十四人の楽しい乙女(5)
合宿三日目。私と左は、徳永さんと佐伯さんと朝女ステージで練習だ。
佐伯さんは初日から昨日まで、左に勝ちきっていた流星館の一年生。初心者ながらもセンスを感じさせる、大きすぎない大剣使いの女の子だ。
左とは連日の合宿生活で、すでに仲良しになっていたようで。第二体育館に行くまでの十数分間も、一年生同士でずっと楽しそうに会話していた。
一方、私と徳永さんはというと。
「小枝ちゃんはいっつも猪戸ちゃんに叩かれてるんでしょ」
「はい、骨折しないのが不思議なくらいには」
「そりゃ、あんなので叩かれたら事件だよ事件。写真撮ったら勝訴でしょ」
カッカッと笑う徳永さんの顔に、一房だけのさりげない青色メッシュが垂れる。それがカッコよくて、女子高の怪しいドラマ妄想が脳によじ登ってきた。
最初は外見的ヒエラルキーで圧倒的な女子高生差を感じていたけど、彼女は人当たりがよく、率先して打ち解けてくれた。いい人すぎて親分って呼びたい。
第二に到着すると「なんですかここ? 肝試しでもやるんですか?」という佐伯さんのリアクションに申し訳なくなりながらも、私たちは準備を進めた。
そして四人ともステージに入ることなく、今はドレスソードプラットフォームの周囲に腰を下ろしている。そこで徳永さんが、私たちの問題点を指摘した。
「さーて、ここにいるメンバーは昨日決めました。なぜでしょーか、右野ちゃん」
「可愛い子選抜とか? やーん、ソラたちに悪いなー」
「ぶぶー。違いまーす。右野ちゃんと佐伯のソード合計武装率が雑だからでーす」
「ごーけーりつ? 聞いたことないんですけど。律子先輩は知ってます?」
「左、控えなさい。親分が話してる」
左ちゃんよお、あんまり変なこと口にするんじゃありません。
徳永親分の前でそんな話をされたら、私の面目が危ういことになる。
「なので、今日はみんなでソード作りをやり直しまーす」
「えー」
まあ、もう朝女の教育レベルは知られてしまっているだろうが。
これに関しては私たち朝女の上級生のせいだからね。反省。
さて、徳永さんが言う「ソード合計武装率」とは、JDSをはじめとする公式大会における、ソード着装に関するレギュレーションのことを指す。
ソードはJDSにおいて「レート4以下に収まる、計2点まで着装可能」とされる。
レートはソードの「形状」「刀身」「柄」など、全長および質量により細かく変動するが、端的にソードが大きいほどレートも大きくなる――と親分が説明する。
「右野ちゃんはね、二刀ともデフォルトオブジェクトなのがいただけない」
「作るの面倒だったので」
「佐伯はね、大剣の作りが適当すぎ。もうちょっと最適化するべき」
「すみません、作るの面倒だったので」
二人とも随分と似たもの同士じゃない。存分に絞られるとよいよ。
「小枝ちゃんはね、とある人から、たぶんあの子知らないって忠告されました」
「調べるの面倒だったので」
おのれ。きっと恋子ちゃんだな。いらんことを。
私の三角盾と以前の直剣は、菖蒲先輩が私の脇の下から顔をにゅーっと出しつつ、いろいろ調整してくれたものだ。つまり細部以外は自分で弄っていない。
そのため、ソード合計武装率について詳しいことを知らない。
「といった不甲斐ない子たちのために、明日香お姉さんが用意しましたよー」
■あすかの「ソードの合計武装率」簡易表(一般的な形状だけねー)
レート1=短剣、小刀、小盾
レート2=直剣、長剣、刀、刺突剣、中盾、私の曲剣
レート3=大剣、大曲剣、葉月の大太刀
レート4=特大剣、短槍、猪戸ダイショーグンのアレ
剣盾=長剣+中盾でレート4
大剣盾=大剣+中盾でレート5。出場禁止、だ・け・ど?
