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敗北のドレスソード  作者: 手遊花
朝倉女子 二年生編(春)
36/205

うるっっっせぇんだよ(3)



【Dress Sword Start-up……「朝倉女子」vs「静林」…………First Look.】



 陸上競技のユニフォームのように、ひじやひざの可動部を邪魔しないスポーティな静林ドレス。丈にも遊びがあり、首元や太ももの露出は少ないけど、ピチッとしすぎないところもドレソらしい塩梅。運動着風だけどオシャレな印象だ。


 可愛さ重視のコスチュームが多いなかで、静林ドレスには「強そう感」がある。本気で競技やってますみたいな。幸い、機能性の差はないというお触れだが。


 隊列は左から順に私、花、氷空、恋子ちゃん。そして背後に左がいる。


 左は家に帰ってから調べでもしたのか。「腕はこう! 足はこう!」と、先ほど試合前に効果的だという準備運動をレクチャーしてくれた。

 ますますマネージャーっぽいけど、一番うかうかしらんないのは私だからね。あの子を見習って、準備運動のやり方はしっかり教えてもらった。



【Lady to Ready……Round 1…………On Stage.】



 立ち上がりは静かに優雅に。みなランウェイを歩くようにして、八人の乙女がステージ中央を目指す。私の対面は、静林のクイーンで三年生の阿木さん。

 これまでも予想はしていたけど、静林が初めてだ。たぶん対小枝律子のために、両校のクイーン同士をかち合わせられる配置にしてきたのだろう。


 これは、私たちも合宿のときから懸念していたことだ。


 私が対面でクイーンを相手にするときは、私のフェイタルが期待できない以上、ほかの誰かが人数有利を作って挟撃を目指す形になる。

 その間、私は「クイーン同士の立ち合いで一方的な優勢を与える」ことになる。考えられる要素はいろいろあれど、この手に攻撃力が身につかない限りはね。


 これもまた、守りたい系クイーンが廃れた原因かな。

 でも、お生憎さまだ。葉月のアドバイスはとっくに有効活用している。


「花、アレお願い」

「任せて」


 隣の幼なじみに合図を送ると、花は私に対して1メートルにも満たない距離まで詰めてきて、二人で隣接した。これが対策の一つ「盾とエストック作戦」。

 疑似的な2vs2を作ることで、互いの防御力と攻撃力を補って安定感を生み出し、私の生存時間の引き延ばしを図る。朝女らしいモサッとした戦術である。


 静林のことは知らないけど、朝女は部員が少ないから。4vs4の経験は薄い。

 その代わり2vs2の機会が多いからね。タッグ戦ともなれば慣れたものよ。


 基本的に1vs1を取りがちな女子高ドレソではあまり見ない戦法だと、氷空も言っていた。ただ兵庫の姫ノ道女学園など、一部の強豪校では前例がないわけでもないらしく、そもそも規格外の白鳴や黒須第一のようなチームが幅を利かせているわけだからね。盛大に効く未知のハッタリ、とまではいかなそうだけど。


 この場合、花が二人相手にぺルセをぶちかまそうものならフェイタル必至だが、刺突剣らしい一撃離脱、エストックのリーチを生かしたけん制は生きる。

 同様に、私も花と隣接しながら、一人ないし二人にプレッシャーをかけていく。集中攻撃されれば落ちるのは間違いないが、うちのヒカゲバナは怖いから。下手に攻めようものならきっとどうにかしてくれる、はず、だと思う。


 朝女最強の攻撃力を1vs1でぶつけられないのが最大の欠点としても、そこは周囲にバランス最強と処刑最強もいるから気にしない。

 あっちの二人が普通に破れるようなら、そもそも勝ち目も薄いしね。これまた人任せになるが、古代生物のシルブロクイーンなればこそ光る作戦なのである。


 こちらの動きに対して、静林からは鳩に豆鉄砲というほどのリアクションは取れなかった。けれど阿木さんの顔はちょっとだけ歪み、花の対面も戸惑いつつ、阿木さんの隣に寄っていった。予定外の嫌がらせとしてはちゃんと作用している。


