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敗北のドレスソード  作者: 手遊花
朝倉女子 二年生編(冬)
82/205

輝け、プロ見習いたちよ!(2)

 ズガンッ! ズガンッ! ズガッキン!

「はは! すごいなリッコちゃん! 恋子の言っていたとおり、堅牢だっ!」

「う、ぎっ、ぎっ! ぎっづい……!」


 霞さんの大きなクレイモアは、恋子ちゃん級に痛い。

 そのうえで恋子ちゃんより早いというか、技の精度がまるで違う。



 カキン! カキン! シャキン。

「へー! リッコちゃんほんとすごいわね! これ楽しいかも!」

「ふっ、ほっ、わっわわわ!」


 白峰さんの鍔なしの刀は、氷空の居合い級に鋭い。

 静かに見えて苛烈なところもきつい。あっ、やられた。



 カンカン、カン――シュッ。

「腕を磨きましたね、小枝さん。姿にも劣らない守りに感じます」

「んな、こと言っても、う、うへえ……」


 真田さんの柳のような日本刀は、とっても独特な剣筋。

 妖艶なリズムとテンポで、気づけばやられてしまうのだ。



 ガンガン! ガンガン! ガンガンガンガンガン!

「あっはー! 超楽しいー! うちにも一匹ほしーーー!!!」

「ぜ、ぜったいイヤですから!」


 ゆゆちゃんさんのショーテルは、徳永親分のそれよりもひん曲がっている。

 原型からして盾持ちを倒すためだけのような形状ゆえに、一番つらい。

 だけど、ゆゆちゃんさんはいたぶるようにわざと盾を叩いてきた。



「あっ、徳永親分はいいんで。やるだけ無駄なんで。私が」

「えー! そんなこと言わないでよ小枝ちゃーん!」


 徳永親分のシャムシールは、私を簡単にころすためだけのソードだ。

 あのラウンドアサルトだかを使われた瞬間、どうあれ私はしぬ。

 ってことですので、以上。やる価値なーし!



 現在は試合形式ではなく、十人でステージに入り、各々で準繰りに好き勝手に打ち合っている状況だ。やはりというか、全体的にプロ見習いチームのほうが優勢。沈黙のカカシになっていないだけで及第点ってくらい、私は歯が立たない。


 とくに私と恋子ちゃんは曲剣相手に弱すぎる。ほか三人にも強くはないけどね。左も直剣とレイピアの二刀流に慣れてきていて、わりとイイ線が見えてきているが、こちらは全面的にやられっぱなしで「うぐう!」とうめいている。

 ゆゆちゃんさんも性格悪いから、左との対面のときはさっきの腹いせとばかりに「はっはー! ざーこざーこ!」と愉悦ってる。さすがに口出そうかとも思ったけど、左は真剣な顔つきでふんばり、対峙していたから。よしておいた。


 そんななか花と氷空はいい感じだ。フェイタルの数では劣勢なものの、そのうえで3:7、相手によっては4:6、相性によっては5:5の勝率になっているくらい、真っ向から対面できている。花の力量が引き上がっているのは言わずもがなとしても、氷空もここ一年でより力をつけている印象だ。


 氷空に関してはいまだ雲の上の存在だから、私との実力差は実感できないけど。あの子もJDSのステージに立って、無愛想な顔ながらも毎日練習をがんばってきたんだ。強者に渡り合えるほどの成長があっても、おかしくはない。


「恋子、そろそろみなで試合をさせてもらってもいいか」

「ひー、ひー、いいけどー、分かってると思うけどー……こんな感じだよぉ?」

「構わない。手は抜かないが、君たちは興味深いからな」


 いやいや、興味深いのはありがたいことだけど。

 実のところ、それより興味があるのはあなたたちのほうでしてね。


「霞さんたちは、プロになるんですか?」

 先にそこですよね。


 尋ねられた霞さんは一呼吸の間を置いてから、聞きやすい声で語った。


「プロと言えど所属や金銭も関わらない。まだ形だけのことさ。プロシーンの本格的な発足に先駆けて、ここ数年のJDSで活躍した何人もの選手に声をかけているらしい。私たちの場合、今年の関東エリアで好成績な卒業組ってところだな」


