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9 勘違い奇術師、お風呂回

「お前、海でも風呂でもその耳のやつ外さねぇんだな」


 ラルクは顔を綻ばせながら、ブクブクと湯船に口をつける。

 しかし、エルは気にかけず続けた。


「それにしても高級ディナーの後の風呂は最高だ……

 全然量が無かったけどな」


「あぁ……そうだな……」


 あまりの心地よさにエルへの返事も適当になってしまう。


 今だけは許せ……。


「「ぐぬぬ……。どうやったらそんな大きくなるんだ?」」


「あっても良い物じゃないわよ。肩凝るし……」


 風呂の心地良さに浸っていると、壁を挟んだ向こう側から声が聞こえてきた。

 男湯と女湯は吹き抜けのようになっており、声が良く届くのだった。


「男子諸君。作戦会議ですっ」


 声のした方を見るとそこには先日のヘンタイ先輩がいた。

 言わずとも分かるだろうが『作戦会議』とはつまり、『女湯覗き見大作戦』の会議だ。

 この人について行けば上手く行く。そんな気がする。


「まず、ここで術式は使えません。

 なぜなら、相手に感知されてしまうからです」


「ならどうやって……」


「裏をかくんです。

 見るとするなら、術式を使う。

 そう思い込んで油断している隙をついて、壁の吹き抜けから覗けば恐らくバレないでしょう!」


「なるほど……ですがそんなに上手く行くはずーー」


「実践!」


 そういうとエルがしゃがみその上に器用に先輩が飛び乗った。

 そっと持ち上げ壁に手を掛け覗こうとした時。


ーーパシンッ


 風呂中に鈍い音が響き渡った。

 先輩が覗いたと同時に、リゼ・ロゼ先輩の鎖が頬を打ったのだ。


「プ、プランBです……。

 風呂の中に細い通路があり、そこから女湯に行けるのですが……。

 余りにも小さすぎる為、ラルクでギリギリと言ったところでしょうか。」


 そう言って指差す方には確かに僅かな水路があった。

 下見も完璧なヘンタイ先輩……恐るべし。

 しかし、ラルクはこういうのやりたがらないだろうな……。


「行ってくれますか……? ラルク……」


 ラルクはスンスンと鼻息を鳴らして潜ってしまった。

 いや、行くんかーい。

 思わずツッコミそうになるのを堪えて、見送る。

 俺らの希望はラルク……お前にかかってるんだぞ……。


「「キャー 

  後輩くんが鼻血出して浮かんでる……!?」」


 成功したんだなラルク……。


 だが、後で聞いてみるとラルクは何も覚えていなかった。

 それほどまでに過激だったとは……。




ーーザザァ 


 小波が砂浜にのし上がる音がする。

 海は暗闇にたった一つ浮かぶ月光をキラキラと反射させる。

 

「俺たちこれから、どうなるんだろうな……」


「どうって、沢山勉強して強くなるんだろ?」


「強くなってどうすんよ……

 アンタも気づいてるんでしょ? 私たちが戦うのは『魔の物』だけじゃないって事。」


 2人とも気づいてたのか……。

 そりゃそうか。ぼくでも気付けるのに、皆が気づかないはずがない。


「でも先輩達なら、経験も深いし何か知ってるかも」


 ぼく達4人は防波堤に腰掛け、海を見ながら話していた。

 

「「ごめんね。私達も何も知らないの」」


 ふと声がして振り返るとリゼ・ロゼ先輩、それにヘンタイ先輩もいた。

 波風で先輩らの髪の毛が揺れる。


「私達もあんなに殺気を放って監視されるのは初めてでして。

 ですが、途中からピタリと感じなくなりましたね……」


「多分、監督官がやったのよ。

 気配が消えたタイミングが監督官が居なくなった辺りからだったから……」


「監督官が……ですか……

 あの量を一人で、それも監督官がどうにか出来るとは思えませんが……」


 あの量? ぼくが感じたのは一つだった。

 皆、何の事を言ってるんだ……?


 そんな事を考えていると、突然目の前に異様な光景が広がった。


 円を描いていた鳥の群れは止まり、波は音を無くす。

 いや、波すらも止まっていたのだ。

 やがて無音は恐怖となってぼくを襲った。


「絶対亜空間……!?」


「「なんで……いきなり……」」


 フブキの言葉に耳を疑った。

 絶対亜空間ーー『神域生物』だけが使うことのできる結界。

 術者なら知らない者はいない。


 ザッパーン


 海の奥で水しぶきが上がる。

 その水しぶきの中から、半透明の大きな鯨がイルカの群れと共に姿を見せた。

 そのまま天に向かい昇り始める鯨達。


『犬神様がお求めじゃ。犬神様がお求めじゃ。早々に参れ』


 頭の中に響く中性的な声。

 それと共に向かうべき場所が伝わってくる。恐らくあの鯨の仕業だろう。


「分かったからやめてくれ!」


 エルが叫ぶ。確かにこんな感覚初めてで、かなり気持ち悪い。

 やがて雲の上へと見えなくなると、波は音を取り戻した。


 今のあいつは何だったんだ……?

 とりあえず、明日の朝にでも向かってみるとするか……。



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