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&68 外伝 第六魔王国の魔物事情(前半)

今回のタイトルは魔物と書いて、魔物モンスターではなく、魔物ペットと読みます。


いつ本編に戻るんだと、そろそろお叱りを受けそうですが、第二巻発売に合わせて本編も増補していこうかと予定しています。


その為、八月いっぱいは外伝をお楽しみくださいませ。


 ダークエルフの双子のドゥは「むー」と唸ってから、


「あばばば」


 と、呼吸が出来なくなって目覚めた。


 いつの間にか、ドゥの顔に子猫ベヒモスぽちたろう(・・・・・)がみっちりと張り付いていたせいだ。


 ドゥはもふっと、ぽちたろうを離して、「むう」とやや不機嫌そうに枕に乗せてやってから、目をごしごしして上体を起こした。


 ぽちたろうがベッドに潜り込んできて、寄り添って寝るのは構わないものの……最初は足もとあたりで大人しく丸まっていたのが、いつしかお腹、次いで胸の上、さらには頭としだいに移動してきた。


 毎日、何かにびくびくと怯えて、そのせいかドゥに甘えがちな子猫だったので、ドゥも目をかけてきたわけだが、最近はどうにも太々《ふてぶて》しくなった気がする。


 何にせよ、ドゥはベッドから出ると、鏡台の前で日課である笑顔の練習を始めた。


 双子の片割れのディンが気づいて、「もう起きたのー?」と声をかけてくるが、ドゥは相変わらず「うん」と短く答えるだけだ。


 そして、一通りの笑みを作ってから、ドゥは魔王城三階にある使用人用の寝室の窓を換気のためにわずかに開けた。


 ついでにディンのそばで行儀よく横たわって寝ている子犬フェンリルみけたま(・・・・)の頭をさすさすしてから、


「いてきます」


 と、ディンと二匹の魔物ペットに小声で告げたのだった。






 さて、ドゥに「いてきます」と告げられた子猫ベヒモスのぽちたろうだが――


 すでに説明した通り、この子猫の屍喰鬼グールの肉体には第七魔王の不死王リッチが輪廻転生リインカーネーションしている。


 とはいえ、愚者セロによって飼うことを認められて、ドゥがお世話することになって以降、ぽちたろうは怯えるばかりだった。


 子猫で死にかけていたから仕方がないと、皆には心配されたものだったが……実のところ、理由は別のところにあった。


 何せ、城中のいたるところに超越種の魔物モンスターたちがいるのだ。


 しかも、セロたちに害をなさないかどうか監視されているような感覚があって、リッチとしては気が気でなかった……


 それにいにしえの時代から生きてきたリッチにしても、子猫の未熟な自我に寄せられるのか、元魔王とは思えないほどに挙動不審になっていた。


 そうはいっても、慣れとは恐ろしいもので、一か月もするとリッチもといぽちたろうも普通に生活出来るようになった。


 今では主人ドゥが早朝に仕事に出掛けた後、わずかに開けてもらった扉から出て、廊下の壁に張り付いているヤモリたちに「なあ」と挨拶するくらいには平気になった。


 そんなぽちたろうはというと、まずは朝、ちょこちょこと階段を下りて、二階の食堂隣の厨房までやって来てから、また、


「なあ」


 と、一鳴き。


「あら、おはよう。ぽちたろう」


 その日の料理当番の人狼メイドたちにわしゃわしゃと撫でられて、出してもらったねこまんまをもしゃもしゃと食べることから一日が始まる。


 当然、ぽちたろうは屍喰鬼グールだし、その肉体に転移した不死王リッチも魔族なので、根本的に食事を必要としない。


 ただ、やはり子猫の成長期ということもあってか、何はともあれ肉体が栄養を求めている。


 それにリッチは骨身だったのでいにしえの時代より食事は一切取らなかったが……もとは人族の死霊専門の巴術士(ネクロマンサー)ということで、およそ千年ぶりの食事に感動を覚えた――


(ふむん。食事とは……悪くないものだな)


 何しろ残飯ねこまんまとはいっても、屍喰鬼の料理長フィーアが来てからというもの、この国の台所は王国の一流レストランに匹敵するレベルにまで一気に上がっている。


 これにはぽちたろうもご満悦で、むしゃむしゃと、最後はお皿まで丁寧に舐めきって、「なああ」と、ごちそうさまを告げた。


 あとはごろりんとどこか日陰の涼しい場所で眠りにつきたいところなのだが……


 残念ながら魔王城は今もヤモリ、イモリやコウモリたちによって改造中で、どこかしらで建築工事が着々と行われている。


 しかも、今は夏に向けて、魔王城全体を涼しくする為の床冷房を敷設している最中だ。


 ただ、人造人間フランケンシュタインエメスによって結露や黴の発生が指摘されたので、ヤモリとイモリたちは知恵を出しあって床冷房の改良に取り組んでいる。


 もちろん、そんな魔物たちにしても、種族は違えど、ぽちたろうがまだ子供だということはきちんと認識しているようで、魔王城の改修を手伝えとは言ってこない。


 むしろ、幼子に対して家族のようにやさしく接してくれるほどだ。


 そんなわけでぽちたろうはてくてくと廊下を歩みながら、キャットウォークならぬヤモリ(・・・)ウォークに入った。


 イモリたちは天井内の上下水道管を伝って移動するし、コウモリたちはぱたぱた羽ばたくから問題ないが、ヤモリたちは床上や壁に沿って動くことになる。


 トマト畑の畝にある塹壕みたいなものは魔王城の床にはさすがに掘れないとあって、ヤモリたちの要望を受けたセロが――


「じゃあ、天井の梁や柱を通路にすればいいんじゃないかな。上下の階層移動も階段にこだわらずに、動きやすいように改築しちゃっていいよ」


 そう甘やかしたものだから、ヤモリたちも気をよくして、今では魔王城の梁など幾何学模様のように張り巡らされている有り様だ。


「ふぎゃにゃにゃにゃ!」


 とはいえ、そのヤモリウォークはあくまでもぺたぺたと壁を沿えるヤモリたちの通路であって、猫用には作られていない。


 おかげでぽちたろうはジェットコースターみたいに滑って一階にたどりつくと、そのままドテンと床に落っこちかけた。


 落ちた先は人狼メイドたちの待機所スタッフルームだ――


「あら、ぽちたろう?」


 そんなぽちたろうの悲鳴に気づいて、休憩を取っていた人狼メイドがすぽんとキャッチしてくれる。


「なあ……」

「怖かったの? もう仕方ないわね。ほら、膝に乗りなさい」

「なあああ」


 そんなこんなでぽちたろうは人狼メイドたちに甘えて、午前中を過ごした。かつては第七魔王と謳われた不死王リッチだが、気づけば、身も、心も、子猫になりきっていたのだった。


これまで「いぬたろう」とか「骨犬」とかとキャラクター表では紹介してきましたが、今後はぽちたろうに統一します。

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