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敗北のドレスソード  作者: 手遊花
朝倉女子 二年生編(秋)
72/205

おいでませ、朝女文化祭(2)

 おままごとのような就労だけど、お祭り気分だと意外と楽しい。

 それに時刻がすぎて、お昼明けの午後の時間帯にもなると。


「団子二つください」

「ありがとうございまーす」

「お団子ひとつ」

「はい、ただいまー」

「四ついいですか」

「毎度ありー」


 午前中はそうでもなかったのに、午後になってから着物カフェの客足がグンと伸びてきた。とくにお昼明けの第一体育館での催しの一発目「吹奏楽部の演奏会」からの「バンド部ライブ」で、フィーバータイム真っ盛りだ。

 在庫もグングン減ってきたから、夕方前には店じまいしちゃいそう。


 お店は、お団子よそう人、緑茶いれる人、お会計(+小枝道場のチラシ配り+調理場にダッシュ)する人、計三人もいれば十分に回った。

 だから、手の空いた二人組が文化祭を悠々と楽しもうというシステム。


 組み合わせは協議の結果、恋子ちゃんと氷空。花と左(ぎゃあぎゃあうざくて面倒になった結果)。私はそろそろ来るらしい葉月の案内役。先週とは立場が逆。


「律子。きたよ」

 そんなこんなで、ご令嬢が到着された。


「あーい。ちょっと待ってて。あそうだ、お団子たべる?」

「じゃあ、食べる」

「かしこま。花、ひとつおねがーい」


 今日の葉月は、頭にポンポン付きの黒いニット帽。ダボついた灰色のクルーニックセーター。開いた鎖骨周りを、ざっくりリネンの白ニットがほどよくカバーしている。スラっとしたスキニーパンツはグレー系のシアントーン。


 上下で似た配色だけど、色味が絶妙に重なっていないから対比が映えている。

 隙のありそうな油断女子の恰好、それでいてキリっとした顔つきだから全体のバランスがかなりよし。なかなかのオシャレ上級者と言える。


 でも、私たちは知っている。彼女の服は大体「姿がこれっていうから」と言うがままに着せられていることを。練習後や合宿中、休日のおでかけなど、身だしなみは意外としっかりしている葉月だが、服装に関してはてんで無頓着なのだ。


「葉月さん、こんにちは」

「こんにちは。花も着物かわいいね」

「ありがとう。これ、りっちゃん家のなんだ」


 朝女のお団子小町が、体をひねって背中の帯を見せつける。私なら一回転してるとこだけど、半回転にとどめる花の見せ方が清楚でイイと思った。

 それに、私ら仲良くなったなあって思える。第二で出会ったころの葉月はもっと硬質だったし、花も人見知り強かったしさ。順調な女子高生ライフだ。


 途中、左が乱入してきて「葉月さん、私は私はー?」「右野さんもかわいいよ」なんてやり取りをしつつ、葉月にもきゅもきゅと団子を食べさせていたところで、遊覧に出ていた恋子ちゃんと氷空も戻ってきた。この二人もなんていうのか、甘えさせたい祖母と、無愛想だけど素直な孫みたいで、見ていて小気味いい。


 さて、二人にお会計役をバトンタッチしたところで。

 これからが私のお出かけタイム、スタートである。


「葉月お待たせ。いこっか」

「うん。お団子おいしかった」

「よかった」

「約束のおごりは、これでチャラ?」

「まっさか」


 葉月の食器を片づけて、みんなに休憩を告げて、いざ朝女文化祭へ!

 といってもね。


「うちのは流星館みたいに回って楽しいもんでもないしなあ」

「そんなことないよ。みんな楽しそうだし」

「身内とか地域の人はホンワカするだろうけどさ、友人筋には退屈って意味」


 葉月たちの流星館文化祭はそもそも、出店がどうとかのレベルじゃなくて、校内それ自体がエンターテインメントであった。歩いているだけでも不思議な世界観に触れられる、まさにテーマパークと評されても過言じゃないもの。


 一方で、朝女文化祭はふつーだから、お祭り感はあるけど目新しさとかはない。まったくの無関係な人が歩き回っても、一時間としないうちに飽きて帰ってしまいそうな感じ。高校の文化祭にそれ以上を求めるほうがどうかと思うけどね。


 葉月が見知るドレソ部員はさっき全員集まっていたから、優先して案内するような場所もとくにない。私にせよ目的はなかったから、とりあえずは千恵んとこの吹部やきそばでお腹を満たす。今年のソースの解釈は「秋の海辺」だとか。詩的だ。ついでに敦美んとこのメイド喫茶に突撃し、メイドさんを眺めてクッキーをかじりながら「おのれえ、来年こそは私が」と闘志を燃やした。


「なんでメイド喫茶やらなかったの」

「温情でバスケ部に譲ったの」

「ふーん。私はその着物のほうがいいと思うけどね」

「誰がどう思うかじゃなくて、私のやりたい気持ちが大切なの」

「言葉の使いどころが変だよ」


 あとは新鮮味のない緑床の廊下をあてもなく歩く。人混みというほど人はいないけど、小さな子供からおじいちゃんおばあちゃんまで。いつもと違う住人でも、なんだか似合っている。楽しいのは流星館だけど、安らぐのはやっぱ朝女だ。


