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敗北のドレスソード  作者: 手遊花
朝倉女子 二年生編(秋)
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美装絢爛<ドレスコード>(1)

「小枝さん、本当にありがとうございます。恩に着ます」

 右肩を。ドレソ部の部長、真田望さん。さっき会った。


「姿が火傷とかあぶねー。小枝ちゃんのおかげでギリセーフだよ」

 左肩を。ドレソ部の副部長、徳永明日香親分。アウトだよ。


「小枝さんがいてくれてよかったわ。さすがに私じゃあ……ねえ?」

 背後から腰を。ドレソ部の顧問兼コーチ、佐羽先生。全然いけますって。


「私と姿がショーのトリだったから……ありがと律子」

 目の前で振り向き歩き。ドレソ部のエース、成瀬葉月。めっちゃ笑ってる。


「イヤイヤイヤ!!! 姿の代役とか死んでもイヤってか私が死ぬ!!!」

 どんなに嫌がっても全方位で拘束されて連行される、保健室前のわたし。



 ここは流星館だ。ドレスソードの強さはその身で分かっている。

 どんなにがんばって、無様な負けを晒そうと、私のプライドは折れない。

 かすかな選手としての意地は、負けるたびに三角盾のように硬くなる。


 けれど、この人たちとドレスコードをやるとなると話は別だ。

 どんなにがんばっても、無様な負けが目に見えていて、プライドが折れる。

 なけなしの女子としての意地が、美しい二等分になってぽっきり折れる。


「大丈夫ですよ。本格的に白黒つけるようなショーじゃないですから」

「そーそー。キレイなおべべ着て、みんなの前に出るだけ。簡単簡単」

「そうよ。盾だけでJDSに出るほうが、よっぽどプレッシャーだわ」

 年上の女性らはもはや、私を逃がすつもりなど1ミリもない。


 葉月が私にドレスコード、通称ドレコのショーの参加要請を申し出たとき、私は瞬きの速さで「むりむりむり。はいむりー」と返事をし、速攻で断った。

 しかし葉月を追いかけてきた真田さん、徳永親分、佐羽先生は、最初から獲物を狩りにきたハンターだった。弱々しいウサギちゃん(私)を説得するつもりなど鼻からなく、有無を尋ねる前から全方位を取り囲み、捕獲に乗り出していた。


 キャラ的に親分はまだしも、真田さんや佐羽先生がこれほどまでに強引なのは、流星館の性分ってより、トリを飾る成瀬姉妹の片割れの欠如がよっぽど手痛い状況にあるからかもしれない。だからって……ムリっ! ふざけんなっ!


 あの美人ギャルを期待した観客の前に、私がドヤ顔で出てみろっ!

 私の脆く儚い心が、観客の顔色ひとつで一瞬で消し炭になるよっ!


「大丈夫だよ。律子かわいいから」

「うるせえ!」


 葉月にこれまでにないくらい牙を向けるも、彼女もほほ笑むだけでこちらの嫌がりを汲んではくれない。切羽詰まっているのは本当。けれど、それと同じくらい面白がっている雰囲気がある。葉月こそ、ドレコなんて興味なさそうなのに。


「葉月もここ一か月、むしろさっきまでずっと嫌がっていたのですが」

「小枝ちゃんとやるなら、ってさ。こっちとしては大助かり大助かり」

「手の空いてる子もドレコ経験者も、ほかにいなかったのよ」

 お姉さまらの二兎を得た感が、ヒシヒシと伝わってくる。


「だって、望さんたちが無理やり主役にさせるから」

 ムスッと葉月。そうか。私は代打で主役なのか。おい。


「ひ、左と待ち合わせてるから! 待たせちゃうから!」

「佐伯から伝えてもらってるから、安心して」

「ほ、ほら! あそこいる子! あっち子のがかわいいから!」

「初体験のドレコで、ぶっつけのショーはリスクあるから」

「じゃ、じゃあ! ドレコ部に頼めばいいじゃん! ドレコなんだし!」

「合同開催だけど人数が足りないの。うちのドレコ部、部員六人だから」

 不景気がすぎる! ドレソ部は八人もいるのに!