佐伯=大剣でレート3
右野ちゃん=直剣+刺突剣でレート4
小枝ちゃん=直剣相当+中盾でレート4
・刃の厚み、得の装飾とかを調整すると小数点でレートが増減します!
・だから、うまくやれば特大剣+小盾も持てちゃうよー! 重いけど!
・オリジナル武器も作成できまーす。種別分類レートは厳しめだけど!
・「長い光刃」と「短い柄」のレートは同等ね。打撃事故があるから!
・レートは規定値未満でも出場可能。超過すると出場できないけどさ!
・部隊殲滅戦とかのショーステージだとレート制限も緩いんだけどね!
おおー。不甲斐ない三人はその紙に目をとおし、納得の声を上げる。
私が三角盾を微調整していたころ、たしかに目の端に映るコンソールの数値が上下していた気がするけど、なるほど。親分の説明は非常に分かりやすい。
「はい。親分」
「なんでしょう、右野君」
「なんか槍だけ冷遇されてません?」
「それには深い事情があるのです」
「ど、どんな事情が」
「素人相手だと槍盾で完封できちゃうのでーす」
これは知っている。恋子ちゃんの偃月刀も事情が絡んでいるみたいだから。
近接武器を用いた戦闘では、素人相手に限っては戦闘技術よりもリーチの差が如実に出やすい。その点、槍は古来から強力な武器として知られているらしい。
しかし、槍は刀剣類よりも柄が長く取られるため、ソードの実体化部分の接触による打撃事故の危険性が増すことから、槍に似つかない短槍が限度だという。
その結果、槍型のソードは「そんな不格好なの使うくらいならレイピアでいいじゃん」っていう、悲しい帰結を背負ってしまっているみたい。
「槍は立って持ってるだけでも脅威になるからさ。とくに制限されてんの」
「強さを競う競技なのに? なんか変な話ですね」
左の発言に、残りの子分も首でうなづいた。
「ドレソだからだよ。たぶん、それが槍が制限されてる最大の理由」
「強すぎる以外の理由があるんですか?」
「槍持ちの迎撃戦術が地味すぎてつまんないから、冷遇されたんだろうってね」
なんと納得しやすい理由。まさにドレソっぽい言い分だ。
徳永さん自身、それが真実かどうか知らないらしいけど、これもあれだろうね。現代のドレソが天剣衆やファッション業界の「ドレスコード」の流れを汲んでいるからこそ、関係者らもそれっぽい言い訳を考えたんだろう。
槍と盾をもってじりじりする試合はさぞかしつまらない、ってことで。
「ま、全員が小枝ちゃんみたいになったら、それはそれで規制されそうだけど」
「えー、さすがに律子先輩みたいなのは嫌です。絶対嫌ぁ」
「おい」
「私も、あれはちょっと」
「おい」
「健気に叩かれてばっかりだから許されてる。かわいそうな話じゃん。およよ」
徳永さんの明るい泣きまねにつられて、一年組も目元に手を当てる。
ぐ、ぐぬぬ。反論できん。希少価値を褒める人と弄る人が極端な界隈である。
そんなやり取りはどこ吹く風と、徳永さんから課題が言い渡された。
左は「直剣とレイピアを扱いやすく軽量化」、佐伯さんは「大剣を扱える範囲で重量化」、私はソードの調整がもう必要なさそうだし、アヤメにも手を加える気はないから、一年生のお手伝いさん。メイド服のドレスとかないものか?
