&60 外伝 天然プールのある日常(お蔵出し02)
お蔵出しエピソードなので舞台は打って変わって温泉パークではなく、前話同様に天然プールに戻ります。
魔性の酒場に勤めている、夢魔のセクシー、それにボインやダイナマイト(※全員源氏名)は臍を噛んでいた――
「おかしいわね」
「なぜ……こんなに閑古鳥が鳴いているのかしら」
「天然プールっていったら水着でしょ? 開放的な場所でしょう? だったら、私たちの魅力が全開になる場所のはずなのにいいい」
実は、三人がいるのはいつもの夜の酒場ではない。今回は天然プールに急遽設けられた魔性の酒場の出張所に来ている。
閑古鳥が鳴いているとはいっても立地は最高で、更衣室から少しだけ離れた浜辺にあるので、崖が穹窿になっていて陰が差してとても涼しい。
しかも、例によってヤモリ、ダークエルフに加えて吸血鬼たちが立派な海の家を組み立ててくれたので、そこでは人狼メイドたちが執事アジーンの秘蔵肉コレクションからお肉をこっそり持ち出してきてバーベキューを皆に振る舞っている。
当然、湖で遊んで小腹を空かせた者たちがやって来るから、もう昼はとっくに過ぎたというのに人の出入りだって多い。
それにもかかわらず、すぐ隣の魔性の酒場の出張所はというと――
「いつもの連中しかいないわね」
「セロ様やエーク様にも来ていただける好機なのにいいい」
「私はドゥちゃんに来てほしいの。無垢な子供を誘惑するのって……素敵」
と、夢魔のセクシー、ボインにダイナマイト(※それぞれ源氏名)は言って、三人で「はあ」とため息をついた。
実際に、お隣のバーベキュー会場が盛況なのに比べると、こちらの酒場は明らかに人が少ない……
セクシーが「いつもの連中」と指摘したように、座っているのはせいぜいドワーフのオッタを中心として、幾人かの騎士や冒険者たちぐらいだ。
もっとも、これには理由がある。というのも、肝心の夢魔たちがいつもより全然セクシーでも、ボインでも、ダイナマイトでもないのだ……
薄暗くて、妖しげな夜の酒場で魅せている、夢魔たち本来の肢体も――今は遥かに布面積が大きな水着で隠されている上に、魔性の酒場はあくまでも飲食店の括りということで、人狼メイドたちと同様に白いエプロンまで着させられているのだ。
倫理や法律なぞ知ったこっちゃない第六魔王国のはずなのに、こういうところだけはどこぞの風営法よりも厳格だから驚きである。
「これは……まあ、これで……拙者は満足であるぞ」
と、常連のオッタなどは嘯くものの、結局のところ、客足の鈍さが不満を証明している。
そもそもからして、セロはこの天然プールに魔性の酒場が出店することに反対した。
元聖職者の堅物として、そういった大人の遊び場が昼間っぱらから堂々と浜辺で営業しているのはけしからんというわけだ。
しかも、モンクのパーンチから「子供どもを連れてきてもいいか?」と事前に相談されていたので、第六魔王国が子供たちに不埒な場所だと思われたくないと考えたのだろうか――
セロは珍しくはっきりと、
「観光資源として天然プールを造るのはいいけど、あんまり羽目を外して開放的にし過ぎるのはダメだからね」
そう釘をさしてきたわけだ。
とはいえ、夢魔たちは逆に一念発起した。いつまでも日陰の存在に甘んじてはいけないと奮い立ったのだ。
というか、まず酒場には一度も来たことがないセロや近衛長エーク、あるいはダークエルフの双子ドゥにも身近に感じてもらって、魔性の酒場の素晴らしさを喧伝しようと、
「お酒こそ百日の長!」
「ほどよく酔いながらあれされるサービスも充実してますよ!」
「若い女の子が学費を稼ぐのにも最適!」
などと、それぞれを狙い打ちしたかのような宣伝をしたわけだが……
当然のことながら、なしのつぶてということで、結局、夢魔たちはまず同種のリリンに泣きつき、さらには上司のアジーン、ついでに真祖カミラにまで懇願して、何とか出店まではこぎつけることは出来た。
「でも……やっぱりダメね」
「ええ。あの格好ははさすがに卑怯よ」
「こうなったら……私たちもダイナマイトバディを披露すべきじゃない?」
と、夢魔のセクシー、ボインにダイナマイト(※くどいけど源氏名)はこぼして、それぞれ「むう」と、下唇をギュっと噛みしめた。
三人の夢魔たちの視線の先には――見事に神の与え給った自然のままの姿で砂浜を自由に駆けまわるエルフたちがいた。
もちろん、巴術士ジージによる光の魔術によって肝心なところは煌めいて隠されているので、何とか全年齢対象空間になっているものの……
「何だか……悔しいわ」
「夢魔がエルフ如きに負けるだなんて……」
「やっぱりいっちゃう? 脱いじゃう? いっそ子供たちも誘惑しちゃう?」
と、夢魔のセクシー、ボインにダイナマイト(※かえすがえす源氏名)は呟いて、ついにがばっと纏っていた白いエプロンを脱いだ。
出張所で穏やかに酒を飲んでいたドワーフのオッタや他の常連たちはすぐさま、「おおっ!」と反応して、拳を固めて何かを期待して一緒に立ち上がったわけだが――
その直後だった。
「あーれー」
という言葉が響いて、次いでどぼーんと湖に飛沫が上がった。
咄嗟のことだったので、巴術士ジージもすぐには反応出来なかったのだろう。
すぐに「うはあ」という気持ちよさげな声と共に、セクシーボインダイナマイトな聖女クリーンの裸体が湖上に晒された。
「こうなったら行くわよ!」
「ええ! エルフはともかく、人族如きに負けてられないわ!」
「さあ、本当のダイナマイトを見せつけてあげるわ! 子供ちゃんたちはどこおおお!」
そんなこんなで魔性の酒場そのものがしばらく営業停止になったのは言うまでもないことだろう。
ちなみに、聖女クリーンが裸体を晒したのは、温泉宿泊施設に続いて二度目というとこもあって、第六魔王国では完全に痴女として認定されたのだった。