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敗北のドレスソード  作者: 手遊花
朝倉女子 二年生編(秋)
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宿敵、バスケ部の襲来ぞ(2)

 九月も半ばとはいえ、まだまだ夏の残り香を感じる十五時ごろ。

 私と花、氷空と左が第二体育館に先入りし、ソワソワ待っていると。


「うわ! これが第二!?」

「なにここ廃墟じゃん!?」

「本当に入って大丈夫!?」


 などなど。外が罵声で賑やかになる。失礼甚だしいものの、気持ちは分からんでもない。しばらくすると、古臭い入口扉をギィーっと鳴らしながら、恋子ちゃんとその他大勢が館内に入ってきた。たぶんバスケ部員。多い。15人くらいいる。


「おまたせー。リッコちゃんたち待ったぁ?」

「私たちも今来たとこ」

 って言葉、思わず言っちゃうよね。


「バスケ部さん連れてきたよぉ」

「わー、館内は意外とキレイ」

「あっ、あれドレソの棒だ。なつかしー」

「うちらが一年のころあったもんねー」

 ワイワイ、ガヤガヤ。第二にしては珍しく、人の数で賑々しい。


 ガイドさんみたいな恋子ちゃんが引き連れてきた集団は、先頭が上級生の三年生たち。その後ろに、私の同級生や下級生かなって子たちが続いている。


 みんな物珍しそうに館内を見回しているけど、なかでもはしゃいでいるのは恋子ちゃんと楽しそうにしている三年生たち。彼女らは二年前、まだドレソ部が第一体育館でバスケ部と共存していたころの景色を知っているのだろう。

 私や花、敦美の二年生世代から下は、当時の第一の光景を知らないからさ。


「第二って、あんま物ないんだね」

 敦美が集団から離れて話しかけてきた。


「ドレスソードプラットフォームくらいしかないからね」

「ってか、あの黒い空間ってドーン! ってあるんじゃないんだ」

 去年の私のように、知らない人は知らないもんである。


 敦美の相手をしながら、横目で周囲をうかがう。

 花は文化祭委員会で話したのだろうか、隣のクラスの子と喋っている。それだけだけど、花が私の知らない子と会話しているのが妙に喜ばしい。もはやママ心?


 一年生の相手は左と、その後ろでよそよそしい距離を開けている氷空。イメージどおりすぎる。左は友人なのか知人なのかは知らないけど、輪の中心でお客さんたちに説明をしている。あっ、氷空に話しかける子が。ホームなのに借りてきた猫のようになっている彼女を、それこそ猫かわいがりしたい匂いを感じる。


「じゃー、これからバスケ部とのドレソ懇親会をはじめまぁす」

「おー!!!」


 やや、恋子ちゃん。お題目すら変わってない? べつにいいんだけどさ。


 館内では恋子ちゃんが陣頭に立って「ドレソとは~」の説明をし、その脇で花が補佐をして、バスケ部員たちが崩した姿勢で床に座っている。

 私や氷空、左もなんとなくか、バスケ部と一緒になって床に体育座りをしてしまい、部外者的なスタンスになってしまった。まあ、お客さんには失礼な話だけど、なんだかんだで私たちすら蚊帳の外なのだ。主役は三年生っぽいし。


「それでぇ、こっちがドレスソードプラットフォームでーす」

「しってるー」

「三年生はでしょー」

 恋子ちゃんが三年生同士でワキャワキャしつつ。


「皆さん。参加のために学生証をお出しください」

 花が注意事項を添える。こうして見ると、できるコンビだ。


 私を含むお客さんたちはツアーガイドさんの後を追い、ドレスソードプラットフォームの核となる黒いコンソール前までついていった。

 細かくは設定しないにせよ、体験入部であろうと学生証のDSチップ(ドレスソードチップ)で個人登録をしないことには、ドレソには参加できないから。


 ドレスやソードについては、事前に「テキトーなパブリックオブジェクトでいいよね」と相談済み。ソードはほどよく普通な直剣を持ってもらう手はずだ。

 一方でドレスのほうは……多少アレンジされているとはいえ、朝女で着慣れた黒セーラーに芋っぽいオレンジジャージの上着じゃ、トキメクもんもトキメかないだろうと判断し、さっきプラットフォーム経由でパブリックオブジェクトのドレスを探して、ほどほどに変身願望を満たせそうな衣装を見繕った。


「じゃあ、一人ずつ登録してくねぇ」

「二人まで同時でできますので、こちらもよろしかったら」


 横長の外部コンソールは二人まで同時に使用できるけど、未経験者をアテンドしながらの操作だから、準備にはそれなりに時間がかかりそうだ。


 受付その一は恋子ちゃんと氷空。受付その二は花と左。私は「お次の方~」と誘導員をやっている。左にシュババっと花の隣を奪われ、かといって訳知りの氷空に端役を押しつけるのも効率的ではなかったので、私自ら下っ端仕事を選んでしまった。昨日からこんなのばっか。わりと適役だし、まあいいんですけどっ。


 一人でほんのり憤慨しながら、バスケ部員たちを先に促す。

 四人目、五人目――その途中、横から意外な言葉をかけられた。


「あなた、第一に来た子だ」

「はい?」


 すでに登録を済ました、バスケ部の上級生らしき人に話しかけられた。

 うーんと。知っているようで知らない人。恐れ入りますが……誰だっけ?

 なんだろ。話の脈絡も読めない。第一にはそりゃ、体育の授業で行くけど。


「やっぱり覚えてないかな? 一年前の入学式の日だしね」


――あっ、もしかして!