「左はレイピアの扱いがまだ雑だし、短くて軽いほうがいいかもね」
「ですかねー。フェイタルって力とかいらなそうですし」
「刺せるのが前提ならね。軽いと競り合いとかで払われやすいでしょ」
「直剣で惑わして、レイピアで蜂のようにぶっ刺してやりますよ!」
「徳永さんもブスッてできる?」
「あれは無理です。1ミリも無理。あの人、恋子先輩とかも余裕そうでしたし」
左の二つのソードはなにも弄っていない、システム上のデフォルトオブジェクトのままなので、まずは見栄え的な装飾からデコらせた。刃渡りのバランスだの、柄の重量感だのはあとでいい。まずは「ぎゃあ、すごい!」と興味を持たせる。
ドレソにおいて、長くて重いソードは大概が幻想だ。扱うのが女子高生なればこそ、レート4のギリギリ重量などは考えず、軽くて扱いやすいを重視すべき。
とはいえ、佐伯さんのように長くて重いソードが大事になる人もいる。
その場合は中途半端を目指すより、恋子ちゃんのように重量限界まで攻撃力を高めたり(って仕様だったのが徳永さんに言われて初耳だった)、そこまでいかずとも、葉月の大太刀のようにレート3の最大カスタムを狙ったりがいいようで。
ソードの軽量化と重量化。この二軸の最適化を突き詰めることもまた、ドレソ選手が練習やステージ外で少しでも強くなるための方法なのだろう。
できたー! ステージいってきます!
これでどうだろう。私もいってきます!
むむむ、やっぱなんか違う! 変えます!
うーん、しっくりこないです。こっちかも!
左と佐伯さんがそんなこんなで調整していると、じきにお昼になった。
その間、私と徳永さんは適度に手離れしていたので、昨日の練習内容の共有や、新入部員の扱い方、私や左の課題などを話し合っていた。
ほんと申し訳ないくらい、私たちは流星館の好意に甘えっぱなしだ。
「お弁当おいしいけどさー、どうせなら温かいご飯がいいよねー」
「朝女の学食も結構イケるんですよ。遠いし連休中は閉まってますが」
「律子先輩の言うとおり、学食なら負けてないかもですね。値段も安いし」
「うちの流星館って、備品とかもいちいち高いんですよー」
四人でペチャクチャ喋りながら昼食を終えると、ここからが今日の本番。
左は最終的に「長剣とも言えないサイズの調整直剣」「長さもボリュームも控えめなレイピア」を完成させた。二刀流はこのまま継続らしい。
佐伯さんのほうは「光刃の長さと厚みを増した大剣」を完成させた。(おそらく付属大学に進学しただろう)黒須第一の金森さんのソードよりは細身のものだ。
練習内容は、連日ここで行われているローテーション形式の1vs1。
左は日々の指導役たちのアドバイスが身になってきたのか、盾を抜けられることこそなかったが、力もなくスルッと無造作に刺してくるレイピアに何度かビクッとさせられた。佐伯さんの調整したソードも、初日より力強い斬撃を生んでいる。
そして徳永明日香。これがまた流星館らしい、悪夢のような強さだった。
彼女は流星館ドレスに加え、左腕にアーマーの手甲、左腰に花のようなアーマー相当の青いコサージュを着装している。この時点で恐ろしくオシャレである。
そして右手には、中東由来とされる細身の曲剣「シャムシール」を持っている。一見すると脆そうな光刃なのだが、その妖艶な反りは決してヤワじゃない。
しかも曲剣というのが実に厄介だ。ただ振り下ろされるだけでも剣閃が変則的な軌道に見えてしまい、目を慣らさないと形状だけで翻弄されてしまう。
黒須第一のショーテル使い、丘町ゆゆさんも同じだったのかな。
とくにテクニカルじゃなくても、曲剣の挙動に思わず身構えていると、それだけで筋肉や神経に無駄な負荷がかかっている。そして、その無駄を狩られるのだ。
恋子ちゃんが苦手とする理由もよく分かった。彼女の偃月刀は重いから。いくら新潟の農家育ちの筋力でも、無駄な力を入れて持ってるとね。そりゃ疲弊するわ。
「おおぅ、さすが小枝ちゃん。本当に頑強なんだ!」
「そうい、うっ! 楽しみ方はご勘弁なんです、がっ!」
「こりゃ、一筋縄じゃいかんね。なれば――こうとかねっ」
度肝を抜かれたとはまさにこのことだ。徳永さんのシャムシールが私の盾をすり抜けて、気づけば左肩に刺さっていた。ブルブルする肩口に目を凝らす。
マジか。見なきゃよかったよ。これじゃあどうしようもない。
突きは本来、光刃の延長線上である真正面を貫く攻撃だ。けれど彼女は光刃の反りを巧みに利用し、手首を返しての“上下逆さの剣先”で、私の盾を避けつつ、後ろにある身体だけを貫いた。曲剣ならではのその芸当。完全に盾殺しじゃん。
彼女はイメージ的に、ど真ん中からの正面突破ガールだろうと予想していた。
けれど徳永明日香のドレスソードは、見た目の印象を裏切る技巧者のそれだ。
正面からの盾防御でしのげないこういう相手は、経験の薄い私には張り合うことすらできない。しかも花相手よりも、氷空相手よりも話にならない。あれをやられた時点ですでに完封に近い。大大大の大天敵と言える。私ってば天敵多すぎっ!