「は、葉月だけ! 葉月だけでもいいじゃん!」

「トリの演目がさ、青年と姫ってテーマだから。ひとりじゃダメなの」

「どっちがお姫さま?」

「姿。だから律子」

「っざけんな! 殺す気か! 死ぬ! 死ぬ! 死なされる!」


 全力で暴れてでも、拘束を振りきらなきゃならない。

 このままじゃ、断頭台に連れていかれる囚人である。


 なのに、上半身がお姉さまらの柔らかい体にぎゅーっと密着してつかまれているもんだから、無理に動いて痛いようにさせたくないし、心の底ではちょっぴり心地よかったりも……いやいやいやそれでもダメ! ほんと嫌! 死ぬ!


 去年の夏ね。たしかに菖蒲先輩たちとお遊びでドレコやったよ?

 でもね。あんなの飛び入り参加で、ちょっとはしゃいだだけよ?

 だからね。単純計算でね。今回はガチでプライド折れるかもよ?


 だって、ここ流星館にあって、挑発的でキメ細かい、赤茶けたストレートヘア(色は地毛。ストレートパーマなんだって)の美人さんの代役だよ?


 美人なチョイ悪感があるのに、実際はお姉さん肌な感じですっごーい優しいし、たぶん下級生とかにも親しまれて憧れられてるだろうし、あれくらい美人なら姿のこと知らなくても、ショーに出てきたら誰だって「おー美人なお嬢さま!」って思うくらい美人じゃん? ってかもはや普通にモデル級じゃん? つまりさ。


 殺す気か! 普通の女子高生のなけなしのプライドをよお!

 しかもお姫さまって! お姫さまって! 笑える! 笑い死ぬ!

 朝女の二年生、小枝律子! お姫さまになって流星館で笑い死にます!


 うるせえっ!!!!!!


 本気で噛みあわせが悪い。本心からの「イヤ」が止まらない。ほんのちょっとの「まあ、私もかわいくもなくもないし?」みたいな軽口すら出てこないくらい。魂が強固に嫌がっている。でも姿のことを思うと難しい。ほほ笑みながらもわりと早足で急いでいる、先輩方の土壇場感も無下にしづらい。

 どうしよ、私ってば、この先、どうなっちゃうのーーー!!!???



 なーんて思っている間に連れていかれたのは、合宿のときに利用した第三体育館ではなく、校舎中央からほど近い別の体育館だった(第一らしい)。


 建物のサイズは一段と大きい感じ。校舎中央の憩いの場であろう大広場とも面していて、あたりには木々と深緑が魅力的に広がっている。

 大広場は現在、文化祭の出店が一番集まっているホットスポットになっているようで、今日見てきたなかでもひときわ人の数が多い。つまり、お昼後の一発目の催しとして、大々的に行われるらしいと耳にするドレコショーで、お姫さまに扮した私を見ることになる観客の数も、とっても多くなりそうな気配。


 時刻は一二時四五分。開園まで残り一五分。ショーの所要時間が計三〇分。

 強制連行の道中、みんなが口々にフォローしてくれるものの。


「小枝さんの出番は最後の五分間です。がんばりましょう」

「盾を構えてプレッシャーかける気分でいいから。あとは葉月に任せて」

「センターラインに向かう感覚でね。それだけで美人さが三割増しよ」

「律子なら平気だよ。私がなんとかするから」

「ぜんぜん分かんないっての!」


 助言は右耳から左耳までスムーズにすり抜けて、頭にとどまらなかった。


 第一体育館の入り口では、すでに入場整理がはじまっていたので、私たちは施設奥の角にある裏口から入っていく。途中、全身を取り押さえられた女子が連れ込まれる様子を目にした女子中学生に「……犯罪?」と疑惑をかけられた。そこで通報されることに一縷の望みをかけたが、真田さんたちは「この子ったらしょうがなくて」みたいに可憐な愛想を振りまき、可能性の芽を丁寧に潰していった。


