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4 勘違い奇術師、決心する



 青く透き通った空。それを反射するどこまでも見渡す限りの海。

 その青の世界に後ろを向いた一人の少女がいた。


「こっちに来てはダメ……」


 なぜなのか知りたい。

 だけど理由を聞いてしまったら、ぼくは一歩が踏み出せないだろう。


「でも待ってるって……」


 彼女の足元にはいくつもの波紋が広がっている。

 顔は見えないけど彼女が泣いているということは分かった。

  話が噛み合わない。夢か……。

「君がいつか自分を知った時、また私を探しに来て……」


 そう言いながら彼女は振り向いたその顔は笑顔と涙でくしゃくしゃだった。

 ぼくは胸が締め付けられるような思いとともに駆け出したが、ぼくが一歩進むたびに彼女は十歩進む。

 だんだんと彼女は遠のいていって、やがて見えなくなった。


 ペチペチペチペチ。

 夢うつつの中、頬の痛みがジワジワ伝わってくる。


「痛い痛い。もう起きたから……」


 眠い目を擦りながら起き上がるとそこにはラルクがいた。

 喋らないからって往復ビンタで起こすのは正直やめてほしい。

 そんな事を思いながら一階に行くと、エルは起きていて、フブキは朝食を作ってくれてるのかキッチンからベーコンのいい香りがした。


 怒らなければモテそうなんだけどな……。


 僕たちがベーコンエッグとパンをちょうど食べ終わったころ、監督官が迎えに来た。


「が、学園長が呼んでいるので集まってください……」


 そういう監督官に続き扉を抜け、ぼく達は何も喋らずにそっと席につくとそれを合図に学園長が話し始めた。


「皆、集まったね。ではこれからの授業内容を説明していく。

 基本的にここでは実戦に向けた授業を行い、君たちを数少ない立派な奇術師へ育てていく。

 もし異論がある者がいるのであれば今のうちに申し出ることだ。記憶を消し、元の場所へ戻してやろう。」


 学園長もせこい人だ。昨日の一日でぼくらの絆は確実に縮まっている。

 今更、抜けてもいいと言われてもエル以外の友を失うのはやっぱり嫌だ……。


「それと君たちはまだ強くない。

 元小国術師だったり、家柄がいいからってあまり自負しすぎない事だ。

 だが、他の術師には無い特質があったと言う事も事実。君たちが奇術を使いこなせるように手助けはするが、なるかどうかは君たち次第だ。」


 会った時の優しそうな学園長とは違い、指摘が厳しかった。

 事実、昨日チンピラ達に負けたのは自分が強いと思い込んでいたからだ。


 今まで外の世界を見てこなかったせいだ……。

 小さな虫かごの中で、覇者になったと勘違いし、自分に酔いしれていた。


「ところでグリード。なぜ君はそこまで力に固執する?

 追い出された後でもそこそこやっていける技量はあったはずだ。」


 何も言っていないのに、全てを見とうされるというのは慣れないものだ。

 だけどこの質問がぼくを試しているのだということはすぐに分かった。

 だが変に着飾ることはしたくない。


「わかりません……。ただ、力がないとそれが必要になった時、ぼくはまた何も出来ないから……」


 ただ強くなりたい。

 昔からぼくはそう思い続けた。何が理由でここまで突き動かしてるのか、ぼく自身も分かっていない。


「強さにはそれ相応の自由と責任がついてくる。今となっては守る物が自分自身だけではないことも皆、重々承知の事だろう。

 それと強くなるということは簡単なことではない。」


 そう言い放って学園長は扉のほうに歩いていく。


「昔の私のようにはなるな……」


 学園長が扉を開けながら呟いたその一言をぼくは聞き逃せなかった。

 そんな学園長の顔には自身を嘲笑うかのような笑みがこぼれていた。


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