 続けて、白峰さんが会話に乗っかった。


「私はドレソの前に剣道だけど、瀬里奈がやるっていうからね。抜け駆けされるのも癪だし。名義だけ貸すつもり。当面はまだまだ賃金がもらえるわけでもないし、賞金制の大会があるわけでもないみたいだし。大学生活のお遊びの一環かな。うちの大学にはドレソないけど、近所で練習場所を提供してくれるみたいだから」


 私もそこでドレソやらせてもらうんだぁ、と。同じ大学に進む恋子ちゃんの合いの手を挿み、続くは徳永親分。なんだかんだ、みんな話したいらしい。


「そのうち、デモンストレーション的なイベントマッチで召集されるみたいだよ。でも、私らは悲しいことに全国取ったとかでもないから。ダガープリンセスがどうするのかみんな知らないけど、近々でやるなら狂剣や紫御前あたり、JDSの名有り選手が顔役なんじゃないかな。それより前世代はもう社会人になっちゃうし。あとは無差別級大会の無双剣で活躍してる天剣衆とか、社会人チームかなー?」


 ついでに真田さんも捕捉してくれる。


「私もプロを目指した進路ではなく、大学生としての部活相当なんです。私が行く学校もそうですが、大学ではドレソが充実していませんので、人によっては競技から離れ、就職活動も控え、今さらプロを選択できない人も少なくないはずです。もし、いつかプロの道がきちんと整備されたのなら一考の余地はありますが、今はただ、もっとドレスソードをやりたい。そのために引き受けただけのことです。件のデモ大会もいつあるのか分かりませんが、怠けてはいられないですからね」


 最後にゆゆちゃんさんが。


「私がプロにならなかったら、ほかの奴ら全員プロになれないでしょ!」


 つよい。さすがゆゆちゃんさん。ブレない。


 なんだかんだで見えてきたのは、プロって響きからはまったく想像していなかった、ドレソらしいというか、相変わらずのしけた事情だった。

 競技としての一歩前進は感じるし、期待もするけどさ。お声がけを受けた選手たち当人からしても、それなりの保険(=大学)は欠かせないみたい。


 うーん、違うか。どっちかっていうとプロの道が保険か。大学卒業前までにドレソのプロがおいしくなっていたときの就活の保険、みたいな。

 大学生活で錆びついた腕前じゃ、プロの道への整理券も手に入らないもんね。それまで、やりたいことを好きにやったうえで迎え入れてくれるのなら、越したことはないと。さすがJDSで好成績を上げた人たち。人生戦略も優れている。


「意外としょっぼいんですねー、ドレソプロ」

 よしな、左。正直に言うの。


「違いない。だが運営のがんばりは、こちらも期待できるものではある」

 霞さんには、やれやれといった雰囲気がよく似合う。


「私は霞さんたちのこと応援したいです。だってすごいじゃないですか」

「ありがとう、リッコちゃん。応援してもらえるとうれしく思う」

「でもそれなら、普通に皆さんの学校チームと練習したほうが身になるのでは?」

「それが、今はどこも難しそうでな……」

 困ったように真田さんを見た。絵になる二人だ。あとを次いだ真田さんは。


「ライムライトは人数が足りません。大宮さんも藤堂さんも当面はそれぞれの専攻競技に力を入れるそうですので(巡流は無理だっての、と野次る白峰さん)。黒須第一はすでに瞬剣・新堂楓さんを筆頭に新チームを作っていて、ゆゆも追い出されたそうです(追い出されてないし、とゆゆちゃんさん)。ウチもお恥ずかしいことに……先週この話をしてからというもの葉月がやる気を出してしまい。次に対面するときはプロのステージですね、って。相手してくれないんですよ、あの子」


「ちょっと前は瀕死の捨て犬みたいに寂しがってたのに、手のひらクルッだよね」

 あっ、謎が解けた! 親分の言い分は、実は私もよく分かる。


 葉月ってば、先月あたりから「どうしよ律子……」「望さんも明日香さんもいなくなっちゃう……」って絶望して死んじゃいそうな空気感で悲しがっていたのに、一昨日から急に「私やるよ」「今年は優勝する」っていきなり男前になった。