「そういえば噂になってる。律子のドレスコードのショー」

「……らしいね。妹がさっき言ってた」

「それって、みーちゃん? いるなら会ってみたい」

「あとでね。それより噂って、葉月は大丈夫なの」

「私は知られてるから。素性が分からない律子だから、校内でも噂になってる」


 そんなインパクトあることをした覚えはないんだけど……攻めの事故シンデレラがみんなのハートを射止めたってことなんだろうか。

 古典的だが、私のハートは「事故ってしんでらぁ」だから。よくわからん。


 幸い、ドレソ部とドレコ部の関係者らは口をつぐみ、私の存在をひた隠しにしてくれているらしい。たぶん、ショー終了後に亡霊みたいな表情で謝り倒したのが意図せず効いたんだろう。今朝までは事の真相がどう暴かれようと関係なかったけど、みーちゃんが興味を示しちゃった今、暴かれるのは非常にまずい。


「はあ。私、ドレコでモデルやってれば頂点狙える素材だったのかも」

「くすっ。もしかしたらそうかもね」

「噂になっても見つからないご近所シンデレラとか、弱小校の悲哀だわ」

「ドレソでも注目が集まるのは、どうしても全国大会からだから」

「だよね……ああ、そうだ、ワールド・レディ・ドレスソードさ」

「うん」

「おめでと。なんか言えてたか、言えてなかったか覚えてなくて」

「そう」

 反応はそっけないけど、うれしそう。かわいい。


「世界大会なんでしょ? いつから?」

「十一月から。アジア大会を勝ち進めば、来年一月に世界大陸大会」

「スケールが違いすぎる。ほかの子は」

「ベスト4からの選出だから、大阪の此花、兵庫の姫ノ道の二年生。それと桜花」

「やっぱ桜花なんだ」

「うん。明日香さんと私をやった、一年生の綾辻御津と黒鉄千草が選ばれてる」


 U18 ワールド・レディ・ドレスソード。通称WLDには、今年は三年生がいないらしい。時期を考えると受験戦争の真っ只中だからね。けど就学時期が違う海外の国によってはバリバリ出てくるというから、日本は単純に不利なようだ。


 しかし、JDS決勝戦で打ち負かされた子と一緒に、今度は世界に挑むのか。

 あらためてだけど、葉月とは住んでる世界の違いを感じる。


 ってことはだ。


「もしかして今年のウィンブレって、強い人あんまいない感じ?」

「受験に余裕がある三年生次第かな。例年より有力者が少ないのは確実だけど」

「なら、うちは姿さえ倒しちゃえば、花の全国行きもありえるんだ」

「倒せたら、の話ね」

「悪いけど、花はやるよ」

「へえ」


 花には直接言えなくても、それ以外の人になら。いくら恥をかくことになっても言ってあげる。私の幼なじみは、姿なんかに、絶対に負けないって。


「強いよ。姿は」

「知ってる」

「個人戦なら私より強い」

「……らしいね。私にはどっちも大差ないんだけど」

「律子は特殊だから。悔しいけど……勝率は姿が上。高校以降はより顕著」

「そんなに?」

「今年の流星館で、最後まで一度もフェイタルされなかったのも姿だけだから」

「……そんなに」

「それに姿は頭がいい。相手を知れば知るほど負けなくなる」

「花だってそうだよ」

「うん。だから姿はこれまで、初試合以外では花と絶対に立ち会わなかった」

「あっ」


 グサッと、一番不審だったところを突かれた気がした。

 そうか。姿は自分を教えないために、練習でも花と対面しなかったのか。


「一年生のころの花はまだ未熟だったけどさ、姿はその時点で察したんだろうね。どっちも練習風景とか、大会動画とかでやり口は晒してるけど、姿はあれから対面時の感覚だけは隠し続けた。花の素質に気づいたから、互いに対策を深めるより、JDSやウィンブレみたいな場でより確実に勝つために、一年のときから花を避けてきた。だから真っ向から勝負すれば、対策以前に実力で姿が勝つ」


