右の左の左手で(3)
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一瞬、律子先輩ったらなに言ってんの??? って思った。
だってJDSでの出場についてはこの二か月、憎たらしき花先輩にずっと突っぱねられてきたんだもん。それも仕方ないと分かっていながら、反発したんだけど。
自分の問題児っぷりは自覚している。でも花先輩が嫌味ったらしすぎんだもん。あんなん思わず噛みついちゃうでしょ? 普通はさ? 私だけ? 私だけか。
んーで、これだよ。今日この日になってこれだよ。
律子先輩。律子先輩。あなた、ちゃんと正気か???
「ってことだから左。よろしくね。がんばりな」
「はい。いや。いえ。ちょっと意味わかんないです。急すぎます」
「思いついたの昨日だから、私も同じ気持ち。まあそういうことで」
「はあ。はあ?」
おいおい、律子先輩ったらなに言ってんの???
正直はところ「おっしゃきたあ!」ってなテンションは欠片も湧いてこない。
あんだけ自分でわめいておいてなんだけど、会場にきたときから「うわあ無理。出ないのに緊張する」ってビビってた。ぶっちゃけ安心してしまっているくらい、心も体も準備できていない。なのに、これだよ。どーゆーことー?
はあ? 私、ほんとに試合出るの???
「待って。りっちゃん……どうして? そんな大事なこと勝手に」
「花、ごめん。でもそうすべきかなって」
「だって、それじゃあ、勝てないかもしれない」
「私が出たってそんなに変わんないって」
「変わるよ。絶対に変わる」
「そうかもだけど。それでもさ」
見てよ。花先輩の顔。なにあれ。すっごい複雑そう。裏切られたヒロインみたいなオーラ出してる。私のこと嫌いだろうしね。二刀流だって嫌いそうだったしね。おまけにダーツしたときから信頼度もゼロ。私らの仲はもう亀裂でバッキバキ。
「……なんで? 私は勝ちたい。りっちゃんに勝ってほしい」
「だから頼むね。花も左も。みんなで勝っても朝女ドレソ部だから」
「……そうだけど。でもそれじゃあ――」
「それでもいいから。左にドレスソードやらせてあげたいの」
普段は全身全霊でナヨナヨしてる感じの弱そうな花先輩だけど、勝利にはご執心だ。それが律子先輩の「打倒白鳴」(昨年の優勝校らしいよ? 無理っしょ)という、身の程知らずなふざけた目標のためなのかは知らないけど。
ほら、この二人って見るからに仲良しコンビだし? なんかあんじゃないかな。
いやー、でもー、せめてー、事前に教えるとかー。もっとあったんじゃー?
危険を冒してまでいきなり私を出すって、完全に私が戦犯扱いありえるで?
「だからさ、左も気負わずがんばってこい」
「急にそんなこと言われてもー……」
「ちゃんとした公式試合、ちゃんと体験してこい」
「……即行で負けるかもですよ?」
「それでもいいよ。部長も認めてる。なんなら私も途中交代するし」
それなら、と思ったけど。いやいや。考えていることが読めない。
私をサプライズで喜ばせようとしたのか? 逆に追い詰められたよっ!
律子先輩は出会ったときから「なんなのこの人……」って印象がこびりついている。ウマは合うけど、普通っぽいのに生粋のアホだから(褒め言葉っす)。
「左ちゃん。一緒にがんばろねぇ!」
「左、とりあえず落ち着こう?」
可愛いだけの部長(ステージでは可愛くないガチ処刑人)のエールは右耳をすり抜け、友達で先生なソラ(最近ちょいちょいだらしないんだよなこの子)には左肩をポンッと叩かれる。うへぇ、まじか。まじで出る流れか、これは。
たしかに。たしかに。私はJDSに出たいって言ったよ。
朝倉女子に入ってもさ、やりたいことなんてどーせなかったし。ふつーな女子高生ライフをすごすんだろうなーなんて、ボケーっとしていたこの私が。
奇抜な演説が耳に残って、ちょっと一枚の紙に目をとられていたら、アホな先輩に誘拐されて、テストの点数を人質に脅迫めいた入部をさせられ、大してやりたいとも思っていなかったドレスソードをやらされて、苦しく疲れる練習の日々に辟易していたころ、流星館の佐伯と全力でぶつかって、楽しくなっちゃって、それで。
そんな子よくいるでしょ? 趣味でも部活でも、十人中の五人くらいは大体そんなはじまりでしょ? 神様のお告げで才能が開花したわけでもない。名のある両親に英才教育を施されたわけでもない。普通な私が、普通に経験して、普通に楽しくなって、その先に行ってみたくなった。そんなの普通のことでしょ?
