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敗北のドレスソード  作者: 手遊花
朝倉女子 二年生編(冬)
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共感性女子高生(1)

 黒須第一大学で夜に差しかかるくらいまでのぶっ通し練習から、ヒイヒイ言って帰宅したのも、翌日になってしまえばいい思い出だ。

 明けて週がはじまる月曜日。その放課後の第二体育館でのこと。


「でーと?」


 最近は校舎に三年生が全然いないから、朝女はあんこの入っていないあんバターサンドみたいに見える。進級するほど味が濃くなるのに、味わい深いものから順番に消えていく社会の仕組み。刑事ドラマのトリックみたい。

 消えたあんバターサンドのあんの行方は!? 小豆の粒ならここにいるけど。


 とどのつまり、粒あんの一粒たる恋子ちゃんが持ちかけてきた甘い告白は。


「うん、ドレソ部のみんなでデートしよぉ」

 ってものだった。


「私はいいけど、どこ行くの」

「うーん、どこいこっかぁ?」

 デートのためにデートするってか。砂糖の投入前じゃ小豆も甘くはなれない。


「私もそろそろ卒業だしさー。最後にみんなでお出かけしたいなぁって」

「寂しいこと言うじゃん。これからだってあるのに」

「うん。だけど女子高生の私には、たぶん最後だからさぁ」

 寂しいこと言うじゃん、このー。


 放課後の第二体育館。ドレソ部の練習前。私は練習着のショートパンツを右足だけ突っ込んで、左足もさあ入れようかという姿勢で提案されたから、現代美術家が嗜好のままに作った微妙な彫刻モデルのような立ち姿で固まっている。

 タイトルは「下級生の安穏」。とても売れそうにはないね。


 霞さんと白峰さんは今朝、ライムライトのある海ノ橋へと帰っていった。なんでも、ライムライトのドレソ部で卒業前のお出かけに行くとかで。それを終えたら、三月ごろにまたドレスソードプラットフォームを借りにやってくるらしい。

 というわけで「私も私もぉ(恋子ちゃん風)」というわけか。


「花ちゃんたちはどこ行きたぃ?」

 あっ、さっそくアイデアを後輩任せにしやがったね。


「んんん、遊園地とかでしょうか?」

「遊園地っ! 花先輩はジェットコースター乗れます? 乗りましょうよ」

「イヤ」

「あー、すみません。乗れない感じの人でしたか」

「違います」

「ほんと~ですか~?」

「……本当だもん」

 嘘つけ。私は知ってるぞ、幼なじみめ。


 花なりの左に対する意地でか、あんなこと言ってるが。この子はビッグファイアーとかスプラッシュサンダーとかの冠を被った乗り物には腰を抜かす、典型的な非絶叫系女子である。乗れてせいぜい、愉快な速度で回るくらいティーカップみたいなものである。こりゃ、調子に乗ってたら左に現地で泣かされるね。


「スイーツの食べ歩きはいかがでしょうか」

「でたケーキクイーン。氷空のおすすめの店とかで?」

「やんごとない一日にしてみせますよ」

 自信たっぷりで目を輝かせている、が。


「無理だね。お顔とお腹がブクる」

「私も、一日に何個もは食べられないかも」

「私もー。ドレソやってないと運動量保てないかもぉ」

「ソラは胃下垂系能力者かもしんないけどね、ウチらは違うんだから」

「……そのあとドレソすれば大丈夫かも」

「だまらっしゃい。せめて遊園地の帰りに一店だけね」


 氷空のお決まりの提案は、満場一致で否決された。

 私だってできることならしてみたいよ。ケーキ屋さんめぐり。

 でも、そんなことしたら、ココがコウでコウなっちゃうもの。

 私も神さまに天性の才能を授けられるのなら、胃下垂ってやつがいいわ。


「かといって、ドレソするってのも芸ないしなあ」

「菖蒲ちゃんのときみたいな追い出し会はご勘弁だよぉ」

「氷空と花がいるしね。ああでも、私の盾百叩きとかだったらサービスするよ」

「それならやるぅ」

「処刑人め」

「あっ! じゃあ私のソードほしい人いるー?」

「いるわけない」

「んんん……」

「私は遠慮します」

「いらないすぎる」

「えー! もー!」


 ワイワイガヤガヤ。ちょっと物騒風味な、いつものガールズトーク。


 話はやれ温泉だ、やれ別荘だ、やれ海外だと。どんどん現実味のない高級志向に進んでいっては会話だけが盛り上がっていく。大学生なら行けそうだけど、私たちはアルバイトすらしていない部活女子だから。出せて一枚が限界だ。


