プロローグ・後編
ナレーション
「ここは運命管理局センター。地球人類の運命を司る天上界にある機関の一つである。
人類の誕生から死までの運命を管理しているうちの、誕生を管理する部門の最高責任者がヴィーナスなのだ。
地球人類も50億を越えるようになり、その膨大なデータを処理するために、コンピュータシステムが導入されている。
え? 神がコンピューターを使うのかって?
そんなことどうでもいいじゃありませんか」
ヴィーナス
「どうです。見つかりましたか?」
オペレーター
「お待ちください。もう少しで判明します」
ディアナ
「ヴィーナス、どうした。どじでもふんだか?」
ナレーション
「突然現われたのは、時間管理局長官である天空の女神ディアナである。天上界では、ヴィーナスの同僚であるが、その美貌にかけて、 常日頃から張り合っている」
ヴィーナス
「ディアナ!」
ディアナ
「ふふん。図星のようだな」
ヴィーナス
「ファイルーZが行方不明になったのよ」
ディアナ
「なんだとー! ファイルーZと言えば、おまえどうなるか判っておるのか!」
ヴィーナス
「だからこうして、今全力をあげて捜索中ですよ」
ディアナ
「オペレーター。システムを時間管理局のラインに接続しろ。大至急だ。バックアップさせる」
ヴィーナス
「ディアナ!」
ディアナ
「酒ばかり飲んでるからこんなドジ踏むんだよ。ふふん。本来ならきさまの手助けなどしたくはないのだがな、ファイルーZとなればそうもいかないだろう」
オペレーター
「発見しました!」
ナレーション
「注目する二人。ヴィーナスの表情に少し安堵の様子がうかがえる」
暗転 ナレーション
「さて、ところかわって地上。
ここは講堂館の青畳の上。おりしも中学柔道選手権試合の決勝戦が行われていた。
応援する人々、その中に、双葉愛の姿も見える。組み合う二人、そして見事な背負い投げが決る」
審判員A
「一本! それまで!」
ナレーション
「大歓声に包まれる講堂館。一斉に駆け寄ってくる同校のクラブ員達。胴上げされる少年。この少年こそこの物語のヒロインである相川弘美その人である」
え? 少年なのにヒロインなのかって?
それは物語を読み進めていけば判る。
ところ変わって、大通りに面した歩道を弘美が歩いている。
とその目前に現れる愛と美の女神ヴィーナス。
弘美、ヴィーナスに気づいて立ち止まる。
ヴィーナス
「探しましたわよ」
弘美
「探しましたって、あなたは一体」
ヴィーナス
「私は、愛と美の女神ヴィーナス」
突然あたりの景色が消え、真っ暗になる。
弘美
「な、なんだ? いったいどうした! ここはどこだ?」
きょろきょろと当りを見回している。
ヴィーナス
「ここは、時間と空間を超越したところにある、天空の女神ディアナの支配する世界です」
弘美
「時間と空間? 天空の女神ディアナって、ローマ神話に登場する最高神で、たしか男性形名をヤヌス、英語で1月を意味するJUNUARIUS はこの人に由来するという、あの神か? ローマ神話のほとんどがギリシャ神話に置き換えられてしまったのに、唯一ギリシャ神に対応するものがないことで何とか生き残ったという」
ヴィーナス
「よく御存知でしたね。でもそんなことはどうでもよろしい。私があなたのところへ遣わされたのは、ファイルーZのあなたを本来生まれるべき姿に戻すためです」
弘美
「ファイルーZ? 本来生まれるべき姿に戻すってどういう意味だ?」
ヴィーナス
「ファイルーZに選ばれた以上、あなたは女性でなければならないのです。それが手違いで男性に生まれてしまった以上、今ここで女性に戻す以外にないのです」
弘美
「ちょっと待て! 俺を女に変えるというのか?」
ヴィーナス
「その通りです。これからは女性としての人生を歩くことになります」
弘美
「冗談じゃない! ことわる」
ヴィーナス
「これは運命なのです」
弘美
「やめてくれ!」
ヴィーナス
「ヴィーナスの名においてこの者を本来生まれるべき女性の姿に戻したまえ……」
弘美
「うわー!」
突然、足元から下へと落ちはじめていく。