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1 勘違い奇術師、試験受ける



「私、待ってるから。君が目を冷ますまで。だから早く戻ってきて……」




 昔から時々見る夢。そしてその夢から覚めたぼくはなぜかいつも泣いているのだ。


「グリード。……またあの夢か? 」


「ああ、だけど大丈夫だ」


「なら良いんだ。それより、俺たちこの部屋に閉じ込められたらしいぞ……」


 罠だったのか……。

 あの時、老人から殺気が感じられなかったということは、殺害が目的ではない。

 では、監禁が目的か。でも何のために……。


 部屋を観察してみると、ベッドが三つ円を描いて並んでおり、他にも机やら本棚やらが置いてあった。

 そして部屋にはぼくとエル、それと金髪の若い男がいる。


「どうなってんだ……ッ! ドアも窓も開かねーじゃねーか!!!」


 見るからに金髪の男は不機嫌だった。

 それにしてもただ監禁するのに、この優遇具合はおかしい……。

 外に出れない密室。昨日、突如襲った眠気。明日から試験という老人の一言。


「この状況を打破することが試験内容なのか……?」


「なら簡単だ。このクエット様が開かずの扉を壊してやんよっ!」


 そういうと、簡単な術を自慢げに放った。

 扉は壊れるどころか術は跳ね返り、エルに当たりかける所だった。

 結界が貼られているらしい。

 まずはこの結界を破らなければ……。


「エルは机の中身を調べてくれ。クエットは……大人しくしててくれ」


 クエットは仕方なさそうにベッドに横たわった。

 ぼくも仕事をしようと本棚を一通り見てみるも真新しい『グレーの冒険譚』が並んでいるだけだった。


「グリード。机の中にはこの紐しかないぞ」


 そういうとエルは数本の紐が束になった物を机の上に置いた。

 紐のあちこちには硬く結ばれた箇所がある。


「これはキープ暗号か……」


 つい、この間読んだ本で出てきたのを思い出した。


「確か……結ばれた回数と高さで、数字が読み取れたはず……。

 2……3……6……9

 エル。『グレーの冒険譚』の第2巻、3章の6話の9行目を読み上げてくれ」


「読むぞ。噂好きの女神ファーマの館には1000の入口と窓があるが、扉は存在しなーー」


ーーガチャリ


 結界と扉の鍵が解除された。

 その瞬間クエットがむくりと起き上がって扉を開ける。


「おっ、開いた開いたっ」


「出るのはやめたほうがいい……。試験がこんな単純なはずがない」


 根拠はないが、その扉を抜けてはダメだ。

 王城の時と同じ、首筋がむず痒くなるような嫌な予感がした。

 が、そんなぼくの忠告を聞かずにクエットは足早に出て行ってしまう。


 どうなっても知らないからなクエット……。


 一度クエットのことは置いといて、ぼくは一体何に引っかかっているんだ。

 考えろ。噂好きのファーマ……。1000の入口と窓……。扉はない……。


 「そうか! 窓だエル。結界も溶けてる。窓を割って見てくれ」


 「オーケー。たやすい御用だ!」


 そういうとエルは渾身の力を込めて窓を殴った。

 バリンッという音と共に窓が割れ、そこから僕たちは外に出ることが出来た。



 気がつくと、目の前では椅子に腰掛けた老人が拍手していた。

 机の上には本が重なり合い、紙が無造作に置かれている。


「ようこそ学園ユグドラシルへ。

 それにしてもこんなにも早くあの部屋を出てくるとは……。

 試験内容を少し見直さなければいけないな」


 机の奥の椅子がクルリとこちらを向く。


「あの……クエットはどうなったんですか?」


 恐る恐る聞いてみる。


「扉に入ってしまったクエット君は失格だよ。もう学園の領内には入って来れない」


 やはり、あの扉は罠だったか……。


「いきなり連れて来られた上に、変な試験を受けさせられて、ここは何処なんだ?」


「ここは術師が入る学園だ。

 その中でも特に伸びしろがある生徒が入れるのが、ここの奇術学園。

 奇術学園と言っても受講する部屋が違うだけで、ほかの術師も同じ建物で受講する」


 そういうと、机の上に置かれていた紙が中を舞い、その一枚が目の前で止まる。

 そこには受験チーム数やらが書かれていた。


「受験人数が75。

 合格人数が12。

 奇術人数が4。」


 ここにぼくらがいるということは、奇術学園に入学ということか……。

 そしてぼく達以外にもあと2人いるはず。


「あぁ、もうめんどくさっ! あんたもちゃんと私に協力して考えなさいよねっ」


 いつ現れたのか、僕らの隣には少し目つきの悪い女が、耳当てをしながら呆けてる男に怒鳴りつけていた。

 少しして落ち着いたのか女は当たりを見渡しぼく達を見つけると、


「げっ、今の全部聞こえてた?」


 と訪ねてきた。

 ぼくとエルは、話かけられことに驚きながらも、大きく首を縦にふった。


「友情関係は第一印象で決まるのに……ッ!あんたが悪いんだから!」


 女はまた、耳当てをした男に怒鳴り始めるが男は相変わらず呆けている。

 それにしても怒る理由が理不尽極まりない。


「グリード、エルベルト、フブキリンゼ、ラルク、4人集まったね。

 まだ名乗っていなかったが私はボルボだ。

 ここ、奇術学園の学園長をしている」


 そういうと、ボルボ学園長は老人の姿からみるみるうちに、若々しい紳士へと変わっていった。


「驚かしてしまって申し訳ない。学園長は何かと危険が多く、外には変装して出ていくようにしている

 まあ、危険と言ってもーー」


「も、もう済みましたか……? 学園長……」


 突然後ろから辿々しい声がして振り向くとそこに背丈の小さい男の子が立っていた。


ご覧いただきありがとうございます!

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