6 勘違い奇術師、先輩と出会う
「お前ぇぇぇぇぇぇえ!」
エルはその速さの勢いのまま、クラウスさんの頭を鷲掴みにしてフブキのもたれる木へとぶつけた。
木は鈍い音を立てながらへし折れる。
そのまま倒れるかと思いきや、クラウスさんはエルの腕を掴み後方の木へと投げつけた。
慌てて応戦するが、相手はぼく達の師にあたる存在。
もちろん敵う相手ではなかった。
もうここまでか……。
そう思った時、どこからともなく声が聞こえてきた。
「「ちょっと〜。可愛い後輩いじめないでよ〜!」」
途端に空から2人の女の子が落ちてくる。
その事にクラウスさんは気にもかけず、今にもフブキにトドメを刺しそうだった。
「「ストーップ」」
2人はそう言いながら、片手で輪っかを作り、お互いにくっつける。
まるで鎖のようだ。
2人はそのまま余ってる方の手を叩いて音を鳴らした。
ーーギャギン
金属と金属が擦れる音と共にクラウスさんはその場で動かなくなった。
いや、動けなくなったの方が正しいだろう。
地面から鎖が生え、クラウスさんの四肢を縛ったのだ。
「待ってください……ゼェ……ゼェ……。ふ、二人とも速すぎますよ……」
どこからか高身長の男が走ってくると、手に持っているバイオリンを弾き始める。
美しい音色が森全体に響き渡たると同時にぼくらの怪我が治っていった。
クラウスさんの方を見てみると、気持ちよさそうに眠っている。
さっきまでの面影はまるで無い。
「「遅すぎるのよっ!この子達が死んじゃったりでもしたらどうするのよ!」」
2人の女の子は男の足をガンガン蹴っているが男は全くもって動じていない。
「あぁ……蹴られるのって……気持ちいぃ……」
その一言と共にぼくの先輩像は音を立てて崩れ去った。
先輩はとんだヘンタイだったようだ。
☆ ☆ ☆ ☆
「先日のクラウスの件だが、これから学園全体で事実調査に入る。
そのため外部からの侵入の禁止、および学園の生徒は3日の帰省期間を設けることが決定した。
そういう事で、荷物をまとめて一時的にここを離れて欲しいのだ。」
あの騒動の後、ぼく達はボルボ学園長に呼び出され、そう告げられた。
「俺とグリードに帰る場所なんてないぞ」
全くその通りだ。
「私も帰りたくありません……」
一様、フブキには帰るところはあるようだ。
深い事情は聞かないでおこう……。
「安心したまえ。大体の奇術師が同じ境遇だ。
観光王国グランツの一級ホテル、プリンシアズに予約を入れておいた。
三ヶ月間の疲れを癒してくるといいだろう。」
「プリンシアズ!?
あの『とりあえず人間は宿泊できない』で有名なオーシャンビューのホテルのかっ?
これはあのおっさんに感謝だな〜」
「私、死にかけたのに感謝ってなによっ!」
激しく鼻息を鳴らすエルの側で、ラルクがスンスンと頷いている。
それにしてもこのキャッチコピー。
普通の人では宿泊できないほど、高級なホテルということは伝わってくるが……。
考えた人はかなりの妙才の持ち主だな。
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