表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
敗北のドレスソード  作者: 手遊花
朝倉女子 二年生編(夏)
51/205

失礼、淑女のお通りだ(1)

「対面がいないときは、こうやってこういくべきでは?」

「いやそれじゃダメっしょ。やっぱこうだよ、こう」

「仮にそっちから寄せられたらどうします?」

「メリーシャならどうにかできるでしょ。しな」


 念願のドレスソード部が復活したところで、少女たちがあーだこーだ言える時間はそれほどなくて。各々が都合やスケジュールの合間を縫っての再活動となった。四人ともここまでの道のりを振り返る余裕すらなく、気づけば今日という日に。


 あの日の空輸ドローンがつないでくれた、ささやかで真摯な贈り物。


 二〇三五年度。全国女子高ドレスソード体育大会。関東中部エリア・東京A代表地区大会。人口過密都市の東京二十三区内にひしめきながら腕を鳴らした、強豪校と新興校と夏のシンデレラ校がぶつかり合う、JDS最大の予選激戦エリア。


 A代表の参加枠は、毎年六十四校のみ。過疎地区には贅沢すぎる枠数だが、その制限数を超える年も珍しくはない。そうなった年度の参加申請校は、実績や実情を加味しての審査制で振り落とされるが、今年は幸か不幸かぴったり六十四校だったようで、審査落ちを嘆く女子高生の声はどこにも届けられていない。


 お隣のお気楽なB代表が、トーナメント二回戦の勝利と同時に地方大会に進出できるのに比べ、A代表は四回戦での勝利が必要になることから、弱肉強食の傾向がよりハッキリと出やすい。ある意味、勝ち抜きの健全さが担保されている。


「まさか、三年生になってJDSに出られるなんて。私は夢にも思いませんでした」

「ねー。わたしとドードーは三年生なのに初試合とか、普通に舐めてるよね」

「がんばりましょう! 巡流さん!」

「あんま期待しないでよ?」

「たくさん練習したから大丈夫ですよ」

 メリーシャのテンションは、遠足当日のあれみたい。


 JDSに出場できるとはいえ、たしかな年月をつぎ込んではいない彼女たちの練習時間は、己の自信につなげるにはあまりに頼りないものだった。

 けれど、勝つ自信がないわけでもない。その先進性ゆえに今も洗練されていないドレスソードでは、いまだ専門外の勝ち筋がいくらでも転がっている。


「翼は緊張していないか」

「するわけないでしょ。煽ってんの? てゆーか周囲がうるさいわね」

「仕方ないさ。A代表の会場だからな」

「試合前の選手にタコ焼き見せないでほしいっての。食べたくなるじゃん」

「気持ちは分かる」

 あたり一面に匂っているのは、楽しそうで美味しそうなお祭りの気配。


 東京A代表はその規模感もあり、地区大会では唯一の「三日進行」となる。会場は例年、広大な敷地面積にいくつものホール設備を抱えた都内屈指の大学となり、試合もAホールの2ステージ、Bホールの2ステージの計4ステージで進行する。 

 おかげで女子高生たちの夢は、全国ナンバー1の速度でサクサクと潰えていく。


 また、A代表戦では計六十四校の大会参加者はもとより、一般観戦者の数も桁外れに多く、さらに来月からの自分たちのキャンパスライフをより豊かにするためにと商機を見いだした数多くの大学生らが、文化祭よろしく露店や即席アミューズメントスポットを営んでいる。それがA代表会場ならではのお祭りの光景だ。


 そこらじゅうに威勢よく飛び交う呼び込みには、ドレスソードのソの字も知らない「あれなにやってるの?」という人すら引き寄せられ、会場は毎年賑々しい。

 なお、利に敏い都内の大学間では「今年はうちに!」「今年こそうちに!」と開催会場の権利が喉から手が出るほど羨ましいものになっているが、厳正なるドレスソード運営競技会からのお願いは、いまだほかの大学には届いていない。


「カスミン、ちゃんと受付できんの?」

「ああ。部長だからな」

「暫定、ですけどね」

「瀬里奈が部長のままだったら、今年で廃部まちがいなしね」

 むぅ。仲間の見解が冷静かつ冷製。


 人混みから外れた関係者専用の道をとおり、その先で大会受付を済ませる。

 瀬里奈は昨年のおっかなびっくりな無断出場の体験を引きづっていて、すこしだけ「本当に登録済みなのか?」とネガティブな疑念を抱いてしまった。


 それを顔に出すほど表情豊かではないが、目元にいつもより重たく被せたまぶたは、受付のお姉さんの返答を見るのを怖がっているみたいで。


「ライムライト女学校ですね……登録内容に問題ありません。Bホールへどうぞ」

「ありがとうございます」


 独断専行娘の気がかりは杞憂に終わった。どうやら巷で小さく噂されている、「あのライムライトがJDSで復活!」の話は、当人ながら本当だったらしい。


「あれ、ただ、ドレスとソードの更新日が二〇三三年六月になっていますが?」

「問題ありません」

「そうですか……二年ぶりの黒須第一との激戦、私たちも楽しみにしています」

「そのときがくれば、ですが」


 ドレスソード部の再活動が決定してから数日後、DSチップの外部利用制限は撤廃してもらえたが、四人ともドレスソードプラットフォームには触れられていない。つまるところ彼女たちのソードとドレスは、二年前当時に登録したもののまま。