転機が訪れたタイミングと、ちょっと強めな主張が悪かった。悪すぎただけで。
つっても。いやあ、きつい。ほんまサプライズすぎてきつい。
本音なら、ぎゃあああだよ、ぎゃあああ。マジぎゃあああだよ。
もしや、口だけの困ったちゃんな私をへし折っておとなしくさせるつもりか?
それならあまりに効果的すぎるやり方だ。気持ち、ガチで追い詰められてる。
今日以前に教えてもらってたら、花先輩に「ふっふーん! どやぁ?」ってやったりして、最悪エストックの柄のほうでぶたれてたにせよ、今この瞬間に言われるのは私が無理。急すぎて無理ったら無理。真っ当な言い訳もたくさんある。
負けてもいいよって。そんなん負けるよ! 常識的に考えて! 絶対負ける! その責任も口だけオバケな私にある確率100%! あっ、もしや、おとなしくさせるどころか責任感で私を退部させる気か! アホ律子先輩め、邪悪なことをっ!
そんなわけないって分かってるし、じゃあどんなわけだって考えたくなるけど、考えても考えても答えは出ないし、周囲のフォローは耳を素通りするし、時間もそれほど優しく待ってはくれない。遠かった朝女の出番はすぐにやってきた。
「氷空もさ、急でごめんね。でも一回戦はクイーンをお願い」
「分かりました。次からは、相談してくださいね?」
「……ゼンショシマス」
律子先輩の代わりに私が入るから、クイーンはソラになった。
眉間に寄ったしわ。いろいろ起伏が少ない子だけど、嫌そうなのは分かる。
「相手の中之宮高校は昨年ベスト8だから、油断できないよ」
「んもう! 油断もなにも緊張しまくりですよ!」
「大丈夫だって。じゃないかもだけど。花と氷空と恋子ちゃんがいるから」
「無理無理。無理ですって。私やられちゃいますって……」
控え室からメイクオーバーエリアに向かう最中も。ドレス着装が済み、まもなくステージに入るという段階になっても、爆速の心音は落ち着かなかった。
その間、私は八つ当たりめいた愚痴をずっと口にしていたけど、律子先輩は全部受け止めてくれた。こういうときばっか、ちゃんと先輩なくせに。
「ほら、シャキッとしろ左後輩。いったいった」
「ぎゃあっ」
私の背中をドーンと律子先輩が押した。右隣には花先輩。私と同じくらいまだ混乱の最中にあるのか、その表情は憤怒とも後悔とも言いがたい色合いだ。
言いたかないが、律子先輩。これ大失敗じゃない? ドレソ部の崩壊あるで?
「花。頼んだ」
「……分かった」
スッと。律子先輩からのたった一言で、花先輩は切り替えた。
先輩の短めの髪にかかる、いつもの銀色の大きな一輪花は、彼女の可憐な少女らしさを象徴していると思う。けれど、今の顔つきにいつものナヨナヨした弱さはない。キリッとした精悍さ。まるで顔だけが少年になったって感じ。
そんだけカッコいい横顔をできることが、なんか羨ましいよ。
私は試合に出たかった。試合で活躍したかった。試合で誰かに勝ちたかった。
それは「アイドルになりたい」と言っているくらい、欲求しかない主張だ。
だから憧れている。花先輩のように、心から勝ちたいと思えている人に。
たとえ負けちゃっても公式大会を経験すれば、私もそうなれるのかな?
