5 勘違い奇術師、教えを乞う
「で、では一度外にいるクラウスのところに向かいましょうか……。」
そういう監督官について外に出ると、森の中にポッカリと穴が開いたかのような草原があり、中心には大きな一本の木がたたずんでいた。
そして、その木の下でぼくよりも一回り身長の高い男があぐらをかいている。
「よく来たなお前ら!」
この男がクラウスさんか……。
クラウスさんは立ち上がるとがっしりとエルの肩に腕を回した。
エルの顔は珍しく強張っている。
「ク、クラウス。あまり生徒をいじめないでください……。」
「悪いな、えーっと……エルベルト……だったか?
それよりか、クドリフ兄さんはもう戻って良いぞ!」
「「「兄さんっ???」」」
ぼく達3人は思わず声をあげた。
まさかこのおおざっぱそうなクラウスさんが、大人しそうな監督官の弟だったなんて誰が想像できただろうか。
「ク、クラウスはこの学園内で一番、体術と身体強化術に特化しています……。
ですので、クラウスに良く教わってください……。
クラウスも反面教師にならないようにお願いしますよ」
「わかってるってクドリフ兄さんっ!」
「クラウスのその言葉は信用できない……」
そう言いながらも監督官は学園の方へと戻っていった。
二人の掛け合いを見ていると、兄弟ということがひしひしと伝わってくる。
「では、始めるとすっか!
まずは身体強化術からだな。強化したいところに全ての力を込める。以上!
分かったか?」
ふむ。全くわからない……。
やる気がないということではなさそうだ。つまりクラウスさんは説明がとてつもなく下手なのだ。
その後、ぼく達はクラウスさんの雑な説明の中で何度も練習をして日が暮れる頃には、ぼく以外の全員が出来るようになっていた。
なぜクラウスさんの訳の分からない説明で出来るようになれるのかぼくにはさっぱりだ。
次の日は監督官自ら術式について教えてくれた。
監督官はクラウスさんとは正反対で、実技が少なく講義ばかりで退屈だったが、とても分かりやすかった。
それからぼく達は、毎日クラウスさんと監督官から交互に教わった。
そして教わり始めて3ヶ月がたったころ、いつも通り大きな木の下でクラウスさんはあぐらをかいてる。
ふと、うなじがピリついた。不幸が訪れるときの予兆だ。
いつも通りのはずのその風景に、どことなく違和感を感じる。
ぼくは並んで歩く3人の前に手を伸ばし歩みを止めた。
「何してるのよ。早くいくわよっ!」
フブキはぼくを無視してクラウスさんに話しかけたと思った瞬間、豪速で後方の森へと消えていった。
「ーーは?」
フブキがクラウスさんに吹き飛ばされたのだと理解するまでそう時間はかからなっかった。
轟音が鳴った直後、物凄い速さでクラウスさんは森へと入っていく。
ぼくとすれ違った時のクラウスさんは、不気味な笑みを浮かべていた。
なんでクラウスさんがフブキに攻撃するのか分からない。
これも何かの試験なのか……?
ぼくらはそう思いながら、木々の間を縫うようにフブキとクラウスさんを追いかける。
「なんでこんな事……」
微かにフブキの消え入りそうな声が聞こえてくる。
やがて葉の間から木にもたれかかったフブキとそれを追い詰めるクラウスさんが見えた。
クラウスさんがフブキに向ける、狂気に溢れた目を見て察した。
ーーーー敵だ。
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