吸血鬼
心と心が通じ合うって素敵ですね。
目が覚めると薄暗いビルの中にいた。
今日は学校の授業受け、部活に励みその帰り道だったはずだ。
どれどれちょっと思い出してみよう。
授業の内容はどうだったか---
今日の授業は歴史だった。
大昔この世界に起こった異変、または祝福とも呼ばれる。
名前をのちに第2のカンブリア大爆発と呼ばれた現象だ。
それは突如全人類の頭の中に響いた。
聞いた人の人種も言語も関係なく。
ただそれはこのような意味を持って伝えられたといわれている。
「厳選な抽選の結果、あなた方の望みがかなえられることが決まりました。これからの人生に幸あらんことを」
そんなふざけた内容が頭の中に突然響いたのだ。
皆突然のことに開いた口がふさがらなかったという。
しかし問題になったのはそれからだった。
「あなた方の望みがかなえられることが決まりました。」
それが何かの冗談だったらよかったのか、事実は違った。
本当にそれはかなえられてしまったのだ。
ある人は格好よくなりたいと願っていた。その人は誰もがうらやむような美形になった。
ある人は理想の恋人が欲しいと願っていた。突如現れた理想の人に突然告白された。
ある人はおいしいものが食べたいと願っていた。目の前にたくさんのごちそうが並べられた。
ある人は特定の人物に死んでほしいと願っていた。当然のように相手は死んだ。
ある人はある人はある人は・・・
全ての願いは無差別にかなえられてしまった。
それが人知を超えた願いであっても。
ある人は自由に空を飛びたいと願っていた。その人は天使のような翼をもつようになり。空を自由に舞った。
ある人はすべての知識が欲しいと願っていた。その人と呼んでいいのかは不明だがすべての知識が詰め込まれた、ある意味賢者の石のようなものとなった。
それをめぐって数々の争いがおこることになった。
ある人は超能力者になって無差別に力をふるいたいと願っていた。その人は奇妙な力を獲得し、世界中を荒らしまわった。最後まで世界を荒らしまわった彼は軍隊によって殺されたようだが、話によると出身国は消滅するという事態になったそうだ。
それは世界中で大混乱を起こした。
それこそ地は割れ、津波が押し寄せ、原子力発電所がメルトダウンするよりもひどい状況だったという話だ。
悲惨この上ない。
あらゆる混乱を生み出した、
世界はこのまま終わるかと思われたが実際はそんなことはなかった。
かなえられた願いは一度きりらしく、例えば超能力者の子はその能力を引き継ぐことはなかったのだ。
願いをかなえられた人はだんだんといなくなり、そして世界は平穏を取り戻した。
ある一部の例外を除いては・・・
「あなたは例外ですね」
突然現れた目の前の男に私はそう言った。
突然声をかけられたのに驚いたのか彼はちょっとだけ考えるしぐさをしたが、「いかにも」とうなずいた。
「第2のカンブリア大爆発の例外である生き残りそれが私だ」
彼は大げさなしぐさでそういった。
第2のカンブリア大爆発の後200年後には世界は平穏を取り戻したといわれている。
しかし例外はいた。
不死を願った人たちだ。
異常なほどの長寿種、吸血鬼やアンデッド、物語に出てくるようなあらゆる不死を願った人が現れた。
そして今も世界を徘徊している。
たいていは人に害をなすため文字通り凍結処理などをされているがそれから逃れているものは当然のようにいるのだ。
そして目の前の彼は。
「吸血鬼ですよね?」
「その通り、しかしどうしてわかったのだ?」
どうしても何も青白い肌に真っ黒な衣装にマント、ポマードで固めているのかちょっと尖ったような髪型、そして口から除く2本の犬歯が大いに主張している。
「なぜって容姿を見ればすぐに・・・「いかにもその通り!我は偉大なる吸血鬼アレクセイである!」
大げさに手を広げて叫ぶ声に私の声はさえぎられた。
「幸運に思うがいい!私の眼鏡にそなたたちの容貌はかなった。我が食料及び下僕となる権利をやろう!」
彼は後ろに振り向いて手を広げながら大げさにそう言った。
手を広げるのがマイブームなのだろうか?