そんなふうに思わせるための選択だったなら、律子先輩はやっぱ邪悪。
そうなったらもう、簡単には諦められなくなっちゃう。
【Dress Sword Start-up……「朝倉女子」vs「中之宮」…………First Look.】
ステージ入場の合図。青い壁に向かって、意を決して足を踏み出す。
いつもは気にしない外側の黒い壁。誰かに見られていると思うと体がこわばる。
ソード着装エリアで、両腕を前方の斜め前に伸ばした。両手のなかにソードの柄が直接実体化した。当初は「両腕クロスしちゃったりしたらカッコいいのでは!」とか考えていたけど、やめてよかった。今この場で恥ずか死するところだった。
私は今回、チームの作戦には組み込まれていない。
というのも、律子先輩の主目的は1vs1で倒さず倒されずを遂行することだし、あっても花先輩との連携だから。今も喧嘩中の選手同士には縁のない話だ。
花先輩とは二か月間、全体練習以外ではあまり話をしていない。していないことはないけど、しているのはゴールのない口喧嘩ばっかり。それでいてレイピアの使い方の参考にとチラチラ盗み見しているから、余計に神経を逆なでしているかも。
気まずい。なんなら相手に抜かれて、負けちゃったりなんかしてみ?
そうなったら私、控え室にも寄らずダッシュで帰るね。そんなことできないって分かっているから、私にはもはや勝つ以外の退路がないわけだ。くっそー!
【Lady to Ready……Round 1…………On Stage.】
心臓の鼓動は鳴りやまない。人形のようにぎこちない手足。花先輩に習ってセンターラインへと歩く。忠告されていたより、他人と戦うことへの恐怖はないはず。佐伯たちで結構慣れたし。だから今は、対面にやられてしまうことだけが怖い。
ドクン。ドクン。ドクドクン。
やばい。やばい。やばやばい。
「左ちゃん」
「は、はい」
右隣にいる花先輩に、名前を呼ばれた。私の名前だよね? 紛らわしい。
顔を正面を向けて歩いているから、先輩の表情は今は見えていない。
「負けないでね。今だけは」
「それ、応援じゃなくてプレッシャーですか?」
「うん。負けたら、あなたのこと許せなくなると思うから」
「……さいてー。いじわっる」
「そうだよ。ヒカゲバナって、モンスターなんだもん」
「はあ?」
とても目を向けられる状況じゃないけど、微笑みながら言われた気がした。
あからさまにテンションがドン底になりそうな下級生いじめ。こんなときに言うとか酷すぎ。私じゃなきゃ、奥歯ガタガタ震わせちゃうところじゃん。
花先輩とソラはすでに立ち止まっているのか、横目で見つけられたのは恋子先輩だけだ。私たちはちょうど“ボウルみたいな隊列”で、中央が凹んでいるのかな。
それで相手は、うーんと。うーんと。なんだっけ。名前覚えとらん。
覚えとらんけど、私と同じ一年生のはず。端っこだしね。長剣と小さな盾を構えて制止している。胸元を覆うシックなジャンパースカートに、ショート丈で薄地のマントが特徴のドレス。やっぱスカートとマントは可愛いなー。うらやまだよ。
さてだ。私は今からあの長剣と打ち合うようだけど、できるのかな。
右野左は、右手の直剣で攻撃と防御をこなし、左手のレイピアで油断を一刺しする。だから、やり取りのペースを握る直剣でまともに立ち会えないようじゃ、そもそも奇襲が成り立たない。当たり前だけど、そのための技量はまだまだ。
この子が葉月さんや姿さんのようなやり手だったら、もう無理っしょ。
ああでも。あんくらい強かったら誰でも無理だから、まあいいっしょ。
さっき意地と性格の悪い上級生に脅されたせいで、ちょっとムカムカしている。普通に怒りだわ怒り。怒だよ怒。先輩陣でもね、花先輩だけは弄り方に愛がないんだよ愛が。私も性格悪いけど、あんなジメジメよりよっぽどマシだっつーの。
ほらもう。そこの君。なんで動かないのよ。だったら私からいくよもう。
相手に対して、体の向きを斜めにしながら突っ込んだ。花先輩がやってる、なんとかっていう突きのまね。右手側を前にする基本姿勢のほうが、みんなレイピアのこと忘れてくれるみたいだしね。右手の初撃は長剣に止められた。
相手を測るように、恐る恐るソードを打ち合う。相手がとんでもないなにかを秘めてるようなら瞬殺されるけど、そうはなっていない。見た感じ、佐伯みたいな優等生タイプって印象だ。きれいにやってたらダメかな。だからこうやって。
ふぬけた直剣の大振りは、相手の小さな盾に受け止められた。
ソードが盾にぶつかった衝撃で、私の右腕がフワッと浮いた。
それを好機と見たか、相手の少女が一転攻勢とばかりに動く。
崩れた姿勢に、長剣を振りかぶってくるから――プスッてね。
【ピロッ――Damage Slash.】
気だるく地面に下ろしていた左手を、無造作にスッと上げた。それだけ。
それだけで、存在感が皆無だったレイピアが、相手の右手首に刺さった。
みんな大体ね、こういうのに引っかかる。それにソードを盾に防がれたときの対応なんて、いくらでも練習してるっつーの。うちにはあの年がら年中叩いてよろしい律子先輩がいるんだからね。むしろ盾対策なら全国一じゃないの?
