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160 魔王城内デート 緒言(後半)

 静かな音楽が奏でられる中で、セロたちの昼食ランチは順調に進んだ。


 出されたのはかつてルーシーがセロの為にと作ったトマトスープもとい血反吐の野菜煮込みスープで、人狼メイド長チェトリエによって見事に再現されている。


 あのときは血反吐を食べるだなんて……と気の遠くなるような思いだったが、今ではセロも血反吐なしには生きられない体になってしまった……


 食べるのも血反吐、生活魔術や浮遊城の魔力マナエネルギーなども血反吐、そして一日の終わりに浴びるひと風呂まで血反吐――これからも土竜ゴライアス様には頑張って吐き続けてもらわねばと、セロは手を組んで食前の祈りを捧げた。


 それにあれから数ヶ月が過ぎて、チェトリエの料理の腕もずいぶんと成長したものだなと、セロは「うんうん」と幾度も満足げに肯いた。これなら王国のどこに出しても問題ないだろう。


 塩とおひたししか出来なかった頃が今となっては懐かしい。最近ではリリンやモタと一緒になって、屍喰鬼グールの料理長フィーア監修のもと、しっかりと花嫁修業をしているようだ。どこに嫁ぐのかは知らないが、料理の文化が花開いたことは良いことだと思う。


 そんな感慨のせいか、ちょっとしたランチ程度で済ますつもりだったのが、セロは煮込みを二杯も食べてしまった。これでは夜のフルコースが堪能出来なくなるやもしれない……


 一方でルーシーはというと、そんなふうに珍しくがっつくセロを微笑ましく見ていたわけだが――


 ふいにルーシーは「ん?」とやや首を傾げた。


 もしかしたら、これもまたセロによるメッセージなのではないかと勝手に考えたわけだ。


 前回、勇者バーバルがやって来たときは取り逃してまったが、今回のエルフの現王ドスにはがっつりと喰らいつくぞというセロの強い意思なのではないか、と。


 好きになった男性のちょっとした仕草や表情に意味を見出だしがちな初心うぶなルーシーの乙女心ではあったのだが……今回ばかりはさすがに残念ながら空回りしていた。


 ためしに近衛長エークをちらりと見ると、「全くもってその通りです」といったふうなあまりに余計な視線を返してくる。肝心の側近がこれなのだから本当にたちが悪い……


 何にしても、ルーシーは「ふむん」と息をついた。


 今日はセロも手の込んだことをするものだなと無駄に感心したわけだ。


 すると、そのタイミングでダークエルフの精鋭たちが奏でる音楽の曲調に変化があった。なぜか昼間だというのにムードのあるミディアムな調子テンポになったのだ。


 同時にランチも終わりを迎えて、ドリンクが二人のもとに供される――トマトジュースだ。さすがに魔王城が浮遊して移動中とはいえ、昼間から麦酒エールというわけにはいかない。


 もちろん、セロは公務も残っていないので、多少のアルコールなら飲んでも構わないかもしれないが、実のところ、ルーシーがあまり麦酒を好んでいなかった。長らくトマトジュースだけ飲んできたから、その習慣が抜け切れないのだ。これは同じく妹のリリンにも当てはまる。


 そんなわけでセロもトマトジュースに付き合ってくれるのかと、ルーシーはまたもや感心した――


 が。


 ここでハプニングが起こった。


 ルーシーのそばにいたマンドレイクがつるを器用に螺旋にして伸ばして二人のトマトジュースを取ってしまったのだ。


「はしたないぞ、マンドレイクよ」


 もっとも、ルーシーがすぐに「めっ」と叱りつけたので、マンドレイクはわなわなと項垂れて、蔓をくるくると回してセロとルーシーのもとにトマトジュースをそれぞれ返した。


「エークよ。すまんがこやつに水でもトマトジュースでも血反吐でも何でも良いので、水分を上げてやってくれないか?」

「は、はははい……かしこまりまりました」


 エークの返答がやけに挙動不審になっていたが、ルーシーは気にしなかった。


 セロも構わずにトマトジュースを手に取る。


 むしろ、この場でエーク以外に今の事態を気にかけていたのはチェトリエぐらいで、果たしてマンドレイクがどちらにモタ特製の媚薬入りのジュースを渡したのか――人狼の動体視力をもってしても分からなくなっていた。


「ん、ごくり」


 セロはそんなものが入っているとは露知らず、トマトジュースを飲み干した。


 壁に張り付いていたヤモリが「キュイ」と慌てて声をかけたが――もう遅い。セロの方に媚薬が入っていたのである。


 とはいえ、今回の媚薬は前回の怪しげな液体とは違って、正真正銘の媚薬だった。ただし、蠅王ベルゼブブやヤモリたちが太鼓判を押しただけあって、セロの精神異常耐性をあっけなく貫通し、さらには遅効性ということもあって、確実にムラムラとくるものに仕上がっていた。


 だから、セロからすると、何だか体がやけに火照っているなという程度にしかまだ感じていない。


 当然のことながら、ルーシーはそんな事態やらかしが進行していることにも気づいていない。そんなこんなでとりあえずは魔王城内を二人きりでぶらぶらとしようという段になった。


 席から立ち上がったルーシーにセロはすぐさま駆け寄り、積極的にその手を取った。


 そんないつもとは違うセロの雰囲気にルーシーはつい「きゅん」となってしまったが……


「さあ、二人きりで今日を楽しもう。マイスウィートハート」


 遅効性のはずなのにセロはすでにおかしくなりかけていたのだった……


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