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敗北のドレスソード  作者: 手遊花
朝倉女子 二年生編(冬)
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共感性女子高生(2)

 ひな鳥たちがステージからはけると、あらためて大会がはじまった。私がいつもいる、外からでは見られないメイクオーバーエリアの青壁の先に、不思議と妄想がかき立てられる。あそこでは一体、どんな会話が繰り広げられているのか。

 もしかしたら円陣を組んでたり、手を握りあって緊張をほぐしてたり、バカ笑いで勝利を確信してたりするのかも。経験者だからこその想像も膨らむ。



【Dress Sword Start-up……「三島三中」vs「磯倉」…………First Look.】



 しばらくしてステージ両端の青い壁から、先ほどステージ上で衣装を披露していた子たちが四人ずつ現れた。中学生選手たち八人がソード着装の儀式のため一斉に正面に手をかざすと、驚きなくらい、似たり寄ったりなソードが出力される。


「うわあ、全員レイピア」

「私もそうだったけど、初心者でも動作が分かりやすいからかな」

「ふーん。でもあそこ、ひとりだけ日本刀いるね」

 失礼だけど、向こうからは見えないからいいやと指をさすと。


「あー、あの子。さっき怖い顔してた子だぁ」

「構えを見るに、剣道でしょうか。握りはしっかりとしていますね」

 こういうとき、解説の氷空さんは頼りになる。


「やっぱ刀いいなー。私も右手は直剣やめて、刀にしよっかなー」

「左は両刃のままがいいよ」

「いいじゃん。ソラみたいな居合いして、レイピアで突くのもかっこいいし」

「はぁ、そんなのできないって」


 自分が出場しないとこんなにも気が楽なのか。左がくれた新発売の果汁仕立てのフルーツキャンディを口のなかでコロコロしながら(私はみかん味)、お気楽ムードに浸っている。場が許せば、コタツにお菓子を広げてワイワイしたいくらいのノリだが、今日ははしゃぎすぎず、あくまでおしとやかめにいこう。



【Lady to Ready……Round 1…………On Stage.】



 初々しいレディたちが、周囲をキョロキョロしながらセンターラインを目指す。やはりドレソ自体の練習はそれほどできていないのか、どの子も姿勢がおぼつかない印象だ。仮に最初の試練も済ませていない子が紛れ込んでいたら、同情ものの絵面になりかねない。さすがにそれはないと信じたいけど。


 三島三中と呼ばれた側の子たちは、四人ともレイピア。厳密には剣種が違うかもしれないけど、それぞれ似たような細身の刺突剣を片手に、おっかなびっくり突いては慌てて後退する。砂浜を削る波のように不揃いな一列。ほほ笑ましい。

 だがしかし、戦術としてはそれほど間違いには見えない。無謀なリターンよりもリスク軽減を取れるわけだからね。格好なんて後付けでよいよい。


 結果的に、三島三中も磯倉もレイピアばかりだから、最初のうちは全体的に同じような押し引きが続いた。けれど一分も経つころ、磯倉の隊列左端、私から見てステージの手前側にいる子が徐々に押されはじめる。例の刀の子だった。


「あー、押されちゃってる押されちゃってる」

 一歩進んで、二歩下がる。結果的にズルズルとラインが崩れる。


「ああいう刺突は横っ腹を払うか、手首を斬ればおしまいなんですが」

「氷空じゃないだから。難しいんじゃない」

「刺突対策は近年の必須技能です。あの子もいずれ分かるはずです」

 氷空先生はなかなか手厳しい。


 実際、私も刀剣型のソードを持って対面すれば、たとえ相手があそこにいる子たちだろうとワタワタしてしまうと思う。メインソードが盾という変わった拗らせかたをしたものだから、なんだかんだ受けるだけで間に合っているけどさ。


 てか、刺突剣だろうが直剣だろうが曲剣だろうが大型ソードだろうが、どれもこれも立ち合いの前提が違いすぎるんだ。こういう点からも相手に全対応するより、自分の強みを先手に出せる攻撃型の選手のほうが理に適っているのが分かる。

