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敗北のドレスソード  作者: 手遊花
朝倉女子 二年生編(秋)
65/205

美装絢爛<ドレスコード>(2)

 ノリのいい空気感がブワっと、暗い会場に広がった。

 場内からもイキイキとした黄色い歓声があがる。

 つまるところ、やばば。はじまっちゃった。



【Lady to Ready…………On Stage.】



 BGMの音量がスケールすると同時に、ステージの暗幕が解かれた。

 うえ! なにあれ! 自動の照明機器? めっちゃカラフル。お手製感がほほ笑ましい文化祭の出し物にしては驚くくらい設備が豪華。流星館お金ありすぎ。


 私と同じくらい驚いているのであろう女子中高生の若々しい歓声が鳴りやまないなか、最初に現れたのは真田さん。群青色のドット模様をあしらった、フェミニンな水色ショートワンピースに、パンキッシュな黒のライダースジャケットを羽織っている。抱きしめたくなるほどの愛らしさに、触れると棘が刺さる“私さま感”を足した、守ってあげたいヤマアラシ。人格を感じるギャップ性だ。

 これには私も観客も、どストライクに一発胸キュン。連れて歩きたい。


 追いかけるは徳永親分。ピンク&ブラックのパターンデザインが派手めなビッグパーカーに埋もりつつ、ふたつの垂れ耳付きフードを被り、目元に星マーク、扇情的な顔つきでベロを出しながらの入場。インナーな無地だけど、起毛の質感が高級なミステリアスを醸し出ている黒シャツ。ボトムは大胆にカットされた桃色のホットパンツ。悪戯っ気が全面に押し出た、ワルそうな青メッシュのお姉さま。

 私はカッコいーだけど、観客は「ぃぎいぃぃやあぁぁ!!!」と絶叫してる。


 どちらかというと清楚で清廉な学校の管理下にありながら、普段は線引きされていそうな毛色の違う“憧れ”に身を包む。二人はそれこそ「実はワルイお嬢さま?」と映ることだろう。よく学校に止められなかったものだ。

 見せかけの慎ましさに身を委ね、お淑やかに澄ましてるだけの私たちじゃない。そんな女子の実態をさらけ出すような初手のパンチライン。まあ、流星館も実際はイメージどおりじゃないんだろうし。時代に即した女子高生の在り方ってやつだ。ほら、そこでも。物静かそうな子が予想外の刺激にうっとりしちゃってる。


 あ、うげっ! 今気づいた! 会場内をよく見てなかった!

 このショーって、ランウェイまであるのっ!?


 ステージの真ん中までいった真田さんと徳永親分は、観客席のほうに向かって、会場中心に続く通路を歩きはじめた。まさかのランウェイ方式。ステージに出たらクルッと回ってハイ終わり、くらいを想像していたのに。

 客席と中央通路との高低差もしっかりあって、観客はすこし見上げるようにしてモデルのウォーキングを眺めている。大道具係、仕事しすぎでしょ……。


 しかも二人とも堂々としたもんで。愛らしくも不敵な笑みを観客に注いでいる。あのなんかこう、適度にクネクネしたり、キビキビしたりする歩き方なんて知らないよ。見よう見まねのモデル歩きじゃ、笑いが起きてしまいそう。

 私の気取ったモデル歩きか。想像できちゃう。うぷっ、吐きそうだ。


 ランウェイの先端、会場中心で二人が合流し、決めポーズをしたあと、ステージの袖まで歩いて帰ってくると、続いての人たちが出ていく。真田さんたちはドレスをすぐさま解除して、次の新着に着替えていた。何度か出番があるみたい。


「私たちはトリで、出番は最後だけだから。安心して」

 葉月が落ち着いたトーンで言った。意外と気配り上手だ。


「どうすればいい」

「律子に先に出てもらって、ランウェイで待ってもらうことになる」

「まじかあ……」

「青年がお姫さまに見惚れて、手を取って連れ去る、って感じらしい」

「……なんで成瀬姉妹だけ物語性あるの? それもう演劇じゃん」

「……ドキドキがほしいんだって。あと、私が参加拒否してたから悪ノリで」


 体育会系な悪ノリが次々と見えてくる、流星館ドレソ部の一面。

 ははーん。さては私らとの合宿のときは、ネコかぶってたな?


「律子。そろそろ着装しとかないと」

「はっ!」

 忘れてた。


 ショーにポカーンとしていたら、あらやだ、もう折り返しな時間に。

 しかも下着姿のまんまで見学しちゃってたし。はずかし。

 私が深呼吸する前に、葉月の無慈悲な「着装して」が部員に送られた。


 はじめてのドレソで、はじめてドレスを着させられた。あのときに近い気持ち。

 どんなドレスなのか分からないところが、これまた怖い。


……ええーい! 意を決せ! これくらい小技のリッコにはお手の物よっ!


