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敗北のドレスソード  作者: 手遊花
朝倉女子 二年生編(冬)
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輝け、プロ見習いたちよ!(1)

「あら、気持ち悪い声が聞こえたわ。話しかけないでくれる? 気持ち悪い」

「うふふ、つれませんね。顔を合わせるのも一年ぶりですのに」

「同じ一年生なのに不思議よね。逃げ回ってくれてるんでしょう? 助かるわ」

「戯れ言を。あなたとは人と人との縁すらまみえない、それだけのことです」

「そこだけは同感。気持ち悪くてたまらないから早く消えて」

「うふふ、相変わらずお変わりありませんね。まるで進歩していません」

「ねえ、話しかけないでって言ったわよね? 気持ち悪いから」


 ふむ。いや……なんじゃこりゃ?



――――――――――――――――――――――――――



 ここ数年でも寒くないほうの厳冬。ニュースメディアはこぞってそう呼ぶけど、二〇三六年。二月中旬の週末。朝倉女子の第二体育館はやっぱり寒い。


「う~、さぶっ」

 ご自慢のポニーテールをぶん回しながら、走る私。


「ひーっ! 寒い寒い! 律子先輩さむいです!」

 肩にかかる長めの髪を振り回しながら、左も状況説明。いやこれ罵倒か?


「左ぃ。そのまま走り回って、左の体温で館内の空気あっためてよー」

「おばかっ! 無茶言わないでください!」

 キッと睨んでくる。左はとくに寒がりだからね。


 今日は学校もお休みの日だけど、私たち朝女ドレソ部の五人は午前中から第二に集合し、ドレスソードの準備を進めようとしていた……ところ。

 今日はとくに寒すぎた。第二は見た目がボロく、暖房設備こそないものの、作りは意外としっかりしている。だから保温性はあるんだけど、二階の窓がね。


 最近、立て続けに三枚も割れちゃったことで冷気を呼び込みやすくなったのか。はたまた応急処置が下手だったのか(担当:小枝律子)。今日はとくに寒い。

 といっても、寒がっているのは館内温度を最初から分かっていたくせに、それでもとハシャいで先んじて着替えを済ませしてしまった、薄着の私と左だけ。


「むー、さむー。先にドレスソードプラットフォーム点けよっかぁ」

「あっ、恋子さん。私も手伝います」

「なら私も」

「うん、ありがとぉ」


 恋子ちゃん、花、氷空の三人はコートを着たまま、ドレスソードプラットフォームのほうに向かった。べつに、起動にはDSチップ(ドレスソードチップ)をかざしてポチッとするだけなので、三人ぶんの手なんていらないんだけど。

 きゃつらは“第二のストーブ”がいい具合になるのを待つわけだ。


「ふ~、あったかぁ」

 あったか恋子ちゃん。今日はハーフアップに気合が入ってて、かわいい。


 彼女たちはドレスソードプラットフォームを起動し、まだ使うわけでもないけど真っ黒なステージを出力すると、ステージやドレスなどの設定をするコンソールの横、黒いダンボールのような四角形の高度情報出力装置にペタペタと触れた。

 これが、これこそが、第二ならではのストーブなのである。


 ドレスソードプラットフォームは人体に危険なほどの発熱こそないけど、起動中はそれなりにエネルギーを使うのか(まあ当然だよね)、ドレソをやっているとポカポカするホッカイロになり、ほどよい暖房機器になるってわけ。

 まあ、そのおかげで冬はよいよい、夏は灼熱地獄に加担するんですけどね。


 私と左もすかさず輪に加わり、五人で囲炉裏を囲むように談笑する。十分も経つころにはいい感じの温度になってきて、恋子ちゃんたちも着替えに向かった。

 練習着は速乾性の薄いスポーツウェアに短パンだから、寒いのは当たり前なんだけど、なんだろうね。「練習するぞー!」みたいな気分って、寒さも気にならなくなる魔法だから。体温の高い女子なら、やりはじめてしまえば強いのだ。


 つっても、着替えたばかりの寒さはやっぱり身に堪えるので。


「いやー! さむいぃ!」

「ううう、寒い」

「……っ」


 恋子ちゃんも花も氷空も更衣室から出てきた途端、すぐに黒ダンボールに寄ってきて暖を取りはじめた。黒ダンボール君、いつも私らのドレスやソードを出力してくれていて、夏ごろは「こっちこないで!」(彼はべつに動きません)と毛嫌いされているのに。冬場だけは見違えるほどモテ期なんだから、許してよね?


