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  第九話  ウェポン族


 



 獣王の姿になったレオミアの身体に、キャスが何の遠慮もなく駆け上がる。


「ならレオミア、ヨロシク!」


 叫ぶキャスに続いて。


「よしなに」


 ミウもレオミアの背中に飛び乗った。

 2人共、別に特別な動きをしたわけではない。

 しかしその身のこなしから、遥かに強くなっているのが伺える。


「ここで待っててくれないかい? 馬車を見張ってて欲しいんだ」


 キャスとミウがレオミアの背中にしがみ付くのをチラリと見ながら、ドラクルはスチールホースを馬車から解き放って頼み込んだ。


 ブルルルルル!


 任せておけ!


 とばかりに唸るスチールホースの顔にそっと手を置いてから、ドラクルはレオミアを見上げる。


「じゃあレオミア、頼むね」


 そう言ってドラクルが背中に飛び乗ると。


「まかせておけ」


 レオミアはバサリと羽ばたいて空に舞い上がった。


「うわぁぁぁぁぁ」


 キャスが上げた声が後ろへと高速で流れていく。

 とんでもないスピードだ。

 その分、受ける風圧も凄い。

 パワーアップしていたから良かったと、つくづく思う。

 そうでなかったら最初の羽ばたきでドラクル達は振り落とされていただろう。


「見えたでござる! あれがウェポン族の村でござる!」


 ミウが指差した先には、森を切り開いて作られた土地に、100軒ほどの家が集まった村があった。

 しかしこうして上空から見ると、100万ものミドラス軍がウェポン族の村を包囲している事が分かる。


「現在のミドラス軍包囲陣は、歩いて1日ほど距離が離れているでござるから、父上達は包囲されている事に気付いてないのでござるな」


 ミウが呟く間に、レオミアは村の中心部にある広場に着陸した。

 獣王の谷を出発してから3分も経っていない。

 恐るべき飛行スピードだ。





「うわぁあああああ!」

「な、何事でござる!」

「に、逃げるでござる!」

「女子供を護るでござる!」


 脱出の準備を整えて村の広場に集まっていた400人ほどのウェポン族は、伝説で有名な獣王の出現にパニックを起こしかける。

 が。


「狼狽えるでない!」


 1人の男が村人を一喝すると、レオミアの足元にやってきた。


「獣王とお見受けいたす。我が村に何用でござろうか?」


 そこにミウが、レオミアの背中から飛び降りて男に駆け寄る。


「父上!」

「ミウ? ミウでござるか!? 帰ってくるなと申しつけたのに、どうしたでござる!?」


 察するに、この男がミウの父親なのだろう。


「父上、この村は100万ものミドラス軍に包囲されているでござるぞ!」


 ミウは大声で状況を説明する。


「その上ミドラス兵の一部には、魔族の血を飲んだり心臓を食らう事によって拙者ですら手こずるほど強力な力を得ている兵がいるでござる。このままでは生き血を搾り取られた挙げ句、心臓を抉り出されて殺されてしまうでござる!」


 最後は大声になってしまったミウに、村はざわめく。


「この村でも1、2を争う戦士であるミウが手こずったでござるか?」

「それほど敵は強いのでござるか?」

「しかも100万人もの大軍とは……」

「もはやこれまで。せめてウェポン族の意地を見せるでござる!」

「ウェポン族の死に様、しかと目に焼き付けてやろうぞ!」


 そこにミウが裂ぱくの気合いを込めて怒鳴る。


「皆、落ち着くでござる! まだ死を覚悟するには早いでござる。実は拙者、高位ヴァンパイアであるドラクル殿の眷属になり申した」

「何と!?」


 娘の告白にミウの父親が絶叫した。


「ヴァンパイアの眷属となったら2度と日の下を歩く事は敵わぬのだぞ!」


 と、そこでミウの父親は、ホッとした顔になる。


「いやミウ、よく見たら其方、日光を浴びても平気ではないか。親を驚かすものではないでござるよ。いや、よくよく考えてみれば、ウェポン族がヴァンパイアの眷属になれるはずもござらんな」


