2 勘違い奇術師、学園へ
「紹介が遅れてしまったが、彼はクドリフと言って君たちの監督官だ。
早速だがクドリフ君。コテージを案内してあげてくれ。」
「わ、分かりました。では皆さんついてきてください……」
監督官は今にも消え入りそうな声でそういうと、ドアの中へ入っていった。
僕たちもそれに続いて中に入ると、そこは昨晩ボルボ学園長と話したコテージだった。
「こ、ここが今日から君たちが住むコテージです……。み、皆さん達はこれから寝食を共にする大切な仲間ということを忘れないでください……。それと何かあったら呼んでください……」
そう言うと監督官はそそくさと扉の奥へと消えていった。
エルは少し二階を見に行こうと言い、軽足で登っていく。
ぼくもすこし興味があった。
「おっと、この『グリード』って部屋に入ってみようぜ!」
と、ニヤニヤしながらドアノブに手をかける。
こいつは当たり前のように人の部屋に入ってくるのか……。
ぼくはエルに呆れつつもなかに入ってみると、意外に広く家具類も充実していた。
すると耳当ての男ーーラルクが走ってくるなりツインベッドにダイブしてシーツに顔を擦りつけた。
さっきまでのギャップと幸せそうな顔にぼくはつい顔を綻ばせる。
ラルクはそれに気づいたのか真顔に戻りどこかへと走り去ってしまった。
「おっと、ここは『フブキリンゼ』だってよっ」
「そこは多分まずいーー」
エルがフブキリンゼの扉を開けると、そこは一面ピンクと白で埋め尽くされた、いかにも女子という感じの部屋だった。
「あんた何レディーの部屋を覗いんてんのよ……ッ!」
長い廊下を走り、助走を付けたフブキの飛び蹴りがエル目掛けて飛んできた。
エルは即座に右肘でカードする。
「良いじゃねーかちょっとぐらい!」
「良いわけないでしょっ、この変態!」
2人が仲良くなったようで何よりだ。
2人をなだめていると、フブキをなぞるようにラルクが廊下を走ってくる。
ラルクが走ってくる……?
まずい。まずい。まずい。
この流れは本当にまずい。
「それはダメだラルク!」
ぼくはラルクを捕まえようとするがスルリとかわされ、ラルクは喧嘩中の2人の間を縫い、フブキの部屋の真っ白なベッドに向かって飛び込んだ。
ラルクは顔をスリスリと擦り付けると、また何処かへ走り去ってしまう。
僕たち3人は口を開けたままその場で固まった。
「ラルクー!!!」
しばらくすると、フブキは思い出したかのようにラルクを追いかけていった。
取り残されたぼくとエルは学舎の方に行ってみようということになり、コテージを出た。
「廊下なげぇーーー! 王城なんて比じゃないぜっ」
幅広い廊下には、細かな所まで装飾が施されている。
自分の背丈の何倍もある大きな窓には空の青さで塗りたくられていた。
しばらく歩くと本のマークがついた大きな部屋があった。
部屋の中心には螺旋階段が取り巻く大きな柱があり、その一回には柱を囲むようにカウンターがある。
「もの凄い本の数だなっ! いったいどこからこんな量の本持ってくるんだよ」
そう言うとエルはスキップしながら走り去ってしまった。
エルは人間の事を理解するのに昔から本をよく読んでいる。
そんなエルが興奮するのも無理がないほどにこの図書館にはたくさんの本があった。
「ここには何冊の本が蔵書されているんですか?」
ここの職員であろう先が尖った赤眼鏡をかけたおばあさんに聞いてみる。
「この図書館は5階建てで、蔵書数は2千万冊を超えます。
100年前に作られているのでとても歴史の深い図書館なんですよ」
そのおばあさんは見た目とは裏腹にとても優しそうな声をしていた。
ふと、おばさんの後ろの方で本を読んでいるエルを見つけたので、おばあさんにお礼を言ってエルのほうへと向かった。
ぼくはエルのもとに駆け寄ってみると、ちょうどフブキと話している最中だった。
ぼくはそっと本棚に隠れて聞き耳を立てる。
「アンタ本なんて読むんだ。何読んでるの?」
そう言いながらフブキは本を覗き込んだ。
すこし不愛嬌ではあるが、フブキもフブキなりに距離を縮めようとしているのが感じ取れた。
「うるせぇ女の黙らせ方。」
だが、それを感じ取れないのがエルだ。
エルはフブキの質問に皮肉っぽく答えた。
「あら、なら教えてあげるわ。アンタが死ねばいいのよ……ッ!」
そう言いながらフブキは器用な回し蹴りを披露する。
フブキの体術は一流以上のものだな……。
「図書館ではしずかにしなさいっ!」
怒号のした方へ目を向けるとさっきのおばあさんが怒りをむき出しにしていた。
おばあさんが手を叩くと、本棚から無数の本が飛び出しぼく達を包んで行く。
視界は徐々に狭くなり、体も押さえつけられて動けない。
気づくと僕たちは図書館の大扉の前にいた。
図書館を追い出されたのだ。
大扉に張り紙が貼られており、そこには
『奇術師1年・1週間の使用禁止』
と書かれていた。
どうにも、ぼくは巻き添えを喰らったようだ。
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