 ひとまず、静林はこちらのフォーメーションに乗ってくれた。


 七咲鈴子さんとか、ああいう一部を除いたらさ。あなたたちも私たちも普通の女子高生でしょ? だから堅実で地味な古き攻防でも、簡単には打ち崩せまいよ。


「打たれたら刺すでいくね、りっちゃん」

「おっけ」


 阿木さんのソードは、少し厚めな光刃のレイピア。長さはエストックほどじゃない。たやすくソードブレイクしないよう補強しているケースだろう。

 花との対面で対策は練っているものの、安心はできない。突きというのはいかに盾があろうとも防ぎづらい、ドレソ初心者を最も屠ってきた攻撃手段だから。


 ヒュッと。レイピアが飛んでくる。目で追える。右腕も追従する。

 阿木さんの刺突を三角盾のお腹で受けつつ、剣先を払うように右手を振った。


 様子見の一撃だったか、阿木さんの態勢が崩れることはない。

 ただ、そこに花のエストックが安全距離から差し込まれる。本気で貫くつもりはない「近寄るとこうなりますよ」といった意思表示めいた攻撃だ。


 察しのいい彼女たちはそれだけで理解したか。邪魔者な花に狙いを定めたところで、私がアヤメを抜きながら一歩前に踏み入る。彼女たちは無理せずに足を止め、一歩後退する。圧だ。私には圧がある。存在感があると、あの子たちを騙せ。


 狙いどおりの硬直状態。試合は遅延気味だけど、一太刀、二太刀、三の太刀と。少なからずソードを交わしていれば、大体の力量はうかがえる。

 おそらく、対面二人は私の格上。花は同等あるいはそれ以上に思えるけど、防御不安な彼女のことだ。目の前の隙はぶっ刺せても、その後が若干怖い。


 それでも2vs2の連携をとっていれば、私たちの能力は平均化される。どちらかが自信過剰に体を出せば、対面二人に一瞬で袋叩きにされるのは相手も同じだ。

 事前に示し合わせているぶん、こちらが有利とも言える。


 必然的にステージ左側の状況は硬直するから、観客ウケの悪い塩作戦だろう。

 知るか。変化がなく対等に打ち合えている。その事実が自信へとつながる。

 私たちは今この場で、普通にドレソ選手としてドレスソードをやれてる。


 試合中だし、大手を振るって喜びなんてしないけど、大それた白鳴打倒の前に「私たちはもう、ほかの子たちと普通に攻防できる」のを確認できた。

 これまで比較対象が流星館だったし、昨日は昨日でバタバタしていたから気が回らなかったけど。今年一番つかんでおきたかった感覚を確かめられた。


 普通に戦って、普通っぽく駆け引きできて、普通みたいな試合が成立する。

 それは選手としての“いろは”ができた証拠だ。足りない自分を自覚していても、過剰なまでに「まだ実力不足だから」と謙遜していると、私たちは見誤る。


 そんなのが許されるのは、時の人となれる才能を持った天才か。はたまた名実ともに結果を出した努力家だけ。分を弁えているからこそ、私はこの瞬間、この一年間を自分なりに努力した小枝律子を再び褒めたい。がんばったなリッコって。


 ドレスソードは勝ったら実力、負けたらいい経験。

 自分の今の実力を認めて、足りない部分を自覚する。

 姑息で知的な格闘こそが、私が受け継いだ領分でしょ?

 

 ジリジリしがちな盾とエストック作戦。「どうする? いく? いっちゃう?」と両陣営の選手たちは判断しきれず、冷静なままくすぶる。

 ゆえに戦況の変化のきっかけは、逆サイドのメンバーに大きくかかってくる。


 だが、チラリと目に入った範囲では、あまり芳しくはないようで。


「氷空、調子悪いかも」

「えっ」


 盾とエストック作戦中とはいえ、会話や状況把握もさすがに余裕ではない。

 私の場合、花の挙動を確認するためにステージ右側に視線を配るから、その間にほかの二人にも目を向けられるってだけだ。


 そして見た感じ。氷空の威勢が強いというか、いや弱そうというか。変だ。


 やっぱ、なんか問題あったのかなあ……彼女の異変には気づいていたのに、放置したツケが回ってきたか。つっても、今できることなんてなんもないっ!


