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敗北のドレスソード  作者: 手遊花
朝倉女子 二年生編(秋)
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美装絢爛<ドレスコード>(4)

「律子、もう帰るの?」

「ごめん。燃え尽きた」

「そう。校内もまだうるさそうだし、それがいいかも」


 ショー終了後の大広場では、異色な映画を見せられて感想を言いたくて仕方ない人たちがシアターからあふれてきたかのように、先ほどの第一体育館で起きたどんでん返しの逆アプローチについて、声高に意見が交わされていた。

 おおむね、喜劇からの一発逆転劇のように受け取られているようである。


 だが、私はもう、しでかしたことが心の許容量を超えすぎていて、ショーの関係者らに「申し訳ねえ……申し訳ねえ……」と頭を下げまくったのち、今は己の罪を背負う囚人のように顔をひた隠しにして、流星館から去ろうとしている。


「葉月、約束のご飯だけど。今度おごるよ」

「わかった」

 結局二人とも、軽食すら食べ忘れてたし。


 もうすこし器用にできてたら、「いやー私って、やればできちゃう子でさー」とか吹聴しながら、気持ちよく打ち上げご飯をできていたのかも。人によっては、さっきの結果オーライでも勝者の気分になれるのかな。心が弱い私には無理。


 大広場の出店の裏側をとおっていき、校舎脇を進む。

 校舎を抜けて、噴水をぐるっと周り、正門に近づく。

 上着以外は執事姿に戻った葉月とも、今日はお別れ。


「姿の容態が分かったら、あとで教えて」

「うん」

「んじゃ、またね」

「うん、ばいば……いってらっしゃいませ、律子お嬢さま」

「ふふ、いってきまーす」


 葉月の小粋なニクさに、ちょっとだけ元気にさせられてしまった。


(あー……姿の偵察とかなんもできてなかった)


 状況が状況だったので仕方ないとしても、今日の収穫は「姿が火傷しちゃった」くらいなもの。それも明るい話ではないし、喜べるものでもない。

 それどころか花が合気道を練習しているという、役には立たないだろうが情報を与えてしまった。これでは逆スパイである。逆、逆、逆。今日は逆すぎる。


(ああ、左もだ。忘れてた)


 正門を出てから、曲がってすぐのところ。あっと思って、彼女にメッセージを飛ばしておいた。「リツコセンパイ モウ カエリマス」送信。

 PiPi。返信はすぐにきた。「今どこです?」「正門とこ」「待っててください」ときた。流星館を出入りする人たちを眺めていると、三分ほどで左がやってきた。


「お待たせです」

「文化祭もういいの? 左は楽しんでてもいいよ」

「いや……さっきの律子先輩ので、私もゲッソリさせられたんで」

 あんたも見てたんかい。


「佐伯から、律子先輩がドレコショーに出るって聞いたときはムキーってなってたんですけどね。もう先輩がこけた瞬間から私、恥ずかしくて恥ずかしくて。これって共感性なんとかってやつですか。律子先輩ってほんとアレですよね、アレ」


 タハハ……言わないで後輩ちゃん。私ここで死んじゃうよ?


「最後は私も叫んじゃいましたよ。こいつ持ってるなーって感心しちゃいました。だけど周りで、あのお姫さま誰? ステキー! って話題になってから、私また恥ずかしくなっちゃって。しかも元凶が先に帰るとかありえなくないですか?」


 大変申し訳ありません、左お嬢さま。なんも言えません。


「せっかくの流星館文化祭なのに、はちゃめちゃに疲れましたよ。んーもーっ! 律子先輩のせいですからね! いやまあぶっちゃけると、ちょっとカッケえってなりはしましたけど! でも、あれじゃロミオとジュリエットじゃなくて――」


 ほめてるんだか、けなしてるんだか。

 あれじゃジュリエットとロミオじゃないですか、だってさ。



 散々な目にあい、悪夢に苛まれる真夜中を振りきっての翌日。日曜の午後近く。私と花、ついでに氷空と左が小枝合気道道場、つまり私ん家にいた。


「それで、そのあと二人で帰ったの?」

「いんや、律子先輩がお腹へったっていうから、駅前で牛丼食べた」

「左、牛丼屋に入れるんだ」

「あったぼうよ」

 氷空に対し、左は無駄に堂々と誇る。


 午前の部で道場にいたお父さんや小学生たちは先ほどはけて、今いるのは私たち四人だけ。私が「掃除やっとくからさあ……おねが~い」としなりを作ったもんなら、娘にゲキ弱なお父さんも生意気な男子たちも気前よく了承してくれた。

 自分でやっててなんだけど、喜ばれたのは掃除の肩代わりであって、しなりの部分ではなかったが。みんなして「律子さー……」って白けるとか。失礼すぎ!


「姿さんの容体は」

「葉月さんいわく、ぜんぜん問題ないみたいって。すぐ治るって」

「そうなんだ。よかったね」

 結局、姿はすこし火傷しただけで、数日で治るみたい。よかった。


 30メートル四方の道場内には、適度な感覚で四本の大黒柱が立っている。練習時は邪魔で仕方ないけど、そのうち左奥の柱には私やみーちゃんをはじめ、ここにかよっていた子供たちの背比べの記録が筆で記されている(姉は物心ついたころには「合気道なんてやらなーい」となったため記録なし。ノーコンテスト)。


 床一面の若草色の合気道畳は、転んでもそんなに痛くないクッション性がある。壁にかけられた偉そうな額縁には「護身は護心」の五字。まっこと正しき良い言葉だけど、毎年毎年、小学生の部の子らがダジャレ扱いするのが通例だ。

 それくらい親しみやすさを保ち、さりとて本気の人には本気で返す。それが小枝合気道道場。そんななかで私は、まあそうね。みんなのプチ女神的な?


