

「はあ? 出会いなら腐るほどあるだろ。この温水プールなんて蜥蜴人のスタッフだらけじゃねえか。それにこの国にはダークエルフも、吸血鬼も、きれいどころの種族は一通り揃っているし、人族だって今じゃあわりといるしな」

「そうは言っても、俺より強い者がいない」


 モンクのパーンチは眉をひそめた。


 よくよく聞いてみると、蜥蜴人リザはダークエルフの近衛長エークと同じような悩みを抱えていた――


 どちらも誇り高き四大亜人族の族長なので、一見すると女性など選び放題に思えるが……実のところ、二人とも自分にも他人にも厳しい性格で、一分一秒とて無駄にしない仕事人間ワーカホリックな上に、特にドワーフがならば蜥蜴人はの戦闘種族らしく、異性に強さを求めるとのこと。


 当然、配下の蜥蜴人でリザよりも強い女性はおらず、並みのダークエルフや吸血鬼では相手にならず、逆にリザよりも数段上の女性はセロに夢中ということで、リザはほとほと困っていたそうだ。


 ちなみに、魔性の酒場ガールズバーでそんな愚痴を吐いていたら、近衛長エークといつの間にか意気投合して、今では親友マブダチになったらしい。


 最近は、そんな悩みを解消する為にも、人狼の執事アジーンなどにも勧められて、あれ(・・)なる世界に一歩踏み出すかどうかガチで検討していたようだが……まあ、そんな至極どうでもいい話はともかくとして――


「なるほどなあ……強い女か。そりゃあ、まあ、あの(・・)海竜ラハブを奉っているくらいだもんなあ」


 モンクのパーンチは「ふむふむ」と納得するしかなかった。


 セロを追っかける女豹たちの中でもラハブは最も直情的な武闘派だ。特に妻の巨大蛸クラーケンがこれまで酷い目にあわされてきたとあって、同じく喧嘩っ早いパーンチでもあまり良い印象は持っていなかった……


 が。


「ん?」


 モンクのパーンチはふと首を傾げた。


「ちょい……待てよ」


 そして、木陰で横になって休んでいる竜人の女性ピュトンに視線をやった。


 今のパーンチはセロの自動パッシブスキル『救い手(オーリオール)』を受けているので、たとえ巨大蛸クラーケンの触手でビンタを数発喰らったとしても死にはしない。


 そんな強者となったパーンチからしても、この竜人の女性はなかなかの実力者に見えた。


「もしや、クラーケンを超えるんじゃねえか……」


 無意識のうちに、そう呟いてさえいた。


 そのとき、パーンチの脳内にパッと閃きが過った。セロを求めて女豹大戦が起こったように、リザを振り向かせる為にその拳を叩きつけてみればいいのだ。


「よし! じゃあ、こうしようぜ――」


 と、そんなこんなで温水プールの一角にて、パーンチは蜥蜴人リザと竜人の女性ピュトンとの格闘戦マッチアップを提案したのだった。

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