だけどスラッシュか。体にすればよかった。ビビって相手のソードのほうしか見られなかった。手が重くなってソードを振れないとか、そんなもんだしな。さっさとフェイタルしなくちゃ。あーそういえば、今って試合だったっけ。
状況有利に毒気も消えて、体も心も軽くなってきた。頼りになる私じゃん。
せっかくだから「ふっふーん! どうですか! 私のこれ!」って感じで、見ているかも分からないけど花先輩にドヤ背中を見せつけておく。
私とは反対に、相手の子ったら、苦虫を噛み潰したような顔になっている。
そりゃそうでしょ。あんたもどーせ「なんかバカっぽい二刀流がいる」とか思ってて、まんま規格外なスーパー新人女子高生にしてやられたんでしょ。
ざーんねん。私の武器はね、自然に卑怯な不意打ちなのよっ!
私はたぶん誰が見ても分かるほど、意気揚々と舐め腐った様子で攻め立てた。「左、直剣はまっすぐ振って」「左、それじゃあ簡単に防がれる」。何度も何度も聞いたソラ先生のツッコミが脳内再生されるが、私はとまれない。
分かってるから。あとで直しとくから。今は無理。この子ぶっ倒したらね。
相手は右手首のスラッシュ状態のせいか、まともに長剣を振れていないみたい。結構ガッツリぶっ刺さったしね。5キロくらいは荷重あるかな?
ただまあ盾でしのぐだけになられると、それはそれでフェイタルするのが意外とおっくうなんだけど。つっても律子先輩より小さな盾で、体の動きも並程度。
そんな心のこもってない盾受けじゃ、さすがに抜けちゃうってのっ。
恋子先輩のような超絶筋肉パワーをイメージしつつ、頭上から直剣で思いっきり殴りつける。残念。私の力じゃ盾を落とさせるには至らなかったけど、左肩と左胸のルートをこじ開けた。あとはそこにプスッとね。はい、プスッと。
【ピロッ――Damage Fatal.】
【ピロッ――Damage Fatal.】
二回もフェイタルコールがあった。「やばいなんかやりすぎた?」と思ったら、恋子先輩も相手を抜いたみたい。うっそまじ? 4vs2って朝女つええ!
私はその後、花先輩の近くで「えい。やあ。とう」とサポートになっているのかなっていないのか、しょうもない援護をした。横やりの練習してないし。
フリーになった恋子先輩はソラの対面も倒し、花先輩の相手にも押し寄せた。そこで生まれた隙に、花先輩が鋭利な刺突をお見舞い。対面のクイーンを討った。
私たち朝女ドレソ部はこの苦境にあって、ラウンド1を完全勝利した。
【Annihilation……Round 1「朝倉女子」……Make Over.】
「律子先輩! 見ましたか! 私やば、やばくないですか!?」
「すごいすごい左! ほんとよくやった!」
「ぎゃあああ! 髪わしゃわしゃやめろ! やめろお!」
せっかくピカピカのストレートに仕立てたのに、この馬の尻尾めっ!
でもでもでも、律子先輩はめちゃめちゃ喜んでくれた。
いやあ、すみませんねー。初心者ながら期待どおりの才覚を見せつけちゃって! 気分はもう早すぎる優勝パレード! おっとっと! 家に帰る前にお母さんに「ヒダリ カッタリ ゴチソウモトム」って電報しないとっ!
