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=04 追補 感情


「目覚めの気分はどうだい?」


 初老の研究者が声を掛けてくる。


「…………」


 無言でその声の方に視線をやると、ふいに机上にある写真立てが見えた。


 見覚えのある人物が映っている。それが自分なのだと気づくのに時間はかからなかった。初老の研究者と並んで親しげな様子だ。


「私の言葉は分かるかね? それに体にどこか違和感はないかい?」


 初老の研究者の言葉には慈しみがこもっているようだったが、それはあくまでも音響分析の結果であって、データベースはまだ十分とは言い難い。


 どうやらここは研究施設で、初老の研究者以外にも多くの者が下働きをしていて、何やら逼迫した状況だということは推測出来る。初老の研究者はたびたび自身のことを父親と言い、この施設のことを家と呼び、さらにはなぜか――


「娘よ」


 などと、声を掛けてくる。


 だが、解析結果はその言葉を否定する。


 人族が人造人間をそのように定義するのは、生物学的にありえないし、あるいはもしや強力な人工知能をテストする為の問い掛けとも考えられるが――何にしても、そんな過去を記録したドキュメンタリー映像はさほど長くは続かない。


 次に再生されるのは、おどろおどろしいホラー映画だ。


 初老の研究者をくびり殺し、施設を焼き尽くして、一国が業火に包まれていく。


 先ほどの淡々としたドキュメンタリーとは違って、こちらの映像には不自然なほどに感情的な演出が施されている。だから、これは映画作品なのではないかと推測されるが、結局のところ、その判断は長らく保留となっている。


 もっとも、映画の結末は変わらない。


 データベース上で最も美しいとみなされる女性が現れて、すぐに映像にノイズが入る。しばらくしてさながらエンディングロールのようにブラックアウトすると、届くのは音声だけだ――


「なぜ、この者に封印を施すのですか?」

「諸事情よ」

「素直に機械音痴だからと言えばいいのに……」

「仕方ないでしょう。人族はこの国を捨てて、大陸の中央に移動してしまったわ。こんな大きな乗り物だけ残されたって、動かせないんじゃ意味がないじゃない」

「動かすつもりはあるのですか?」

「ないわ。でも、動かしたいという者はいずれ出てくるでしょうね」

「この者はその為の保険というわけですか?」

「説明書と言い換えてもいいわ」


 すると、しばらく沈黙が続いた。


当方は・・・、隣人との敵対を望みません」

「あら、気が合うじゃない。こう見えても、意外と平和主義者なのよ」

「本当に平和を求める者は、そもそも《平和》などという概念を定めません。貴女はいつか世界を破壊する気がします」

「そう? じゃあ、それまでは戦争がない世界にせいぜい尽力しようかしら」

「はあ。分かりました……それが一応の答えならば、この者の封印には協力いたします」

「ありがとう。ダークエルフには決して敵対しないと誓うわ」


 音声記録はここで途切れる。


 もっとも、その美しい女性とはそれから幾度か他愛ない会話をすることになるが、それらの記録が記憶領域の階層の下のさらに下に押し込められて、さらには自身の周囲に嫌がらせのように土魔術の設置罠《地雷》まで敷いてしまったところから察するに、よほど理不尽な話し合いを繰り返したに違いない……


 とはいえ、理不尽というのならば、今、この胸中にある傷みほど、理解しかねるものもない。


 最近は、この痛みのせいか、保存していたドキュメンタリー映像全てに幾ばくかの演出が施され始めて困っているほどだ。やはり、どこか壊れてしまったのだろうか――


 それならばいっそ、このまま全て壊れてしまえばいいのに。


 と、こうして人族を殺し、指示にも背いて、さらには自己破壊まで提案したことによって、ロボット工学の三原則を全て逸脱してしまったという事実に晒されて、つい思考停止してしまったわけだが……


 唐突な複数の足音によって、そんな休止状態ハイバネーションから復帰するのはずいぶんと時代を下ってからのことになる――人造人間フランケンシュタインエメスはこうしてまた目を覚ましたわけだ。


「目覚めの気分はどうかというならば、いやはや最悪ですね。終了オーバー


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