 そうして黒ダンボール君が、少女たちの愛を一心に受けていると。

 第二の入り口付近から人の気配がしてきた。


「失礼する」

 凛とした、女武士のような一声。


「わー、瀬里奈ぁ。いらっしゃーい」

 “三人娘”のひとり、恋子ちゃんが応答した。


「受験日以来だな恋子……どこも高度情報出力装置で温まるのは一緒か」

 ドレソ女子のあるあるなのか、私らの光景に霞さんが肩をすくめてみせた。


 ライムライト女学校。三年生。霞瀬里奈さん。夏のJDS地方大会では練習中の情報交換から、当日の試合まで。いろいろとお世話になった人だ。

 そしてまもなく、彼女の後ろからお連れさんのほうも姿を見せる。


「失礼します」ライムライトの白峰翼さん。

「こんにちは」流星館女学院の真田望さん。

「こんにちー」同じく流星館の徳永明日香親分。

「……にちわ」最後に黒須第一の丘町ゆゆちゃんさん。


「翼もぉ、皆さんもぉ、お久しぶりでーす!」

「恋子、声大きい」

 はしゃぐ友人を白峰さんがたしなめた。


「えー、だってうれしいし、楽しいんだもーん」

「子供か。ああ天河さん、お久しぶり」

「はい、ご無沙汰しています」

「今日はありがと。あなたとまた対面できるの楽しみだったから」

「そうですか」

「はは、相変わらず寡黙ね」


 夏のJDSでガッツリ打ち合ったときに氷空を気に入ったのか、白峰さんは彼女をかわいがっている様子だ。てゆうか氷空はもしかしたら年上に好かれるタイプか。なのに氷空自身はちょっと面倒そうな、いつもどおりの素振り。

 悪い気はしていないだろうけどさ。先輩好きだけど先輩に嫌われている片割れと比べると、かわいそうなくらい真逆だ。左ちゃん、なむー。


 その一方で、流星館の面々はというと。


「日影さん。ウィンターブレードでの活躍、拝見しました」

「恐れ入ります」

「まさか私のラウンドアサルトがパクられてたとはね。花ちゃんさすがすぎー」

「……申し訳ないです。弁明もできません」

「いいっていいって。なにより対姿ね。まさか、あんな邪悪な戦法あるなんてさ」

「あれには私たちも驚かされました。姿もよっぽど堪えたみたいですよ」

「ううう、恥ずかしいです……」


 花の昨年のウィンブレでの活躍を称えつつ、大いに弄っていた。


 まあ、無理もないよね。あれは、ほめるも貶すもなにか一言を言いたい人しかいないってくらい衝撃的な一戦だったから。とくに日ごろからあの成瀬姿と練習し、対面している人たちなのだ。いろんな意味で面白おかしいことだろう。


 そして最後に、輪からあぶれた残り物の面子はというと。


「……」

「……」

「……」

 シラーっと。冷たい温度差が漂っている。


 残り物の乙女は私、左、そして丘町ゆゆちゃんさんの三人。

 個人的に知っていることと言えば、一年生のころのJDSで黒須第一と対峙したとき、ステージ反対側からひたすら聞こえてきた奇声の数々――。


 どっひゃらー!!!

 じゅびびびび!!!

 ゆゆちゃん斬りい!!!


 私は氷空の姉の狂剣・天河海音さんと、ハンマーのような幅広大剣でひたすらぶん殴ってきた金森時乃さんとの対面で、生きることに精いっぱいな状況だったから。試合中はほとんど気にならなかったけどさ。

 恋子ちゃんと対面していた「ゆゆちゃん」なる存在はヤバかったらしいし、私も後々になって思い返してみて、うん、あいつぁヤベえと思った。そしたらやっぱ、ドレソ界隈のみんなもヤベえと思っていた人だった。けっこー有名人だ。


「は、はじめまして。朝女の一年、右野左です」

 おお、左。勇気を出して自己紹介しやがったね!