 不思議に思っていたけど、それでかあ。わっかりやすい子だよ。

 でも、まあ、いいことだ。私的にも元気な葉月のほうがいい。


「それで朝女ですか。なんか、逆にすみません。期待ハズレでしょうに」

 とほほ……真の残り物なわけですよね、うちら。


「そんなことはない。むしろ、リッコちゃんたちとの練習は目的のひとつだ」

「そうよ。あなたたちは個性が強いから。メリハリが効いているのよ」

「小枝さんも猪戸さんも右野さんも、珍しいタイプですからね」

「花ちゃんと氷空ちゃんは普通にめっちゃ強いしさ。経験には最適なのよー」

「だから感謝なさい。ゆゆが相手してあげてるってことに」


 そういう理由があるなら……とは思えるけど。

 うれしいやら、もどかしいやら。私は“強さ”じゃないわけだしで。


 それでも結局のところ、私たちのほうがいい気にさせられて、ここからは人数も人数だしと5vs5での集団戦を行うことにした。

 といっても、そもそも五人チームでの集団戦はデフォルト設定には存在しない。ドレスソードプラットフォームを試合設定にしてもルールが対応できないし、したらしたでプロ見習い側のバラバラなドレスも統一しなくちゃだから。いつものフェイタルされたら「ブルブルしましたー」と自己申告する仮の形式となった。


 それゆえ、クイーン撃破も関係ないわけだけど。

 私らなりに全力のおもてなしをしようということで。


「花、こっち側に寄って」

「分かった。盾とエストック作戦だね」


 朝女側は、クイーンの私と花をステージ左端に寄せる「盾とエストック作戦」を主軸に、恋子ちゃんが大きな偃月刀で前のめりに前方周辺をけん制し、処刑人の左右にいる氷空と左がタイミングを見計らって打って出る戦法をとった。


 それでも対等には立ち会えないだろう……と思っていたものの、あれま。意外なことに試合は接戦だ。私は守れていて、花も刺せている。恋子ちゃんのけん制の庇護下にあると、氷空の居合い斬りもヒットアンドアウェイが機能しやすく、左の不規則な差し込みもフェイタルこそ取れていないが、目を見張るものがあった。


 こうしたチームとしての連携が、拮抗した試合模様を作り出していた。


「明日香、君は花ちゃんを頼む。私はリッコちゃんを抜く」

「はーいよ。でも、あの二人が固まると、エストックには近づきづらいね」

「そうだな。花ちゃんのことは鉄面妃だとでも思ってぶつかるといい」

「それいいね。ま、そこまでいくと、まだまだ荷が重いけどさ」

 霞さんと徳永親分が、私たちを攻略しようとぶつかってくる。


 相手チームは適度に隊列をローテーションしている。そうでなければ、私や恋子ちゃんに曲剣使いの二名を当てるだけで、大体抜けてしまうからだ。


 しかし霞さん、白峰さん、真田さん、徳永親分、ゆゆちゃんさんという絶対的に個人値が高い人たちでも、まだチームとしては醸成していないようで。


「翼っ! 猪戸さんをきちんと抑えてください! 私とゆゆが出られません!」

「っざけないで望! 脳筋じゃないだから、あんなゴリラと打ち合えるかっ!」

「もー! 誰がゴリラよぉ!」

「あん? 恋子のほかに誰がいるってのよ」

「もーーーっ!!!」

 誰のことかは分からないけど、恋子ちゃんをゴリラ呼びとは失礼しちゃうわ。


「ぷぷ。なら望がやってみなさいってのよね。あ、いでっ、だっ、わきゃっ」

「ゆゆ! 天河さん相手に油断しないでください!」

「クソガキが。また天河さんに稽古つけてもらったほうがいいじゃないの?」

「うっさいぶち殺すわよあんたら! 氷空も、調子のんないでよね!」

「はぁ……っし、きし、きし」


 お強い人たちなのに。なかなかにどうして、しっちゃかめっちゃか。

 氷空や花だけでなく、恋子ちゃんや左もときどきフェイタルできる始末だ。


 プロ見習いチームの中心的な存在は真田さんで、試合では彼女がリーダーシップがとるようだけど。ほかの四人も指揮に準じて動いていながら、有機的な連携にはつながっていない。霞さん&白峰さんコンビですら、意外にもチグハグだ。

 なんていうか逆に、私らってケッコーやるのかも。って思えてきてしまう。


 つってもね。そこは地力の差があった。一時間も経つころには各々が調整できたのか、徐々に朝女側が押されるようになる。とくに恋子ちゃんの頭さえ抑え込めば、氷空はまだしも、左には対等に対面できる相手がいないから。「ぎゃあ! フェイタルです!」あっさり自己申告させられてしまい、戦線が崩壊する。