 それを成しやすいのも、レイピアだってのがよく分かる絵面だ。


 やっぱりというか、刀の少女も十分な練習はできていないのか。あくせくしながら悪戦苦闘。ほかの子らも対面との押し引きにしか気を回せないようで、ステージ内は実質1vs1×四組といった様相だ。味方の援護も期待できそうにない。

 レイピア同士のほか三組が、まるでワルツのように決まった動きで押し引きしているのに対して、刀の子だけが一歩、また一歩と後退を強いられる。


「んー、逃げ道なくなってきたねえ」

「刀剣でも刺突攻撃は常套手段ですが、思考にないと突き返せないんですよ」

「ああ、そっか。紫織さんみたく、レイピアじゃなくても突いていいのか」

「まぁ、純粋な刺し合いとなると、最適化されたレイピア相手には不利ですが」


 思わず、刺し返せ! 刺し返せ! と心の内で念じてみる。

 が、たとえ実際に大声を張り上げたとしても、非情な黒壁で隔てられたステージ内にいる彼女には届くこともなく。当然、心の声などもっと伝わらない。


 その子はメイクオーバーエリアの近く、オレンジ色の競技線のギリギリ端のほうまで追い詰められた。三島三中の対面相手も、思いきりのいい突き込みを放った。それは磯倉の刀の子のお腹に刺さり、文句なしのフェイタルになった。

 そしたら戦線も瓦解。あとは順番に多人数で囲んで、おしまい。



【Queen Defeat……Round 1「三島三中」……Make Over.】



「うう、レイピアつよいね」

「見よう見まねなら、斬るより突くほうが簡単だからね」

 言ってるのが花だから、説得力がある。


 刀の子に自信があるのかどうかは分からないけど、少なくともドレソの実力はそうでもない。型はできているけど、実戦的な能力は高くない。たぶん、私でもフェイタルできちゃう。もっと言えばあの子に限らず、ステージにいる子たち全員ね。素人の中学生相手にマウンティングしたところで、恥ずかしいだけだが。


 しっかし私に限らず、朝女の面々は今、磯倉の刀の子を応援してしまっている。ただの判官贔屓なんだけど、目につくユニークさってのも大事な時代だしね。


 ただ私だけはたぶん、“ひとりだけ違う”ってところにシンパシーを感じている。ひとりだけ違うがために、負けてしまったことにも。妙に共感してしまう。

 あの子が成長すれば、私よりもよっぽど普通のドレソ選手になるだろうけどさ。今この瞬間、刀の子がメイクオーバー中に噛みしめているであろう、その胸の痛みは。きっと私にしか慰められない。氷空の技術的な指導では届かない。あの子が苛まれていることは、私が苛まれてきたことに似ているだろうから。


 直球で一言。「盾って、なにすんの? 剣もったら?」ってね。

 転じて「刀って、なにすんの? レイピアもったら?」ってさ。

 誰に言われるわけじゃなく、自問自答してしまうのだ。私みたいな子だと。


 先輩に選んでもらった三角盾はお気に入りだ。戦い方も嫌いじゃないし、珍しい自分にちょっとだけ酔っている節もある。たとえ先輩が面白がって選んだだけで、ドレソ人生においては無駄でしかないものだとしても。後悔はない。


(とはいえ、ね)


 朝女ドレソ部で堂々とクイーン張ってるワタクシなんて、いまだチームの勝利に貢献しているとは言いがたい。対面を生かさず殺さずの時間稼ぎ自体、優位なシーンもあるにはあるけれど。できればさ。もっと分かりやすいほうがさ。

 対面を倒しましたって言えるほうが、ない胸だって張りやすいじゃん?