 さすが強豪校。事前の駆け引きにもぬかりがない。


 ドレスコードはいわば、ソードで戦わない「ドレスの決闘場」である。

 大きなイベントでは複数テーマの対決ショーなんかが主流だけど、今からやるのは“実物の服がなくていいお手軽デジタルファッションショー”だという。


 また、ドレソみたいに競技性と競技者が先行するわけでもないから、世間一般にもよりカジュアルに取り入れられていて、最近ではショップの試着用途に簡易機材を取り入れているブランドも多い。ドレソのドレスみたいな制限もないから、ハロウィンパーティとかにも使われてるって、よくニュースで目にする。

 ドレソもこんくらい市民権を得てほしいものだ。


「私は明日香と準備に入ります。葉月、あとはお願いします」

「分かりました。律子、こっち」


 ステージといっても、いつものドレソのステージとは違う。私は、体育館の壇上(校長先生がよくお喋りするところ)の脇に控えさせられた。


 暗幕に隠れるようにした端っこに、見慣れたドレスソードプラットフォームのものと比べると高さ半分くらい。80センチ程度の銀ポールがちょこんと立っている。コンソールに関しては音響・演出も兼ねて、壇上手前の観客席側に設置されているようで見えない。そして場内をチラ見すると、客席はほぼ満席。おわった。


「律子」

「なにさ」

「ごめんね。まだイヤ?」

「かなりイヤ」

「それでも出てくれる?」

「逃げてえ」

「律子が本当の本当にイヤなら、いいよ。私がどうにかする」

「そういう言い方、ズルいと思います」

「知ってる。だけど律子には言いたくなるの」

「なんで」

「聞きたい?」

「べつに」

「そう」


 葉月は楽しげにふふっと笑ってから、細かい説明をすることもなく私の手をひっぱり、ステージ脇からショーの様子を眺められそうな場所を陣取った。

 知らない数名は、ドレコ部の部員かな? どの子も雰囲気がある。


 ステージは今、壇上側からだけ透いて見られる一方通行の可視性になっているけど、ショーの開始と同時に全方位、双方向性的に可視化され、登壇者と観客ともばっちり目が合うようになるし、声や音も届くようになる。

 外から不可視なのは、舞台袖にあるメイクオーバーエリアの範囲内のみだ。


 私が今いる場所もメイクオーバーエリアで、間近で急ぎ準備をはじめた真田さんや徳永親分が、その女性的な印象とは裏腹に、体育会系の部員らしく恥ずかしげもなく衣服を脱ぎ散らかして、大胆な下着姿になっていた。

 花とかなら気にしないんだけど、思わず「ひゃあ!」って気分になる。


 ドレソの場合は会場移動もあり、最低限でも陸上部くらいの薄めな肌着が求められるけど、ドレコはファッションの最前線だから。首回りや肩口、背中や臀部などを大胆に露出する可能性も考慮して、着装前は原則、下着姿である。


 あれ? まったく関係ないけど、ふとした疑問が湧いた。


「ねえ、黒須第一のファングってホルターネックだし、着装するときさ」

「上はシリコンブラって噂。あそこ、誰も明かさないから真相は不明だけど」

 するすると返答された。すでに何度か話題にしていたみたいに。


 まあ、シャツでもブラジャーでも、ホルターネックだと見えちゃうもんね。

 氷空や海音さんに探りをいれてみたいことが、またひとつ増えてしまった。


 真田さんたちがT字になり、近くの人に合図すると、DSチップと兼用のDCチップ(ドレスコードチップ)からデータ出力が行われる。シューシュー。ドレソと同じ浮き輪の空気が抜けているような音。同時に彼女らの頭から胸元へ、胸元からお腹へ。肢体にゆっくりと走る光線が、その経路に電子の布地を形成していく。


 私いわく、チョコでコーティングされるときのバニラアイスの気持ちだ。


 参加者を見回すと、日常生活では派手めだけど、よく映える色合いのアイテムをそろえた秋のコーディネートという印象を受けた。ドレソよりドレコのほうがライフスタイルに即しているからか、普段着したいファッションも多い。