 六月中は、巡流の陸上競技の全国大会予選、メリーシャのフェンシングの全国大会個人戦、翼の剣道部の全国大会団体戦および個人戦も重なり、ついぞ都内のドレスソードプラットフォームにまで足を運ぶことができなかった。


 JDS会場では不正防止の観点で、選手当人らのプラットフォーム操作も禁じられている。試合ごとの出場選手のオーダーはOK、ソードも二種類まで登録が可能だが、会場内ではドレス、ソード、アーマーのデータ自体をどうこうできない。

 予備ソードも対面対策には有用でも、作り込んで使う者は稀だ。


 無為な練習日こそ詰め込んだが、大会調整でひとりふたり欠ける日も多く、現状は名実ともに「お遊びドレソ部」と見られても致し方なしの実情。

 それすらあらかじめ覚悟しての本番であっても、不安はそう簡単には拭えない。受付終了後、戦地となるBホールに向かうまでの道のりで四人の口数が徐々に減っていったのも、知らず知らずの憂いを消しきれなかったせいだ。


「あれー? あれあれー? あれあれあれー? セリナちゃんじゃーん!!!」


 Bホールの入口前に着くと、背後から瀬里奈を呼ぶ大声が飛んできた。

 直接会ったのは二年ぶりの二回目だというのに、不思議と相手は分かった。


「丘町ゆゆ」

 振り返るよりも先に呼んだ名は、正解。


「なんだよー! ゆゆちゃんって呼んでよー! 私たちの仲でしょー!」

「すまないが、丘町さんとは一度しか会ったことがないのでな」


 声の主は、黒須第一大学付属高等学校の三年生、ショーテル使いの丘町ゆゆ。

 瀬里奈が試合で対面したことのある、たったひとりのドレスソード選手。


「でもすごーい! 二年ぶりだよねセリナちゃん! なんでここいんの?」

「JDSに出場するからだ」

「へー……へぇ! へえ!! へえええ!!!」


 黒いギザギザマントに赤いショルダーネックのドレス、通称「ファング」でその名を知られる黒須第一だが、普段の学校制服は明るめの黒色ブレザーに、ワンポイントの赤いリボンタイと、ファングと比較するとずいぶん慎ましい。


「うれしい! ゆゆちゃん感激! セリナちゃんがJDSに戻る日がくるなんて!」

「私もだ、丘町さん」

「ほんとだよ! ほんと、ずっと、ぶっ殺してやりたくて仕方なかったよカス女」

「カスミンめっちゃ恨まれてるやん」

「まあ、二年も勝ち逃げでしたしね」

「この子、相変わらずうっさいわね」


 一度会話するか、一度対面すれば嫌でも分かる。これが丘町ゆゆだ。


 二年前、霞瀬里奈のはじめてのドレスソードの試合のこと。彼女と翼は、全国出場が決まっていたJDS地方大会の準決勝に選出された。言ってしまえば、負けても大丈夫なところに一年生の有望株を出してみた、といったところである。


 先んじたライムライトのオーダーに対して、対戦校の黒須第一も示し合わせたかのように、当時二年生にしてチームの中核を成していた天河海音らを外して、代わりに二年生の金森時乃、一年生の丘町ゆゆを投入した。学校としての本領発揮ではないけれど、生徒たちにとっては看板を背負った真剣勝負に違いないものだ。


 そして瀬里奈は、対面のゆゆを下して一年生対決を制した。本来なら瀬里奈にとって不利な対面であったが、そのころのゆゆはまだドレスソードをはじめたてで、今ほど曲剣を使いこなせてはいなかった。その後のドレスソード活動の明暗はくっきりと分かれてしまったが、非常に思い出深い相手ではある。


 瀬里奈が頭のなかでドレスソードを思い描くとき、練習ではない本気の殺気を持って対面してくれたゆゆの存在は、必ず脳裏をよぎる。それは今も同じ。

 だから彼女にとってゆゆの存在感はとてつもなく大きい。そうした一方で。


「殺す! ぶち殺す! あんたのせいでクソブス女に遅れをとったんだからね!」

「すまない。勝ってしまって」

「ころーす! ああ神さま! ゆゆの汚点を消す機会をいただけて、ころーす!」

「ふふ。三年になっても丘町さんは丘町さんだな」


 丘町ゆゆは試合中だろうと試合前後だろうと、大体こうだ。

 この点に関してだけは、ドレスソード選手間における知名度はかなり高い。


「ゆゆね。本当にうれしい。あんたにやられて、輝かしいデビューも消えて、そしたらあんたも消えて、ライムライトもゴミみたいになったし、昨年あんたひとりで地区大会出てボロ負けしたって聞いたとき、笑い転げて死んじゃうかもって思ったもん。だからうれしい。世界一だよ、こんなに復讐したいやつなんて。ありがと。ゆゆにやられるために帰ってきてくれて。絶対、絶ーっ対、ぶちころす!」