 そこまでして――いろんな意味で、そう思う。


 ひょんなことからはじまった、友達感覚の両校ドレソ部のお付き合い。

 最初のJDS地区大会のときは、花はなにひとつ勝ってない、ただの初心者。

 そのころから警戒し、爪を隠していただなんて……クレバーにもほどがある。


 だけど、そこまで見抜いて準備した姿が、そこまでして見張ってきたこと。

 ドレソへの真剣さが怖い反面、花が姿に認められていることがうれしい。

 お世辞じゃなく、花が流星館が本気で警戒するに値する実力者なのが。


「……言いすぎた。ごめん」

 黙り込んだ私を心配してか、しょんぼり葉月。だからかわいいっての。


「いいよ。花がそこまで認められてるのがさ、うれしいなって」

「羨ましい、じゃないんだ」

「それもあるけど、やっぱうれしい。あの姿が、それだけ花を認めてるだなんて」

「そうだね。私も望さんも明日香さんもだけど、決してお世辞じゃないから」

「そっか……勝ってほしいなあ、花に」

「……うんとは言えないけど、応援はする。でも私は姿に勝ってほしい」

「だよね」


 選手の幼なじみvs選手のお姉ちゃんで戦ってちゃ世話ない。

 今はただ、二人であの子たちのドレスソードを応援すべきだ。


 ああ、でも。


「花も姿もだけど、葉月もさ。応援してるから。WLDがんばってね」

「じゃあ、律子は? 私はなにを応援すればいい」

「んー、小技のリッコの来年……とか?」

「それでいいんだ」

「十分だよ。応援してくれるならね」

「くすっ……律子って大概、私のこと大好きだよね」


 からかうように言われて、ちょっと図星でムカついたから、早足で先に行ってやった。後ろからついてきた葉月は苦笑いしつつ、「今のも言いすぎ?」って。



 文化祭も終わった、二日後の月曜日。今日は土曜日の振り替え休日。

 私たちドレソ部のお店は簡易な作りだったから、日曜日の片づけに駆り出されることなく二連休を満喫できる。あの日はお団子も完売して、いい一日だった。


 それはそうとして、今日も日影さん家の花ちゃんは精力的だ。

 朝から小枝合気道道場で、二人でいつもの特訓中。

 けれど、風向きはちょっと変わっていた。


(おっと)

 私が前に差し出す左半身、その左腕を正面からつかもうとしてくる。


(わわっと)

 かと思えば右半身側に入り身してきて――でもまた左腕をつかもうとする。


(うひー)

 攻め手も仕掛ける方向も多彩。なのに攻める箇所は、いつも左腕だけ。

 そのせいで。


「やった! 五秒だよ!」

「わー、やられた。花ナイス」


 私の手足をどこでもいいから五秒間つかみ続ける。それまでに投げられたら仕切り直し。そんなルールで立ち会っていたら、はじめて花にやられた。

 たった一度のまぐれ、ではなさそうだ。今日の花には確実な戦術眼があった。


 先々週までの、ただひたすらにぶん投げられる日々。

 先週までの、いろいろな手段を用いて全身を攻める日々。

 さっきは、いろいろな手段を用いて、左腕だけを狙い続けた。


 攻め方自体は先週と同じでも、この子は攻める部位を完全に絞ってきた。


「すごいじゃん花。ここまで一点狙いされると対処できなかったよ」

「はあ、はあ……うん、よかった、できて」

「私もためになった。結構つらいねこれ」


 私の合気道は、前面に差し出している左腕をおとりや尺度のように用いて、仕掛けてきた相手の体を右手で絡めとっていくようにする。だから、本来は左腕こそが鉄壁の盾なんだけど、執拗に盾だけを狙われ続けるのには慣れていなかった。

 ドレソ的には、盾の先にある体ではなく、盾自体を目標に定められていた感じ。


「はあ、はあ……りっちゃんが“合気道はこう攻める、こう攻められるから、こう返す、それの集合体”って教えてくれたから。どんな手もパターンで返されちゃうなら、あえてその人の主軸だけを狙い続けるべきなのかなって」


 当然、私も本気で合気を仕掛けていたわけじゃないし、実戦ならつかまれる前から先手を取ることもあるけれど、それにしたってわりと本気にさせられた。

 ルールのうえでは素直に完敗。花の完勝だった。すげーぜ花ちゃん。


「なんだか、ドレソでも使えそうだね」

「そのつもり。りっちゃんのおかげで、ようやく光明が見えたよ」

「ならよかった。でもさあ」

「ん?」

「合気道にもそんだけ身を入れてくれてたら、昔の私がもっと喜んでたのに」

「んんん……ごめんね」

「いいよ、今の花が楽しいんなら。来週のウィンブレいけそう?」

「……どうだろう。分からないっていうのが、正直な感想かな」


 相手はなにも姿だけじゃない。花は強いけど、姿以外は敵じゃないと豪語するのは驕りがすぎる。ウィンブレにおける東京B代表地区に「個人なら全国クラス」な人がいない保証などない。もっとも、“それに当たるのが花”だと思うけど。


「当日は会場まで一緒に行く?」

「んんー……別々でもいいかな?」

「おっけ。じゃあ客席で応援してるね」

「ありがとう。負けないようにがんばるね」


 花には負けないでほしい。


 最大の敵は流星館女学院の双子のエース。成瀬姿。彼女との対面で負けないでなんて言うのは難しいことだと理解しているけど、そう願わざるをえない。


 それに花なら、なにかやってくれるはず。この子は私と違って、あのステージで咲き誇れる。そういう段階にきたって分かる。小さな体で見せる精悍なほほ笑み。今じゃもう、立派なヒカゲバナなんだから。がんばれ、私の幼なじみ。


「あ、それとね。りっちゃんにちょっとお願いがあるんだけど……」

 しなーっとうつむいて、上目づかいでおねだり。あざとい。


「いいよいいよ、なんでも言って」

 まあ、私はちょろいのですが。


「あのね……りっちゃんのをね、私にも借してほしいんだ」

次回「モンスターの姿形」(1)。

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