 けれど、ほんのすこしかけられたウソのスパイスが、これまた絶妙なの。


「わあ、みんなかわいい」

「私にはよく分かんないけど、律子には分かるんだろうね」


 私のDCチップには当然、姿が着装するはずだった(ドレコでは着用って言うんだけど。クセでね)ドレスは登録されていない。でも今回のショーでは各々で作って弄ってしていたら全体のバランスがとれないということで、クローズドな共有オブジェクトで制作されているらしく、共有されてしまうのも早かった。


 それらを手がけますは、流星館ファッションデザイン部の皆さま。

 流星館ドレソ部のあのドレスにしても、現三年生の部員が一年生のころに仕立てて、ちょこちょこアレンジして今に至るみたい。羨ましいかぎり。


「私たちも着装しておこっか」

「まじかあ……分かった」

 葉月に通達されたので、覚悟を決める。


 彼女は上着を乾かし中だけど、役どころが青年らしいし、すでに男性服だからそれでいいじゃんって思ったのは内緒として。

 葉月も私の目を気にせず服を脱ぎはじめたけれど、この子の場合は朝女の練習終わりに見慣れたもんだから。ドキドキ感なんぞとっくにない。


 さてと。重い手で、お姉ちゃんに借りたマウンテンパーカーを脱ぎ、ブラウスとフレアスカートともおさらばする。あっ、やべ。そういえばお化粧って。


「葉月。化粧と髪どうしよ」

 残念ながらドレコでも、顔と髪は自前である。


「そうだ、化粧だ、化粧は……メイク担当がもう出ちゃうから。無理かも」

「そんなこったろうと思った」

「みんな派手にやってないから違和感はないはずだよ。ごまかしはしてるけど」

「一番ごまかさなきゃならねえお姫さまがいるっつーのに……」


 思い返すと、真田さんたちも特別派手な化粧じゃなかったし、まあいっか。


「髪は二人ともポニテだもんね……律子のほう、ほどいてもいい?」

「あーい」

「私がやってもいい?」

「任せるよ」


 今日の髪型は二人ともポニーテール。男装をイメージした葉月が「ポニテ青年」だというなら、お姫さまが髪を下ろすほうが適切ってところかな。


 下着姿のままで後ろを向き、テキトーに葉月に任せることにした。ポニーテールをまとめているシュシュを、髪に引っかからないよう丁寧に外した葉月は。


「佐伯。そこの霧吹きとスプレーかして」


 はーい、と。黄色のベレー帽に、わっさわさとボリューミーなスカートが目を引くシティガールに変身している、左の友人の佐伯さんが小道具を手渡す。


 悲しいけど、後ろ髪がどうなっているのかは鏡がなくても想像できる。私の髪質は残念なことにサラサラのストレートではない。ひもゴムよりも締めつけが緩いシュシュでもすぐにクセがつく、ヨレッヨレのザッコザコな毛並みなのだ。

 葉月は私の髪を優しく指ですいたあと、全体に霧を吹きかけ、ほどよく湿ったら小刻みにプシューっとスプレーし、もみもみくしゃくしゃした。


「いいね。根元から濡らしたりカールしたりしてないのに、いい感じのウェーブ」

「さようで」

「ちょっと羨ましいな」

「私も、葉月の髪が羨ましいよ」

「くすっ。ないものねだり同士だ」


 役立ちポイントが少なすぎるクセっ毛にも、こういうときは活路がある。

 手鏡で見せてもらった感じ、細かくゴージャスな波は打っていないものの、余裕のある映画女優のような、緩やかなビーチウェーブに仕上がっていた。


 そうこうしていると、会場にアップテンポなガールズナンバーが鳴り響いた。

 ついでにドレソで聞きなれた、女性型の機械音声がショーの幕を開く。



【Dress Code Start-up……「流星館ガールズ」…………First Look.】



次回「美装絢爛<ドレスコード>」(2)。

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