You Occupy My Thoughts!!【エピローグ】
短い秋は気づけば通りすぎてしまって。年末年始を滞りなくまたげば、厳冬の寒さが骨身に染みるようになった。年が明けた二〇三六年。二月の中旬。
「恋子ちゃんっ!」
「はぁい」
「大学合格おめでとー!」
「おめでとうございます、恋子さん」
「おめでとうございます」
「おめでとでーす!」
私たち朝女ドレソ部は今日も今日とてやかましい。
「えーん! ありがとぉ! みんなぁ!」
涙してないけど感動する恋子ちゃん。かわいい。
ドレソから離れて、勉強に時間を費やし、一月末の大学受験に臨んだ恋子ちゃんは本日。晴れて第一志望の私立大学の合格通知を手に、第二へとやってきた。
今朝、事前に「合格したよぉぉぉおおお!!!」の連絡はもらっていたものの、せっかくだし、後輩一同であらためてお祝いしているわけだ。
「恋子さん、これ。私たちみんなからの贈り物です」
「えっ、なになに……わっ! すごーい! かわいい! インクペンだ!」
「みんなで選んだんです。よかったら、使ってください」
大学合格おめでとう祝いとして、先週みんなで買いに行っていた、オシャレでちょっとお値段が張るアンティーク調のインクペン。授業でも日常でも直筆が減ってきた現代っ子には、細かい機会での“チラ見せ”が差になる。
なにより喜ばしいのは、恋子ちゃんに笑顔で贈れたことだね。不吉に不謹慎と言われようが、なにがあるか分からないのが受験というものだし。
「う~、花ちゃんもみんなもありがとぉ!」
恋子ちゃんが花に抱き着く。ちょっとお、私にもやって?
第二に顔を出した恋子ちゃんは、約半年ぶりの“オリジナルな恋子ちゃん”の柔らかさに戻っていた。受験のプレッシャーからうまいこと解放されたようで、気分もそれこそバラ色な感じ。人生の岐路に立った次期大人の世代とはいえ、私たちなんかまだまだ女子高生。少女の顔からの卒業はもうすこし先でいい。
「今年度もあとすこしですね」
恋子ちゃんに抱擁されても、花は困り顔になることなく受け止めている。
昨年秋のウィンターブレードの三回戦。花は流星館の姿とぶつかった。その際、末恐ろしいほどの善戦を観客の目に焼き付けたが、最後は惜しくも討ち取られて、彼女の挑戦は十月初旬に幕を下ろした。ただ、あの日の決戦は各所で話題となり、日影花は流星館のご近所の名物選手として、チラホラ名を上げた。
概ね「めっちゃ悪辣!」「ちょー外道!」と好意的(?)に受け止められているけど、なかでも東京B代表地区の各校では、OBから逸話でも耳にしたのか、久々に「やっぱ朝女って邪悪の申し子だ」といった悪評も立ち上っているらしい。
それを教えてくれたのは流星館の面々だけれども。
だってうちら、元から交流関係が断絶されてるんで。
一方で姿のほうは、花の成瀬姿殺しのメソッドからインスピレーションを受けた一部選手により、その後の戦いも大いに苦しめられた。「なんで姿だけ」って思っちゃうほど的確に嫌な手を押しつけられていて、私が申し訳なくなるほどだった。彼女はおそらく、昨年もっとも苦境を味わわされたドレソ選手と言える。
しかしそれでも姿は、花の邪悪な手を振りほどき、地区大会を制し、十一月の地方大会も全勝し、昨年十二月のこと。全国大会で個人優勝を果たした。
姿が優勝するまでに受けたフェイタルの数は、わずか一回。花がもぎ取ったアレひとつであった。花との対面以降、対戦相手の誰もがなにかしらの嫌がらせ対策を持ち込んできた環境にあって、ヒロイックな全戦完勝をして見せた。
今年は例年よりもスター選手が少なく、JDSの有力選手も葉月たちとWLDに参加していた都合上、対抗馬が薄かったのは事実である。
とはいえ姿は、そんな揶揄をもろともしない戦いぶりを披露した。誰々が参加していれば、などとも言う人も出てこない。いるとしても「どの選手なら成瀬姿に勝てるか?」というドリームマッチを夢想する人たちくらいのもの。
やっぱり成瀬姉妹は、どっちもお星さまのような存在である。
なお、葉月が参加したWLD日本代表チームは、アジア大会を総合二位で上位突破し、先月一月、世界大陸大会に臨んだ。結果は超アグレッシブなスペインが一位、隊列を崩さぬライン攻めがすごいスイスが二位、一部選手の不調もあり日本は三位と銅表彰。期間中は葉月が「黒鉄千草ふざけてる」「黒鉄なぐりたい」と、チームメイトとの不和に憤っていたが、私がリアルタイムでなだめていたものだ。
言ってみれば私、日本代表を陰日向で支える名脇役だったと言えるね。