「えーっと、去年第一で、第二の行き方を教えてくれたり……?」

「そうそう。あなたと日影さんが第一に来たときの」


 朝女に入学した日。花を無理やりひっぱり、勇んで第一に向かったら「ドレソ部は第二だよ」と教えてくれたバスケ部員がいた。あれがこの人か!

 言ってみれば、私にドレスソードを“ドレソ”と教えてくれた元祖である。


「……すみません、今思い出しました。その節はありがとうございました」

「どういたしまして。恋子がよく言うリッコちゃんって、あなただったんだね」

 私の運命の女神さまが、小さく笑った。


「今日は急にごめんなさい。忙しかったでしょ?」

「いえ、ぜんぜんお構いなく」

「昨日、文化祭委員会で出し物が被っちゃったじゃない」

「みたいですね」

「そのとき日影さんを見てね、思い出したの。この子、あのときの子だって」

 よく見てる。花は私の後ろでモジモジしていただけだったのに。


「それで懐かしくなっちゃって。私が一年のころは、第一にドレソがあったから」


 二年前はまだ、ドレソ部員は二人しかいなかった。この人はそのころ、先の見えない戦いに必死になる先輩たちの努力を、バスケしながら見ていたのかな。


「それで、ドレソをやってみたくて対決を持ちかけたんですか」

「正確には、私のいっこ上の先輩たち。笹倉先輩しかいなかったときの世代がね」

「? どういう?」

「先輩たちがさ、笹倉先輩を見て、ドレソやってみたいねーって。よく言ってて」

 思い出を振り返っているのか。楽しそうで寂しそうな笑顔。


「結局、先輩たちは笹倉先輩に声かけらずじまいで。ドレソやれなかったんだ。私たちもそれを引きずってたの。しかもバスケ部って、ドレソ部を追い出しちゃったようなものじゃない? 恋子は嫌味を言わないけど、三年部員にはモヤモヤもあってさ。ドレソ部が元気でやってるのかも不安だったんだ。そこにきっかけがきたから、一度は仲直り的なことできたらなーって思って。来ちゃいました」


「先輩たちのぶんもドレソ部と仲直りをしよう、的な?」

「そうそう。それそれ」

 彼女はお茶目にペロッと舌を出した。


 敵ではないし、むしろ敵にすらなれないと思っていたけど。朝女で唯一表彰される部活動の人から、こんなことを言われるとは夢にも思っていなかった。

 もっと体育会系全開な「目指せ優勝! そのために犠牲はつきもの!」くらいの集団を想像していたけど、そうだよね。敦美だってそうじゃないんだし。


 彼女たちも、私たちも、ただただ真っすぐに。

 目の前のがんばりたいことをがんばって。

 それが結果になっただけなんだもの。


「あとね、最近のドレソ部はJDSですごかったって聞いてね」

「バスケ部に比べると、すごいとは言いづらいですね」

「ううん、すごいよ。だから私たちも気兼ねなくお邪魔できるんだし」

「そんなもんですかね」

「ちゃんと活動成績が出てるほうが、変な空気にならないじゃない?」

 意外と知的。いや、全国出場には必要なインテリジェンスなのかも。


「それと正直ね、笹倉先輩はその……ちょっと怖そうな先輩だったのもあって」

「あー、まあ、それは否定しないです」

 体格に反して、態度も度胸もデカかったもんね。


「でも恋子が部長で、日影さんが次の部長って聞くと、親しみやすくって」

「その点は、うちらの持ち味ですね」

「それにほら。リッコちゃんもこうしてお喋りしてくれるから。安心した」

「ならよかったです」

「あなたたちのおかげ。リッコちゃんがドレソ部でがんばってくれたおかげだね」

「それは……違うかもです」

「え?」

「ぜんぶ、菖蒲先輩のおかげです。先輩がいたから、あなたも私はここにいます」


 恋子ちゃんが、花が、氷空が、左が、私が。部の空気を一新して、誇るには小さいけれど成績を出して、今になれたからバスケ部が顔を出せた。違わない。


 それは違わない。世の中、常に今を変化させていける人や物がお礼を言われるべきで、過去の影響も大切だけど、そればかりをほめていても前には進まない。今を歩み続けている人を応援すべき。そうしないと私たちはうまく進めない。


 だけど。


「菖蒲先輩のおかげで今があって、がんばれてると思ったり、思わなかったり」


 だけど私は間違っていてもいいから、今はまだ間違ったままでいたい。

 私が今ここでがんばれているのは、不遜な彼女がひっぱってくれたから。

 ドレソを続ける理由も復讐も、先輩の半分を無理やり奪い取った私だから。

 成果も結果もすべて、半分はあの人に贈りたい。せめて、自分のなかではさ。


「……そうだね。うん、笹倉先輩がいたからだもんね」

「すみません、なんか後ろ向きな答えで」

「いいの。そっか、リッコちゃんは恋子と同じで、笹倉先輩が大好きなんだ」

「そ、それはべつにそうじゃないですっ!」

「ふふっ、そうかなー?」


 まったく藪から棒に。なに言っちゃってくれちゃってるんだか!

 なんて話をしていると、こちらに恋子ちゃんの怒声が投げられた。


「葵ぃ! そろそろドレソやるよぉ!」

「おっとっと。うーん、今いくー」

「葵は部長なんだから。しっかりしなよぉ」

「それ、恋子にだけは言われたくなかったわ」

 この二人の関係も、なんとなく想像できてしまった。

次回「宿敵、バスケ部の襲来ぞ」(3)。

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