 私は集中を切らさず、阿木さんのレイピアを受けては払い、叩き、少しばかりの不快感を与える。無理に叩きにいっても逆襲されると危険だから、あくまでできると判断したときだけ。仕切り直しができたら、その時点でベストとする。

 攻めの防御と言えど、自尊心に火はくべない。武道に敵なんていないのだ。


 試合時間の経過に伴い、各々が状況に慣れてきたか、双方の攻防も加速する。

 いつでも刺し違えられるんだぞ。そんな気持ちで(私クイーンだけど)、左手に持つアヤメをチラつかせ、朝女のクイーンが脅威であると示し続ける。


 最も危険なのは「ダメージ承知で花を集中攻撃されること」。仮にそうなったときは、不格好でもアヤメをぶっ刺し、相手の人数は絶対に減らさないといけない。それでどうにか最低限というのが、向こうにはバレてはいけない弱点である。


【ピロッ――Damage Fatal.】


 いやはや申し訳ない。腐っても鯛。

 不調だろうと、あの子は天河氷空だった。


 見てはいなかったが、氷空は対面を制したらしく、私たち側に合流した。

 氷空か恋子ちゃんが対面を抜いたときは、ステージ右側のもう一人を削ぐのも有効だけど、人数差をつけられた相手が「まずい」と思ってやることは、概して諸刃の剣。つまり、クイーン(私)に相討ち覚悟でおんどりゃしてくる危険がある。


 そういう顧みずの攻撃を華麗にさばけるかというと、そこは私。お作法すらすっ飛ばして、体から突っ込んでくる相手のほうが逆に無理な気すらする。

 本来なら、合気道の護身術の出番なんだけどね。ドレソじゃ身体同士での接触は超密着距離のつばぜり合い以外は原則ペナルティだし、大変お恥ずかしいことに、ソード並に恐ろしい凶器で迫られたときの対処法など知らん。無理無理。


 だから、私たちは「人数有利の場合はクイーンの守護を優先」とした。

 そうすれば私との差し違えを狙っての特攻を抑止できるし、もし恋子ちゃんが落ちたとしても依然、3vs3は続けられる。勝気な戦略とは言いがたいが、アドバンテージのロスは最小限にできる。全部、花先生と氷空先生の考えだけど。