連戦しては小休止。そしたらまた連戦と。途中でローテーションしながらでも、流星館の運動量はやっぱりハードだ。二倍はなくても密度がね。ミッチミチ。
私も肩で息していたけれど、体力作りが追いついていない左と佐伯さんには一時間ぶっとおしは厳しかったか。二人の休憩時間を埋めるようにして、私vs徳永さんの対面回数が増えていく。「小枝ちゃんも防御全振りだから対応早いね。日影ちゃんも相当だけど」。そろそろ、幼なじみにサインを書いてもらう時期かも。
結局、例の突きは一度も止めることができず、私の体をブスブスと貫いた。
流星館には完敗中だけど、徳永さんこそ「真の小技のリッコ殺し」のようだ。
今日は休憩が少なかったからか、ほぼ完封されていたからか、やけに体が重い。
第二のシャワー室でサッパリしたあと、更衣室でうっかり寝ちゃいそうになったくらい(律子先輩っ、おーきーてー! と左に揺さぶられて事なきを得た)。
夕食時もぐったりしてて花に心配されたけど、夜練習には出た。
実戦で試す余裕はなかったが、佐羽コーチに教えられた反撃パターンをおさらいしつつ、アヤメをシャキンと抜いてグサッとする。身体に型がなじむまで。
(私って、こういうほうが得意なんだよね)
周囲の人たちはまたとない実戦的な練習の機会だからか、素振りやフォームの確認以外では対面練習を優先した。それでも私は、実戦で使えるかどうかも分からない型を、一人で延々となぞるように稽古し続けた。わりと好きなんだ。
これも合気道のせいかね。私が嗜むこの武道では、稽古でも単独で演武を披露する機会が結構多い。大会すらもそういうものだし。あんまし出てないけど。
だから、実戦で使えるかどうかは気にしない。まずは型の稽古からってだけ。
私にとって「アヤメをシャキンと抜いてグサッとする練習」は、私らしい武道との向き合い方を、ドレスソードだからって崩さないようにする、私なりの儀式になってきた。一年前、誰かさんにもそれがいいって言われたし。
盾で受けて、すばやくシャキンと抜いてグサッとする。
盾で弾いて、その隙にシャキンと抜いてグサッとする。
盾で流して、崩しつつシャキンと抜いてグサッとする。
盾で被せて、こそっとシャキンと抜いてグサッとする。
盾で叩いて、大逆転のシャキンと抜いてグサッとする。
やろうと思えば、氷空のような経験者を除く一年生相手には通用する。
やろうと思えば、私は守るだけではない盾の忍者として歓声を浴びる。
やろうと思えば、小技のリッコとしてちょっとは誰かに脅威とされる。
やろうと思えば、私にだって敵選手をソードで攻撃することができる。
やろうと思えば、でもさ、あんたさ、やろうと思ったことあったわけ?
頭をリセットして、シャキンと抜いてグサッとする。
面倒だから考えず、シャキンと抜いてグサッとする。
だから考えないで、シャキンと抜いてグサッとする。
こんなの当たり前、シャキンと抜いてグサッとする。
やりたくなくても、シャキンと抜いてグサッとする。
次回「十四人の楽しい乙女」(6)。