 体をT字にする。シューシューと光線を浴びる。

 肌に生まれて張りついていく、やわらかな布地。

 靴底のことを考え、片足ずつ足踏み。感触がなんか変。

 体は軽い。というか首元がスースーする。

 音がやむ。着装完了のようだ。


 怖いもの見たさで、自分を見るために視線を下ろした。


「……うっそお」


 甘めの予想の数倍も数倍、本気でお姫さますぎた。


「律子かわいいよ」

「これってさ。姿だったら感想もさ」

「……キレイ、って言ってたかな」

「……格差はドレソだけにしてよね」


 キュートとビューティーに明確な上下差はない。ないはずだ。

 でも、言葉にせずとも分かってしまうこともあるのだ。

 この薄めの水色ドレス。一言で表現するなら「シンデレラ」。


 首下や両肩をババーンとおっぴろげ、胸元の外縁をシンプルな白フリルで飾り、腰から下はなんだろこれ。プリンセスラインっていうのかな。ウェディングドレスみたいに幅広なスカートが下半身を完全に覆い尽くしている。

 装飾はあまり華美じゃないから、ゴテゴテしていないスッキリめ。ただ明らかにモデルが負けている。姿だったら依頼が殺到しそうなほどだろうけど、私の場合「まあ、かわいらしいお嬢ちゃん」とか言われそうな、そういう雰囲気。


 すいっとスカートをたくし上げて、つまさきの違和感もたしかめる。

 おいおい。ご丁寧にも、足元はガラスっぽい透明な靴ときた。


「シンデレラってさあ、途中で逃げたよね」

「今からはダメだよ。もう逃げちゃ」

「いいよもう。裸足で帰るから」

「絶対ダメ。律子、下着姿だからね。絶対ダメ」

「あー……」

 魔法が解けた瞬間が、童話よりも悪条件だった。


 いろんなことが頭からすっぽり抜けてしまっている。分かってる。言ってみれば私だって、まあそれなりに? 見られるほうじゃん? 「姿さんだと思ったのに、あれ誰……」だのと辱めを受けるのは火を見るよりも明らかだけど?


 もはやドレス見てさ、気分軽くなったよね。だってさあ、逆に吹っ切れるよね。ここまでどうしようもないと。羞恥心どころか「笑え笑えガッハッハ!」よ。


「ガッハッハ」

「……律子だいじょうぶ?」

「うん、へっちゃら。公開処刑どーんとこい」

「よかった。それならドレソ部で慣れてるもんね」

「恋子ちゃんにチクるよ」

「どっちが怒られるの?」

「どっちも」

 たぶん、いつものかわいい顔で「もー!」って言うに違いない。


「しゃあない。恨むのは葉月の妹の姉にしとくよ」

「そうしてくれると助かるかな」


 そういう葉月の衣装は、清潔そうな白シャツに、青いベストと仕立てのよさそうな黒いパンツ。なんというかお姫さまに対する青年だから、中世的な? かの時代のいいとこのお坊ちゃん的なスタイルっぽい。すこしモッサイね。


 見ようによっては、王子さまに見えなくもないけど。

 どっちかっていうと、さっきの執事のほうがカッコよかったり。


 もっというと、自信満々のスカした表情で私を値踏みする、いつものハイネックショートコートにショートパンツを合わせた流星館ドレスのほうが好きかな。

 カッコいいの部類は違っても、もっともっとカッコいい葉月だって思う。


 場内が静かに暗くなると、にぎやかな音楽がとろみのある夜の調べに変わった。葉月が私の肩をそっと押す。ステージ袖のギリギリ端。もう出番みたい。さっきまで壇上にいた人たちはすでに全員はけていて、こちらを見守っている。

 頼みました小枝さん。がんばれ小枝ちゃん。十数人から贈られた小さなエールとガッツポーズに、思わず「やるぞー」って気にさせられてしまった。


 まったく。私ってばお調子者なんだから。

 見せてあげちゃおう。リッコの小技をね。


(いってくる)

(いってらっしゃい)


 みんなと無言のアイコンタクトを交わし、アーだか、ハーだか、ファーだかと、美しい歌声だけど、なんて言っているのかは分からない繊細なコーラスが流れているステージに、私は一歩足を踏み入れた。

 ドレスコード、スタートアップ。心の内で小さく開戦しながら。

次回「美装絢爛<ドレスコード>」(3)。

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