 こういうところなのかもね。この作戦にしても、氷空か恋子ちゃんの個人頼みが際立つから、一年生で勝ち筋を担う責任を、氷空が負担に感じているのかも。

 氷空が対面を倒してくれたことには拝んで感謝しかない。だけど、それすらも氷空が負担と思っているのなら。うん、そうだね。明日ちゃんと話し合おう。


【ピロッ――Damage Fatal.】

【ピロッ――Damage Fatal.】


 目論見どおり、「盾とエストックと居合刀も参加作戦」からはすぐだった。


 氷空がステージ左側の相手の背後に回り込み、態勢を変えようとする対面を花が見逃さずに討ち取り、あとは三人で阿木さんを囲んでフィニッシュ。


 今年の朝女、マジで強い。氷空が正統派で強いのがほんとに大きい。


【Queen Defeat……Round 1「朝倉女子」……Make Over.】


 おつかれさまでーすと、出迎えてくれた左からスポーツ飲料を受け取る。

 うおっ、左やりおる。それぞれのペットボトルのキャップがあらかじめ外されていて、赤いストローが刺さってる! デキる女度が急上昇してるじゃん。


「作戦いい感じだね、りっちゃん」

「静林も慣れてきてるから、油断できないけどね」

「花ちゃんも氷空ちゃんもすごいよー。私だけ空気だったぁ……」

「いえ、恋子さん自身はそう思うかもしれませんが」

「観客は基本、恋子ちゃんに釘付けでしょ。迫力が違いすぎだもん」

「むむう。そんなことないと思うけどなぁ……」


 あるって。どれだけ戦況が動こうと、私が絡むゾーンは地味だし。


 花や氷空には技術の華があるから、目を向けられるかもしれない。けれど有名校でもないところの選手の試合なんて、本気で見る人の数は多くない。

 それはどんな競技でも同じでしょ? でもさ、恋子ちゃんはね。もはや別格よ。彼女の大根十本分の偃月刀には、それ自体に耳目を集めるパワーがある。


 その出で立ち、まるで撃腕の天使が醜悪な処刑をもたらすがごとく。

 可愛いのに恐ろしい。振るだけで恐怖をまき散らす。ドメスティックなコントラストには見慣れた私たちだけれど、正直ファンがいても驚かないほど鮮烈だもの。


 まあ、朝女の場合はないと思うけどさ。選手や試合によっては「女子高生にあんなもの持たせるなんて!」とクレームをつけられるらしいから油断できない。

 どんな要因で部活動にミソがつくかなんて、さっぱり分からないからね。


「左ちゃんから見ても、私ってそんなふうに見える?」

「見えます見えます。私も後ろで見てて、スプラッタ期待してました!」

「たはー……やっぱりソード変えようかなぁ」


 今からじゃさすがに遅すぎない? 諦めよーよ。


 それにね。たとえ誰にも認知されていなくてもね。うちの大撃腕部長はタレント性なら流星館にも負けてないって思っている。

 あん? 身内びいき? 当たり前だ! だって出会ってからずっと可愛いもん!


「氷空もありがと。対面はどうだった」

「……べつに」


 場が温まったと思って尋ねてみれば、これだ。

 えっ。もはやムスッとブスッとかじゃない、冷え冷えなんですけど。


 表情が豊かじゃないのは知っているけど、こんなに分かりやすく機嫌を損ねるとは。精神面が非常に強い子だと思っていたのに、一体なにがあったの……。


 まずい。まずいぞ。左にフォローミーな目線を送ったら、あいつ! 花にくっついてこっち見もしないでやんのっ! どうしよー。どうするー?


「えっとお……氷空、怒ってる?」

「怒ってません」

「どう見ても、怒ってるように見えるんだけど」

「……すみません」

「その、私とかがなにかしちゃったかなあ」

「いえ、違います。本当に。私が悪いんで」


 もー、はっきりしない。いきなり爆発するような子には見えないけど。

 昨日からの問題? それとも今のラウンドのせい? わがんにゃいっての!


 彼女に頼っているのは事実だし、素直に「頼ってるから」って言うべきか?

 間違いならぶちキレられそうだ。なら「今度は私たちが勝たせるね」とか?

 ダメダメ。実行力が乏しすぎる。そもそも考えが的外れな可能性もあるし。


 うーんでも、どうしようもない。私の交流スキルじゃ限界がある。

 そんななかで言えるのなんて、これくらいか。


「今日の大会が終わったら、ううん。この試合が終わったら相談して」

「いえ、私自身の問題ですので。相談するようなことでは」

「氷空の問題だから、相談してほしいの」

「でも、本当にちっぽけなことですので」

「それでも。お願い。いーい?」

「はぁ……」


 理想では「バシッと心をつかむ名台詞で一発逆転!」といきたいけど、無理だね。たとえ準備万端でも、そこまでパーフェクトな答えを出せそうにない。

 だって私は「仇がいないので、その後輩を倒して仇討ちします」とか言っちゃうくらいだし。気の利いたコミュニケーションなんて望んでも無理だ無理。


 しかしまあ、もうちょっと先輩力を養う必要があるなあ(ドレソ的には私が後輩だけど)。誰だよ。4つも5つも離れてる合気道大好き少年たちの先輩役と、繊細で華奢な女子高生の先輩役を同列に考えていたアホは。私だ。


 氷空の表情は晴れないままで、ラウンド2を告げる声が聞こえてきた。

 彼女のこと、試合のこと。私は、前者を心配する私でいられただろうか?

次回「うるっっっせぇんだよ」(4)。

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