表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あっと!ヴィーナス!!  作者: 神崎理恵子
ヴィーナス編
4/52

第一章 partー2

 しばらく母娘の抱擁が続いて、やがて静かに母が弘美から離れた。

 涙を拭いながら、

「もっと良く見せてごらん」

 と、じっと見つめる母。

「いやだ。恥ずかしいよ」

「ふふ……恥ずかしいのは、女の子の証拠よ」

「あたりまえだよ。こんな裸見られたら、誰でも恥ずかしいよ」

「声もすっかり女の子ね。とっても可愛い声よ」

「え? 声?」

「気づいてなかったの?」

「だ、だって、驚いてばかりで言葉を失ってたという感じだったし……」

「いい声だわ。やっぱり女の子はいいわねえ」

 もう……。

 母さんは、女の子が欲しくてたまらかったから、嬉しくてしようがないだろうけどさあ……。こっちはそれどころじゃない気分。

「さあて、これから買い物に行かなくちゃ」

 ふと弘美から離れて、独り言のように呟く母。

「買い物って?」

「決まっているじゃない。弘美が着る服よ。女の子になったんだから、女の子の服を買わなくちゃね。今ある服はもう着れないでしょ」

「い、いいよ。今あるやつを着るよ」

「気づいていないの?」

「気づくって?」

「あなたの身体よ。以前より身体が小さく細くなって華奢になってるのよ」

「え? そうなの……?」

「以前の服はだぶだぶでとても着れないわよ。その証拠じゃないけど、サイズを計らなきゃね。今メジャーを持ってくるわ」

 と言って部屋の外に出ていった。

 ドアの外から家族の会話が聞こえてくる。

「母さん。ずいぶん遅かったじゃないか」

「な、なあ。ほんとに女の子だっただろ?」

「ええ。正真正銘の女の子だったわ。間違いなく弘美は女の子。しかもとびきり可愛い女の子になっているわよ」

「だ、だろう。俺は嘘は言わないよ」

「で、どうするんだよ。これから」

「どうするもないよ。弘美はわたしの娘だし、あなた達の妹ということよ」

「妹か……そうだな。妹もいいかも知れないな」

「信一郎兄さんは、肯定するんだね」

「もちろんさ。母さんじゃないけど、俺も妹が欲しかったからな。正直言って、弟ばかりでうんざりしてたんだ」

「そりゃ、ひどい言い方だよ」

「まあ、そういうわけよ。弘美は年頃の女の子なんだから、これからは許可なく弘美の部屋に入っちゃだめよ」

「入っちゃだめって、弘美と一緒の部屋の俺はどうするんだよ」

「部屋替えするわ。弘美は女の子だからもちろん一人部屋、武司は信一郎と一緒にする。いいわね」

「俺は構わんよ。まだ見てないけど、とびきり可愛いというんだし、妹のためなら一歩でも二歩でも譲るよ」

「武司も構わないわね。いえ、これは母の命令です」

「ちぇっ、しようがないな……」

「じゃあ、みんなも納得したところで、これから弘美の着る服の買い物に付き合ってもらうわよ。女の子は衣装持ち、取り敢えずは一週間分だけど、かなりの量になるはずだから、荷物持ちお願いね」

「いいよ。みんなもいいな」

「とにかく弘美の事はしばらくそっとしておいてあげてね。いきなり女の子に生まれ変わって一番動揺しているんだから」

「わかった」

「さあ、みんなそういうわけだから、下へ降りた降りた」

 やがて階段を降りていく家族達の足音。

 どうやら家族は、弘美を女の子として肯定し、妹として位置付けしてくれたようだ。

 が、その本人の弘美は、一人蚊帳の外。

 一体なぜ女の子になってしまったのか、その理由も解き明かされないまま事が進んでいく。



 やがて母がメジャーを持って戻ってきた。

 そういえばまだ裸のままだった。すっかり動転していて、そこまで気が回らなかったのだ。もっとも身体測定だから、結局脱ぐことになったのだろうが……。

 早速、身体測定がはじまる。

「アンダーバストは65、トップが74か……ウエストが55、ヒップが80。うん、中学生としては、なかなかいいプロポーションしてるじゃない。5号サイズってところかな。伸長はっと、計りになあ……。ちょっとそこの柱に背をつけるように立ってみて。そうそう、印をつけて……152ね。弘美ちゃんの年齢だと、もうしばらくは背が伸びるわね」

 というように、ぶつぶつと独り言を口にしながら測定していく。

 母が、以前の服を着れないという意味が今更に理解できた。

 以前の弘美は、全国中学柔道大会柔道でも66kg以下級で戦う筋骨隆々の骨格をしていたのだ。それが……言わずもがなであろう。はっきりいって今の弘美の体重も40kgあるかないかだった。

「もうしばらくってどういうこと?」

「ああ、女の子はね。思春期に入るころから、縦方向の身長があまり伸びなくなるのよ。女性ホルモンのせいでね」

「じゃあ、一生このくらいの身長なの?」

「そうね。伸びても後10センチくらいかな。せいぜい160前後止まりね。その分横方向へ成長するわ。胸とか骨盤とかが発達するのよ。子供を産むための身体造りがはじまるの」

「子供を産む?」

「何を驚いてるのよ。女の子なんだから、当然でしょ。ああ、そうだ。生理の手当の仕方も教えなければいけないわ」

「せ、生理って、女の子が毎月なる、あれ?」

「そういうこと。年頃の女の子なんだから、あって当然でしょ。買い物リストに生理ショーツとナプキンも追加しなくちゃ」

 測定が終わり、母はいそいそと買い物に出かけるべく、部屋を後にした。

 やがて外から、信一郎兄の車のエンジンが聞こえてきて、それは遠ざかっていった。


 いったいどうなってしまうのだろうか?


 ひとり部屋に残り、将来に一抹の不安に脅える弘美だった。

 それにしても……。

 どうしてこうなってしまったのだろう?

 と改めて考え直してみるが、突然女の子になってしまった原因が判らなかった。



 ドアがノックされる。

「お母さんよ。入るわよ、弘美ちゃん」

 母親と兄達が大きな紙袋、そして姿見の鏡を抱えて入ってきた。

「弘美ちゃん、あなたの服を買ってきてあげたわ」

 母親は部屋の隅を指さして、

「その姿見は、そこに置いてちょうだい」

「あいよ」

「そしたら、あなたたちは出ていきなさい」

「え?」

「わかるでしょ」

「あ、ああ……そうだね」


「さあて……と、早速着替えをしましょうか、弘美ちゃん」

「着替えって?」

 母親は紙袋の一つを開けて、テーブルの上にそれを広げた。

 ブラジャー、ショーツ、スカート、ブラウスといった女物の衣類が並べられた。

「な、なんだよ。それ……」

「決まってるじゃない。あなたの着替えよ」

「じょ、じょうだんじゃないよ。全部女物じゃないか」

「当り前でしょ。あなたは女の子なんだから」

「それを着るのか?」

「さ、はじめましょう」

「い、いやだよ」

「強情を張らないの。どうしても着ないというのなら、武司達を呼んで強引にでも着せるわよ。見られたくないでしょ、自分の裸を」

「わ、わかったよ……着ればいいんだろ……」

「そうよ。何事もあきらめが肝心」

「…………」

「じゃあ、まずはブラジャーからね。ブラは正しく身につけないとバストがくずれちゃうから、しっかり覚えるのよ」

 と梓を鏡の前に立たせ、その背後から手取り足取りで着付けを教える母。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