無敵の男
無敵のヒーローにあこがれて願いがかなった男の話
あるところに無敵の男がいた。
彼は第2のカンブリア大爆発の生き残りであり、そして何よりも無敵であることにこだわった男だった。
それはありとあらゆるものへの無敵ということだった。
あるとき彼は交通事故に合った。
彼は無敵の男がこんなところで死ぬはずがないと考えた。
結果無傷で車のほうが大破することになった。
あるとき彼は病気になった。彼はそんなもので無敵となった自分が死ぬわけがないと考えた。
結果として病気は敵として認定され病気は霧散した。
あるとき彼は老いを感じた。
彼は無敵の男が老衰などするだろうかと考えた。
結果彼は全盛期の体に戻った。
無敵、つまりすべてを敵とすることで彼はあらゆることから生き延びてきたのだ。
何度か不死の人間を危険視する政府による凍結処理が行われる機会もあったが、彼は無敵の自分がこんなことで止まるはずがないと考えていたため、すべて失敗した。
彼は無敵の男であったが悪辣な人間ではなかった。
ただただ無敵である。ただそれだけだ。
彼は昔ヒーローにあこがれてこの願いを持った。
悪逆非道を懲らしめる無敵のヒーロー。
しかし第2カンブリア大爆発直後は混乱する世界の中でそれなりに活躍したのだが、数百年たった今ではもう敵と呼ばれるものはいなくなった。
そして何よりも毎日がつまらなかった。
無敵である自分には毒も剣も銃も効かない。
たとえ怪獣と化した化け物の攻撃にも耐えた。
彼と対峙したものはすべて敵ではなくなるのだ。
つまり自分が目指していたヒーローではなく、ただの弱い者いじめじみたものになり果てていることを自覚していた。
毎日がつまらなかった。
彼はやけ酒を飲んだ。
しかしアルコールを毒物として無敵は検知し一向に酔えなかった。
彼は麻薬を打った。
しかし結果は同じだった。
世界が平和になることはいいことだろう。
しかしこの世の中で無敵の男は何を目的に生きていけばいいのだろうか。
それは彼の無敵が反応しないただ一つの悩みだった。
ただただ流されるままに生きていく。
いっそ死んでしまいたいと願ったことが何度あっただろう。
彼の無敵は死を敵と認識しているため、すべてが無駄になった。
鬱々とした毎日を過ごす。
そしてこれはいつまで続くのだろう。
そんなことをぼうと考えながら裏路地をふらふらと歩いていると一人の少女が目の前にいつの間にか立っていた。
「なんだ?」
男はぶっきらぼうに質問した。
「あなた無敵の人ですよね?」
(またか)男は思った。
彼が無敵のおことだと知ると何かと取り入ろうとしてい来る奴はいる。
大抵はくだらない悪事に手を貸せだのとるに足らない用事だが。
うんざりして居場所をことがあるたびに変えているのだが鼻の効く奴はどこにでもいるものだ。
「ちょっと試してみていいですか?」
そういうと少女はいつの間にか持っていた包丁で男を刺してきた。
結果として包丁は男に刺さることがなく、そして砕けた。
「何をする」
「無敵の男というのがどこまで本当かと思いまして」
「本当に無敵なんですね」そういうと少女は微笑んだ。
「私が無敵だからと言って軽率にそんなことをするもんじゃない、人違いだったらどうする」
「もし人違いだったら、まあ刑務所行でしょうね」
少女はまた微笑んだ。
きれいな顔をしているがまだまだ青い。
もう4、5年たつといい女になりそうなのだが。
「あいにくと子供に用はない、今回のことは見逃してやるからとっとと失せろ」
「いえいえ、こちらには用事があるんです。」
「お前にそんな俺に頼むような用事があるようには見えないが・・・」
「それがですね」
少女はわざとらしく小さい声で話しかけてきた。
「私の妹が吸血鬼にさらわれまして・・・」
男は急に興味をそそられた。
吸血鬼退治なぞ何度もやったことがあるが、退屈しのぎにはちょうどいい。
何せ自分は無敵の男なのだから。
「ここでは何なのでちょっと近所の店で話しませんか?」
男はうなずきそして少女と一緒に歩き出した。
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ちょっとこじゃれた喫茶店に来た。
少女にしては手慣れた手つきで店員に注文を出す。
「無敵の男さんは何か食べますか?」
「何もいらないコーヒーだけでいい。」
カフェインも有害なものとして効果はないのだが味や香りには変わりがない。
「個々のアップルパイはなかなかなんですけどね。まあそういうならいいでしょう」
そういうと少女のほうは件のアップルパイと紅茶を注文した。
「それで、妹が吸血鬼にさらわれたという話だが・・・」
「そうなんですよ。私は命からがら抜け出せましたが妹はつかまったままでして」
「その妹のことはあきらめるんだな」
注文した品が来たところで男は言った。
残酷なことだが仕方がないことだ。
吸血鬼のような化け物になった人間は慎重でしかし凶悪だ。
さらわれた妹というのもただの食事として食い尽くされたか眷属となっているだろう。
