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敗北のドレスソード  作者: 手遊花
朝倉女子 二年生編(春)
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十四人の楽しい乙女(6)

 合宿四日目。今日は、朝女と流星館(姿抜き)のガチ対決の初日だ。


 練習試合では初日が姿抜き、二日目が花抜きで、それぞれ異なる組み合わせを取る。左が入部してくれて助かった。選手を借りるとかは、気分的にね。

 なお、佐羽コーチは「私が試合を見るのは不公平だから」と、対決メンバー以外の選手を連れて朝女ステージに向かった。どこまでもお人好しなんだ。


「では、十ラウンドマッチ。はじめましょうか」


 真田さんが流星館ステージを試合設定で起動し、両校の選手がメイクオーバーエリアに入る。試合設定中はチームごとにドレスを統一しなければならないので、両校の選手は混ぜられない。だから戦力が偏っていても、自分たちしか頼れない。


 みなで勘を養うための本番形式のラウンド制。

 練習とはいえ、甘えのない実戦がはじまる。


「私がクイーンというのはなんだか……」

「物の試しにねー。氷空ちゃん以外、攻防が両立しないからさぁ」


 朝女はステージ左側から順に、私、花、クイーンの氷空、恋子ちゃんで並んだ。昨年どおりの8メートル間で並列を組むスタイルだ。

 まあ、菖蒲先輩がいた場所をまるっと氷空に入れ替えただけだけど。


 ステージ進入のコールに続いて、私たち四人が舞台に入る。花の先にいる氷空の立ち姿はちょっと遠いけど、それほど緊張しているようには見えない。


「姿の変わりは美里さんか。花的にどう?」

「慢心はできないし、油断もできないかな」


 流星館は葉月、補欠選手で二年の美里さん、クイーンの真田さん、徳永さんと並んでいる。JDSで負かされてから一年。さらにこの数日の合宿をとおし、少しくらいは距離を詰められた気もしていたけど――ただの希望だったかな。


 本性をさらけ出した彼女たちは、今も高い壁に見えた。戦ってもいないのに。


 ラウンドスタートと同時に、両校の選手たちがセンターラインに近づく。

 葉月とはそれなりに打ち合った仲だけど、こういう場だと人が違うみたい。

 圧が違うね。思わず笑えてくるほどに。やっぱり私とは役者が違うんだろう。


 朝女と流星館の前哨戦は奇抜さもなく、ただただ真正面でぶつかりあった。

 最初に落ちたのは恋子ちゃん。守って耐えられる構図が見えないから、開幕直後の全力全速の一振りに賭けると言っていたけど、するりと避けられでもしたのだろうか。一撃必殺を生み出したのは徳永さんのシャムシールだったようだ。


 次に落ちたのは私。葉月の急接近からのご挨拶な一撃は受けきったけど、盾にぶつかって跳ね上がった大太刀がその反動を利用し、再びの袈裟斬りとなって襲いかかってくる。前方に、真横に、即座に後ろにと歩法を駆使しても、私の間合いはすべて潰され、最適な強撃が放たれる。決まり手は、美しい面打ちだった。


 まもなくクイーンの氷空も抜かれた。接敵直後、氷空が真田さんに対して攻めの居合斬りを仕掛けたのを横目に見たけど、やはり柳からしな垂れる枝葉のようにいなされたのか。居合でも連撃でも、彼女の刀を苦戦させることは叶わなかったみたいで、最後の一撃はなんの変哲もない、それでいて最適解の一刀だったそうな。


 まだ花だけは存命だったが、クイーンが落ちてしまったのでラウンド終了。

 私たちはメイクオーバーエリアに戻り、なけなしの対策を議論しあったけれど、その後の展開も大きく変わらなかった。ラウンドがはじまると、すぐに終わった。


 十ラウンドの成績は十戦十敗。なぜ負けたのかは振り返る必要もない。


「葉月も流星館もやっぱつよい。全然無理」

「こればっかりは実力勝負だから。譲れないね」

「でも、こっちはいいけどさ。そっちは練習になんの?」

「形だけでも緊張するし。それにみんな、負けたくないから」


 手応えのない相手すぎるんじゃないかと、逆に申し訳なくなってきた朝女生徒は私だけではない。それぞれの対面へのコメントは、ほぼ一緒だったはず。


 メイクオーバーの時間は本番環境の十分よりも短い、二分設定であった。各試合は平均二分もかからなかったから、十ラウンドやっても一時間と経っていない。

 あらたまっての実戦はこれが一年ぶりだったけど。学びどころか現実を見た。


(……もう少し、もうちょっとくらいイケるかと思ってたけど。甘すぎた)