「じゃあ国立動物園とか。観るだけなら安いよ」

「なら、私はお隣の美術館のほうが……」

「断然、博物館がいいと思われます」

「でっかい美術館とか博物館って、温かくて眠たくなるんですよねー」

「だったら演劇とかぁ、お芝居もぉ……あっそうだ」

 恋子ちゃんが少女のように鳴いた。かわいい。


「じゃあさー、みんなでドレソの大会でも見に行かない?」

 その一言はけっこう、すんなり、五人の腑に落ちた。



 ドレソ界において、二月から三月にかけて行われる大会と言えば、年齢所属関係なしの無差別級集団戦大会「無双剣 -MUSOUKEN-」である……が。

 あれは例年、京都で開催されるものなので足的な意味で却下。モニター越しで観戦するのもなんだかなあって空気になるから、今年の無双剣は録画で済まそう。


 ということで、私たち朝女ドレソ部がお選びしました大会は。


「おー、意外と人いるんだねえ」

「親御さんっぽい人が多いねぇ」

「ソラ、もみあげ崩れてる。こっちきな」

「うん」


 昨年もお世話になった、JDSの東京B代表地区大会でもおなじみのハコ。

 電車でちょっとのところの東京郊外にある、わりと近所の総合体育館施設。

 そしてタイミングのいい今日このごろ。休日に行われる予定だったのが。


「まあ、ゆっても中学生ドレスソード地域交流会だしねえ」

 なのである。


 JDSにウィンブレ、WLDに無双剣と。さまざまな公式大会で目だけは肥えている私たちだが。意外なことに五人とも見落としていたイベントがある。


「現地でドレスソードを観戦するのって、初めてですね」

 二番、花ちゃん。正解。


 正確には、私は去年のウィンブレで個人戦を眺めたことがある。ただ、集団戦を現地で生観戦したことはない。唯一、氷空だけは黒須の付き添いなどで何度も観戦経験があるみたいだけど、それでも私たち五人で観戦したことはなかった。


 JDSをはじめとするドレソの公式大会では現状、参加選手がほかの試合を観戦することが禁じられている。だからドレソをやってる側だと、生観戦する機会が意外とない。それにドレソをはじめていなかったら、ドレソに興味をもっていなかったはずの身だしね。実際にやってた氷空、観戦は好きだった花を除けば、ほか三人の中学生時代なんて似たり寄ったり。「ドレソって、ああ、あれ」くらいなイメージしかなかったものだ。大会観戦したくなったのも最近のことだし。


 こう考えると、ドレソをやってなくても応援しているファンの人たちって、ものすごく大事な存在だ。彼ら彼女らのエールがかけられるのは、間違いなく私自身じゃないんだけど、同志諸君、捕えて逃がさない意気込みは持っておこう。


「ソラもこういう大会出てたんでしょ。すげーね」

「まぁ、多少は。黒須第一みたいなとこじゃないと中学でドレソはやれないから」

「私も中学のときはドレソまったく知らなかったしなー。周りにもなかったし」

「そんなもんだよ」


 中学生ドレスソード地域交流会はその名のとおり、中学生女子がほどほどな感じでドレソの交流を図るというもので、ドレスソード運営委員会の協力こそあれど、少女たちの優劣をつける目的はない。とはいえ、当人たちはそれを糧にして、引きずって、将来の本命たるJDSへの弾みをつけるのだろうが。


 こういう週末大会自体は昔からそれなりに数があって、それこそ葉月や姿はそこらで名前と実力を上げていたらしいけど。大多数の中学生には無縁の競技。

 環境がよくて、すこしだけ背伸びしたら手が届く。そんな感じ。


 それでも、風向きはすこしずつ変わるみたいだ。

 ドレソの有名人を身内に持つ氷空だから、聞こえてくる話もある。


「ただ、これからは増えるのかも。プロシーンの発足に合わせて、中学校向けの施策も強化していくんだって。海音姉さんが運営競技会の人に聞いたって」


 無言で考える。そうなると間口が広がり、中学校教育からのドレソ人生も当たり前になって、JDSのレベルもグーンと上がっていったりするのかも。

 それって同時に、高校になってからドレソをはじめた私のような人にはつらい環境だよねえ。それが当たり前に近い部活動ってたくさんあるけれど、私なんて後年「純粋にダメな世代(略してJ・D・S)」と呼ばれてしまいそう。


 世代格差に歪んだ顔を「りっちゃん、顔が……」と花に心配されつつ、一般入場口へと進む。当然、入場料などない。受付も参加者だけ。入って観て楽しむ、それだけの地域大会だ。周囲の人たちも親御さんな年代の人が多く、中高生らしき子はほぼいない。いるとしてもジャージ姿だから、たぶん参加者側だろう。


 結果的に、この場にいるうら若き女子といったら私たちくらいなもので。

 それ自体は予想どおりだったけど。


(意中の女子を見にくる男子もいないんだ)

