12 お前には俺らが
「ところでラルク様。何故このような場所に……?」
「何でもいいでしょ」
「はっ! 全くもってその通りです。失礼しました!」
「うん、許す」
その流れもういいて……。
それに無礼って、ぼくらラルクに風呂覗きやらせてたけど!?
「お手数お掛けしますが、どうかご同行願えないでしょうか……」
「はじめからそう言えばいいんだよっ」
「まさかラルク様の近衛兵とは存じ上げず……」
この騎士、なにか勘違いしてるようだけど都合がいいし放っておこう。
「ところでぼく達になんの用なんですか?」
「騎士団長が探してこいと言われただけですので、そこまでは……」
そう言いながらぼく達の周りを囲うように歩く騎士達の服装は赤が強調されていた。
恐らく先日に乗車した列車の警備に当たっていた騎士団だろう。
そうこうしているうちに、赤と白の立派な建物が目の前に表れた。
中に入ると意外にも広く、何人もの騎士がうろついている。
「こちらでお待ちください」
そう言われて通された部屋はいかにも室長室という感じだ。
ぼく達は言われるがまま、ソファーに腰をおろして騎士団長が来るのを待った。
ーーガチャリ
ドアノブが回る音がしてぼく達は姿勢を正した。
「ごめんごめん。待った?」
「いえ……そんなに待ってないです……」
そう言って入ってきたのは一際豪華な服を身にまとった白髪の男だった。
恐らく歳は25と言ったところだろう。
それよりなんだこの人のこのノリは……
まさかこの人が騎士団長な訳……ないよな?
「俺が騎士団『赤色』の団長、リリスだ! よろしく!」
騎士団長だったか……。
歳も若いしこの性格なのに騎士団長につけるということは、それだけ強いんだろうな……。
「そして、私が騎士団『赤色』の副団長、サクラリンゼです。」
こちらもまた綺麗な白髪で、高身長、スタイルも抜群だ。
無表情で凛としたその顔つきは、まさに女騎士。
「今回君たちを呼び出したのは先日の犬神の件だ」
「尾行……してたんですか……?」
「人聞き悪いな〜。俺達のテリトリーに入ってきたのは君たちの方なんだよ?」
サクラリンゼさんが続ける。
「犬神は常に私達の監視下にあり、あなた達が犬神と接触したとの報告が入ったので事実調査のためお呼びしたのです」
「さて、話してくれるかな?」
そういうと騎士団長は真面目な面構えでテーブルに肘をつく。
ぼく達は騎士団長に、神域生物の『鯨』に呼ばれ森に行き、犬神と戦った事を話した。
「多分その白装束は『使人』だな。犬神の身の周りのお世話をする、言わば召使いだ」
「しかし。騎士団長。なぜ犬神はこの四人を呼んだのでしょうか?」
騎士団長は「さぁ」と肩をすくめた。
エルの事は言わないほうが良いだろう……。
ぼく達は多くの時間を共にした友であっても、初見の騎士団長にどう映るかは分からないからな。
それに、いきなり斬りかかられても困る……。
ぼく達は何とか騎士団長を言いくるめ、早々に駐屯所から出る事ができた。
それにしても大事に至らなくて良かった。
「ただいま」
「お、やっと帰ってきましたか。リゼさんがご飯作ってくれてますよ!」
コテージの玄関に入るとシチューの良い匂いが漂ってきた。
フブキがいないとご飯一つ作れない。どれだけフブキに頼って生きてきたか分かる。
クリス先輩が食事を並べる中ぼく達は席についた。
空っぽのフブキの席にある埋めようのない虚無感。
ぼく達はただ『見守る』というのを理由に、フブキに触れることを恐れているのではないか。
そんな考えが頭をよぎる。
「「さて、食べようか」」
エプロン姿の先輩達が席につくと手を合わせて食べ始めた。
しかしエルは一口食べてスプーンを置く。
「フブキの味じゃない……」
エルは空気を読まない。
それが良いように作用する事もあるが、今回は違った。
その一言で空気はより一層重くなった。
「……なら、食べなきゃいいでしょ!
フブキちゃんが、閉じこもってるんだから仕方ないじゃん!」
「リゼ、落ち着いて……」
リゼ先輩の様子を見て、ロゼ先輩が止めに入る。
「また、そう言って逃げるのかよ。
仲間一人救えねぇで何が仲間だ。何が後輩だ……」
「なら無理矢理にでもフブキちゃんを部屋から出すの?
それでフブキちゃんが傷つかないとでも思ってるわけ?」
「傷つけばいい。
傷ついて、治して、乗り越える。その繰り返しで俺らは強くなるんだ。
あいつ自身、自分の過去と向き合わなくちゃいけねぇし、それであいつが傷ついたなら俺らが癒すーー」
「ーーそれが仲間ってもんだろ」
そう言ってエルはフブキの部屋に向かった。
今はエルに任せるのが一番なのかも知れない。
「なぁフブキ。俺はさ、親がいねーんだよ。
いないつっても分からないだけなんだけどな。
グリードの親が拾ってくれなきゃ俺はその辺の路地裏で餓死してたかもしれねぇ。
それに拾われた後も酷くってさ、親なしやら、捨て子やら周りからけなされまくってよ」
「何が言いたいのよ」
ドアの向こうからフブキの声がした。
ドアの前で座っていたエルは、いつフブキが出てきてもいいように壁側にずれた。
「だけど、グリードとその親だけは優しかったんだ。
どこの馬の骨かも分からない俺を拾ってくれた父さんも、毎日飯やら風呂やらの世話をしてくれた母さんも」
「初めてフブキと会った時に思ったんだ。俺に似てるなって。
自分を強く見せて、元気な振りをする裏にはどうしようもない悲しさがあるってとこがな。
記憶は忘れてても想いってのは忘れねぇからよ」
「アンタとは何もかも違う!誰も手を差し伸べてくれなかった……。
他人が分かった様な口を聞かないで!」
「分かんねぇよ。だから、教えてくれよ。
今までにどんな辛いことがあったのか」
「話してどうなるの……?
今までの過去を綺麗さっぱり忘れれるの……?」
フブキが嗚咽混じりの声で答える。
「どれだけ逃げたくても過去からは……自分からは逃げられない。
だから立ち向かうしかない」
「立ち向かうなんてよく簡単に言えるわね。
それがどれだけ辛いか差し伸べられた手があったアンタに分かるわけないでしょ……ッ!」
「なら俺らを頼れよ。
いっつもそうだ。自分勝手に進んで、自分勝手に転ぶ……。
一人で何でもやろうとするな……ッ!」
ーーバキンッ
エルが扉を蹴破った。
中では目を赤くしたフブキが驚いた顔をしていた。
「ーーお前には俺らがいる」
そう言うとフブキの目から大粒の涙が溢れ出し、「うぇーん」と泣く顔は幼子同然だ。
これまでどれだけ我慢して生きてきたのか見て取れる。
しばらく泣いた後、フブキはみんなの前で思い出した事を話してくれた。
それは一人の少女が背負うにはあまりにも重すぎる過去だった。
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