 そんなこと悩むくせに、まともにアヤメを握ろうとはしない。

 刺せないかも。斬れないかも。技術もそうだし、気持ち的にも。

 ドレソをやっててそれなんだ。手のつけられない問題児だと言えよう。


 まあ、刀の彼女がどう思っているのかは分からない。勝手に重みを感じ取っているだけだから妄想でしかない。そんなとこより、戦いぶりをほめろって話だし。


 続くラウンド2は、選手みんなの肩の力が抜けているように見えたが、戦局は先ほどと同じようなものだった。寄せては返すロマンチックな波のように動く線上で、ただひとり、対面のレイピアに押されてしまい、ズルズルと後退したのち、あえなく撃破されてしまった刀の子。遠いから、表情までは分からない。

 試合もそのまま、人数差で囲んで叩いた三島三中の快勝で終わった。



【Queen Defeat……Winner「三島三中」End of Stage.】



 負けちゃったかあ、と。言葉尻こそ違えど私、恋子ちゃん、左がひとりごちた。花はきっぱりと勝敗を受け入れているようで、涼しい顔だ。氷空のほうはと言うと、あれま、眉間にしわがよっている。同じ刀使い同士、氷空にも自己投影するなにかがあったのかも。この子はこれで意外と感受性が高そうだし。


 ほうじ茶をすすり、今度は恋子ちゃんからチョコクッキーをいただいて、サクサクモシャモシャと租借し、追ってほうじ茶をすする。怠惰な休日の午前。

 続く試合風景も、出来をあれこれ言えない身分だけど、ビックリさせられるような強力な選手はいなかった。でも、退屈はしなかった。


 こんな大会でも眺めていると、私たちですら「ああいうときって、やっぱこう動くべきだよ」「恋子さんが前に出るとき、一言あると助かるかもです」などなど、自分たちならどうすべきか。その討論が白熱していく。

 俯瞰だからこそ見える、ステージの広さとその活用。個々人の対面対策はもとより、両隣のメンバーとの手の貸し借り、フォーメーションの前進後退についても、時間が経つごとに口喧嘩に発展しそうなくらいに各々の意見が出てきた。


 氷空いわく、こういう検討会は黒須第一などの強豪校ではわりかし取り入れられているらしい。直接的な対策知識にはならずとも、みんなの一面を知り、生かす機会を得られる。それがチームワークの醸成にもつながっていくんだと

 合気道は多人数戦がないから、チームプレイって観点では私もかなり弱いことが分かってきた。私らもいつも雑談でくっちゃべってばかりいないで討論すべきなのかも。つっても雑談は外せないから、代わりに練習時間を削ってかな。


 そうしていると、午前中に全四チームのリーグ戦六試合が終わっていた。選手たちの大半は、やはりというかレイピアを手にしていた。中学ドレソ女子で流行しているんだろうか。「ダガプリより鉄面妃だよね!」とかで。

 なかには直剣だけ、直剣と小型盾、重さでヨロめく大剣使いも見たけど、交代選手も含めてどれもチームにひとりだけ。練習場所や部活動にさらに難があるとされる中学ドレソ界らしく、JDS世代とは根本的に基礎訓練の差を感じる。


 転じて、そういった有象無象な環境だけに、一握りのスター選手がJDSで高校デビューのごとき華々しい活躍をしやすいのかもしれない。



 このあとの午後からはなんでも、運営競技会のコーチ陣による軽いレクチャーを交えながら、あらためて白黒つけない(という体裁の)試合をするらしい。

 私たちもせっかくだし見ていこうとなり、小腹の空いたお昼どきは総合体育館併設の温水プール施設のなかにある軽食屋さんで済ませて(ピリ辛ネギラーメン。680円なり)、そのほかの展示ギャラリーなどを見学して、時間を潰した。


 田舎のほうにある大型施設の、こういう「全部詰め込みました」って合理的な作り。楽だし気軽に違うテリトリーに足を運べるしで、けっこう好きだ。


「冬に温水プールってのも楽しそうですねー。律子先輩、今度いきましょーよ」

「却下。脂肪おとせてないもん」

「んな……先輩の夏向けボディだって、たいして変わらないのでは?」

「左、あんた、許すまじ」


 冬はあったかボディの季節だから。これは油断じゃないの。誇りなの。でも誇りを振りかざすのは人としてどうかと思うから謙虚にいたいの。お分かり?

 やっぱ、人によって脂肪分の行き先が違うのは、人類の欠陥だと思うわ。

次回「共感性女子高生」(3)。

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