クルッと体の向きを変えた律子先輩は、ほかの人たちにも声をかける。
「花、やっぱ中央が厳しい? ここからだと遠くて見づらいけど」
「うん。相手の三年生のクイーンが強い。少し不利なくらいに」
なんだよー。もーちょっと褒め称えてくれてもいいのにー。そう思ったのもつかの間。どうも、メイクオーバーエリア内の空気がちょっと違っている。
「私も倒されはしませんが、無理に相手を抜くのは難しそうです。すみません」
「こっちは両サイドで優勢。あっちは中央で優勢。ちょうど真逆だねぇ」
一人だけウキウキ気分だったが、中之宮との戦況はそれほど明るくはなかったみたい。どうやら中央にいる二人の三年生が、かなーり強いんだとかで。
「クイーン配置の非対称はそんなに悪くなさそうだけど。氷空はどう思う」
「うちは花さんの攻撃力に賭けて、このままでいくのが最善かと」
「花が落とすか、氷空が落とされるか。でも恋子ちゃんはいけそうだよね」
「このまま次も続けてくれるなら、ってところかなぁ」
「不穏だなあ」
思っていたよりも緊迫したトーンで話し合うもんだから、若干空気になっちゃった。「まあまあ皆さん、ここは天才左ちゃんにお任せなさい」とか言おうと思ったけど、花先輩に突然キレられたりしたら怖いし。やめといた。
だけど、そんなビビんなくてもよくない? わりと余裕なんだけど?
そーだ。次もまた私が相手を倒しちゃえばオッケーなんだろうし、ここは天才の働きでみんなの女神さまになっちゃおうかな。悪いけどあんま時間ないし。
私の脳内ではもうね、今日のMVPインタビューはじまっちゃってるから!
【Lady to Ready……Round 2…………On Stage.】
あれ? なんか相手変わったぞ? この人って花先輩の相手だよね?
ローテーションって練習のときにやるもんだと思っていたけど、そうでもないのか。ラウンド2の開始後。両校選手がセンターラインに到着する直前で、中之宮の面々が隊列を変更してきた。ちょうど、私と花先輩の相手が入れ替わる形で。
「ねえ、花先輩どうしま――」
「左ちゃんっ!」
悲鳴にも似た先輩の声。のっぴきならない危機を感じて頭を振る。
私の眼前にはすでに、中之宮のクイーンである三年生が迫っていた。
形式どおりに対面相手と向き合って戦う、それが普通だと思っていたけど。そっか、ギリギリで対面相手を変更して奇襲。そっか、こういう仕掛けもあるのか。
だってこの人さ。明らかに、絶対に、私より強いよね。この人。
さっきの相手と同じに見える長剣は、さっきと違う速さで振り落とされた。
ああ、これ、無理なやつ。私の直剣じゃ守りきれないやつ。構えるのすら間に合わない。そもそも守っても、ソードごと体も真っ二つにされる系のやつ。逃げようにも体はうまく動かない。次に息を吐く前にフェイタルされるかな、こりゃ。
尻もちをつくように、自らドタッと後ろに倒れ転んだ。お尻いたっ!
これができる精一杯だけど、倒れるのも結構怖いし、私すごくない?
幸いというべきか、斜め方向の袈裟斬りだったかって斬撃のおかげで、相手クイーンのソードは顔面スレスレのところを斬り抜けていった。
光刃は頭部のなんちゃら被膜と接触したときだけ、やられた人の視覚には映らないようになっているから、たとえ頭をぶっ刺されても、光刃は少し遠くにあるように見える。そうじゃないと、顔面を刺されているのが間近で見えてしまうから。
だから、頭部に接触しない顔面ギリギリをとおり抜ける光刃は、ドレソでいっちばん怖い。目の前で危険そうな棒を高速で振られていることを、嫌でも思い出す。下手に刺されるより怖く感じるこれが、ドレソ最強の精神攻撃だと思う。
つーわけで私も、事故にあったみたいに怖くなって、体が動かなかった。
「左ちゃんっ! 立って!」
「ふぇ」
【ピロッ――Damage Fatal.】
不思議なことはなんもない。私は相手のクイーンにあらためて斬られた。
当たり前だけど、余裕でフェイタル。結局即死だった。
それから先は早いもので。花先輩が囲まれて抜かれて。続けてソラも囲まれて抜かれた。こちらのクイーンが落ちたからには、勝敗も決するというもので。
【Queen Defeat……Round 2「中之宮」……Make Over.】
次回「右の左の左手で」(4)。