 自分で自分に言い聞かせる父親に、ミウが首を横に振る。


「父上、ご覧下され」


 ミウは口元から牙を伸ばして見せた。

 ヴァンパイアの外見は普段、人間と同じ。

 血を吸うときだけ犬歯を長く伸ばすのだ。


「ミ、ミウ! 其方……」


 言葉を失う父親にミウが続ける。


「ドラクル殿は真祖ヴァンパイアの力を持っているのでござる。その証拠にアーマードタイガーのキャス殿もドラクル殿の眷属でござるぞ」

『アーマードタイガー!?』


 驚きと疑いが入り混じった声を上げる一同に、キャスは。


「見てて!」


 半獣の姿になった後、更にアーマードタイガーの姿へと身を変えてみせる。


『おおおおおおおおお!』


 掛け値なしに驚くウェポン族に。


「アタシもさ」


 今度はレオミアが獣人の姿から人間の姿へと変わってみせる。

 いや、レオミアは最初から人間に姿を変えれるだろ。

 ドラクルは、そう心の中でツッコむ。

 それを感じたのか、レオミアはドラクルにニヤリと笑って話を続ける


「キャスはドラクルの眷属になって、人間の姿に変化する能力と、魔獣の戦闘力そのままに半獣化する力を手に入れたんだ。しかも日光も平気だ。もちろんアタシもな」


 笑ったレオミアからは、大気が歪んで見えるほどの闘気が立ち上っていた。

 その獣王の迫力にウェポン族一同は言葉を失う。

 暫くの沈黙の後。


「で、我らにどうしろと言うのでござる?」


 ミウの父親が口を開いたのだった。





「紹介が遅れ申した。拙者の父、マサムネでござる」


 ミウが父と紹介した人物は、長身の人物だった。

 鋼のように鍛え上げられているのが服の上からでも分かる。

 おそらく50歳前後だろう。


「聞けば娘の命を救って頂いたとの事。感謝いたす」


 キチンと正座をして深々と頭を下げるマサムネに、ドラクルは恐縮する。


「そこまでされると困ってしまいます。どうか立ってください」


 立ち上がったマサムネに、ドラクルは説明を始めた。


「もう1度言いますが、この村は100万人のミドラス軍に包囲されています。10人のウェポン族の生き血を飲めば、ウェポン族2人分の戦闘能力を得る事ができる上、心臓を食べると桁違いの力を得られるので、アナタ達を生け捕りにするつもりです」


 400人のウェポン族がそれを聞いてざわめく。


「つまり、生き血を吸われるのでござるか?」

「生き血を吸われた上、心臓まで……」

「何と非道な行いでござろう……」


 そんな言葉を聞きながら、ドラクルは話を続ける。


「そして、どれ程の人数か分かりませんが、今言った手段でアナタ達以上の戦闘力を得た神化兵も攻撃してくるでしょう。それを考えに入れたうえで、何か策はありますか?」

「一点突破で包囲網を脱出。これしかないでござろう」


 即答するマサムネに、ドラクルは首を横に振った。


「馬車を引いていたとはいえ、神化兵はスチールホースに走って追いついて来ました。とても逃げ切れないでしょう」

「スチールホースに! 神化兵のスピードとはそれ程のものでござるか!」


 驚くマサムネにミウが頷く。


「拙者も驚いたでござる、父上。神化兵の能力は恐るべきものでござった」

「左様か。しかしそれは、その神化兵とやらが敵陣にいた場合の話。逃げる方向に配置されておらぬ事を祈るだけでござる」


 しかし、それは余りにもギャンブル過ぎる。


「確かに神化兵が何人いるかは不明です。しかしミドラスが支配下しているザンパ領にさえ21名もの神化兵がいました。ミドラス軍に配備されている神化兵がそれ以下という事は有り得ないでしょう」

「むう……」


 マサムネが黙り込んだところで、ドラクルは本題に入る。


「そこで提案です。俺の眷属になりませんか?」

「な、なんと!」


 驚くマサムネ同様、話を後ろで聞いているウェポン族全員も目を丸くする。

 しかし実は1番驚いているのは、キャスとミウにレオミアだったりする。


「ドラクル殿!?」


 まさかそんな提案をするとは思ってもいなかったミウが大声を上げた。

 が、ドラクルは平然と話を続ける。


「眷属といっても、俺の奴隷になるワケではありません。俺はアナタ達にヴァンパイアの能力を提供する。それによってアップした戦闘能力でアナタ達はミドラス軍の包囲から無事に脱出する。それだけです」