「……ふんっ」

 おお、ゆゆちゃんさん。そっぽむいた……ヤベえ。


「ちょっ、下級生が挨拶してるのに、そういう態度はないんじゃないですか」

「ふんっ。うっさい。ばーか、ざーこ。右で左? 意味わかんないっての」

「ちょ……なんだこいつ」

「ああん!? こいつだぁ!? ゆゆさんって呼べよザコガキがよーっ!!!」

 うおお、ゆゆちゃんさんがキレやがった。


 私よりも背の低い左、よりも小さなゆゆちゃんさんだが、迫力がある。私は小心者だから思わずビビってしまい「左ぃ、謝ってえ……」な気持ちになる。

 でも、ヤバいのは彼女だけじゃなくて。実はこっちもヤバかった。


「は? 挨拶ひとつまともにできない上級生さまのくせに、なにさまですか」

「ああん!? ザコガキがマジぶち殺すぞ!」

「ソードもないのに大口叩かないでください。私は礼節の話をしてるんです」

「なんだザコガキ! ざっけんな!」

「ガキはどっちですか。いいから挨拶してください」

「おまえぶちころ――」

「いいから。早く。挨拶」

「だっ、おま――」

「早く。挨拶しなさい。高校生ですよね? もう大学生ですよね?」

「あっ、がっ」

「早く。早く!」

「わっ、かっ……こ、ころーす!」

「んなのいいから、さっさと挨拶しなさいって、言ってんですよガキがっ!!!」

「うっ、ぐぐぐぐぐ……」


 左さんのほうがマジで怖かった。

 ええ……? 左さん、そんなキャラだっけ?

 彼女は今、見たことのないゾーンに突入してぶちキレている。


 私、左との初対面のときにかなり横暴やったけど、もしかしたらこんなふうにキレられるようなことしてたのでは? あれってもしや綱渡りだった? ってか、ここまで礼節のことでキレるとは……びっくりすぎるんですが。

 それかあれかな。見た目が自分よりもちっちゃな相手は、こんな感じで琴線に触れるんだろうか。左って氷空相手にもだけど、基本はお姉ちゃん肌だもんね。


 今や左のほうが高圧的にゆゆちゃんさんを攻め返していて、私はひとりハラハラしていた。どうしよ。どう収めんのこれ。もー、霞さんとか白峰さんとかは笑っちゃってるし。流星館側もほほ笑ましげに見てるだけだし。


 猫と虎、転じて虎化した猫vs猫化した虎の間に分けて入ったのは。


「はぁ……ゆゆさん。すこしは大人になってください。左も、失礼だよ」

「うっさいバカ! 氷空のくせに! バカバカ、バーカ!」

「コラァ! うちのソラになんてこと言ってんだ! 謝れガキ!」

「はぁ……そういうのいいから、二人とも静かにして」

 氷空が中間に身を入れ、二人を引き離した。


 珍しい光景すぎて、またもやキョトンとした。けど、やり取りを見ていてピンときた。ああ、そういえば氷空って、黒須第一中学からきたから。


「ゆゆさん、お久しぶりです。それと大人げないです」

「ふんっだ。あんたなんかもう知らないし! 黒須から出てった負け犬ぅ!」

「はぁ……あのときは話もせず、すみませんでした」

「ふんっ」

「一緒に全国いこうって。言ってくれましたもんね」

「ふん」

「ゆゆさんとまたドレスソードができて、私はうれしいです」

「ふん……」

「三年前とは逆ですね。今はもう、私が教えることもなさそうです」

「なっ、バカ! 氷空のバカ! ゆゆちゃんのほうがとっくに最強だっての!」


 つじつまの合う関係性を見せつけられて、私はホッとしたし、左さんも常温に戻り、左になっていた。助かった。ブチキレ左さん、かなり怖かったし。


 一波乱を見ていた面々も「ゆゆ、いい加減にしろ」「ほらクソガキ、ちゃんと謝りな」「ゆゆ、皆さんに失礼ですよ」「ゆーゆ、やってくれるねー(ケラケラ)」と口々に弄りはじめる。あちらさんは同じ三年生同士だからか、すでにゆゆちゃんさんの飼い方も理解しているようだ。それに、ああ、そうだった。


 これからこの五人は一緒に、“プロの見習い”になるんだもんね。


「リッコちゃん、ウチのゆゆが失礼したな」

「うざいセリナ! 保護者ぶんな!」

「いえ、お構いなく。どちらかというとウチの左のほうが失礼を」

「はー? 律子先輩、私は当たり前のこと言っただけですが?」

 強く当たってくる。尾を引いてるのか、私も若干ビビり気味。


「……そうだな。厳しい後輩さんだな、彼女。私も気を引き締めるとしよう」

 霞さんが神妙にうなずく。いやいや、霞さんなら問題ないのでは?


 ステージ外での一触即発は予想外だったけど、良くも悪くも初手で力関係を明示されたからか、ゆゆちゃんさんもわりかし静かになった。

 それを見て、一件落着とばかりに、白峰さんが手を叩きながら流れを生む。


「よし、クソガキも黙ったし。恋子、そろそろいいかしら」

「うん、こっちは準備できてるよー。あっ、翼たちの更衣室こっちねぇ」

 恋子ちゃんがプロ見習い五人を更衣室へと連れていった。


 そう、私たち朝女はこれから。

 彼女たち、ドレソのプロ、その見習いになるという五人と。

 なんでか分からんけどドレソることになっているのだ。

次回「輝け、プロ見習いたちよ!」(2)。

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