 あんまりな言い草に、思わず苦笑が漏れる。ただ敵意は湧かない。


 ゆゆの口調は物騒極まりなく、本気で嫌っていることも分かるが、彼女が醸しだす愛嬌のせいだろうか。子供の駄々のようなほほ笑ましさが先にくる。

 それに瀬里奈にとっては、恋子やライムライトの仲間以外ではこの世界でたったひとり、ドレスソードのつながりがある相手だからかもしれない。


 だから、どんなにわめかれても「おかえりなさい」に聞こえてくる。

 都合よく口汚い部分を取り除けば、そう聞こえなくも、なくはない。


「ゆゆちゃん部長やかましいですよー。なに騒いでんのさ」

 今年の黒須第一の主戦力と目される、二年生の刀使い、新堂楓が口を挟んだ。


「黙れ楓。後輩のくせに口答えすんな」

「はーいはい。ほかの人の迷惑だからねーって、うおっ! 剣龍と剣虎だっ!」

「おい」

「この二人っ! ボクら世代の超超超有名人っ! ボクもファンなのっ!」

「おいっ」


 楓たちの世代の剣道界では、頂上決戦が大体「剣龍・霞瀬里奈vs剣虎・白峰翼」

この二人で行われてきたことから、校外にもこういうファンはいる。

 なお瀬里奈は二つ名をなんとも思わないが、翼の前で言うとちょっと睨まれる。


「ゆゆちゃん部長……もしかして親友ですか? くわーはじめてリスペクト!」

「親友じゃねーし」

「ボ、ボク……サ、サインとか頼んでもらっても、いいですか?」

「死ね。死んでもイヤ」

「てか、なんでここに? まさかドレスソードを? って、あーライムライト!」

「うぜえ! もう行くよ!」

「えーひどいー」

 いきすぎた部長が、いきすぎた後輩を引っ張った。


 黒須第一はドレスの印象もあって、スラッとスタイルのいい精悍な選手がイメージされがちだが、今年はどうやら小柄でコミカルな成分が強そうである。


 ゆゆは楓の肩を引っ張り、瀬里奈を押しのけるようにして、我先にとBホールに入っていく。そのとおり抜けざま、彼女は顔だけで振り返って罵った。


「今年はさ。ウチもクソブス女とゴリラ女がいないし、白鳴の盗賊女とか桜花の清純気取りとかもいなくなっちゃって、私ら世代が残念扱いされてんだよね。そのくせ流星館のブサイク姉妹が調子乗ってるからうぜーけど、ゆゆの黒須は超強いから。あんたたちみたいなポッと出の枯れた死体なんか、絶対殺してやるから」


 それだけ一方的に言うと、ゆゆは「握手だけ! 握手だけでも!」とわめく楓の肩を無理やり引っ張って、Bホールのなかへと消えていった。


「ほんとクソガキね。まあ、黒須第一に勝てるとは思わないけどさ」

「今の私では、さすがに丘町さんに勝つのは困難だろうな」

「私なら負けないよ」

「だとしても、翼に譲る気はないさ」

「言ってな」


 Bホールに入ってからは周囲や環境に動揺することもなく、開会式がはじまり、終わっても、落ち着いて試合の準備を進められた。

 ありがとうとは口が裂けても言わないが、ゆゆの衝撃がみなの緊張をほぐした。


 瀬里奈のまぶたが、すこし上がった。

 巡流も、いつもの軽口が戻ってきた。

 メリーシャは、お水をすすっている。

 翼は床に座して、精神統一を図った。


 四人とも運動着はバラバラ。衣服にライムライト色はかけらも差さっていない。肌着は観客に見せないとはいえ、彼女たちの姿に学校としての一貫性はない。


 4ステージ同時進行ゆえに、大会もサクサクと進んでいく。長くも短い時間が経ったころ、ライムライト女学校を呼び出すアナウンスが控え室に流れてきた。


「――よし。メグ、メリー、翼。イチかバチかの晴れ舞台のときだ」

「わたしは泥舞台になんなきゃ、それでいーっすよー」

「たとえ負けても笑われても構いません。一閃必殺。私は私を貫きます」

「気張らなくていいよ。四人でも五人でも抜いてあげる。所詮ドレソでしょ」


 一年ぶりの三戦目。二年越しの二戦目。三年目の一戦目。


「みな調子も出てきたな。では、お披露目といこうか」


 ようやく、ここまでたどり着いた。

 夢見たステージはすぐそこに。


「緑銀の淑女のお通りだ」

次回「失礼、淑女のお通りだ」(2)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