 正直、未完成な彼女にばかり敗因を背負わせてしまうのは、朝女の問題だ。

 だから途中、こちらの隊列を私、花、左、恋子ちゃん、氷空で組み直した。


「左は花の隣ね。氷空がステージ右端で」

「左ちゃん。私はりっちゃんの助攻が主だから、あまり助けられないからね」

「そんな殺生な~!」


 恋子ちゃんが抜けた来年のことを考えて、一応は考えていた新たな隊列。

 単身単独で戦える氷空をステージ右端に据えて、花が左隣の私を助けつつ、右隣の左のお世話も少々する、といった目論見のフォーメーションである。はあ、ほんとこういうとき、左の名前は紛らわしくて困る。


 これも即急での対応とあり、天才もいないチームだから劇的な効果とはいかなかったけど。花は口で言うよりも左のフォローを欠かすことはなくて、「前方・左右の対面にもエストックでけん制できる」ことを教えてくれた。

 しかし当然、それだけ彼女の手数が散ってしまうから、盾とエストック(とときどき右の左ちゃん)作戦における守りの効果が薄まる。


 それに花自身も。


「いただきます」

「あふっ」

「うふふ、いい作戦だと思いますが、日影さん自身の守備が手薄ですよ」

「……精進します。真田さん、続けてお願いします」

「よしなに」


 花の気がそれた瞬間、彼女自身が抜かれることが増えた。ゆえに私も左も多少の援護ではしのぎきれず共倒れと。やられるときは一斉に瓦解することから、朝女の弱点が花になってしまっている。それでも、立ち会える時間は増えたが。


 二時間ほどぶっ通しで集団戦をし、休憩中にお弁当を食べて(左と徳永親分が作ってきた、みんなでつまむ用のおかず箱が、お嫁さんレベルで美味しかった)、

その後も集団戦、小休憩、個人対面、小休憩、集団戦を繰り返した。

 陽が落ちるころになると、全員が全員疲れ果てていて、ヨボヨボな状態で戦っていた。最終的にはプロ見習いチームが実力をみせ、勝ち越された。


 やっぱ強いねえ。そう口にするのは簡単だけど、やっぱ悔しいねえ。



 誰が言うでもなく「さすがにそろそろ」といった時間になったころ。

 計十名の女子たちが五人ずつでシャワーを浴びた。練習疲れを温水でほどよく洗い流したあとの脱力の時間は、更衣室でのおしゃべりに使っていた。


 プロ見習いチームの人たちによると、彼女たちはこれから毎週末、どこかしらの知人筋に赴いてはドレソ行脚を繰り広げるらしい。流しのプロだ。すこしだけ憧れたけど、その気持ちを満たすには、私の盾の腕じゃ足りなさそうである。


 だけど、霞さんからのちょっとした提案が、私の欲求を汲んだ。


「それで、来週末は黒須第一に挑むのだが。リッコちゃんたちも一緒にどうだ?」

「えっ、霞さんたち、黒須第一には断られたのでは」

「ゆゆのほうじゃない。あの狂剣がいる、黒須第一大学のほうだ」

「ああ、海音さんのほうの」

 つまり“真の黒須第一”のほうらしい。


「そうだ。狂剣に紫御前。それと部には在籍していないらしいが、鉄面妃もだな」

 狂剣に紫御前に鉄面妃。えっ鉄面妃? 鉄面妃ってもしや。


「鉄面妃って……ええ!!! まさか、あの、白鳴の副部長さん?」

「ああ。近年のドレスソードでは最強選手と名高い――鉄面妃・四ノ宮彩姫だ」


 それを聞いた小枝律子さんと言ったら、ドレソ選手としてではなく、ミーハー心が先立ち、ほかの子らに相談することもなく「行きたいっ!」と言い放った。

 ほかの朝女メンバーも、私の白鳴ファンっぷりを知っているからか。誰もとくに嫌な顔を見せず、二言返事で次々と了承してくれた。


 憧れのダガープリンセス・七咲鈴子さん……ではないけれど。

 ダガプリと肩を並べて戦った今世代最強剣士、鉄面妃に会える。

 私はこのとき、黒須第一大学がファン感謝祭会場に見えたものだ。

次回「リンちゃんって呼ばないで」(1)。

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