しかしそなたたち?
周りを見渡すともう一人の被害者がいた。
「私の妹・・・」
「やはりそうであったか!お主らが夜遅くに学校から帰るところをさらったのだ。美味であったぞ!」
そういって彼は顎で示した。
「もう妹の血を吸ったんですね・・・」
「その通り!大変美味であった!彼女はじきに私の眷属となるのだ!」
彼の大げさな態度は置いておいて状況はわかった。
「すみません、一ついいでしょうか?」
「なんだ?」
「彼女の血を吸ってからどれぐらいたったのでしょうか?」
「まさか早く処置すれば助かるとでも思っているのかね?」
彼は顔を振りながら続けた。
「確かに今しがた吸わせていただいたのは確かだがもう状況は変わらない!我に血を吸われたものは1時間とかからずに吸血鬼の眷属として生まれ変わるのだ」
「なるほど、もうどうしようもないということですね」
「そなた何か余裕があるな?」
私は状況の把握をしようとしていようとしているだけなのだが気に障ったらしい。
「そんなことはないと思いますが・・・」
「いいや!我の感がそなたには何かあると言っている!何がある!?」
彼に完全に怪しまれているようだ。
「あー・・・それではちょっと小話にでも付き合ってもらってよいでしょうか?」
「よかろう!」
彼は余裕があるのだろう、私に話す時間を与えるようだ。
しかし何を話したものだろうか・・・
「昔々あるところに・・・」
とっさに出てきたのはある昔話だった。
昔々あるところに一人の少年がいました。
彼は親がおらず、児童養護施設で育っていました。
彼は思います。
なぜ僕には血を分けた家族がいないのだろう。
児童養護施設の中には片親がいる子もおり、時折面会に来ているようでした。
僕にも血を分けた家族がいれば心が通じ合えるのに。
少年は孤独な理由をそう思っていました。
そんなときです。
第2のカンブリア大爆発が起きました。
しかし彼には何もおきませんでした。
突然血を分けた家族が増えたわけでも、物心つく前に死別した親が生き返ることもありませんでした。
少年は一度は落胆はしましたが、絶望をしたわけではありませんでした。
きっと願いが叶わなかったのは僕の願いが無理なものだったからに違いない。
善良に生きていけばきっといい人に巡り合える。
そう思って彼は強く生きていこうと決心したのでした。
「・・・やけ昔のことなのに具体的で興味深い話だがそれがなんだというのだ?」
「まあ待ってくださいもう少しで終わります。」
少年はすくすくと青年に育ちそして善良に生きていました。
世の中は第2のカンブリア大爆発で大混乱の最中でしたが、彼は運よく災害から逃れていたのです。
しかしある時転機が訪れます。
彼が17歳になった時でした。
通っていた学校に献血車が来ました。
彼は善良であろうとしていたため、献血にも積極的に参加しました。
血を抜いてもらいすぐには問題は起きませんでした。
しかし2日後ぐらいでしょうか?
変化は突然でした。
突然赤の他人との意思が混ざり合うようになったのです。
その他人は事故に合い病院にいました。
そして輸血を受けたことがわかりました。
そして理解しました。
血を分けたものと心が通い合う。
それがかつて自分の切に願っていたことだと。
それからも彼は積極的に献血に協力するようになります。
そして事故に合った彼は献血はできないもののその行為に協力するようになります。
幸運なのはもう一人の彼が作った子供にも血を分けるという行為が適用されることでした。
彼は心の通い合った仲間を見つけてとても幸せになりましたとさ。
「めでたしめでたし」
「それは・・・」
「心が通じ合うということはどういうことかわかりますか?すべてが通じ合うのです。思考も、性格も。それは一つの生命になったと等しいことだと今なら理解できます。」
「我は・・・」
「そろそろですね」
そして私たちは和解した。
(さてこれからのことを考えましょうか)
私たちは思考する。
(新しく吸血鬼が家族に加わるとは考えていませんでした。)
(しかし吸血鬼の体は捨ててもよいが今まで普通に暮らしていたい妹が行方不明になるのはまずいだろう)
(問題は山積みですが一つ一つ解決していきましょう)
(私たちは家族なのですから)