 そういう胸キュンもなさそうである。それに個人的には――。


「私らもジャージ着てくるべきだったかな」

「えっ、なんで?」

 花にまじまじと驚かれてしまった。


「いやほら、こう、端のほうで腕組んで視察してるフンイキ出すみたいな」

「えっ……なんで?」

「むー、どうしてぇ?」

「今日って新人の視察にきたのですか?」

 誰にも意味が通じてない。ひたすら悲しい。


「あー! それ! 私もやってみたかったです!」

 左ちゃんよお。やっぱ君だけが私の理解者だよお。



 館内はステージを設置する運動スペース、二階席、三階席の構造になっていて、座る場所も自由席。席は半分……いや、三分の一も埋まっていないかな。

 私たちが出場してきたJDSの東京B代表地区大会ですら、試合終了時に解かれるステージの黒壁の先が埋まり気味だったことを考えると、JDSという公式大会の集客力の高さがないとこんなもんか。全国大会なんか全国中継だしね。


 五人で陣取ったのは四角い会場の三階席の中央、さらにど真ん中の一帯だった。そこがステージ全体を俯瞰できそうな位置で、あと、めっちゃ空いてたから。

 保護者の大半は試合内容より身内が見られればいいのか、二階席の前のほうから埋まっている。おかげでこのあたりは、五人とも席に寝っ転がって観戦できそうなくらい広々とスペースを使える。はしたないからやらないけどねっ。


「花は知ってる学校あった?」

「んんん、さっき扉で見た感じだと、知らないところしかないかも」


 三階席の入口扉に掲示されていた本日のお品書き(対戦表)には、四つの参加校の名称が記載されていた。ちなみに黒須第一中学の名がなかったのは、レベルの違いか、二十三区外オンリーだからか。とりあえずそういうことらしい。


 試合形式もトーナメントではなくリーグ戦のようで、ステージもひとつだけ。「掘り出し物を見つけたらスカウトしちゃうおうよ」といった実現性の低い軽口を叩きながら、持参した水筒のほうじ茶をすする。容器の保温性が低いからかぬるまっているけど、猫舌な私にはこれくらいの温かさでちょうどいい。


 まったり落ち着いていること十五分ほど。大会開始の合図がなされた。

 最初に行われたのは、黒壁を取っ払われ、可視化されたステージ上での。


「かわいいよー、ななこー!」

「りな! 回って回ってー!」

「ゆうこちゃん、ステキー!」


 まさかの、参加者たちのドレスの披露会。

 なかなかカルチャーショックな光景である。


「なんじゃこりゃ。羨ましいような、そうでもないような」

「うちの朝女ドレスでやるのは、ちょっと嫌だねぇ……」

「言えてる」


 大会開始の宣言とともに、乙女たちの熱いプライドがぶつかり合うJDSと違い、この会場ではまず、ドレスを着装したお子さんたちのお披露目会が催された。

 誰もソードを着装していないし、人数も四校で計二十人近くいる。もしかしたらだけど、選手ではなく「ドレスを着にきた子」もいるのやも。


「ちゅーか、あの子らさ。ドレスの出来めっちゃいいよね。作ったのかな」

「案内紙には“本大会はパブリックオブジェクトも可”って書いてるよぉ」

「羨ましすぎる」

「だねぇ」

 恋子ちゃんも苦笑した。


 先日、元復讐対象とはいえ、憧れの白鳴ドレスを生で見たことで私のドレス欲は症状を再発していた。私もドレスらしいドレス着たい。ライムライトとか流星館とかみたいなやつ。黒須第一は心が沈むからノーセンキューですが。

 とくに紫織さんの桜花ドレスね。眩しくて目が潰れそうだった。あれはドレスを構成しているコーディネートだけはよく似ているから、余計に格差を覚える。


 オレンジジャージの代わりに、あんな桜羽織にするだけでも絵になるんだからさあ。やっぱりオレンジジャージが悪いよオレンジジャージが。だっさいもん。


「あの子、不服そうですね」

 この光景に自分だったらと考えて嫌気がさしたか、氷空がとある子を示す。


 ステージ右端。こういった七五三扱いが気に食わないのか、キッとした表情を崩さない子がいた。ステージの中心でワッキャワッキャと愛想を振りまいている子たちとは違って、「私はドレソをしにきたんだ」と。顔で物を言っている。

 たしかに氷空の目にとまりそうな子だ。彼女の心はすでに、ドレソ選手なのかも。今はまだ、親御さんの理解のために可愛がられる身に甘んじていても。


(がんばってるなあ。負けるなあ)

 声にすると、あの子の気に障りそうだから。応援は口パクでしておいた。

次回「共感性女子高生」(2)。

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