 朝女側が反省すべき点は「弱い」しか見当たらないので、反省会すら必要ない。私たちは心がへこたれる前に、流星館側にもう十ラウンドの追加を頼んだ。

 闇雲に負け続けるのは苦しいけど、諦めて足を止めるのも苦しそうだから。


「……先輩方、ちょっといいですか」

「ん、なに」

「クイーンの件ですが、やはり違う人に変えてくれませんか」


 試合開始前。氷空がそう提案すると、恋子ちゃんがすぐに賛成した。


「そうだねぇ。今のままだと負けの責任を押しつけてるみたいだし」

「いえそういうわけでは……それも少しは、なきにしもあらずですが」


 氷空の気持ちは分かった。流星館相手には四人とも負けて当然な実力差があるとはいえ、戦略ではなく責任ばかりを担当するクイーンはそりゃつらい。

 しかも下級生に押しつけているような状況だしね。となると、そうか……。


「やっぱ、私?」

「うん。りっちゃんがクイーンだと嬉しいな」

「だねぇ。倒されちゃいけないからって、もっと硬くなるかもー」

「ないない。恋子ちゃんそれはない」

「相手にしても、倒せないこと自体はプレッシャーになるはずだよ」

「向こうも、リッコちゃんがクイーンなら無視しようがないしねぇ」


 予感していたけど、やっぱ私か。これでサンドバッククイーンの爆誕だ。


 真田さんがコンソールで試合開始の操作をする前に、朝女側のクイーン設定を「天河氷空」から「小枝律子」に切り替えてもらった。

 ドレスやソード、申請した隊列は試合前に設定しないと反映されないためだ。


「それってもしかして、朝女の隠し玉?」

「いえ、申し訳ないことに、ただの後輩思いな私ってだけです」

「そう。一年生でクイーンだと責任を感じるだろうし、いいと思うわ」

「私みたいなシルブロでクイーンって、古代生物らしいですけどね」

「そうね。でも相手をする私たちからすると、ちょっと厄介かも」


 生まれたてほやほやのクイーンリッコさんだが、当然だけど女王さまになったからって強くなるわけではない。映えある初戦は、誰よりも早くフェイタルされた。

 変に緊張した。葉月の狩猟本能も刺激してしまった。最悪のデビュー戦だよ。


 それからは流星館もラウンド開始後に隊列を変えてきて、ラウンドごとにローテーションしていった。これにより、各自の対面相手が毎回変わった。

 それでも勝敗が変わるほどではなく、味の変化といった誤差だったけど、この体たらくじゃ飽きられても仕方なしだしね。興味を持ってもらえてるだけマシだ。


 でも、私がクイーンになったことで目に見える変化もあった。

 枷がなくなったおかげか、氷空の攻防に緩急が生まれた。


 それは倒すか倒されるかが一転するほどの変化ではなかったが、単純に彼女の生存時間は明らかに延びた。それを目にした私たちも「ああ、試合中でも一呼吸していいんだ」と考えはじめた。みんな倒すより倒されないことに重きを置くと、相手にとってはうっとおしく、よりしぶとくなれた。

 立ってるだけでも教えになるなんて。氷空先生やっぱすごい。


 当の私はというと、どの対面も苦境だったが、やはり最大の天敵は徳永さん。

 だから彼女と対面するときはあらかじめ、左手にアヤメを持った。


 それだけで抗えるわけではないけど、抑止力が欲しかった。こんな心中を察しているかは不明だけど、そこも徳永さん。やっぱり親分は優しい人である。


「それ、悪くないね。爪楊枝でも突きつけられてるほうがビビるから」

「曲剣使いの人ってどうしてこう、試合中の口が悪いんですかね」

「うはっ、たしかに!」


 葉月相手なら、盾と身体の荷重を正確にコントロールして受けきる。

 真田さん相手なら、展開を支配される前に逃げる。それが現状の最善策だ。


 けれども、徳永さんのシャムシールだけは守りきるビジョンが浮かばない。


 初手で一撃必殺を仕掛けてこないのは昨日の経験で知っている。かといって安易に連撃を許すと、曲剣の反りは盾の守りをいとも簡単にかいくぐってくる。

 つまり、目下の課題としていた「連撃で詰められない受け方」が求められる。


 その答えとして私が用意したのが――盾だけでの防御を諦めること。


 徳永さんに攻めよられたら、私は三角盾をがっちり構えつつ、アヤメで不細工にけん制する。それは往々にして意味のない行動であったが、数回に一回、攻撃の機会を奪いきれないと判断するのか、徳永さんが自ら仕切り直してくれる。