 ドラクルの言葉にマサムネは鋭い目を向けてきた。


「で、その見返りに何をする事になるのでござるか」

「俺の大事な友達がミドラス軍に捕まってます。ヴァンパイアシティーの全住民と共に。このままじゃ生き血を搾り取られてしまうでしょう。そして殺される可能性もある。だから俺がミドラスから友達を取り返す手伝いをして欲しいんです」

「それが交換条件でござるか」


 マサムネの目が一層鋭くなるが。


「いや、これはお願いです。より強くなりたい人は無条件で眷属にします。何の条件も付ける気はありません。そして脱出も手伝いますよ、一緒に戦いましょう」


 そのドラクルの言葉に、マサムネもウェポン族もポカンとした顔になる。

 そんなマサムネ達に向かってドラクルは続けた。


「そして眷属として力を得て、ミドラス相手でも無駄死にしないと思った人は、出来たら俺に力を貸して欲しい。でも、危険だと思ったら、直ぐに手を引いてください。命の危険を冒す必要はありません。そして後は今まで通り自由に暮らしてください」

「それでは貴方のメリットが少ないようでござるが?」


 そう聞いてくるマサムネに、ドラクルは真面目な顔で答える。


「ミウが喜ぶ。それで十分です」


 その答えに、マサムネは顔をほころばせた。


「貴方様の人柄、感服いたした。拙者は喜んで眷属になるでござる。いや、貴方様の眷属にしてくだされ」


 そう言うと、マサムネはウェポン族へと向き直る。


「皆の者! 拙者はドラクル様を信じるでござる。ドラクル様の眷属となる事を希望する者は前に出るでござる!」


 そう叫ぶマサムネに、ウェポン族全員が前に出た。


「マサムネ殿の判断を信じるでござる」

「マサムネ様がそう言うのなら」

「マサムネ殿、ご一緒します」


 口々に叫ぶウェポン族だったが、そこにミウが大声を上げる。


「待つでござる!」


 そのあまりの剣幕に、全員がシンと静まり返った。


「皆、ドラクル殿を心から受け入れてござらん。父上がそう言うなら、などという心根ではドラクル殿の眷属にはなれぬでござる!」


 確かにドラクルを心から受け入れていなければ、どれほどドラクルが頑張っても眷属に変化する事はない。

 シンと静まり返る中、マサムネが口を開く。


「確かにドラクル様を、今すぐ心から信じる事は難しい者も多いでござろう。何か考えがあるのでござるか、ミウ」


 マサムネの問いにミウは毅然と答えた。


「拙者の眷属になるでござる」

『ええ!?』


 大声を上げるウェポン族に、ミウは更に話しかける。


「拙者は村で1、2を争う戦士でござるから、拙者を認めてくれている者は多いと思うのでござる。それに去年の戦いでは拙者を大将として命を預けてくれたでござろう? どうでござるか? 皆、拙者の眷属となってくれぬでござるか」


 ミウの言葉に1人のウェポン族が頷く。


「たしかに、ミウ殿の眷属なら心からなりたいと思うでござるな」


 すると、他の者も。


「ミウ殿は、いずれはマサムネ殿の後を継いでウェポン族の族長となる身。最初から忠誠を捧げるつもりでござる」

「拙者はミウ殿を支える為にミウ殿の眷属になるでござる」

「ミウ殿ならば文句ないでござる」


 口々にミウの眷属になりたいと言い出すウェポン族達。


「よし! ならば1列に並ぶでござる!」


 こうしてミウはウェポン族400人を整列させると、順番に自分の眷属へと変えていったのだった。


「おお! これがヴァンパイアの眷属となるという事でござるか!」

「とてつもない力でござる!」

「今までの自分がヒヨコに思えるでござる!」


 ミウの眷属となったウェポン族が歓声を上げる中、レオミアがミウをつつく。


「おいミウ。これでお前はウェポン族400人分の力を得る事が出来たな」

「! そう言えばそうでござるな」


 ハッとするミウにレオミアは苦笑する。


「何だ、気が付いてなかったのかよ」

「ドラクル殿を心から信用していない者が、ドラクル殿の眷属となるのがイヤだっただけでござる」

「本当はライバルが増えるのがイヤだったんじゃねぇのか?」


 レオミアがウェポン族の女の子達を指差す。

 どの女の子も真珠のように美しい。


「それはレオミア殿もでござろう?」

「まぁな」

「……ふふ」

「ははは」


 ミウとレオミアは、笑い合ったのだった。







2020 オオネ サクヤⒸ

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