それになんだかんだ、ドレソが生活の一部になっているのを実感する。
JDSもそうだし、ウィンブレもWLDも無双剣もそう。朝女に入る前までは目にすらしていなかったドレソの大会に、これほどまでに興味を引かれるようになったんだもの。まあ、今のところは私も出たいという野望ではなく、ステージの先にいるヒーローを眺めるスポーツ観戦の感覚だけどさ。そこはしゃあなしよ。
「恋子さんって、ライムライトの方々と同じ大学にいくんですよね」
「うん。瀬里奈と翼と一緒ぉ。二人も合格したってー」
「羨ましいです。でもそうですよね……私も来年は受験なんですよね」
花の言葉にドキリとする。そうか、私もだ。
「まだまだあるから大丈夫だよー……あれっ、瀬里奈から連絡だ」
恋子ちゃんは気休めの一言だけして、私たちから意識をそらした。
気が早いかもだけど、私と花は来年、もう大学受験なんだね。あっという間だ。クラスでも準備してる子はすでに準備してる感じあるし。
あっ、まずい。さっそく憂鬱になってきた。
「ソラぁ。私たちも一緒の大学いこーぜー」
「左は……テストもうちょっとがんばったほうがいい」
「いいの。今は右肩下がりだけど、ここから右肩上がりだから」
「はぁ」
勉強とドレソに強い氷空が、勉強とドレソ以外に強い左をたしなめる。
私も人のことを言ってらんないけどね。
チラッと視線を動かすと、花と視線がかち合った。
「……」
「……」
無言。絶妙に微妙な間。そして目をそらす両者。
朝女には自然にというか、消去法的にというか、私が受験すると言ったから花もついてきてしまった、みたいな。個人的な落ち度がしこりになっている。
こうしてドレソ部で一緒にがんばれているし、花はウィンブレでも存在感を現したし、結果的に朝女はイイ進路だったと言える、けども。
はてさて……次の行く先はどうなるものか? まだ二人とも口にできる段階じゃないけど、今の花ならなんとなく、自然と相談してくれる気もする。
花は最近、部長らしさも身についてきてるからね。頼もしい感じだ。
周囲の人たちともよく話せているし、とくに姿とは超仲いいし。
ただ、ウィンブレの決勝戦のとき。私は部屋で花と二人、コタツに入ってみかんを食べながら姿の試合を観戦していたけど、彼女の優勝が決まったとき、花はすぐに連絡をする素振りはしなかった。端末を弄りはじめたのも、じゃあねって言ってから、帰宅しはじめたときだった。実際に戦って負けたからこその思いもあるんだろうけど、どんなメッセージを送ったんだろうね? いじらしく、恥ずかしそうに文面を考える花の様子を想像すると、あいかわらず自慢の幼なじみである。
うーん。私とは違う間柄で、花の数少ない友人としての友情を一身に受ける姿は、ちょっと羨ましいものがあるね。私も知らない一面が見えたりしてさ。
嫉妬とまではいかないけど。うーむ、姿はなかなかに幸せ者だ。
「ねー、みんなぁ」
突然、恋子ちゃんがゆるーい動物のように鳴いた。
「ん? なにい」
早押しクイズじゃないけど、答えたのは一番、私。
「なんかね、瀬里奈がね、なんかドレソのプロの見習い? になるんだって」
「プロ? なにそれすごいじゃん」
「だよねー。卒業祝いのついでにプロお祝いもしなくちゃだぁ」
「てゆうか、プロシーンってほんとに始動するんだ。都市伝説かと思ってた」
昨今、ドレソマガジンでも急激に話が取り上げられなくなっていた、ドレスソードのプロシーンの話が、まさかこんなところで浮上するとは。
やっぱし、できる人たちが水面下でがんばっていたのか。しかも、あの霞さんがプロかあ。雰囲気からしてプロってか達人っぽいし、人選には納得だ。
「それでねー、卒業前に朝女チームと練習できないかだってぇ」
「うん?」
「だから、朝女と練習したいんだってぇ」
「なんで?」
「さあ?」
連絡というのはいつだって突然やってくる。準備万端でいざ参る、とはいかないものだ。恋子ちゃんの発言の半分以上が意味不明であっても、予期でないままでなんらかの返答をしなければ、人と人との付き合いは回っていかない。
「いやあの、戦力的に話にならなくない? 流星館でいいじゃん」
「んーとねー……わっ、翼もだって。あと流星館の真田さんと徳永さんも」
「すごい面子。ますます無理じゃん」
「あとはー、黒須第一のゆゆちゃんみたい。五人で見習いチームだってぇ」
「丘町さんかあ……」
「ゆゆちゃんだねぇ……」
なんとも言いがたい空気になる。いやべつに、悪いわけじゃなくて、なんというかあの人って「丘町ゆゆかあ……」みたいなオーラあるし? みたいな?
