7 勘違い奇術師、外出する
「出発しますよ〜」
そう言いながら玄関の扉から顔を覗かせた。
ぼく達は荷物を持って外にでると、そこは大きな王都だった。
数えきれないほどの家が道を作り、たくさんの蒸気車が列をなして行き交っていた。
「これが王都か……。デネル王国はなんだったんだ……」
「あら、この程度で騒ぐなんて、まるで子供ね。」
ぼくらはフブキに蔑まれていることなんて気にもかけず、辺りを見渡す。
「ここは王都ガースです。
大きさで言うとデネル王国の3倍の広さですね。
まぁ、デネルはどちらかと言うと村みたいなものなんで、比べるのはおかしいですけど……」
「グランツまではここから汽車で向かうので、とりあえず駅に向かいましょうか」
そう言って歩き始める監督官について、ぼく達も歩き始めた。
それにしてもデネルの3倍の大きさの都市なんて……。
デネル王国が村と言われるのも無理はない。
「それにしてもここ、やたら暑くねーか?
学園内は暑くも寒くもなくって感じだったけど……」
「当たり前じゃない。あそこは、先代の学園長が作った創作空間なんだから……
全て、都合の良いように作られているのよ。
生徒の体に支障をきたさない程度にね」
なるほど。
だから初めて学園領内に入った時、夜だったはずが夕方になったりしたのか……。
そんなことを考えていると、一際装飾の目立った建物が目前に現れた。
中から聴き慣れない音が響いてくる。
ぼく達が、駅に入り汽車とやらに乗ると、唸りながらゆっくりと動き始めた。
[ご乗車ありがとうございます。
本日の遭遇確率は15パーセントになっております。
担当にあたる警備団は……ちょっと……ガゴッ……
はいはーい!今日は赤色が担当しまーす!
だから〜ゆっくり寝ててくださーい!
でも永眠しちゃダメだぞっ♡]
「今のアナウンスは……」
「魔の物の遭遇確率と担当警備団のアナウンスですね。」
そうか国外に出るのだから、魔の物がいるのも当然なのか……。
しかし警備団がついてくれるのなら安心だ。
☆ ☆ ☆ ☆
「……下さい。起きて下さい!」
目を覚ますと、監督官がぼくの体を揺すっていた。
どうやら寝ているうちにグランツに着いたようだ。
ぼく達は駅を降り、大通りを抜け、数刻も歩くと凝った外観の大きな建物が現れた。
その建物に入ると使用人であろう男が近寄り尋ねてきた。
「クドリフ御一行様ですね?お連れ様がお待ちです。どうぞこちらへ」
そう言って歩き始める使用人に続き、監督官は首を傾げながら歩いた。
どうやら心当たりがないらしい……。
「「こっちだよー!」」
元気溌剌とした声がロビーに響いた。
声のした方に目を向けると、昨日クラウスさんから助けてくれた2人の女の子が、ラウンジにあるソファーに腰掛けていた。
「2人がいるといことはクリス君もここに?」
「クリスは今、向こうでピアノの人の演奏してる!」
そう言って指さす方向を見ると、ピアノの伴奏に合わせバイオリンを引いているヘンタイ先輩がいた。
「こいつらは?」
「あ、2人はーー」
「「こいつじゃないし!」」
2人はリゼとロゼと言って双子らしい。
前に見た時はよく顔が見えなかったから気づかなかったけど、よく見ると顔がそっくりで、それによくハモる。
監督官によると2人もクラウスの事実調査で3日間追い出されている真っ最中らしい。
ぼくらは先輩に先日のお礼と海に行く時間を伝え、予約してある部屋に向かった。
部屋は思っていたよりも広く、各自に個室があり、さしずめコテージの上位版と言ったところだ。
「なぁ、早く海にいこーぜ!!!」
「はいはい。着替えてからね〜」
エルは窓から見える大きな海を前に、興奮を隠せずにいた。
それ上手に捌くフブキ。
うん。もう結婚しろ。
ぼく達は各自着替えた後海に向かうと、ちょうど先輩方も来た所だった。
遅れてやってきたフブキの水着にぼく達は目を奪われる。
その大人っぽい水着は豊かな胸を強調させ、ぐっと引き締まった腰のラインを際立たせた。
「な、何ジロジロ見てんのよ変態!」
フブキの怒声とともに一同は目を逸らす。
「クドっちはまだ部屋か?」
「なんか、用事があるから先行ってて下さいだってさ」
辺りを見渡すと監督官だけがまだ来ていない。
「監督官もやることがあるんだろう。ぼく達だけで先に遊んどこ!」
皆はイェーイと言って海の方へと走っていった。
監督官が居ない理由は大体察しが着いている。
なるべく悟られないようにしなくてはな……。
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