「残酷なことを言うようだが逃げ出せたお前は運がよかっただけだ。ただこれ以上被害を広めるわけにはいかない俺が退治しに行くとしよう」
「そうですか・・・」
少女はちょっと悲しそうな顔をしたが下手に希望を持たせて突き落とすよりはよっぽどいい。
「それで場所はどこだ」
早速本題に入る。
「場所はxxx町に〇〇〇という廃ビルです」
「早速行くのですか?」
「時間をかければ被害者が増える」
「私も行ってもよいでしょうか?」
「ダメだ」
男は端的にさえぎった。
「どんな危険なことがあるかわからない。俺は無敵だがお前はそうじゃないだろう?」
男はコーヒーを飲むとゆっくりと立ち上がった。なぜかコーヒーから鉄臭い味がしたのは気になったが。
少女はうつむいた。
「妹を見たいのです。最後に一目だけでも」
男は無敵ではあったが女の涙は苦手だった。
「・・・連れて行ってやる、しかし絶対に俺のそばから離れるな」
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「ここか?」
はいとうなずく少女を横目に目の前のビルにゆっくりと入っていく。
自分は無敵だが少女はそうではない。
できれば何事もなく済めばよいのだが。
男は久々に緊張していることに気づきちょっと意外に思った。
こういう生き方も悪くない。そう思うぐらいには。
廃ビルの中に入ると吸血鬼が一斉に襲い掛かってきて・・・などということはなかった。
ただ薄暗い廊下が続いている。
「お前はさらわれたといっていたな。場所はどこだ」
「最上階です。妹もきっとそこに・・・」
まだ希望を捨ててないのかそんなことを言った。
廃ビルなので当然エレベータが稼働しているわけもなく。階段を上がっていく。
「妹とは仲が良かったのか」
「ええ、もちろん家族ですから」
家族というものをとうに無くした男は少しうらやましく思う。
しかし少女ももうすぐ家族がいなくなったという現実を受け止めることになるだろう。
最上階についた。
薄暗いがそこだけは埃も積もってなく、掃除されているように感じた。
(まだ居るな・・・)
長年の感がそう彼に告げている。
奥のほうからゆっくりと2人の人間が歩いてきた。
「ようこそ我が城へ」
そんなことを言って大げさに歓待の意を示すかれは何というか絵本に見たような吸血鬼だった。
そしてもう一人。
「かなえ!」
少女が叫ぶ
おそらく彼女の妹なのだろう。
しかしもう遅いと彼は感じた。
彼女の肌は青白く、そして2本の犬歯が口から除いていた。
「私のことがわからないの?かなえ!」
なおも彼女は呼びかける。
「我が眷属に用があるようだが無駄だ少女よ」
「彼女は我が眷属となった。私のいうことしか目にないし、私の言うことしか聞かない」
吸血鬼は残酷な事実を突きつける。
「ところであなたはどなたで?」
吸血鬼は少女よりも男に興味を示した。
「俺は無敵の男だ。お前を殺しに来た。」
「それはそれは恐ろしい。」
吸血鬼は動じない。
「まずは無敵の男さんとやらを片付けてからそちらの少女をいただきましょう」
少女はびくっとした。
彼女は無意識にだろうか男の手を握ってきた。
これから戦うには邪魔だというのに男はすぐに振りほどけなかった。
「ところで無敵の男とやら。私の仲間になる気はないか?」
「ふざけているのか?」
「私は吸血鬼、お前は無敵の男、長い時を生きる仲間だ。殺し合って何の得がある?」
「ふざけるな!俺はお前のような奴が大嫌いだ。そしてこの力はお前たちのような悪を滅するためにある!」
長い年月を過ごす中で変わっていったものもある。しかし根幹にある悪を倒す無敵のヒーローになりたいという思いは変わらなかった。
「しょうがないですね。」
そう言って吸血鬼は構えた。
男も構えようとして握られた手に気づいた。
「妹を助けられないのはすまない。しかしあいつは必ず殺す」
「ごめんなさい。でも必ず敵を討ってくださいね。」
「わかった」と言い手を放す。
少女は最後にこう言った。
「私たち仲間ですよね?」
「ああ、もちろんだ」
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急に景色が霞んだ。
「私たちは仲間、そうですねありがとうございます。これで報われます」
少女は言う。
「無敵の男が相手ならば仲間になれば敵ではない、そうですよね」
「何かがおかしい逃げろ・・・」
しかし少女は続ける。
「仲間が渡した飲料に入っている血液、それは毒でしょうか?」
「何を言って・・・」
「毒ではありません。そして薬でもありません。」
「一人芝居というのも疲れますね」
吸血鬼の眷属が口を開く。
「ちょっとした賭けでしたが、もし失敗しても3体ノードが無くなるだけなら悪くない賭けでした」
(無敵の男が手に入るのであれば)
少女がそれに続く。
(家族ってとてもいい響きだと思いませんか?)
少女の声が直接頭に響く。
(私たちは家族になったのです)
(かぞく?)
(そう、心の通じ合う本当の家族ですよ)
そう言って少女は微笑んだ。
意識が混ざり合う中最後に男が思ったのはその少女の笑顔が思いのほか美しく見えたことそれだけだった。