 盾防御の代替策こそ、この「がむしゃらにアヤメを振りかざす」である。


「……時間稼ぎくらい、できてますかね?」

「うん、本当に悪くない。それローリスクでハイリターンじゃん」

「でも徳永さんなら、無理やりに押し入るくらいできますよね」

「かもね。だけど心理なのかな。安全に攻勢かけたくて退きたくなっちゃう」


 みんな盾を叩きたい。それがフェイタルの道筋になるから。けれど彼女は退く。守るだけしか能がない盾を安全に叩くために。いっそ安心できるほど、一方的な有利状態で叩きたいから。爪楊枝のようなソードに事故を起こされないようにと。


 もちろん、私の剣筋などタカが知れているので、種がばれたらあっという間だったけど、アヤメを持っていることが示威行為になると知ったのは収穫だ。

 意味がなくても、あがけば数秒足らずは延命できる。もしや必殺技なのでは?


 見つけちゃった感覚に少しウキウキしていたけど、いるんだよねえこういう子。爪楊枝なんてブチ折ってやると突撃してくる葉月には、一瞬で蹴散らされた。

 勇猛な相手と慎重な相手の違いか。アヤメを心理に作用させられる人は限られているっぽい。まあいい。手軽な小技が生まれただけでよしとしよう。


 なお、恋子ちゃんには「それアヤメ砕き?」と言われ、なんか落ち込んだ。


 今日だけで何十ラウンドやったのだろう。途中でフォーメーションの見直しや、それそれの選手に対する意見や提案の時間を設けつつも、流星館の選手たちは今日一日の練習時間が終わるまで、試合形式の実戦練習に付き合ってくれた。


「おつかれさまでした。久々に実戦ができて、JDS前にいい経験を積めました」

「あー……やっぱり実力差ありすぎて、申し訳なさはありますけどねぇ」

「いえ。練習とはいえ、試合を続けてくれたことには感謝しています」


 真田さんの小顔は申し訳なさそうに困っていた。恋子ちゃんはそれを見て申し訳なくなったのか、また申し訳ない言葉を重ねた。以降、繰り返し。

 二人とも口を閉じないと、この申し訳ない合戦は終わらなさそうである。


 それを眺めながら、私は葉月からあるアドバイスをもらっていた。


「律子たちは個々人もそうだけど、チーム全体での動きも考えるといいよ」

「1vs1を四つやる。それ以外ってこと?」

「それだと単純な足し引きになりがちだから。全体や別個の動きもあるといいね」

「葉月たちもやってんの? べつにそういう声は聞こえなかったけど」

「どこもサインは隠してるから。実はさっき、私たちもやってた」


 そりゃ知らなかった。これからは知識も求められそうだ。期末テスト前なのに。


「律子みたいなクイーンは特殊だからさ。そういうのも必要になると思う」

「クイーン律子か。ちょっと仰々しいね」

「じゃあ、律子さまって呼ぶ?」

「よきにはからえ」


 葉月がクスッとした。最近は友好度が増してきたのか、彼女の仏頂面もあまり見なくなった(妹に怒られてるとき以外の話でね)。初対面の印象がウソみたい。


 実はさ。失礼千万は承知だけど、真田さんたちにこっそり聞いちゃったんだ。

 成瀬姉妹と真田さんたちって、どっちが強いんでしょうと。そしたら。


「成瀬姉妹ですね。各々の対面能力はまだ同等ですが、それも現時点での話です。それに2vs2だと勝てません。葉月の攻撃力、姿のサポート力は全国レベルなので、あの子たちが流星館の時代を作ると思います。卒業するのがちょっと惜しいです」


「葉月って一昔前は無愛想全開だったけど、今は安心して託せるよねー。たぶんってか、絶対ね。小枝ちゃんのおかげ。学校の外にも友達ができて、ちゃんと人を思える子になった。つっても次期部長はどう考えても人間性上位互換の姿だけど」


 実力も人格も、成瀬姉妹はグングンと成長し、頭角を現してきた。

 すでに負けてるけど、負けてらんないって思っておく。そのほうがお得だ。


 夕食のイワシの梅煮に舌鼓を打ったあと(食堂のお姉さまの郷土料理なんだって)、夜練習では花に「せっかく流星館に来てるのにいいの?」と言われながらも、私はステージの片隅で一人、シャキンと抜いてグサッとし続けた。

 自分なりのやり方、菖蒲先輩の振り方、佐羽コーチに教えてもらった反撃パターン、それと今ここで新しく考えついたやり方。それらを孤独に試し続けた。


 私は花のように、一目でなにかを理解し、応用することはできない。

 だから何度も、何度も、見ている。ステージにいる選手たちの動きを。

 何度も見て、動く。思考のない体から伝った汗はドレスに吸い込まれた。

次回「十四人の楽しい乙女」(7)。

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