「つまり、いずれも関係ない学校の朝女だから、ということでしょうか」
花が口をはさむと、恋子ちゃんがビンゴって顔で答える。
「なのかもー。詳しくはあとでみたいだけど、今週末あたりにどうかってぇ」
「ずいぶん早いね」
「みんなも私も卒業近いしねー。それで、どうする? みんな的に?」
「どうするっていっても……やるっきゃなくない?」
「だよねぇ」
プロの見習いってのが、わざわざ朝女を指名して練習する意味は分からないものの、どちらかと言うと恩や縁のある先輩方に、卒業前のドレソパーティを楽しんでもらいたい――そういう意味であればやりたくはある。
実際、恋子ちゃんを含む五人の見解も、そっちの意味合いが強かった。
「じゃあ、オッケーってことで。恋子ちゃん、返事おねがーい」
「ふぁーい」
「ちょっと律子先輩。そういうのは花先輩に言わせるもんですよ」
おっと、左の言うとおり。ノリで音頭とっちゃった。
「これは失敬。花部長、あらためてどーぞ」
「いいよ、りっちゃん。いつもどおりで。そっちのほうがらしいよ」
「ややダメっしょ。来年の新入部員のためにもさあ」
「なら、やっぱり部長はりっちゃんがやるのはどうかな?」
「え」
二秒、場が凍った。
「――うそ。じょーだんだよ」
花が朗らかに言う。
「な、なんだ冗談か。一瞬、花が部長やりたくないのかと思っちゃった」
「花先輩。冗談どころか、ちゃぶ台返しになってますからそれ」
「……興味なさげな声色が真に迫ってました」
「そもそも新部長って、現部長の私が任命するんじゃないのぉ?」
「うふふ。冗談だよ、冗談」
なんていう、寒い日にもっと肝が冷えた放課後を楽しみつつ、私たちは霞さんたちプロ見習いたちと練習? なのか、とにかく対峙することになった。
見知った人たちだけど、見知らぬ組み合わせ。女子トークも弾みそうだ。
ドレスソードをやっていなかったら、生まれるはずがなかったつながり。そう思うと、やけにうれしくなる。私の世界が広がっていく感覚。上には行けなくても、横になら手を伸ばせる。それくらいの努力なら、これからもしてみせる。
そして、こういうときこそ。
出会いというのはいつだって突然やってくる。
姿ちゃんはですねえ、この物語において一番厄介な存在です。
というのも「あのかわいらしい姿は」「そこに立っている姿は」と、
名詞と形容詞とが混ざる子なので、執筆中のすべてにおいて厄介です。
そんな厄介さんだけど、かわいくて大好きな名前の第二位です。
もちろん、第一位は左ちゃんです!
さて、当初の予定だと三章くらいで終わってた物語ですが
曲がり曲がって、ようやく次からエンジン始動にさしかかります。
まあ、いっか。
とりあえず、次章はなんとしても五月一日までに公開します!!!
(この物語の一文字目を書きはじめたのが昨年同日だから一年ぎりしたい! の意)
では、また。