「ていっ」


 そして、私服のままで端のほうに座って見学しつつ、昨日の流星館文化祭の顛末を話す左と、すこしお疲れ気味な雰囲気の氷空の前では。


「あわっ!」

 にゅるん、ごろん、ばたん。


 私の予備の合気道衣を着ている花が、私の手で転がされている。


「ううう……」

「多方向から全身を攻めるってのはいい考えかな。以前よりかは」


 花が道場を間借りして、私と合気道のお稽古をはじめてから数週間。


 彼女はドレソをやるまで体が弱く、すぐゼーゼーしちゃうもんだから本格的にではないけど、小さいころからの付き合いと、花のお母さんの勧めでちょこちょこと道場にくることがあり、合気道のアの字くらいの教養は身につけている。

 あくまで「簡単な手品のタネは知ってます」くらいだけどね。


「愚直に突進するのをやめただけでも進歩かな」

「ペルセのときだってもっと考えてるでしょって、りっちゃんに言われたから」

「うーん! 花が素直ないい子で、りっちゃんうれしいです!」

「えへへ」


 危ないから今は取り外しているけど、花がいつもヘアピンをさしているあたりの髪を弄りはじめる。なんともまあ、分かりやすい幼なじみである。


 さすがに花のレベルでは、立ち会って技を取り合うことはできない。

 けれど彼女はそれでもいいからと「軽く打ってくる花の体を、私がいなす攻防」を何度となく続けている。手刀をとって転がす「正面立ち一教」からはじまり、私のできる限りの技をもって、花をごろんごろんと転がしているわけだ。


 ぶっちゃけて言うと、ドレソのためになるのかはさっぱり分からないが。


「あれですね。ドレソのステージで見るより、律子先輩めっちゃ強そう」

「そうだね」

 一年生コンビも感心しておる。私の鼻っ柱もグングン伸びる。


「そりゃそうよ。もしもドレソが無手だったら、私最強だよ?」

「それもうドレソじゃないですし」

「ただの合気道では?」

「で、でも、合気道ならりっちゃん強いから……」


 ぐぬぬ……まーね。ドレソで無手って、それフェイタルと同義だもんね。

 しかも身体接触がペナルティとくれば、合気道の未経験者ほど求めてやまない「触れてないのに気みたいなもので投げ飛ばす」くらいしかできない。


 もちろん、んなことできるかっ! ってなるけど。

 合気道は対剣術を起源とするが、現代のドレソとはつくづく相性が悪い。


 「もう一本」。花が向かってくる。攻撃というより、どう手を出したら、どう返されてしまうのか。それをシミュレートして体に叩き込んでいる印象だ。


 私は円を描くようなすり足で、直線的に迫ってきた花の機先をそらし、自分がより優位になる立ち合いに寄せていく。四方投げや入身投げのような技は、私ではなく花に危険が伴うから「やるよー」って言ってから。回数も控えめだ。


 その反面、エストック使いの花らしい手刀突きをされるときは、その手を取り、小手をひねってアイタタタとさせる「小手返し」で応じる。これも体の逃がし方を分かっていないと簡単に怪我するから、捻る前はスローでやるけどね。


 そうそう、こんな感じに。ペルセみたく右手で突いてきたときは。


「ほいっと」

「あわわわわ」

 にゅるん、ごろん、ばたん。


「律子先輩すげー。魔法みたい」

「うん、魔法みたい」


 今日の花は、新たな攻め手を豊富に用意してきた。

 といっても、彼女の手はエストックではないし、光刃でもないから。求める理想とは勝手が違うような気もする。けれど何度も何度も立ち上がって、私に転がされても、次の手を使ってくる。ドレソ選手の花は、それくらいしてくる。


 すこし、ドレソに嫉妬かな。昔はお遊びくらいでしか合気道をやってくれなかったのに。私は花となにか一緒にやりたかったから、ドレソをはじめたのに。

 ドレソがあったから、花はここまで本気で合気道に打ち込んでくれている。それが妬ましい。言っても栓のないことだけど、ドレソめぇ……ってなった。


 そんなしょうもない恨みを、言葉にせず心で花にぶつけていると。

 下級生たちの世間話がラジオのように聞こえてくる。


「そえばソラは昨日、花先輩となにしてたのよ」

「……あんまり言いたくない」

「はー? なに、いかがわしいことでもしてたの? なんか疲れてる感じだし」

「違う」

「じゃあなに。言いな」

「……花さんって、ちょっと怖いなって」

「んなの知ってるし。おまけに性格も悪い。イイの顔だけだよね」

「そういうことじゃ……花さん、チラッと睨んだよ?」

「愛情の裏返しでしょ。ひねくれツンデレなんだから。んで、なんなのよ」

「花さんのドレソがね。思ってもみないくらい怖かった」

「? よく分かんないんだけど」

「尊敬するくらい、本気でドレソを追及しているってこと」


 声は届くが、氷空がどんな表情をしてるのかは分からない。

 私のほうは今――「はうっ」にゅるん、ごろん、ばたん。

 がんばり屋さんの幼なじみを転がすので、忙しいのだ。

次回「宿敵、バスケ部の襲来ぞ」(1)。

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