プロローグ・前編
ナレーション
天上界に優雅にそびえ立つヴィーナスの神殿。豪華に飾られたその神殿内の執務室。
神子達が忙しく動き回る大広間の奥の高座の金銀財宝の散りばめられたソファーに横たわりながら酒を飲んでいるこの人物こそ、この世のありとあらゆる美しさをたたえた女神。そう、この人こそこの物語において重要な役処を務める……
ヴィーナス
「ヒロイン役のヴィーナスです」
ナレーション
「と本人は申しておりますが実は……」
ヴィーナス
「だからヒロインのヴィーナスです。タイトルを見ていないのですか?」
ナレーション
「えっと……ヒロインのヴィーナスだそうです」
ヴィーナス
「ちょっと投げやりなんじゃありませんこと?」
神子 A
「ヴィーナス様。この書類に目を通して頂けますか?」
ナレーション
「唐突にも、物語は始まる」
ヴィーナス
「こら! 逃げるな!」
神子 A
「ヴィーナス様。どなたとお話になっておられるのですか?」
ヴィーナス
「え? ああ、なんでもありません。(書類に目を通して、渡す)」
従者A、一礼して退く。
ヴィーナス
「うん? (床に落ちているDVDディスクを拾い上げて、神子を呼 び止める) ディスクが落ちていたわ。運命管理局に渡しておいて」
神子 B
「かしこまりました。(ディスクを受け取って運命管理局へ)」
ナレーション
「再び酒を飲みはじめるヴィーナス。この世のすべての美を持っている天上界の神の一人なのだが、酒が大好きで暇さえあれば飲んだくれているというどうしようもない女神だ」
ヴィーナス
「聞いていれば、好き勝手いいやがって」
ナレーション
「わたしはナレーションだ。ここでは神より偉い!」
ヴィーナス
「あのなあ……」
ナレーション
「ほれほれ、物語は進んでいるよ」
神子 C
「ヴィーナス様。ファイルーZを受け取りに参りました」
ヴィーナス
「ファイルーZ? なんだそれ……」
神子 C
「とぼけないでくださいよ。ゼウス様からお預かりになられたDVDディスクに収められたファイルですよ」
ヴィーナス
「ああ……、忘れていた。それならここに……」
と酒の瓶が並べられたガラステーブルの上を見る。
「な、ない!(急に、青ざめる)」
神子 C
「ないって……。どういうことですか?」
ヴィーナス
「確か、テーブルの上に置いていたんだ」
思い出す。
「ああ! そうだ。さっきの神子に渡した」
神子 C
「神子に渡したってどういうことですか? ファイルーZは特別扱いで、担当である私だけが処理できるものなんですよ」
ヴィーナス
「そんなことより、ファイルーZだ。(ちょうど通りかかった神子Bを呼び止めて)」
神子 B
「え? それでしたらとっくに運命管理局のほうに回しましたが?」
ヴィーナス
「そ、それで、どっちの方に回したの? 男? 女?」
神子 B
「(きょとんとしている)どっちって……? 私は男性担当ですからそちらに……」
ヴィーナス
「遅かったか!」